第十三話 ダマン城の情報
2016/11/29 若干修正。
ラインシュバルト侯爵の攻城兵器部隊を加えたミッドランド軍は五月二日、トレイダー国境を越え、トレイダー北西部のラフエーズ男爵領へと侵攻した。
迎え撃つラフエーズ男爵騎士団五百と、トレイダー国境防衛隊二千五百を合わせた三千の兵と翌五月三日の夕刻に激突。
危うく奇襲されかけたのだが、そこは『鳥立ツハ伏ナリ』で、俺が敵の伏兵を見破った。森から鳥がバサバサバサッと一斉に飛び立ったから、何かいると思ったのよ。いなくても注意するのが当たり前。
「敵襲! そこに敵がいるぞッ!」
探知でも確認し、即座に拡声器の呪文で味方に報せた。
そこから後はもう乱戦状態になり、兵が剣を打ち合い、魔法チームが攻撃魔法を連発。
「名のある将とお見受け致すッ! 我が名はラフエーズ男爵ッ! いざ尋常に勝負―――ッ!」
途中、雄叫びを上げながらティーナに突っ込んでくる騎兵がいて、あっと皆が思ったときにはもう、二人が剣を交えていた。
「私はロフォール子爵! 受けて立つ! みんなは手を出さないで!」
護衛、何やってんの! と周りの兵を叱ろうと思ったらコレだもの。
名乗り上げる一騎打ちなんて、今時、流行んないでしょ!
そんな一騎打ちをして良いのは源平合戦までだよね!
ティーナはいずれ、鉄砲隊に撃たれて死んじゃうね、きっと。
ま、この世界、まだ鉄砲は発明されて無いけども。
後できっちりお説教、パーティー会議だ。
「せいっ!」
「ぬうっ!? み、見事……!」
レベル70の剣士、ティーナの超絶素早いレイピアに相対して数合を耐えただけでも凄いと思うが、ラフエーズ男爵は喉元を突き刺され、落命した。
「お館様!」
「平気よ。怪我は無いわ。さあ、押し返すわよッ!」
ここは、アレだな、味方の士気を上げ、敵の士気を下げられる場面だ。
「ラフエーズ男爵を討ち取ったりぃー! この戦、勝ち戦ぞ!」
拡声器の呪文で周りに叫ぶ。
本当に勝てるかどうかは知らないが、俺が一兵卒なら、負ける戦と聞いたなら戦わずに逃げるもんね。
案の定、指揮官を失って狼狽えた敵兵は、じりじりと後ろに下がり始めた。
次第にそのスピードが速くなり、後退しつつ転ぶ者も出始める。
人間、目は前に付いているので、後ろに下がりながらの戦いは厳しい。後ろを見て下がれば、相手に隙を見せることになり、剣や防げずに斬られる。
「ぎゃっ!」
「うおっ!」
「今だ! 突撃!」
そこへルーク率いる騎兵隊が横から突っ込み、敵を蹴散らしていく。
いやー、なんと言うか、ティーナのお兄様って、戦上手だよね。ここぞ、と言うタイミングだった。
さすが若くして副将軍を務めるだけある。
敵兵が逃げ始め、わずかに残った敵兵を掃討し、勝敗が決した。
ミッドランド軍の勝利である。
その際、数人の捕虜を取り、俺は情報を敵兵から得た。
それを元にカーティスが一同に報告する。
「ここから皇都へと通じる要衝に、ダマン城が有り、堀が三重にめぐらされ堅牢とのことです」
天幕を張った中での軍議だ。
ここにいる面々は、大将軍アーロン侯爵、副将軍カーティス伯爵、副将軍その2ルーク、ライオネル侯爵、ラインシュバルト侯爵、ティーナ、そして俺だ。
アンジェと父エクセルロット侯爵、それにエンボス男爵は、引き続きエルファンテ城で防衛の任務に就き、お留守番となっている。
チッ、俺もお留守番をやりたかったなぁ。
敵前逃亡したコモーノ伯爵はあれからどうなったかは知らないが、アーロン大将軍閣下が眉を吊り上げて怒っていたし、ま、後で処刑だろうな。
いくら貴族と言えども、敵を前にして逃げ出す奴を放置していては、戦にならない。
みんなが命を賭して戦っている時に、自分だけ逃げる狡い奴は責任を問われて当然だ。従って、俺も逃げるのは自重しておく……。
「その城は聞いたことがある。かつてルーグル王国が健在であった頃、クリスタニア王国とヌービア王国で連合軍を組みその城に攻め入ったが、十万の大軍をもってしても落とせなかったそうだな」
ライオネル侯爵がうんちくを述べるが、十万の兵でダメとか、それもう最強の小田原城クラスじゃねえか。無理無理。そんなお城の攻略は絶対嫌よ。
「ワシも若い頃に一度攻め入ったことがあるが、城壁が高いのなんの、結局、城門は破れずじまい、さんざんな負け戦であったぞ」
渋い顔のアーロン侯爵だが、うん、それならそのお城はスルーだよね?
