第二話 善戦
2016/11/29 若干修正。
おっと、俺はもう戦は何度か経験したが、クロは初めてだったな。
「クロ、前に言った通り、目潰し系や精神系で敵を混乱させるだけでいいからな」
「はいっ、分かっています」
大鳥のマリアンヌに騎乗したクロは、緊張はしているようだが、気丈に返事をした。思ったよりは大丈夫そうだ。まあ、戦は初めてでも、モンスターとの戦闘は何度もこなしてるからか。
「それから、弓兵に狙われたら避けなさいよ、マリアンヌ」
リサもアドバイスを送る。
「クエッ!」
賢いひよこだ。
「さて、久方ぶりの馬上戦だな」
レーネが大剣を片手で軽々と振り回して肩慣らしをするが、ま、コイツは心配要らないだろう。
馬に乗っているパーティーメンバーは他にはミネアだけで、エリカ達は徒歩だ。少し遅れ気味で走って付いて来ている。
馬の練習もやってもらった方がいいかもな。
そうこうしているうちに、目と鼻の先までトレイダーの騎兵が近づいてきたので、俺は無詠唱でフラッシュの呪文を使う。
「うおっ!」
「何だ!?」
「目が見えぬっ!」
くそ、十人まとめての範囲指定だったが、掛かったのはたった三人だけかよ。俺の今の状態では魔法の効きが悪いのか、それともトレイダーの騎兵部隊の魔法抵抗が強いのか。
「カカッ、そのようなつまらぬ小細工など要らぬわ。魔剣である妾さえいれば、お茶の子さいさいじゃ。さあ、抜くのじゃ、ユーイチ」
俺の腰にぶら下がってる剣、リーファが喋るが。
「ヤダ」
だいたい、お前が俺に取り憑いちゃったせいで俺の魔法が弱ってるんだし。
「なっ…フン。まあ、好きにするが良い。魔法使いなど、魔力が尽きてしまえばどのみち何も出来ぬからの」
まぁ、魔力が尽きれば、当然お世話になるつもりだが、コイツは呪われた魔剣、あまり頼りたくは無い。
それに、俺のここでの勝利条件は、生き延びることと、ミッドランド軍の勝利であって、得点稼ぎや殺戮では無い。
「ほう? ただただ殺し尽くせば、簡単に勝てると思うがの」
リーファは漆黒の魔剣らしく、俺の心を読んでそううそぶくが、彼女を用いたとしてもそう簡単ではあるまい。
相手も生き延びようと必死に抵抗してくるから、いちいちまともに相手をしていたら、時間も掛かれば疲労もする。
最小限の労力で、いかに多数の敵を混乱させ、無力化するか。
それに味方との連携も活用しないとな。
「ケインッ! 前の敵は任せたぞ」
「了解!」
俺の専属護衛をやってくれている騎士ケインを先行させ、道を作らせる。
物理二重バリアはクロが掛けてくれた。
後ろから俺の脇を電撃が飛んでいったが、エリカも味方を巻き込まない知恵が付いたようで成長したな。単に目標を外しただけじゃなきゃいいけど。
「左! 弓を持っとるよ!」
ミネアが弓持ち騎兵にいち早く気づいて叫ぶ。
「任せて!」
リサが左腕装備のボウガンで狙い撃ち、すぐに落馬させた。相変わらず、命中率がいいな。馬上で走らせながらなのに、大したもんだ。
「せいっ! 行ける!」
なおも先頭を駆けるティーナは、真っ向からトレイダーの騎兵と交差するが、一度も剣を合わせることなく、相手をことごとく斬り捨てて行く。
ティーナのレベルが高いから良いようなものの、後でお説教しておかないとな。領主は自分だけの命じゃないんだし。
いや、今、言っておこう。
「ティーナッ、君だけの命じゃ無いんだ、少し下がれ、俺のために」
「え、ええ?」
「む、まずいぞ。左に回り込まれた」
リックスが敵兵を斬りながら言う。左を見ると、騎兵の一部隊が弧を描くように回り込んでいた。今から向かっていっても、間に合わないか。
後方を振り向いて確認すると、うちの歩兵部隊がそこにいる。少し離れすぎたな。
「ティーナッ! 速度を緩めろ! 歩兵部隊が付いて来れない。後ろが狙われてるぞ」
「もう…でも、みんななら大丈夫でしょ」
速度は緩めたが、落ち着いているティーナ。ま、このレベルの相手なら、うちのパーティーメンバーが負けるはずも無い。
回り込もうとしていたトレイダー騎兵の前に、突如、大きな炎の柱が立ち上る。あれを唱えたのはミオだな。
「うおおっ!?」
慌てて避けようとする騎兵だが、勢いが付いていて避けきれない。
「ひい!」
部隊が混乱し、バラけた。
そこへリムが手斧を振り回して突っ込んで行き、うん、アレなら大丈夫だな。
騎兵部隊の強みは、そのスピードと、隊列の衝突力にある。まともにぶつかれば歩兵や弓兵など簡単に蹴散らせる力。
だが、その二つが崩れてしまえば、歩兵でも対応は可能だ。
ただ、槍隊がいた方が良かったな。
後でリックスに言って、作っておいてもらうか。
そのままロフォール騎士団はトレイダーの騎兵部隊を蹴散らし、その後ろの歩兵部隊へ食い込んでいく。
見ようによっては、左右を包囲された形なのだが、魔法使いが複数いるおかげか、不利になっていない。
「リックス! 深入りしすぎじゃないのか?」
途中、不安に駆られたので聞いてみた。
「いや、これならば突破は可能だ。それに、後陣も控えているからな。我らは陣形を支えずとも、遊撃で良かろう」
ふむ。ま、リックスがそう言うなら大丈夫か。
「分かった」
それならば、このまま敵陣を真っ二つにして、崩していくか。
「ティーナ、真っ直ぐ奥へ突っ切れ」
俺が指示を出す。
「分かった!」
大軍は、一度陣形が乱れると、兵も自分の立ち位置が分からなくなるので、立て直しが遅れる。
また、相手が少数だと、攻撃可能な者が限られ、兵の大半が遊んでしまうこととなる。
敵の攻撃が集中する前に、常にこちらは移動して、相手の攻撃を思うように集中させない事。
それが戦術ゲームにおけるセオリーだ。
「ユーイチ、後方から敵の騎兵部隊が突っ込んできてるわよ」
リサが言うので後ろを見たが、少数の騎兵がかなりのスピードでうちの歩兵部隊に突っ込んでくるのが見えた。
「むむ」
まるで意趣返しのように、ロフォールの歩兵部隊が真っ二つに切り裂かれていく。
「私が相手をするわ」
「ちょっ! ティーナ!」
だからお館様はそう言うポジションじゃないでしょ!
