第十話 使徒の証明
2016/11/29 若干修正。
魔道具、『真実の鏡』を用いてサイクロプスを倒す算段は付いた。
だが、この作戦が成功すると、伝承の通りであり、このサイクロプスが使徒だったと言う証明にもなるんだよなぁ。
なんで英雄王グランハードの時代の伝説級モンスターが、今、次々と湧いて来ているのか。
そこが気になるんだが……。
「あれ? ユーイチ、あなた、お兄様とカーティス卿以外の部隊にも、応援を頼んだの?」
ティーナがそんなことを聞いてくるが、俺は頼んではいない。
「いいや」
「でも、ほら」
見ると、俺達の前を横切り、城から出ようとしている騎士団が一つ。
旗の紋章は、蝙蝠か。
ちょうど馬車も通りかかったので、声を掛ける。
「コモーノ伯爵! どちらへ?」
「むむっ! い、いや、急ぎの用件でな」
そう言って通り過ぎようとするので、こちらも馬で馬車の前に立ちふさがる。
俺が平民や奴隷なら、許されない行為であるが、今は上級騎士だしな。
「お待ちを。その用件というのは、アーロン大将軍の裁可を得ておいでですか?」
なお、問う。勝手に動かれると、面倒なんだよね。無駄な被害は出したくないし、作戦の成否に関わってくるかもしれないからな。
コモーノ伯爵はムキムキでは無く、おかっぱ貴族のぼんぼんだから、戦功を上げてやろうと突っ走るタイプでは無さそうだが……。
「い、いや、ううむ、所領の大事なれば、そのなんだ、とにかく火急でな……オホン。そこをどいてもらおう」
しどろもどろで馬車から顔を出したコモーノ伯爵だが、ははあ、なんだ自分だけ逃げるつもりか。
「あなた、勝手に逃げるつもりではないでしょうね? 敵前逃亡は罪に問われるわよ?」
ティーナも追及する。相手は格上の伯爵だが、強気だ。
「なっ、なな、何を言う! そのようなことは決して」
声が裏返ったコモーノは図星のようだ。
「そうですか。では、よろしいでしょう」
俺はそう言っておく。
「え? ユーイチ」
「おお、それは助かる。早くどいてくれ」
「ただし、後で大将軍閣下にはご報告致しますので、そのおつもりで」
「分かった分かった。急病とでも何とでも、上手く言っておいてくれ。よし、いいぞ、出せ! 急げ!」
俺が前をどいたので便宜も図ってくれると思ったらしいが、アホかコイツは。
「ユーイチ、まさか、あんな奴の袖の下を受け取るつもりじゃないでしょうね?」
レイピアを抜き放ったティーナは、俺がうんと言おうモノなら、首まで切りかねないね。
「冗談。作戦の邪魔にならないなら、もうそれでいいんだ。時間も無いし、アレは後で大将軍に報告だ」
「分かった。じゃ、私から後で報告しておくから」
「ああ、頼んだ」
ティーナが振り向いて配下の兵に号令を掛ける。
「出るわよ!」
「はっ!」
ティーナに率いられたロフォール騎士団がエルファンテ城から出撃した。すでにルークとカーティスの騎士団も一足先に出撃している。
―――そして。
「うお、お前ら、凄いな」
「ホントね」
「ニャー。びっくりニャ」
「よう掘ったなぁ、自分ら」
時間が掛かるようなら、それをルークやカーティスに伝えて時間稼ぎしてもらうつもりでやってきたのだが。
「フン、森の賢者を舐めないでよ」
「ん、鋼の賢者の弟子ならこれくらい余裕」
エリカとミオの二人がちょっと誇らしげに胸を張る。
そこには、百メートル級の大穴がすでに完成していた。
ゴーレム軍団も使ったようだが、しかし、やけに仕事が早い。
「何か、新しいテクや呪文、使ったのか?」
「フフン、内緒よ」
エリカが小気味良さそうにフフンするが。
「ん、内緒だけど、ただ熟練度が上がっただけ。それに、ここの土は軟らかくて掘りやすかった」
「ちょっと、ミオ!」
ミオが内緒と言いつつ、まんまバラしてくれたが、ティーブル川上流で堰き止めたり、リーブル湖の水を引くときに、アースウォールやゴーレムを使った土木工事をやりまくってたからな、この二人。
