第三話 難局
2016/11/27 ティーナ優しさUP計画。クリア条件の描写を数行変更。
「うああ、畜生!」
「だ、誰か、助けてくれ、ぎゃああああ!」
城壁を降りて街の路地に入ったが、あちこちにハーピーがいて街の人々を襲っている。戦闘員で無いためか、城壁の兵士達よりも弱いし、とにかく混乱が酷い。
「落ち着いて! それほど強い相手じゃないぞ!」
そう言ってみるが、ダメだな、耳に入ってる感じじゃあ無い。ま、ハーピーは人と同じくらいの大きさで、翼を広げると威圧感もあるから、これに数が加わると仕方ないか。
悪夢の逆の効果を持つ呪文、欲しいなあ。
ウインドカッターの呪文で一羽ずつ確実に敵を倒していく。一度に片付けたくなるところだが、ここで怖いのは同士討ちや家屋の破壊だ。街を破壊しては街を守る意味が無い。
『緊急ミッション パーピーから街を守れ!』
勝利条件 ハーピーの撃退
敗北条件 俺様の死亡
パーティーの全滅
街の損害率が50%以上
町人の死亡率が25%以上
条件を明確にするとこんな感じか。
クリアしても大した報酬が無いと分かっているのがアレだが、仕方ない。拒否したら冒険者ギルド除名もあり得るからな。
それにレベル39の俺達なら戦える。アルカディア王国に恩を売っておけば良い方向へ転がるかも知れないし、何より人間の助け合いだ。
街が滅ぼされたらそれだけモンスターの脅威が高まってしまう。
敵を排除し、安全になったところで薬草で治療していく。
「いててて…」
「くそ、なんでこんなことに」
まずいな、街の人達の士気が低い。これがトリスタンとの戦なら「憎い敵国をやっつけろ!」「勝てば賠償金と川の水量UPだ!」と盛り上がる要素も有るのだろうが、モンスターだと冒険者以外は経験値なんてあんまり嬉しくないだろうし。
治療が終わったにもかかわらず、武器を持って立ち上がろうとしない。
どう鼓舞したものか。
『ん、ユーイチ、こっちもお願い。負傷者六人、うち重傷一人』
『分かった』
パーティーチャットでミオから連絡が来たので、すぐにそちらに向かう。ステータス呪文とマッパー呪文でミオの位置は把握済みだ。
「バズ! 死ぬんじゃねえぞ! 死んだらタダじゃおかねえぞ、この野郎!」
ん? ああ、またこの人達か。
ミオのところに行くと、ラッドがリーダーの四剣士パーティーがいた。金髪のポニーテールのアッシュが怒鳴りながらハーピーに向かっていく。
「どうも、バズさん」
革鎧のバズが家の前で座り込んでいるので声を掛ける。
「おお、ユーイチか、チッ、まーた格好悪いところ、見せちまったなぁ」
「気にしないで下さい。む、これは高級ポーションだな…」
右目を爪で引っ掻かれたのか、ちょっと心配な傷だ。
探知の呪文で目の中に爪や異物が残っていないことを確認し、ハイポーションをかける。
「よし、ありがとよ」
「いやいや、失明の危険があります。そこで大人しくしてて下さい」
立ち上がろうとしたバズをそう言って座らせる。
「だが、敵の数が多い。遊んではいられねえぜ」
「気持ちは分かりますが…仕方ない、包帯で巻いておきますから、無理はしないように」
「分かった」
包帯を巻き、今、俺に出来る治療はここまでだ。
「痛みが取れないようなら、クレア、うちの司祭に回復魔法を掛けてもらいます」
「おう」
パーティーチャットを使おうとしたが、城壁と離れてしまっているので、残念ながらクレアは範囲外だ。
バズを城壁に向かわせても良いが、この場を一人だけ離れるというのは彼の気質からして納得はすまい。
俺は他の軽傷者も薬草で治療してやり、バズに薬草を十束、百枚ほど渡しておく。回復役をやってもらえば、無闇に敵に突っ込んで怪我をする可能性も低くなるだろう。
「ありがたいが、お前らの分はあるのか?」
