第二十三話 後始末
2016/11/29 若干修正。
王宮へ報告書を持たせた早馬を走らせ、その指示が帰って来る間、俺達はタール商会の幹部を尋問した。
こちらの質問には素直に答えてくれたが、彼らは震え上がっていて、自分の主が何をやっていたかも知らなかったようだ。
ワンマンで無ければ、誰かが「それ、まずくないですか?」と止めたと思うんだけどなぁ。
男爵にも話を聞こうとしたが、彼は尋問を拒否。
格下の爵位だから、高圧的に出てもいいが、大体の事情は把握しているので、無理に聞く必要も無い。
「ただいま」
ティーナの館の執務室に、スレイダーン領の情報収集を終えた小柄なシーフが戻って来た。革鎧を着込んでいるが見た目は子供。カナリア色の髪の毛を可愛らしくツーサイドアップにまとめ、左腕にはボウガンを装備している。
「ああ、リサ、お帰りなさい」
領主のティーナもリサには笑顔で応じる。
「ティーナ、あなたにコーネリアス様からの手紙を預かってきたわ。あの白髪の公爵の」
リサが封筒を見せる。
「ああ、じゃ読むけど、リサ、彼と会って話したの?」
「ええ、こっちはそんなつもりは無かったんだけど、私が街で嗅ぎ回っているのを部下が見つけて、色々、聞かれたわ。一応、ごまかしてはおいたけど、男爵がここにいると感づいてたみたいよ」
次期公爵のコーネリアスは、物腰は柔らかかったが、切れ者の印象だったしな。そして子供も躊躇無く切り捨てられる冷徹な男。スレイダーンの大物だ。
面倒な人が出てきたなぁ。
「そう、まあ、それはいいんだけど。ああ、リベール男爵の件で話し合いたいから、外交官がここに来るって書いてあるわ」
ティーナが開封して手紙を見て言った。
「本人が来るってわけじゃ無いんだな?」
俺は確認する。
「多分、そうだと思うけど。あの人、外交官なのかしら?」
「増援部隊の副司令と言ってた気がするし、まあ、違うだろう」
平和条約を結んだ状態とは言え、スレイダーンとミッドランドは険悪な間柄だから、公爵嫡子のような要人は、おいそれとやって来る事は出来ないだろう。
翌日、その手紙の外交官がやってきて、男爵との面会を求めたのでティーナは許可したが、詳細を聞いてその外交官も仰天していた。つまり、リベール男爵のスタンドプレーというわけだ。うわぁ。
以下、俺が呪文の地獄耳で聞き出した密室でのやりとり。
「うぬう、なんと、リベール卿、そのようなことを。陛下も宰相も、貴殿にそのような交渉の権限は与えておらぬと言うのに」
「ふん、そうかもしれんが、こちらは王宮付きの外交官、見事交渉で砦の所有権も得ることに成功したのだ。証文を取ってしまえばこちらのものよ」
ご機嫌で自慢してるけど、その証文、今は俺が握ってるんだよね。
最悪の場合、ま、うちの王宮の判断次第だけど、この証文を燃やして「そのような約束は交わしてない! リベール男爵は嘘つきである!」と言い逃れも可能だ。
「いやいやいや……良いですかな? そもそもあそこは我らの土地、それを交渉で認めさせたと言うこと自体、それまでの所有権がミッドランド側にあったと認めるようなものですぞ?」
「むむ?」
「それに、代官の署名など、効力としては弱いですぞ。せめてロフォール子爵のもので無ければ…」
「よし、ならば、あの娘と交渉してやる」
いや、無理でしょ。
「待たれよ! 交渉どころか、貴殿はこうして軟禁までされている状態、生きて帰れるかどうかも怪しいのですぞ?」
「ぬぬ? な、何だと?」
「ミッドランド側がこの件を闇に葬り去ろうとした場合、むう、迂闊、この私も消されるかもしれん」
「お、おい、どうするのだ」
ホント、どうするのよ?
この話を聞いてしまった以上、王宮の判断を仰がねばならず、新しくやってきた外交官も足止めするのがセオリーなんだけど、それだと、どんどんこの部屋に外交官が増えそうで嫌だわー。
無いとは思うが、スレイダーン側が業を煮やして救出作戦を強行するかもしれないし、切れ者のコーネリアスが向こうにいるからなぁ。
ええい、ままよ。
ノックする。
「ボルティス様、よろしいですか」
「う、うむ、何用でござろうか」
「少し、こちらでお話を。夕食のメニューのご希望もお伺いしたいので」
殺されるかと緊張してるだろうから、食事の予定の話をして安心させておく。少なくともこれでボルティス男爵は自分の命が夕方までは確保されたと考えるだろう。リベール男爵よりは頭が回るようだし。
「うむ、そうか」
少しほっとした様子で部屋から出てくるボルティス。
別室へ案内し、俺が切り出す。
「いかがでしょう、我々としても外交官であるリベール卿を長く引き留めるのは本意ではありません。例の証文について、全て無かった事にして頂けるのであれば、こちらも何事も無かった事にして、身柄を引き渡しますが」
「むっ…いや、しかし、私の権限ではそこまでの判断が付きませぬ故」
貴族ではあるが、一番下っ端の男爵なんだよなあ。一度、ボルティスをスレイダーンの王宮に返して、返事待ちにするか?
