第十四話 盗み聞き
2016/11/30 若干修正。
みなさん、こんにちは、冒険者のユーイチです。
今日はここ、トレイダー帝国のダマン城に忍び込んでおります。
潜入も何回かこなしたので、怖いけどやり方はもう慣れてきたかな。
探知と透視と地獄耳と地図があれば、敵の位置は丸わかりだ。
その上、隠蔽で隠れれば、城の中、通路は余裕だ。
だが……。
「ここもダメね。兵士が詰めてるわ」
リサが外を見て言う。
城から外、城門に至るまでが難しい。見張りもたくさん。
ここの指揮官はかなり用心深いな。
「どうする? この様子では、反対側に回っても同じだと思うぞ」
レーネが言うが、その通りだろう。困ったね。
「そうね…ここは強行突破?」
ティーナが言うが。
「ダメだ。城門を開けないと意味が無いし、包囲されたらそれだけ時間が掛かる。いくら俺達のレベルが高くても、上には上がいるからな。巨人で30ほど上がったが、その前にアーシェやランスロットクラスの連中にやってこられたら、そこで俺達はお終いだぞ?」
俺が窘める。
「分かったわ。でも……」
「焦るな。手は考えてある…と言うか、今、思いついちゃったんだけど」
ちょっと事前の作戦をミスったね。
「いいわ、もったいぶらずに話しなさいよ、ユーイチ」
リサが急かすが。
「日が暮れるのを待とう。そうすれば、見張りの数も減るだろうし、暗闇に乗じれば行けるはずだ」
「ああ…そうよね。私達には暗視があったんだった」
みんな忘れてたね。
「では、夜までどこかに潜むのか?」
アーシェが問う。
「その通り」
俺も頷く。
さっそく、皆でどこに潜むのがいいか、考える。
「食堂が良いニャ!」
「却下。リムはもう黙ってて良いわよ」
リサが腕組みしたままでさらっと言う。
「ニャ、そう言われる気はしたんだニャ。後は任せたニャー」
全く落ち込んだ風もなく、周囲の見張りの役に就くリム。
「この際やから、宝物庫なんてどうかな? ついでにお宝も頂いて」
ミネアが笑顔で言うが、和ませるための冗談だろうな。何せそういうところは警備がキツイ。
「バカな事言ってないで、真面目にやるわよ、ミネア」
リサがやんわりと叱る。
「うん、ごめんごめん」
「通路は人通りがあるから、ダメですよね」
クロが消去法で、ダメなところを先に言う。
「兵士の詰め所もダメだな」
レーネが続けて言う。
「ん、執務室もアウト」
ミオが言う。
「それなら広間もダメね」
ティーナが言う。
「バルコニーも、ダメですね」
クレアが言う。
「そうだな。じゃ、うちのパーティーの知恵袋に聞いてみるか」
「くっ、あなたが知恵袋でしょ」
おやおや、エリカがちょっといじけちゃった。
「じゃ、俺は上層階を提案する」
「理由は?」
ティーナが聞く。
「下っ端がうろつかない、それに使われてない上官用の部屋もあるんじゃないのか?」
本音は良いベッドで休みたいだけなんだけど、理論武装はしている。
「なるほど…」
皆も頷き、俺の案で行くことにした。
上官用の部屋を探して回るが……。
「ちょっと、こんな時にこんなところへ連れ込んで、私をどうするつもりなの?」
「決まってるだろ? こうするんだよ」
「あっ、やん! だ、ダメよ」
「いいだろ? もう我慢できないんだ」
「もう、仕方ないわね…他のみんなには内緒よ? んっ」
うお……サボってる男女の騎士がいたが、何やらいけないラブシーンに突入しております。
ああっ、そんなところまで!?
「オホン!」
って、ティーナ!
「きゃっ!」
「むむっ!」
誰かに見つかったと思った二人の騎士はそそくさと服を直して部屋を出て行った。残念。
「おい…見つかったらどうするつもりなんだ」
「だって、ああ言うの、許せないでしょ。戦時なのに……」
「それに、どっかの馬鹿が身を乗り出して出歯亀しようとしてたものね。ほら、さっさと次に行くわよ」
リサが急かし、次の部屋に向かう。
「くんかくんか、ああん、このベッドでロックス様が、ロックス様がぁ、ハァハァ」
メイドがベッドのシーツに頬ずりしていた。
「オホン!」
「ひゃっ、し、失礼しましたぁー!」
変態メイドが慌てて逃げていったが、なんか凄かったな。結構可愛かったし、もうちょっと見ていたかったが。
「ユーイチ、何してるの、次、行くわよ」
ティーナが少しむっとしながら言う。
「お、おう」
次の部屋。
「よし、鍵が掛かってる」
リサが確認して言う。
「じゃ、この部屋にしよう」
「待って、むう、誰か中にいるわ」
「ええ?」
リサがそう言うので探知を唱えてみたが、確かに二人の人間がいる。
しかし、鍵を掛けて中で何をやってるんだろうね。いけないことかしら…むほっ!
