第二十二話 売国の反逆者
流血と殺傷があります。ご注意下さい。
また、あくまでこの作品はテキトーなフィクションです。異世界のこの時代では、ユーイチやティーナがこんな感じの捉え方になりますが、別の世界、別の時代、別の人では別の解釈もあろうということで、大目に見てもらえれば幸いです。この話以降は政治的対立っぽい場面は出てきません。たぶん。
2016/11/29 若干修正。後書き追加。
普段はロフォール砦でラインシュバルトの騎士団を監督している騎士隊長のギブソン。
ラインシュバルト侯爵の腹心の一人で、リックスと共にティーナに付けられた家臣。
もじゃもじゃのあご髭で、見た目、騎士と言うよりごろつき……オホン、どちらかというと冒険者風だ。
怖い人かと思っていたが、乱暴者では無く、がさつなだけのフツーの人だった。
ただ、政務にはほとんどタッチせず、軍人―――この時代で言うなら武人だな。
「ほう? 怪しげな連中を捕らえたか」
リックスが興味を示したものの、頭が回らなかったか、オウム返しに言う。
「ちょうど良い、お嬢がいるなら、検分と行こう。おい、連れてこい」
ギブソンの部下が縄で縛り上げられた二人の男を乱暴に押し出す。
床に転がる二人。
「ひい、いたたた!」
「くっ、私は貴族だぞ! このような扱い、タダでは済まぬぞ!」
ええ?
確かに、片方の痩せた男は上等の絹服を着ている。ギブソンさん…。
「ちょっと……状況を話して」
ティーナも眉をひそめてギブソンに言う。
「この時間にわざわざ街道を外れて動くネズミを斥候が見つけたのでな。ふん捕まえて連れてきた」
確かに怪しいが、貴族をいきなり縛り上げるのはどうかと思う。
「それは事情を聞く必要があるけど、それだけで縛り上げたの?」
「他に護衛が四人いたが、斬りかかってきたからな」
「えっ、そう。こちらの所属は明らかにしたのね?」
「いいや。だが、騎士と言うことくらいは分かろう」
「もう、それはきちんと言ってもらわないと。私はロフォール子爵、ここの領主よ。あなたは?」
「私はリベール男爵だ。王宮付きの外交官なるぞ」
「む。どちらの王宮かしら」
「む。それは……」
言い淀む男。
「大方、スレイダーンでしょうな」
リックスが言うが、その貴族の男は緊張した様子できょろきょろ見回すだけで否定はしなかった。
確定だな。
「リベール男爵、我が領地へ何用かしら?」
「それは……交渉だ、交渉。とにかく縄を解いてもらう。貴国と我が国は和平条約を結んだはず」
微妙に間があったが、この時間帯に交渉ってのも苦しい言い訳だなぁ。タダの斥候か? いやそれなら、いちいち目立つ絹の服は着ないか。
「まあいいわ。どうも怪しいけど、縄を解いてあげて」
「はっ!」
ギブソンの部下の兵士が二人の縄を解く。
「お館様、後は私にお任せを。先にお休み下さい」
タールが言うが。
「いえ、せっかくこんな時間に交渉に来てくれたのだから、話くらいは聞いてあげるわ。男爵、用件を」
「むむ……いやっ! このような仕打ち、我が護衛も斬り捨てるなど、言語道断。直ちに釈放してもらおう。交渉は無しだ!」
「ギブソン、先に手を出したのはどっち?」
「向こうだ。こっちは包囲した後、止まれと命じた」
「夜盗が襲って来たと思ったのだ。あの暗がりで、騎士と分かるはずが無かろう!」
ふむ、少し面倒な事になったな。ただ、こんな深夜に移動するリベール男爵に落ち度があるのは間違いない。
「なぜこんな時間に、街道で無い道を通ったのかしら?」
ティーナもそれを問う。
「たまたま、そこで用を足したまで。私は急いで帰国する必要があるのだ。さっさと解放しろ」
「どうしたものかしらね」
ティーナがあごに手をやり、俺とリックスを見る。先にリックスが口を開いた。
「さてさて、本当に夜盗に襲われても事でしょう。今日はこの屋敷に一泊して頂いて、それからでよろしいのでは」
そうだな、男爵の目的がはっきりしない以上、少し足止めして置いた方が良い。
「男爵様、急用というのはいかなる御用向きで?」
一応、俺が聞いておく。本国から召集がかかったとか、娘が危篤と報せが入ったなんてことも、あるかもしれないし。
まあ、十中八九、何らかの工作でミッドランドに潜入してたはずだが、貴族がわざわざ来るとなると、んー、やっぱり交渉なんだろうな。
誰と?
「む、それは貴様の知ったことでは無いわ!」
「男爵、ここは話してもらわないと。正当な理由であれば、こちらも配慮するけど?」
ティーナが言う。
「ううむ、いや、国の機密に関すること。話すわけには行かぬ」
「それじゃ、気が変わるまで、ここにいてもらうしか無いわね」
「なっ! ええい、おい、タール殿、何とかしてくれ」
「ううっ」
んん? こいつら、知り合いなのか?
全員の視線がタールに向かう。
「い、いや…私は知りませんよ」
引きつった顔のタールは、なんか隠してるな?
