第十九話 ロフォール領の変化
2016/11/29 若干修正。
「あ、凄い、ここまで石畳で舗装してるのね」
ティーナの屋敷に近い街に入ると、大通りが全て石畳に変わっていた。さすがは名うての代官タール、色々、街に手を入れた様子。
街の外まで石畳が続くアッセリオなどとは比べられないが、こちらは辺境の地、向こうは交易路のど真ん中だしな。ま、ロフォールはこれから交易も発展していくことだろう。
街には馬車が行き交うのが見え、人通りも前より増えた感じだ。
羽付き帽子や染め物の服を着ている人間もちらほら。
宿屋も新しく建て替えられており、前より一回り大きくなっていた。
「ハンバーガーはいかがですかー。今ならフライドポテトもセットになりまーす」
「サンドイッチはいかがですかー。卵サンド、ツナマヨ、ベーコンサンド、トマトサンド、色々ありますよー」
と、屋台のお姉さん達が笑顔で客の呼び込みをやっていた。
ハンバーガーはクラウス料理長にハンバーグでこんなのもあるよと教えておいたのだが、タールと組んで商品化までしたらしい。
フライドポテトは俺も失念していたがクラウス達が試行錯誤で作ってきた揚げ物料理だ。
「二つくれニャ!」
さっそく、食い物に目が無いリムが、自分のだけ購入してるし…。
「ふふ、どんな感じなのか、ちょっとみんなで食べてみましょうか」
「賛成」
全員分のハンバーガーとサンドイッチをそれぞれ買い、食べてみる。
「旨いニャー!」
「ん?」
「あれ?」
リムは喜んで食べているが、俺やティーナは手が止まる。
うん、悪くは無いし、ちゃんとハンバーガーとサンドイッチになっている。が、このハンバーガー、ハンバーグがやたら薄いし、タレもほとんど付いてない。
トマトサンドも、パンにバターは塗っていないようで、ただ薄いトマトを挟んだだけの感じ。
「うん、美味しいけど、うちはユーイチやクロちゃんが作ってくれるヤツの方がええな」
「ティーナの屋敷で食べたサンドイッチの方が美味しかったわ」
ミネアとエリカもそんな感想。ま、屋台の料理人の熟練度が足りてないのかな。これは後でタールに報告して、もっと美味しいのを出してもらうとしよう。
値段はハンバーガーは一個二ゴールド、サンドイッチは一品一ゴールドと、ちょっとボリュームに対してお高めな感じだが、一般庶民も気軽に手が出せる価格帯だ。
俺達の他にも購入している客がいるし、屋台の販売員も忙しそうにしているから、繁盛しているようだ。
真っ白な布のエプロンをして蒸留酒の瓶も置いて有るから、衛生管理はしっかりしている様子。うんうん、そこ、大事だよね。
「どいたどいた!」
「えっほ、えっほ」
荷車で壺や麻袋に入った何かを運んでいく奴隷達。汗まで垂らして働き者だなあ。
「あ、見て、あそこ、アクセサリーのお店が出来たみたい」
ティーナが指差したが、銀色の指輪や、金色のブレスレットなどが台の上にたくさん並べられている。
「へえ」
ま、本物の銀や金では無いな。分析してみたが、やはり鉄と真鍮だった。
タールが提案した新規店舗に対する補助金と低金利融資制度によって、さっそく商人も呼び込めた様子だ。
「良かった。ロフォールがどうなってるか、ちょっと心配だったけど、タールが上手くやってくれてるみたいね」
ティーナが笑顔を見せる。
「ああ」
俺も笑顔。
「ミネア、ちょっと」
「ん、なんや、リサ」
リサがミネアを呼んで真剣な顔で何か耳打ちする。
「ん、分かった」
そのままミネアはどこかへ行ってしまうし。
「何を頼んだんだ?」
「ま、ちょっとね」
リサは教えてくれず、まあ、大したことでも無いだろう。
俺達はティーナの屋敷へ向かい、そこでリックスやケインの出迎えを受けた。
「「 お帰りなさいませ、お館様 」」
「ええ。留守中、ご苦労様。上手くやってくれてたみたいね」
「上手くですと? まっ、それは決裁や報告書をご覧になってからの方がよろしいでしょうな」
変な顔をして鼻で笑ったリックスは、ちょっと様子がおかしい。
「ええ? どういう事?」
「とにかく、ご無事で何より。さっそく、ご報告がございます」
「ええ、じゃ、執務室へ行きましょう。ユーイチ、荷物を置いたら、すぐに来るように」
ティーナが指示してくるが。
「えー? ま、分かったよ」
今日は一日ゆっくり旅の疲れを癒やして、明日か明後日、セルン村の様子を見に行こうかなと思っていたのだが。
リックスの報告くらいは聞いておくか。
決裁や報告書は俺は今日は手伝わんぞー!