ちょっと差を付けられたようで羨ま悔しい。
ま、この穴は身動きを一時的に止めればいいだけで、這い上がられても構わない単純な造りだから、そう難しくも無かったか。
「ご苦労様。じゃ、リックス! 伝令を出して」
ティーナが命じる。
「承知しました。行け!」
伝令が二騎、即座に走り出す。
ここからでも巨人はよく見えるので、敵の位置を見失ったり、迷う心配は無い。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「いいぞっ! そのまま引きつけろ!」
巨人をどうやって穴の中へ誘導するか、そこが一つの難点だったが、足に矢を射かけると、巨人はこちらに敵がいると判断したようで、歩いて動き出した。
移動中にあのレーザーを撃たれては敵わないので、左右二つの部隊を使って交互に射かけ、的を絞らせないようにしておく。
もちろん、奴の顔に煙幕は張っている。
「ユーイチ、こっちは私が指揮を執るから、あなたは作戦ポイントへ移動して」
「分かった」
ティーナに後を任せ、俺は馬で単騎、穴の向こう側へと回り込む。
上手く行くといいけどなぁ。
巨人と穴の位置を最終確認。よし、俺の後ろには森が広がっているだけで、誰も巻き込まれる心配は無い。
「じゃ、リーファ、調整は頼むぞ?」
「任せるのじゃ!」
真実の鏡を懐から取りだし、魔剣リーファの念力で空中に浮かせる。
リーファはその場に突き立て、俺は横へ一目散に馬で逃げる。
「もう少し! よし!」
「WOOO―――」
巨人が落とし穴に落ちた。俺の体が飛び上がるほど、地面が揺れた。さて、ストーンウォールでシェルターも作ったし、後はS級冒険者アレクサンダーに教わった透視で状況を中から確認すれば良い。
残念ながら透視の呪文は、対象がレントゲン写真のように見えるので、裸を覗くのには使えなかった。畜生……!
「総員、退避!」
ティーナが命令し、誘導部隊も避難する。
俺はみんなが避難したのを確認し、ウインドボールの呪文で、巨人の顔の煙幕も取り払う。
「カカカッ、おい! そこのデカ物よ! この魔剣リーファが相手をしてくれようぞ!」
鏡を浮かせたリーファが巨人に呼びかける。言葉は解するかどうかは不明だが、すぐに敵と判断したようで、顔をそちらに向け手を伸ばす。が、穴の中にいては手が届かない。
「どうした? 自慢の閃光は出せぬのか?」
リーファが挑発するように問うと、巨人は口を大きく開き、よし、来るぞ!
白い光の粒子が周囲からその口に集まり始め、燦めきを発する。
口の奥に白い砲のようなモノが少し見えるが、うーん、人工物とも骨とも判断が付かない形状だな。
気になるが、今は倒すことが第一だ。
『来た!』
リーファが念話で報せてくるが、こちらからも透視の呪文で外の様子は見えている。
白い閃光が一直線に鏡を直撃し、少し、仰角にズレていたか、巨人の頭の上に閃光が反射される。
それをリーファが鏡の角度を念力で調整、巨人に光が向かうよう真正面に向きを変える。
「むむ、ダメか?」
なおも閃光は放出されているが、巨人は耐性があるのか、爆発しない。
鏡の後ろ、範囲外で反射できなかった分の閃光が後方に抜けて、森が大爆発を起こす。
『む、ユーイチ、どうするのじゃ?』
『くっ。そのまま維持!』
鏡が壊れていない以上、もう少し粘るべきだ。今はこの方法に賭けるしかない。
『ふむ、どれ、ならば少し角度をいじってやろう』
リーファが念力で微妙に角度をずらし、口の中の砲から少し上に閃光を当てる。
すると、巨人の喉を閃光が突き破り、巨人の顔が赤くどろどろに焼けただれ、大爆発を起こした。
終わったか。
透視の呪文で外を確認するが、クレーターのようになっていて、木は根こそぎ爆風で飛ばされたようだ。
「うえ、超分厚いシェルターだったのに、耳がおかしくなってやがる。空気穴、作らなきゃ良かった」
キーンと耳鳴りがするが、鼓膜が破れたかな?
