第七話 エルファンテ城にて
2016/11/29 若干修正。
翌日もゴーレムを作っていると、城門から騎士の一団が入ってきた。
旗は俺の知らない紋章で、蝙蝠かな? あれは。
きらびやかな馬車が騎士達に護衛されつつ到着したので、すわ美少女か、と期待感が膨らんだが、降りてきたのは中年の男だった。
チッ、男なら馬に乗れっての。
「ええい、道は悪いし、こんなド田舎、王命でなければ誰が来るか!」
甲高い声でその男が文句を言ってるが。コイツもおかっぱだ。
うーん、役に立ちそうに無いお坊ちゃまが来ちゃったなぁ。まあ、兵数が増えるのは良いことだ。騎士の方は役に立つはず。
チラッと、おかっぱ男がこちらを見たが、彼は首を傾げて、そのまま気を取り直し城に入って行く。
ゴーレムを見た事が無かったようだが、まあいい。霊じゃ魔物じゃと騒がなければ問題なし。
その日の夕食は、エルファンテ城に集結した貴族が顔合わせするとのことで、面倒だなぁと思ったが、ティーナが俺を指名したので仕方なく席に座っている。
一番上座にはここの主であるエンボス男爵。少し陰険そうな顔つきの爺様だ。その上座からアーロン侯爵、カーティス伯爵、向かい側にライオネル侯爵、アンジェ、ルーク、ティーナと俺。
他に城門で文句を言っていたおかっぱ頭貴族が俺の向かい側に座っている。
「それでは初対面の者もいるかと思いますので、皆様には各自、自己紹介をお願いしたい。まず私は、レオナルド=フォン=カーティス伯爵、副将軍を仰せつかっております」
カーティス卿がそう言って自己紹介を促す。
彼はアーロン大将の部下で補佐役が多い。綺麗に整った茶髪あご髭の中年だが、いつも淡々としている感じ。イマイチ腹の底で何を考えているのか、よく分かんないんだよな、この人。
「うむ、ワシはこの城の主、エンボス男爵だ。此度は我が領地を守るため、援軍に駆けつけて頂き、かたじけない」
痩せぎすの男爵が不機嫌そうな顔で軽く頭を下げた。
王宮からの命令であるし、ミッドランド国を守るという感じだと思うが、まあ、こう言う挨拶も有りなんだろう。
「所領を荒らす蛮族を相手にするのだ、気にすることはないぞ。おお、自己紹介であったな。ワシが大将軍のアーロン侯爵である。諸侯、それでよろしいか?」
アーロン卿がエンボス卿にそう声を掛け、指揮権の所在についても問うたのだろう。
恰幅の良いおっさん。俺を小突くのが趣味。
「無論、兵部(防衛省)のアーロン卿が率いて下さるなら、異論など有ろうはずがございますまい。私は接部(外務省)のライオネル侯爵」
アーサーの親父さんが頷く。金髪のダンディーで顔はモテそうな感じ。チッ。
「ええ、その通りですわ。我が父は怪我で休んでおりますが、侯爵の名代を務めます嫡子、アンジェリーナ=フォン=エクセルロットですわ。以後、お見知りおきを」
アンジェが高笑いせずに普通に挨拶する。
「ルーク=フォン=ラインシュバルトです。副将軍を預かっております」
ルークお兄様が爽やかに挨拶。
「ティーナ=フォン=ロフォール子爵です」
紅一点のティーナが特に気負うことも無く笑顔で自分の名を告げる。
「なぬ? ほー、ラインシュバルトを名乗らぬのか?」
おかっぱ貴族が少し驚いたように問う。
「ええ、それが何か?」
「ぬぅ、オッホン、私はディープシュガー侯爵の甥、コモーノ伯爵だ」