「ああ、余裕でありますから、ほら」
ローブをファサッとめくって、でろでろでろーん。
「うえっ、なんでそんなに薬草を」
気持ち悪いと言わんばかりのバズ。
「まあ、薬草の行商もサイドビジネスでやってるので」
「サイド美人?」
「兼業のことです。それよりここにいる冒険者はこれだけですか?」
ちょっと数が足りていない様子なのでバズに聞いてみる。
「さあな。ギルドに行ってみれば人数も分かるかも知れねえが、それより、騎士団はまだか。こいつは冒険者の手には余るぞ」
「ううむ。もうじき来るという話は聞きましたけどね…」
「おお。チッ、嬉しくないほうが来たぞ」
ハーピーが上から降りてきたので、話を中断して戦闘に移る。前衛のZOCやブロックがまるで役に立たないので、飛行能力が有るモンスターは手強い。
こういう飛行部隊を入れておけば、軍隊、凄く強くなるんじゃないかなあ。
あ。
「バズさん、アルカディアの飛行部隊って、知ってますか?」
「ううん、いや、知らねえな。トリスタンには飛竜部隊がいると聞いたことがあるが」
「ほう」
飛竜と言えば、おそらくワイバーンの事だろう。普通のドラゴンかもしれないが、レベル30は超えそうな魔獣だ。俺もドラゴン…いや、エサ代を考えると、大鳥や大トカゲでいいや。
俺はアッセリオの警備隊長イザベルから飛竜の爪をもらっているが、調合レシピはまだ解明していなかった。
とにかくだ。
「ミオ、ここは任せていいか?」
「ん、治療に感謝。後はしばらく大丈夫」
薬草もさりげなく一緒に差し出したが、ミオは完全スルーで受け取ってはくれなかった。悲しい。
「ユーイチ、ありがとよ!」
屋根の上でハーピーと戦っていたラッドも声を掛けてきたので、片手を挙げて挨拶を返し、そのまま急ぐ。
「邪魔!」
途中、ハーピーが俺に群がってくるが、俺の今の回避率なら、目を閉じていても避けられる。ウインドカッターでやっつけていたが、途中から面倒になり、MPも節約したかったので、杖で爪をパリィしながら、そのまま引き連れて行く。
「ユーイチさん! 今、助けます!」
俺が苦戦して逃げ回っているのかと勘違いしたクロがやってきてしまったが、まあ、無事な姿が見られて良かった。
「いや、面倒だから引き連れてるだけで、このままでもいいぞ」
「でも、えい」
クロがウインドカッターでハーピーを倒し始めたので、俺も呪文を使ってハーピーを殲滅する。
「クエッ!」
クロに向かっていくハーピーもいたが、機敏にマリアンヌが動いて寄せ付けない。
「マ、マリアンヌちゃん、あんまり激しく動かないで、うっぷ」
上に乗ってるクロも大変だ。騎乗のスキルが上がってくれば、乗り物酔いもしないのかな。
「クロ、苦しくなったら、無理せずに降りて休めよ。マリアンヌもちゃんと守ってくれるだろうし。ほれ、ミントと毒消し草をやろう」
「ありがとうございます。毒消し草は持っているので、お返ししますね」
チッ。
「それで、どちらに?」
「ああ、冒険者ギルドか兵士の詰め所に行こうとしてたんだ。ここの兵力が知りたい」
「そうでしたか。ではお供します」
「ううん、まあいいか」
クロには戦ってて欲しい気もするのだが、MPも厳しくなるだろうから、休憩を入れてやった方がいいだろう。
「あそこだ」
翼と靴の看板を見つけて、そこに向かう。
そこでは何人かの冒険者がいて、一人が怒鳴りながら指揮を執っている様子。
「東門の状況は!」
「ダメです! 怪我人が半数、応援を寄越して下さい! これ以上は持ちませんよ!」
「くそ、どこも手一杯か。西門から五人、回すように言ってこい! 城壁に強いパーティーがいるから、あそこは減らしても大丈夫なはずだ」
レーネの事だろうな。多少、気が進まないが、彼女ならなんとかしてくれるだろう。