明日出来る事は今日やらないっ!
「ユーイチ様、セルン村のことですが」
さっそくケインまでも俺に報告し始める。
「あとあと! 急ぎじゃないんだろ?」
「ええ…」
リュックを俺の部屋に置き、手伝わないぞと気合いを入れて執務室に向かう。
「んん?」
執務室の扉の前に二人、目つきの鋭い男が二人、警備に付いているが、見かけない顔だ。二人は俺を見るなり笑顔で一礼してきた。
「ユーイチ様ですね。どうぞ、中でタール様とお館様方がお待ちです」
「ああ、うむ、ご苦労様」
「タールが冒険者ギルドで雇った者達です」
ケインが俺に耳打ちする。
「あー、なるほどな。冒険者ギルドの支部を招致する予定だったな」
「ええ」
新しい部下も増えたみたいだし、ここは礼儀正しくやっておくか。
「お館様、ユーイチ、参りました」
ノックして言う。
「入って。そう言うの、ここじゃ要らないって言ってるでしょ?」
「まあ、そうだけどさ」
中にはタールとティーナと、またまた警備の冒険者が二人。
「随分と厳重にやるんだな」
「ユーイチもそう思ったでしょ? ギルドに仕事を斡旋したいって言うのも分かるけど、もっと他の場所にした方が良いわね」
「ええ、申し訳ございません。では、今後はそのように致しますよ」
笑顔で応じるタール。どっさりと積まれた報告書の束にさっそくティーナが手を付ける。これ、全部見るの…?
「へえ、凄い。見て、ユーイチ。あの屋台の売り上げ、月に三千二百ゴールドまで行ってるわ」
「なんと!」
それだと一年で三万ゴールド以上、日本円にして六百万円を軽く超えちゃうよな。
儲かるなあ。俺も屋台やろうかな。冒険者は廃業で。
「これもユーイチ様が画期的なロフォールの新名物を考案して下さったおかげですよ。町人達にも大人気でして」
「いやいや、ハッハッ、何を仰いますやら、これもタール先生が商人へ補助金制度を作られたからですよ」
お互いにゴマすり合い。
「ん? 待って。タール、この報告書だと、あの石畳の工事にたった二千ゴールドしか掛かってないみたいだけど?」
「ああ、それはそれぞれ二千ゴールドの経費で、街が四つございますから、セルン村と合わせて合計は九千ゴールドとなっております」
タールはちゃっかり俺の村も手入れしてくれたようでありがたいが、そこは公平に他の村もやって欲しかった。
だが、それでも、安すぎるだろう。合計でも200万円行かないのって。街一つだけなら、40万円とか。
「ええ? あれだけの工事で、それだけの経費で済むの?」
ティーナも疑問に思った様子。
「はい。責任者と技術者以外は全て奴隷を使いました。それから騎士団と学校の生徒達にも手伝って頂きましたので」
なるほど、奴隷を使ったか。騎士団もタダで投入したようだが、ああ、それでリックスが不機嫌なんだろうな。
兵士も時には力仕事をやってもらった方が良いと思うが、この世界的には、どうなんだろう?