まあ、関係が分かりやすくて良いが、いちいち侯爵の名を出す辺り、権力を笠に着るタイプだろうな。
「ユーイチ、お前も自己紹介をするのだ」
カーティス卿が言い、おっと、しくったわ。
「は、失礼致しました。ロフォール子爵家に仕える臣下、上級騎士のユーイチ=ヒーラギにございます」
「知っておるぞ。奴隷上がりよな」
おかっぱ頭が小馬鹿にした顔で言うが、軽く頷いて後は無視しておく。
「だけどユーイチは――」
ティーナが何か言い掛けたので、目で合図して制止しておく。ここで反論したりすれば、余計に反感を買うというものだ。
「彼はトレイダー軍二万を一千の兵で、水攻めの計を用いて殲滅しておりますからな。希代の知恵者でございましょう」
カーティスが俺の功績を褒め称えてくれたが、いやいや、君もスレイダーンの第二王子を捕らえる作戦を出してくれたし、なかなかの知恵者だよ、カーティス君。ハッハッ。
「水攻め? それはいかようなものですか?」
おかっぱのコモーノ伯爵はまだ聞いていなかったようで、不思議そうな顔をしている。
「こ奴はな、ティーブル川を堰き止めおったのよ。さらにリーブル湖の水も引いて、渡河しようとしたトレイダー共を押し流したと言うわけだ。流される涙目のトレイダー兵が目に浮かぶわい、ガッハッハッ!」
アーロンが楽しそうに説明する。
「川を? はて…?」
コモーノ伯爵は、ちょっと想像も付かない様子。
「つまりだな、川を上流で堰き止めて水を溜め、堰を一気に崩して川の水を増水させ、それで渡河していた兵を溺れさせたと言うわけだ」
カーティスが懇切丁寧に説明してやった。
「ああ、なるほど。しかし、川で溺れたくらいで二万の兵がやられるものですかな?」
「お主はフルプレートを着たことが無いのであろう。一度着て川に入ってみろ。力自慢の男でも二度と上がっては来れぬぞ」
アーロンが言う。大雨の時の増水した川を見た事の無い人間にも、ちょっとアレは想像付かないかもな。
「は、はあ」
「さて、自己紹介も済んだことです。軍議はまた今度とし、冷めないうちに料理を食べましょう」
カーティス卿がまとめてくれ、ようやくご飯にありつける。
味は…うん、悪くは無いね。ティーナの屋敷の料理が一番だけど。くそ、パンも硬いや。
食事中は戦況の話は出ず、代わりにアーロン卿の孫娘が適齢期で婿を探しているという話が出て、やたら俺にどうかと勧めてくるので、断るのに苦労した。
翌日、敵兵がこの城を包囲してきたと言うので、少し不思議に思ってしまった。この城は森の中にあって、少し孤立気味だ。
「街を襲うなり、王都に向かうなりすればいいのに…」
なんでわざわざ敵が集結しているところへやってくるかな?
「何を言うユーイチ、それでは補給路を断ち切られるぞ?」
リックスが言うが、なるほど、敵の拠点を順に落としておかないとダメか。王都に無事辿り着いたとしても、後方の糧食部隊を襲われたりしたら面倒だしな。
「ああ、なるほど」
「だが、ここは街道からも少し外れ、さほど重要な拠点では無い。敵も慎重なことだ」
「ふむ」
ま、敵の作戦の意図は、敵の司令官に話を聞かないと、詳しい事なんて分かるはずも無いからね。
すぐに準備して俺達は出陣した。
敵はゾンビと聞いていたが、普通に生身の人間もいるようで、普通の戦闘が行われた。
ただ、森で見通しが悪いのが、ちょっとねえ?