地獄耳、地獄耳っと。
呪文を無詠唱で使う。
「いつも苦労を掛けますね、ロックス」
優しげな女性の声。かなり若い感じだな。
「何を仰います、ロレーヌ様。あなたの家臣ならば、当然のことですぞ」
こちらはダンディーな中年の声。武人っぽいな。
「家臣、ですか。私はあなたのことをもっと大切な―――」
「それ以上は仰らないで下さい。あなたは子爵で、私はただの騎士、身分違いにございます」
「でも…」
「本来ならば、あなた様は王族、ルーグルの王となられていたはず」
「ですが、滅ぼされた国の地位など」
「いいえ、これは準備が整ってからお話ししようかとも思っていましたが、頃合いでしょう。ルーグルの者たちと連絡を取り、密かに反乱の準備を整えております」
「な、なんですって? でも、それが失敗すれば」
「ええ、ただでは済みません。もちろん、ロレーヌ様には逃げ延びて頂くつもりではございますが…」
「そんな、ロックス、では、あなたはどうなるというのです」
「それがしは反乱をまとめた首謀者、事が失敗に終わったならば首を差し出さねば収まりますまい」
「……それは認めません」
「いいえ、お認め頂く。諸侯に檄文を出し、すでに事は動き出しております」
「そ、それでは」
後には引けないだろうな。
「勝手な真似をして誠に申し訳ございません。ですが、これも、ルーグルの民を思えばこそ。七割五分という法外な重税を課せられ、そのほとんどが奴隷となり、土地を奪われ、習慣を無理矢理変えさせられ、先祖伝来の宝物を破壊され、蛮族や悪鬼などと貶まれております。なるほど戦を仕掛けたのは我ら、そしてこの世は弱肉強食、落ち度はあるやもしれませんが、それでもこれ以上の弾圧には黙っておれませぬ。ルーグル人の意地と誇りを見せる時にございます」
「ロックス……私は……」
「あなたはただ、勝利を信じ、その時に玉座について頂ければよろしい。どうかルーグルの民をお導き下さい」
「わ、私は、私にはそんな力は」
「いいえ、こちらでお支え致します。ご心配なさるな」
「二人でどこかに遠くに逃げ延びるというわけには…」
「勝てばよろしいでしょう。我らの生活は我らの土地にあります。逃げるのではなく、侵略者を追い出すのです。自分たちの国を取り戻すのです」
「それが、あなたの答えなのですね…」
「申し訳ござらぬ」
「いいえ、分かりました。私に出来る事があれば言って下さい。あなたがそう望むのであれば、運命を共に致しましょう。ルーグルのために」
…………。
うわー。なんか、色々重くてヤバい話を聞いてしまった。
「ユーイチ、どうなの? エロい事を盗み聞きしてるんじゃないでしょうね?」
リサがそんな疑いを掛けてくるので、真剣な顔で首を横に振る。
「ロックスとロレーヌというルーグル人が反乱の計画を話し合っていた。とにかく、詳細は後で話すから、別の隠れ場所を」
「ええ? 分かったわ」
なんとか無人で鍵の掛かった部屋を見つけ、リサが鍵を開けて俺達は中に入った。
「ふう、ようやく落ち着ける」
「リム、大きな声は出しちゃダメよ」
「ガッテンニャ!」
おい。さっそくデカいぞ、声。
「だから…死ね」
「あう、ごめんニャ、リサ」
「それで、反乱って言ってたけど、ユーイチ、どういうこと?」
ティーナが聞いてくる。
「ああ、つまりな―――」
俺が聞いたことを要点だけ話す。
「そう。じゃ、ルーグルという王国がトレイダー帝国に滅ぼされて併合されているのね?」
「そうなるな。ま、その辺の詳しい事は、後でライオネル侯爵にでも聞けば良い。しかし、うーん、反乱か」
「協力はできないかしら?」
リサが言うが。
「ちょっと無理だろうな。トレイダー帝国という共通の敵に対しては共闘も可能性があるが、反乱を起こす時期が分かっていないし、それに、俺達はミッドランド国王からトレイダーの領地なり城なりを取ってくるように命じられている。ルーグル王国とかぶる範囲を攻め取ってしまえば、結局、ルーグル人ともやり合わなくちゃ行けなくなるから」