「だが、ここを落とさねば、先へは進めぬし、エンボス領の防衛もおぼつかぬな」
ラインシュバルト侯爵が冷静な声で言う。お父様……。やはりティーナの血筋かよ。チッ。
「ええ、今回は攻城兵器も有りますし、腕の良い魔術士もいます。ね、ユーイチ」
ティーナが俺を見て言うが、ね、じゃねえよ。
ここはきっちり、言わせてもらおうか。
「オホン、私の意見を述べてよろしいでしょうか」
俺はあくまでティーナのお付きなので、貴族の高官達を前に、許可を取る必要がある。
「無論だ。そのためにお前がここにいるのであろうが」
「構わんぞ、ユーイチ。大将軍閣下もこう仰っておられる」
アーロンとカーティスが頷き、誰も反対をしない。うーん、コモーノ伯爵がここにいれば、なんか言ったんだろうけど、まあいいか。
「では、申し上げます。ダマン城に手を出してはなりません」
「何だと? それはどう言う理由だ」
アーロンが睨んでくるが、ここは怯まない。
「城とは敵が攻めてくる事を想定して設計され、防備をガチガチに固めた要塞です。故に、攻めるに難しく、守るに容易い。城攻めには相手の三倍から四倍の兵力が必要になるとも言われています」
俺は理由を述べた。
『上兵ハ謀ヲ伐ツ。ソノ次ハ交ヲ伐ツ。ソノ次ハ兵ヲ伐ツ。ソノ下は城ヲ攻ム。城ヲ攻ムルノ法ハ、已ムヲ得ザルガタメナリ』
「最高の戦い方とは、敵の作戦を企画の時点で封じる事です。その次は敵の同盟関係を分断させる事。その次は、剣を撃ち合わせる事。そして最悪の方法が城攻めです。これは他に方法が無い時だけにやる戦い方なのです」
孫子の兵法を思い出しつつ、言う。
スキル【 記憶 Lv 167 】なら余裕だぜ!
どーよ? 城攻めがダメなの、分かったでしょ?
次からクジャクの羽で扇子でも作っておこうかな。
「だが、攻めてきたのは向こうだ。すでに戦になっておる。同盟も今は関係無かろう」
アーロンがあっさり論破してきた。はわわ。
「いや、確かにそうなんですけど…」
「ユーイチよ、すでに作戦は決まっているのだ。城攻めについての案を出し給え」
カーティスがそう言うが。
「……ここは軍を引き、守りを固めるべきかと…」
小声で。
「ならん! 陛下は攻めろと仰せだ。考えてもみろ。総勢二万二千の敵兵をあっと言う間に打ち破ったのだ。トレイダーとて、今は守りの準備は整っていまい」
うーん、アーロン侯爵って武人の癖に、割と理屈が通った考え方するよね。戦では。まあ、そのくらいじゃなきゃ、大将軍なんて地位に就けるはずもないか。
「ユーイチ、分を弁えて」
ティーナが小声で言ってくるが、冒険者仲間会議のようには行かないようだ。
頷く。
それを見たティーナがほっとしたように力を抜いた。
「失礼致しました。城攻めの方策ですが、まず、敵をおびき出す作戦を提案致します」
とにかく、城に直接手を出さないようにしないとな。
「ほう。で、どうするのだ?」
「うーん、それは……」
考えてない。テヘ。
「ユーイチよ、実行可能な案を出すのだ。こうしている間にも敵は防備を整えよう。時間は限られるぞ?」
カーティスがそんな事まで言い出すが、厳しいなぁ。
ターン制のシミュレーションゲームって、考える時間は無制限だからな。
この辺がリアルと違うところか。
「で、では、軍は城を包囲し、その間に少数の特殊部隊で城に潜入、内側から開門を試みてはいかがかと」
「ほほう、考えたな。だが、入れるのか?」
「魔術をもってすれば、あるいは、行けるかな…と」
「ああ、そうね。では、その部隊は私が率います」
ティーナがさっと言うが、分かってるのかね? 敵の拠点の内側に潜入するって、超危険な任務なんだけど。
敵が集結して待機している狭い場所だ。スレイダーンの王子を捕まえるために伏兵した時とは比べものにならない。
「ま、待て、ティーナ、それは危険すぎるぞ」
俺では無く、ルークが面食らった様子で止めに入る。頑張れ、兄貴!