ただ、その場合、待つ間にミッドランドの王宮からリベール抹殺指令が来ないとも限らない。ミッドランドとしては厄介な醜聞だから、割とその確率高いんだよね。だが、それは外交官の殺害という、これまた風聞の悪いことになってしまう。
事故に見せかけたり、行方不明にしてもいいが、ロフォール領内で消えたという噂は広まってしまうだろう。
名誉を特に重んじるティーナにとってはマイナスだ。
「では前線にどなたか、判断が付けられる人はいませんか? おお、コーネリアス様はどうです?」
俺は思いついて提案してみた。
「ふむ。あの御方は外交の担当ではございませんが、私を派遣する手筈を整えたのもあの御方、この件を無かったことにすると言うことであれば、可能かも知れません」
「では、一度戻ってお話を」
「承知しました」
コーネリアスはその提案を受け入れたので、これで二人の外交官を追い返せた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「子細は、以上の通りです」
ティーナが、国王と宰相を前にして報告する。
狭い密室なので、このまま俺達は処刑されそうな予感もする。生きた心地がしない。
「ううむ、そうか…」
ミッドランド国王が長いため息をつく。今日は特に疲れている感じだ。顔色も良くない。
「申し訳ございません。よもやタールが、そこまで先見の無い者と思いませんでした」
宰相のオーバルトが謝る。
「致し方あるまい。問題は後の処理だが」
「は、ユーイチよ、コーネリアス卿は確かに約束したのだな?」
オーバルトが俺に確認してくるが、言質を取ったわけじゃないんだよね。そもそも無かったことにする以上、取れないって言うか。
「いいえ、ですが、外交官リベールが持ち出そうとした証文はここに押さえております。これを燃やしてしまえば、同じ事かと」
「見せよ」
「は」
二通の証文、タールが保管していた分も併せてオーバルトに渡す。
今回はギャラリーの貴族がいないためか、直接の手渡し。
「この署名、タールとリベールの物で間違いないな?」
受け取ったオーバルトが俺の目を見て聞く。
「はい、間違いございません」
筆跡は確認したし、他に証文が無いかどうかもきちんと調べた。
ティーナの屋敷に拘束されていた間は、信用できる見張りが付いていたので問題無い。
問題は、ギブソンがふん捕まえて、連れてくるまでに生き残りの護衛がいて、そいつが証文を持ち帰っていた場合だが…、まあ、それなら、コーネリアスもいちいち事情を探ったりはしないだろう。
抜けは無いはず。もしもあったら、俺死亡。
「………」
「どうだ、オーバルトよ」
「は、少し様子を見る必要がありますが、ひとまずは軽傷で済んだかと」
「軽傷か。領土が広がったのは良いが、面倒が絶えない事よ」
「は」
「後は、タールの件だが」
「スレイダーンの関係は伏せ、関税の汚職と領主への反逆を罪として片付けるべきかと」
「しかし、それでは整えて渡してやるという余の約束がおかしくなるな」
「は…いささか。しかし、もはや済んでしまったこと。ロフォール子爵とソリが合わなかった、と言うことにするしか」
「ふむ。それで良いか? ロフォール」
「御意。こちらもタールに全て任せてしまい、監督不行き届きでした。申し訳ございません」
「良い。だが、次は、面倒が起こらぬと良いな」
国王がティーナを見て言うが、起こすなよ、と言うことだろう。
「は…」
ティーナも緊張して返事をする。
「では、もう良かろう。下がれ」
「ははっ」
どうやらお咎め無しで済んだようだ。ふう。
部屋を出て、ティーナが俺に抱きつく。
「ふうー、罰を食らうと思ったわ」
ティーナも生きた心地がしなかった様子。
「それやると、子爵に取り立てて落とすと言う感じだから、やっぱり国王の任命責任みたいのが問われちゃうんだろう」
「陛下もご面倒ね、いえ、これは不謹慎か」
「ま、職責が大きい人は大変なのが普通だろ」
「そうね。じゃあ、戻りましょ」
「ああ」
が、俺達は王都をすぐには出られなかった。