ああもう!
ティーナが部隊も連れずに馬首を返して走って行ってしまうので、この場の指揮はリックスに任せて、俺も追いかける。
「どけどけっ! 我が前に立ち塞がることは許さんぞ! この虫けら共!」
レーネほどでは無いものの、かなり大きめの剣を振るう騎士が、先頭で暴れている。
黒い鎧に、ふさふさのファーをくっつけたその男は、殺戮を笑顔で楽しんでいるようにも見えた。
「させないっ!」
ティーナが馬を飛ばし、レイピアで斬りつける。が、この戦で初めてティーナの剣が弾き返された。
「くっ!?」
ティーナも相手の力量に気づいて戦慄する。
「ほう? 女か。つまらんな。男であれば一騎打ちも楽しめようが、女とは」
「それはどう言う意味かしら。私なら、手加減には及ばないけれど?」
「増長するなッ! 女は家畜、黙って男に従っていれば良いのだ!」
うわぁ。男尊女卑と言うより、もう某掲示板で童貞をこじらせちゃった子みたいな放言だな。
釣りじゃないところが痛々しいと言うか。
「はぁ?」
ティーナも呆れ返って、すぐに反論が出来ない。
ま、好都合だ。
一騎打ちをやらないと向こうが言ったんだから、お望み通りにしてやんよ。
「四大精霊がサラマンダーの御名の下に、我がマナの供物をもって炎の壁となれ、ファイアウォール!」
レベルは高そうだから、こちらも詠唱付きで、遠慮無く攻撃魔法を使う。
「むっ!」
放言男はとっさに自らのファー付き黒マントで身を覆ったが、うえ、魔法をほとんど無効化しやがった。
何やらとっても良さそうな魔法防御のアイテムだ。欲しいなー。
「貴様…! このオレをトレイダーの剣豪将軍、グレン=フォン=ザッハルト伯爵と知っての狼藉か!」
いや、知らんし。
「雨よ凍れ、嵐よ上がれ、雷神の鉄槌をもって天の裁きを示さん! 落ちよ! サンダーボルト!」
今度はエリカが、上級の雷撃呪文を使った。雷が真上からザッハルト将軍に直撃。
「エルフぅううう! そこを動くな!」
ダメージはほとんど行かなかったようだが、激昂したザッハルトは黒馬を走らせ、エリカに突っ込もうとする。
「ちょっと、私が相手をしようと思ったのに」
ティーナが文句を言うが、それほど怒ってはいない。正式な一騎打ちというわけでも無かったからな。
ミオが上級呪文のアイスジャベリンを無詠唱で使って飛ばしたが、ザッハルトはその氷の槍を剣で叩き落とした。
「ダメです。フラッシュが効きません」
クロも駆けつけ、呪文を唱えてくれたが、ザッハルトの魔法防御はかなり高い。
こりゃ、魔法チームはお手上げかもね。
普通の攻撃呪文では、だけど。
「ふう、あかんかったか」
「小賢しい!」
ミネアが投げナイフを斜め後ろから飛ばしたのだが、それも剣で叩き落とされてしまった。ザッハルトもよく気づいたな、今の。心眼スキルだろうか。
「エリカ、逃げなさい!」
リサが叫ぶが、エリカはその場から動かずにまた呪文を唱えようとしているし。
あのアホ。
仕方ないので俺が土壁の呪文で、下の地面をごっそり削って前方には文字通りの土壁を作ってやり、ザッハルトを馬ごと穴に落とす。
「なにぃ!?」
さすがのザッハルトもこれには対応出来ずに、馬が悲鳴を上げて転倒する。
「貴様らぁ! 殺す!」
穴の中でいきり立つザッハルトだが、フフフ、まだ終わりじゃないよん。
「ん、岩よ落ちよ、大地の精霊の怒りと知れ、ロックフォール!」
ミオが落石の呪文を唱え、ザッハルトの頭上に岩を出す。
「その程度で! このオレ様が倒せるかぁ!」
うお、岩を剣で真っ二つに切りやがった。コイツは相当レベルが高そうだ。
でも、ここでストーンウォールのコンボだったり。
「なにっ?! くそっ、体が動かん!」
岩にまとわりつかれて身動きが取れないザッハルト。
「カカ、ここでいよいよ、満を持して妾の出番と言うわけじゃな?」
ブゥウウンと、俺の腰に差している漆黒の魔剣がオーラらしきモノを発してその気になっているが。
「いや、撤収!」
「な、なんじゃとー!?」
だって、ブオー、ブオーと、退却の合図を報せる法螺貝が鳴ってるものね。
うちが受け持った前列左翼は良い感じで攻めていたんだが、後ろの本陣で何かあったのか?