「何だと! 証文を交わした外交官の顔を忘れたと言うか!」
男爵が怒るが、おやおや、また気になるキーワードが出てきましたよ……。
「待って。タール、どういうこと? 証文って」
「いえ、ううん、スレイダーン側と、少し、商売に関することで取り決めを。商人同士のことと言いますか…」
歯切れの悪いタール。
「これだ。ロフォールの徴税の一部をスレイダーンに納めること。ロフォール砦の正統な所有者は我らが陛下と認めること。署名はタールだ」
男爵が懐から巻物を取りだして広げて見せた。ティーナがそれを受け取り、確認し、ブルブルと手を震わせる。
「こ、これは……タールッ! この証文、あなたにも私にもそんな権限は無いわよ!」
「い、いえ、過去はそう言う経緯であったと言うことで…」
しどろもどろになるタール。
「なんと、この証文には、過去という文言は無いぞ。話が違うではないか」
男爵も抗議して言うが、いやいや、こっちの外交官もちょっと認識がおかしくないか?
そもそも一代官がそんな署名をしたところで、話が決まるはずも無い。国王なり、せめて宰相か外交担当のライオネル侯爵辺りの署名でないと。
「ティーナ、ちょっとその証文、見せてくれるか」
「ええ」
受け取って、覗き込んだリックスと一緒に読む。
ロフォール砦の正統な所有者はスレイダーン国王であると認め、上納として年に金貨十枚を支払う、と書いてある。
うーん、十万ゴールドか。本来の税収から考えると、思いっきり安いな。
それでスレイダーン側が納得して、兵を出さないと言うのであれば、そう言う交渉も有りなのかも知れないが。
「これはまずいぞ」
とリックスが深刻な顔で言う。
だよなぁ。
タールの認識がどうあれ、勝手に上納した時点で、反逆罪だろう。
国の領土の範囲を勝手に個人が決めて良いはずが無い。
証文にも、言い逃れが出来ない文言が並んでいる。
「タール、何か申し開きは?」
ティーナがすでにレイピアを抜いて問う。
「くっ、防げ!」
うわ、なりふり構わず逃亡を図るとか。タールの護衛の冒険者が四人いたが、こちらにはレベル40のティーナをはじめ、上級騎士のリックスとギブソン、その部下の兵士、俺やケインもいる。
四人の護衛は剣を抜いたものの、あっと言う間に斬り伏せられ、タールも驚愕の表情になる。
ひょっとして、ティーナがごっこで冒険者をやってると思ってたのかな?
ガチですよ、この子は。
「タールッ! 主に断り無く私心で事を運び、私欲で国を売り渡し、道理も無く反逆するかッ! 恥も悪も知らぬ外道めッ! 成敗!」
ティーナがそのように大きな声で糾弾すると、レイピアで一閃、タールを袈裟懸けに斬り伏せた。
「ぎゃっ!」
タールが崩れ落ちる。
お、おお、やっちまったか……。
まあ、護衛に斬りかかるような命令を出した時点でこちらの世界の反逆罪だから、死刑で良いんだけども。
この人、王宮の推薦の人だったんだよね……。
「よし、ギブソン、商会を押さえるぞ」
「分かった」
外に走って行くリックスとギブソンはタール商会の幹部を拘束するつもりなのだろう。
皆殺しは無いよね?
「ひ、ひい」
リベール男爵をどうするかね。まあ、コイツは腐っても外交官だから、殺すわけにはいかない。
「ケイン、男爵を部屋に案内し、その警護に就け」
ティーナにどうにかされる前に俺が命じる。
「分かりました。さあ、こちらへ」
震え上がった男爵は抵抗することも無く、もう一人の商人らしき男とケインに連れられていった。
「ごめん、斬っちゃった」
ティーナが、レイピアの血を払って鞘に収め、俺に困ったように言う。
「いや、護衛に剣を抜かせた時点で死罪は確定だし、君が司法だからな。間違いじゃあ無い」
「ええ。でも、宰相の推薦の人だったから……」
「そうだな。ともかく、上に詳細に報告して、それからだな。君は報告書を。そっちは死体を片付けてくれ」
兵に命じて、執務室から死体を運び出す。
「タールを斬ったのね」
騒ぎを聞きつけたか、リサが顔を出した。俺は頷いて簡単に事情を説明しておく。
「ああ。スレイダーンとまずい取引をして、問い詰められたらティーナに剣を向けたからな。反逆罪だ」
「フン、バカな男。私に出来る事はある?」
「そうだな……リベール男爵がどう言う人物か、スレイダーンに行って噂を集めてもらえるか? それか、タール商会が何をやってたか、洗い出しが必要だ」
「いいわ。それほど詳しい事は調べられないでしょうけど、情報は集めてみる。タール商会の方はミネアにやらせるわ」
「ああ頼む」
リサは今からすぐ出るつもりなのか、廊下を戻っていく。
さて、これからどうするか……。
「まずは、寝るか」
俺はそう決めた。
「ええ?」
「寝るのかっ!」
魔剣のリーファが良いツッコミを入れてくれるが、だって眠いもん。
「今は頭が働かないし、すぐどうにかする必要は無いだろ。報告書も明日で良いぞ、ティーナ」
「む、ダメよ。私は書いてから寝るから」
「あっそ」
メイドのメリッサと執事のセバスチャンもやってきたが、桶に手拭いと、すでに掃除の準備を整えてやって来たところが小憎らしい。
せめて「お館様、ご無事でっ!」か「これはいったい!?」くらい言えよ。
「いいわ。掃除して頂戴」
ティーナもすぐに許可を出す。
「「 はい 」」
そのまま寝てやろうかと思ったが、俺はクリーニングの呪文を使えることを思い出し、それで綺麗に掃除してやった。
フェンシングの『フルーレ』は刺突のみですが、ティーナの持つ『レイピア』は細身の両刃で横に斬る事も出来ます。『サーベル』も斬り有りです。