ひとまず、薬草を食べてみる。
「―――ーイチ! ユーイチ! 無事!? 返事をして!」
ティーナの声が聞こえてきた。
「ここだ!」
シェルターから抜け出して手を振る。
ティーナがすぐに俺を見つけて駆け寄ってきた。
「やったわね!」
「ああ、やったな」
ティーナと片手でハイタッチ。
「それにしても…凄い爆発だったわね」
「そっちは大丈夫だったか?」
「ええ。ミオやエリカがシェルターを作ってくれたから。ここも派手に爆発したわね…」
「ああ」
巨人がいた穴を覗くが、何も無い。大穴が残るだけだ。
いや? やたらデカい魔石と共に葉巻型の白い何かが地面に落ちているな。
「何かしら? あ、ちょっと、ユーイチ、危ないわよ!」
俺はスリップとフロートの呪文を使いつつ、穴の下に降りてみる。
「いや、大丈夫だ! 今、分析したが、あれはタダのドロップアイテムだ」
敵では無い。再生の恐れも無い。
【名称】 閃光の矢筒
【種別】 武具
【材質】 ???
【耐久】 42532742 / 50000000
【重量】 8
【総合評価】 SS
【解説】 神々が創り出し、用いたという神器。
特殊な魔力を注ぐと、破滅の閃光を発する。
その閃光は鉄も瞬時に溶解させ、
伝説級の爆発を引き起こす。
一回の連続発射可能時間、十秒。
発射後の強制冷却時間、十五分。
取り扱いには極めて高度な専門知識が必要で、
封印が掛けられているため
普通の人間は使えない。
故障中。
SSランクか…。
まぁ、どう見ても、粒子砲発射装置だな。俺は実物は見た事なんて一度も無いが、ピンとくるモノが有る。
説明もその通りだし。
形は流線型で人工的な葉巻の形をしている。色は綺麗な白。
しかし、なんだってこの世界にこんなモノが……。
それに神々が用いたって……。
俺は慎重に筒を触って、操作パネルが開かないか、あちこち押したりしてみたが、てんでダメだった。
ひとまず、研究するにしろ破壊するにしろ、これはいったんロフォールに持ち帰って保管だろうな。
耐久力も桁違いに高いから、すぐには壊せそうに無いし。
「この魔石も凄いわね。こんな大きさ、私は初めて見たわ。結構、重いわよ。ほら」
ティーナもこちらにやってきて、一抱えもある魔石を持ち上げて言う。
俺も持ってみたが、ズッシリ感。
表面はすべすべで完全な球体になっており、いつもの魔石とは明らかに違う。
色は薄い紫色で、かなり透き通っており、綺麗だ。内部の中心がほのかに光っている。
「ああ。コレも取り扱い注意だろうなぁ」
「そうね。売りに出しても値が付くのかしら?」
「いや、アレだ、ティーナ、こういうのはきっと国王陛下に献上しないとまずいパターンだ」
世界に一つしか無いようなレアアイテムは、個人所有するには危険すぎる。
噂になれば世界中から暗殺者や泥棒がやってくるだろうからな。
貴族もやっかみを抱くだろうし。
王様や宰相も寄越せと言ってくるかも知れず、言われて嫌々出すよりは、こちらから差し出した方が後味も悪くないだろう。
「ああ…そうね。そう言えば、ドラゴンを倒した冒険者がその鱗を献上して爵位をもらったなんて話も聞いたことがあるわ。じゃ、これはユーイチのモノにして、貴族にしてもらいましょうよ。うん、それがいい!」
「いやいや、待て待て。コレはみんなの作戦で勝ち取ったモノだし、それに俺は領主はいいよ。セルン村の連中の面倒を見るだけで、ヒイヒイ言ってるのに」
「ふふ、大丈夫、ユーイチならロフォールくらいなら簡単に治められるわ。む、私を飛び越して伯爵まで行くのかしら? むむむ」
「行かないから、変な心配はするな。しかしティーナ、冒険者カードを見てみろ。レベルがとんでもないことになってるぞ?」
「ええ? あっ、ホントだ。30レベルも上がってる」
無茶苦茶だな。ゲームバランスとか考えてないだろ?
あの巨人、何か特殊なイベントで封印したりしてクリアするもので、倒しちゃダメというか、本当は倒せない敵だったのかも。
ま、無駄にリアルなこの世界、ゲームとはやはり違うな。
油断は禁物だ。
死ににくくなるから、レベルが高くなるのはいいんだが、あんまり上げすぎても良くない気がするんだよな。
この世界に魔王はいないと分かっているが、それ系のボスが出てきたら、勇者ご一行として俺達が祭り上げられて戦わされる羽目になりそうだし。
それに、この巨大な魔石と粒子砲発射装置をどうしたものかね。
こりゃ取り扱いを一歩でも間違えると、簡単に死亡フラグが立ちそうだ。