ただ、学校の生徒まで使うか…。
「ああ奴隷。でも学校って、勉強を教えるところでしょう?」
「はい、土木工事に関する技術や、街道の作り方などを学ばせる目的で実施しました」
「ああ…」
ティーナがチラッと俺を見るので、頷いておく。理論ばかりやるより、実際に働く現場を見せることも大事だ。
「しかし、騎士団は敵に備えるのが務め。疲労したところへ攻め込まれては後れを取ります。それに、訓練や演習の時間を取られれば、精兵を維持することなどできません」
リックスが毅然とした様子で言う。
「そうね、さすがに全員が動けなくなるような使い方や、練度が下がる使い方はダメよ」
ティーナがリックスの意見に頷く。
「は、申し訳ございませんでした。以後はお館様のご随意に。人手が足りない場合は私から要請を行いますが、それもリックス殿と相談してお決めになればよろしいかと」
「フン、最初からそう言えば良いのだ」
「リックス」
ティーナが注意する。
「失礼」
「ユーイチも、そっちの報告書を読んで」
「お館様、情報閲覧の権限から考えますと―――」
「良いから読みなさい。領主としての命令よ」
チッ。どうもティーナは領主が板に付いてきたみたいで、命令の仕方が上手くなってるなぁ。
仕方なく、書類の山から一枚取って読む。
「ん? ああ、ニーナを教師にしてくれたんですか」
アッセリオで奴隷として働かされていた猫耳族の美少女。白い髪の毛と白いしっぽの子だ。行商に弟子入りしたとたんに盗賊に襲われるなど、可哀想な境遇だったが。彼女はリムとは対照的に知的な感じだったし、計算も教わってるはずだから教師も向いているだろう。
「ええ、有能な人物でしたし、ユーイチ様のご推薦のようでしたから」
「いやいや、推薦したわけじゃないんですが、タール先生が有能と仰るなら、間違いは無いでしょうな。ハッハッ」
「ユーイチ、ここではあんまりそのやりとりはしないで。二人きりの時は好きなだけやってていいから」
ゴマすりが嫌いなティーナはお気に召さない様子。ここは空気を読んでおくか。
「分かったよ」
報告書を読み進めていくと、ロフォールの生産量はかなり向上しており、色々改革も進んでいる様子。
ただ、奴隷の人数がやたら増えているのが気になる。
「タールさん、これ、奴隷がかなり増えてますけど……」
聞いてみる。
「ええ、新しく受け入れた浮民は全て奴隷として扱っています。そうしないと、元からの領民達が納得しないんですよ」
「あー。んー」
ま、それも解決法の一つだろう。
「それは可哀想よ。何か罪をやったならともかく、いきなり奴隷なんて」
ティーナは賛成しない様子。
「慈悲深きことで、では、今後は平民として受け入れることと致しましょう。ただ、すでに人数的には余り始めておりますので、受け入れは厳しいですが…」
「ええ、元々、その方針だから、それは仕方ないわ。うーん……奴隷だと、多く受け入れられるの?」
「いえ、そこまでは変わりません。奴隷も食べ物を必要としますので」
「そう。じゃあ、そのままの方針で」
「はい」
書類の束を片付けていき、ティーナの方針と異なる部分については修正を入れていく。
書類はきちんと分類され整理されているものの、数がやたら多いので、とても一日では終わりそうに無い。
「失礼致します。夕食の準備が整いました」
そう告げに来たメイドのメリッサが天使に見える。
「そ。じゃ、後は夕食後にしましょう」
「えー? 俺はお役御免でいいよね?」
「ダメ」
「酷えな。不当なサービス残業に対し、我々労働者はこれよりストライキとサボタージュを高らかに宣言する!」
「じゃ、行きましょ」
「うわ、スルーって、お館様ぁ!」