「大丈夫よ、お兄様。言ったでしょう。私達のレベルはもう70だし、城に潜入するのも初めてじゃ無いもの」
「ええ?」
愛娘にボーイフレンドの存在をカミングアウトされた時の父親、そんな顔になるルーク。いや、俺はそう言うのは実際に見た事は無いんだが。そんな感じの困った顔だ。
俺達はハイランド城に一度忍び込んだしな。
本当の父親の方、ラインシュバルト侯爵も困った娘だと言う顔。
「妹を心配するのは分かるが、ルーク、これも作戦だ。だが、ティーナよ、何も自ら行かずともユーイチや部下だけでなんとかなるのではないか?」
カーティスがそう言うが。
「いいえ、冒険者として、仲間を危険なところに行かせて、自分だけ安全なところにいるなど、リーダー失格です」
ティーナが微笑みながら、しかし、毅然と言う。カッコイイ。
だが、俺が巻き添え確定なのが、ちょっとアレだな。
「うむ! その心意気や良し! では、こちらも呼応して一気に攻め落とすぞ、レオナルド!」
アーロン大将軍が言う。
「はあ」
曖昧に返事を返すカーティスの方は自分は安全なところにいたい様子。ま、それが普通だよね。それは責められない。俺だってそうだし。
その後、冒険者仲間だけで綿密に作戦を立て、実行した。
いや、俺は最後の最後まで、色々と言い訳して潜入作戦のメンバーに入らないように抵抗はしたよ?
「ダメよ、あなたがいないと、お話にならないじゃない」
などとティーナが聞く耳持ってくれなかったが。
別に俺がいなくとも、同じ魔法はクロとエリカとミオの三人が使えるんだし、はぁ、村人Aになりたい今日この頃です。
「なんで俺が主人公みたいなことをやってるんだか」
そう愚痴らずにはいられない。まあ、俺のポジションは、主人公ティーナの脇役で、しかも冒頭シーンでいきなり死んじゃう運の悪いひょろい兄ちゃん、だと思うんだよなぁ。
くそ、行きたくねえ…。
「ユーイチ、アンタだけ置いて行くわよ」
通路の先を歩くリサが恐ろしいことを言うので、慌てて俺も付いて行く。
「は、はいっ、行きます! 行くから待って待って!」
さて、この通路だが。大きな城となれば、当然、排水溝もあるだろうと睨んで、探知の呪文で探し出したモノだ。
幸いにして、下水ではない。
ダマン城には小川が引き込んであって、いや訂正、小川の上に城を建てたらしい。なので、その流れる水が通る水路が地下に作られていた。
まあ、ここから敵に侵入される可能性もあるわけで、すぐ分かるような場所に、出入り口は無い……はずだ。
俺達は途中の水路から、ストーンウォールやアースウォールを駆使して、無理矢理入り込んだので、その辺の細かいことは分からない。
ま、入っちゃえばどうでもいいよね。
「また鉄柵があるわ」
先頭のリサが言う。
「用心深いわねぇ」
ティーナも感心したような呆れたような声になる。
敵兵の侵入を阻止するために、あちこちに鉄柵が設置されており、この城の設計者はかなりの偏執狂だ。
鉄柵も水で錆びないよう、特殊な鉄にさらに魔法で永久強化が施されており、完璧だ。
しかし、その完璧な城のセキュリティも、ストーンウォールによる変形は想定されていないようで、無防備だ。
「よし、いいぞ」
「おう」
「ほいニャ」
俺が呪文で石垣を柔らかくして、その間に力持ちのレーネとリムが鉄柵をどける。
楽勝だ。
「やれやれ、魔術士とはこうも便利なのか」
出発直前に飛び入りしてきたアーシェが呆れたように感心して言う。彼女の参加にはリサやティーナも反対したが、冒険の嗜みが有り、レベルも62だと言うので、押し切られた。62はちょっと凄いよな。
それに大将軍の許可があると言われては、こちらも反対しにくい。孫娘なのに危険な潜入に参加させるとは、アーロン大将軍も剛胆なのか、脳天気なのか。
「アーシェ様、最低限、自分の身は自分で守って下さい。それと、命を落としたとしても知りませんから」
リサが素っ気なく言ったが、アーシェも頷いた。
「そのくらいは弁えているぞ。足手まといにはならぬから、安心しろ」
「だといいですが」
「それから、呼び捨てで構わん。城の中ではないのだからな、ああいや、この城と言う意味ではなくてだな…」
「ええ、アーシェが凄く面白い冗談を言って和ませてくれるようだから、それでいいけど。センスはともかく」
やめてあげて、リサ。
「なっ、いや、そう言うつもりではないが。むう。はは、手厳しいな」
アーシェは鷹揚なようで笑って流した。
「リサ、そのくらいで。レベル62なら大丈夫だと思うわ。ちょっと前の私達よりずっと強いんだし」
ティーナが言う。
「だと良いけど、ティーナも甘いわね」
「ええ? まあ、私だって多少の自覚はあるけど…」
「そんなだから、ユーイチをすぐ取られちゃうのよ」
「ちょっと、取られてはないってば」
「ん、二人とも、痴話喧嘩は後にする」
ミオが仲裁に入るが、痴話喧嘩ねえ?
「「 むぅ 」」
ティーナもリサもそれには何も言い返さず、黙って進む。
「じゃ、そろそろ良いと思うわ」
通路の途中で立ち止まったリサが言う。
俺が探知と透視の呪文で通路の上の状況を調べる。
「問題無い。行こう」
ストーンウォールで穴を開け、全員が通ったところで、穴を閉じておく。侵入がバレては面倒だからな。