気になってしょうが無いので、ティーナとリックスに相談して、伝令を多くしてもらった。
「アーロン卿、カーティス卿、ライオネル卿、エクセルロット卿、この辺りは優勢だ。エンボス卿と、コモーノ卿は、やはり兵が少ないからか、苦戦気味だな」
リックスがまとめて報告してくれる。
「そうか、じゃあ、コモーノ卿はすぐ東だったな。援軍に行こう」
コモーノ伯爵はすぐ側の部隊だし、ここは味方同士、助け合いだ。
「ええ、分かったわ」
この場はリックスに指揮を任せ、少数の騎兵部隊で東に向かう。
「ええい、私の初陣だぞ! 負けは許さぬ! どうにかしろ!」
わざわざ兵に担がせた御輿の上でコモーノが叫き散らしているが、それはもう指揮とは言えないぞ。
「コモーノ様、援軍にやって参りましたぞ!」
コモーノ騎士団の士気を上げるべく、拡声器の呪文も使って援軍に来たことを報せる。
「おお、むむむ、お前か」
そんな嫌そうな顔しなくてもいいのに。俺だったら、美少女領主のティーナが援軍に来てくれたら、飛び上がって喜んで両手で握手しに行くと思うんだが。顔か胸が好みのタイプじゃないんだろうな、きっと。
「これはかたじけない」
向こうの騎士隊長が代わりにお礼を言ってくれたが。
「よい! そのような輩に礼などするな」
小物だなぁ。まぁ、貴族の格としてはそっちが確かに上だけども、アーロン卿あたりでも、援軍に来たら「でかした!」くらいは言ってくれると思うが。昨日の城でも「良く無事で来おったな、この! この!」と歓迎してド突いてくれたし。うう。
「は、しかし……味方でございますぞ?」
「うるさい! ロフォールごときに借りが作れるか。さっさと敵を蹴散らすのだ」
「はっ」
歓迎はされなかったが、それ以上はコモーノも何も言わなかったので、とにかく共同で敵に立ち向かう。
「せいっ! うん、良い感じね!」
敵兵を押し返し、優勢になって来たのがはっきり分かってきたとき。
「くそっ! なんだこいつらは。うわああっ!」
前方から、青白い顔をした歩兵がわらわらとやってきた。
うーん、確かに死人だね。もう、目に生気や意思が感じられないし、口を半開きにして、ゆっくり動いている。
鎧は着ているが、穴が開いたり、錆びたりしていて、綺麗な者はほとんどいない。
動きや魔力の波動を見る限り、念力で無理矢理動かしている訳でも無さそうだ。
「ユーイチ」
ティーナがこちらを見て合図する。
「ああ」
こいつらが出てくることは分かっていたので、すぐに対ゾンビ作戦に入る。
「四大精霊がサラマンダーの御名の下に、我がマナの供物をもって炎の壁となれ、ファイアウォール!」
敵の前に持続型の炎の壁を呪文で作り出す。
さて、どうなるか。
「突っ込んでくるぞ!」
敵兵はそのまま炎の中に入ってきて、燃えながら崩れ落ちていく。痛覚はもはや無いようで悲鳴も上がらず、そこだけが救いか。
「おえっ、うえ、酷い臭い」
腐った肉が焼ける臭いに、俺も吐き気を催す。こりゃダメだ。敵を倒すのには有効かもしれないが、ちょっと勘弁。
「ゴーレム部隊を出すぞ!」
周囲の兵士にそう報せて少し下がらせてから、ゴーレムを動かす。
「行け!」
「GHAAA!」
トロいので、普通の人間相手だとサッと躱されてしまうのが欠点のゴーレムだが、今回は相手もトロいので、見事にパンチが命中する。
「おおっ!」
飛ばされた死体が周囲の死体を巻き込んで薙ぎ倒していく様は迫力がある。あんまり見たいモノじゃ無いけどね。
「死者の肉体はすべからく土に還るべし。魂は天上へと安らかに導き給え。ターンアンデッド!」
クレアが祈りを捧げると、ゾンビ達が淡く白い光の円柱に包まれ、鎧と土だけを残して一斉に消え去っていく。
んー、さすが専門の呪文、威力が素晴らしい。
「よし、一気に片付けるわよ!」
ティーナが勝機と見て号令を掛ける。
「「「 応ッ! 」」」
味方の兵も勝利を確信し、士気が上がる。コモーノ伯爵の騎士団も落ち着きを取り戻し、反撃に出始めた。
だが。
「むっ、数が増えている?」
次々とゾンビ達を葬っているのに、減るどころか集まってきている様子。
「クレア、まだ行けそう?」
ティーナが確認する。
「ええ、大丈夫です。この魔法は魔力をほとんど消費しませんから」
クレアも頷くが、多分、経験値も入らないんだよなあ、コレ。
かと言って、炎の呪文でがっつりと経験値稼ぎという気にもなれない。レベルが低いしな、こいつら。
押し込まれないよう、戦線を維持することに集中し、ゴーレムに指示を出したり、ファイアウォールを設置し直したりしていく。
「敵が退いて行くぞ!」
ようやく敵の数が減り、最後の一人を斬り倒して、一同がほっとする。