「そこは話し合ってみたら…」
ティーナが言い掛けるが。
「ダメだ。向こうは今、情報が漏れることを一番恐れてるだろうし、外交ルートも無い以上、連絡の取りようがない」
「待って、今、ここにロックスとロレーヌ王女がいるんでしょう?」
「そうだが、いきなり俺達が出て行っても、曲者、出会え、出会えとなるのがオチだぞ? 向こうはこっちが盗み聞きしたなんて知らないわけだし、仮にこっちが反乱を知っているぞと言っても、白を切り通すに決まってる。俺達がトレイダー帝国の回し者と疑ってくるだろうからな」
「ああ……うーん…」
「だが、これは利用できそうだな」
レーネがニヤッと笑うが、こういうところが王族の凄みなのだろう。
「レーネ! あなたって人は!」
「そういきり立つな、ティーナ。ルーグル人には同情の余地もあるかもしれんが、戦に負けたのは彼らだ。私らも戦に負けてしまえば、トレイダーにどんな目に遭わされるか分からん。なら、勝つことを最優先にして、自分たちのために利用できるモノは何でも利用すべきだ」
「むぅ、あなたが、そんな人だったなんて」
「ま、私が良い人間で善人だと言った覚えは一度も無い。お前が勝手に誤解しただけだろう」
「じゃ、うちも誤解しとったかもな。レーネはハイランドの王族やから、国を中心に見てると思うけど、捨て子の私からするとな、ルーグルの人達が可哀想やって思ってしまうんや」
「ま、可哀想と思うくらいは良いだろう。それは人の勝手だ」
肩をすくめて言うレーネは笑みが消えた。彼女自身、同情している心は持ち合わせているに違いない。
「何か、私達で力になってあげられることはないでしょうか」
クレアが言うが。
「ユーイチ、どうなの?」
ティーナが俺を当てにして、皆が注目する。
「結論を言えば、ダメだ」
「む」
「そんな、ユーイチさん…」
くそ、クロの悲しそうな顔が辛いな。
「ルーグル人の反乱を側面から支援する事は出来るぞ。だが、成功させるところまで請け負うとか、それ以上のことは謀略に関わる範囲だからな。俺達が勝手に決めて責任を負える話じゃない。少なくとも、大将軍閣下やライオネル侯爵、カーティス副将軍あたりには、相談すべきだ」
「そ、じゃ、戻って相談ね」
「ああ」
ティーナはルーグル人を助ける方向でアーロン大将を説得するつもりなのだろう。それがどのような結果を生み出すか、俺には予測が付かない。
反乱は中途半端に失敗すれば悲惨なことになる。多数の死者が出て、首謀者は斬首。鎮圧する側も見せしめで厳しく対応しなければ、次の反乱の呼び込むことになるからだ。
せめてロックスの計画がどの程度のものか、分かればいいんだけどね。
「でも、それやと、今回の城門開けの作戦はどうなるんかな?」
ミネアが当然の疑問を口にする。
「もちろん、作戦は何があろうと開門の実行だ。そうでないと命令違反になる」
「む…。でも、それだと、反乱の芽も潰すことにならない?」
ティーナが言う通り、そうなるかもしれない。ま、ここはイエスとは答えられないな。
「そうならないよう、配慮はする。ルーグル人は多くが奴隷に落とされたと聞いた。なら、奴隷の兵士はなるべく殺さないようにして、あと、ロレーヌとロックスも生かして捕らえるか、わざと逃がす必要があるな」
「そうね。うんうん」
笑顔で頷くティーナは俺が良い方向の案を出してくれていると思っているが、プランはともかく、それがどこまで実行できるか怪しいモノだ。
開門してから外のミッドランド軍が突入してくるが、彼らにこの方針を伝令しきれるかどうか。
そんな余裕はちょっと無い気がするなぁ。
ま、うちのお館様の意向だ、最大限、努力はする。
俺だって、七割五分の税金は酷すぎると思うもの。それが本当の情報ならね。