今のやりとりを聞いた限り、冒険者ギルドにはとても余裕は無さそうだ。
東門の状況を知らせに来た伝令の冒険者に薬草の束をプレゼントし、ここのギルドにも薬草をバラ撒いて、次は兵士の詰め所に向かう。
「状況を報告しろ! アプリコット騎士団はまだか!」
うーん、ここも厳しい状況だな。詰め所にまでハーピーが入り込んで、隊長自ら戦っている。
「ええい、誰か、行って状況を確認してこい!」
誰も報告しないので、俺が代わりに持っている情報を教える。
「東門が応援を要請しています。西門は先ほどまでは無事でした」
「おお、そうか。お前、魔術士だな? 後で金をくれてやるから、加勢しろ」
「ええ、その前に、怪我人を集めて下さい。私は薬師なので、治療ができます」
「よし、怪我をした者をここに集めろ! 薬師が来たぞ!」
「おおっ! 助かった」
兵士達が安堵の声が上がる。
あまり過大な期待を抱かれても困るが、薬草はまだまだ持っているからな。
だが、運ばれてくる怪我人の数も十や二十では無かった。
「むむ。すみません、これを軽傷者に。私は重傷者を治療します」
怪我人を運んできて手の空いた兵士に薬草の束を押しつけ、担当を分ける。一人ではとても手が回らない。
「重傷はこっちへ! 自分で歩ける者は外で待たせて下さい!」
一度に大量の怪我人が運び込まれた場合、順番に治療していては間に合わない重傷者も出てきてしまう。処置が必要な者から治療していくやり方、トリアージだ。フランス語で『選別』を意味する言葉。四色タグはここには無いが、今度セルン村用に作っておこう。
「うう……」
「しっかり。これを飲んで」
連れてきた別の兵士に重傷者を抱え起こしてもらい、ハイポーションを飲ませる。意識も混濁しているようで飲めるかどうか不安だったが、この兵士は自分で薬を飲んだ。ステータス呪文でHPを確認するが、問題無い。
「もう大丈夫、少し休んでて下さい」
この世界のハイポーションは、全快するときもあるのだが、重傷だとHP回復の度合いが悪い。血も大量に失っている場合、輸血という手段が無いのですぐに戦闘に復帰という訳にも行かないようだ。
極上ポーションなら、前にアーサーも致命傷からすぐ歩けるまでに復活していたし、アレが大量にあればいいのだが、残念ながら手持ちには無い。ここにも置いてないだろう。
「おい、コイツを頼む。アレック、しっかりしろ! 薬師が診てくれるぞ!」
負ぶって連れてこられた兵士がその場に寝かされるが、むう、完全に意識が無い。ステータス呪文で確認するが、文字の色は深紅で、HP表示はゼロ。気付け薬やハイポーションではまず無理だろう。
念のため、頸動脈に手を当てて脈を確認したが、反応が無い。呼吸も止まっている。
AED、電気ショックを与えられる装置があれば、あるいはという気もするが、ちょっと無理だろうな。
心肺蘇生は止めておく。他にも重傷者が次々と運び込まれており、この怪我人だけに時間を掛けてはいられない。
「残念ですが、この人は亡くなっています」
「なんだと! いいから薬を出せ!」
激高した兵士に胸ぐらを掴まれて持ち上げられてしまった。
「よせ! アレックはもう天上の騎士になったんだ。敬意をもって見送ってやれ」
別の兵士がその手を掴んで下ろさせる。
「くっ!」
親しい間柄だったのか、その兵士はまだ納得はしていない様子だったが、手は放してくれた。次だ。
「いててて、くそ、畜生!」
「喋らないで。薬で治療します」
今度の兵士は出血が酷いが、意識はあるし、元気そうだ。ハイポーションは温存して、止血用のヨモギ草を取りだし、乳鉢ですり潰す。
傷口を水壁の水で洗い流してやり、ヨモギ草ペーストをたっぷりと塗っていく。
よし、血が止まった。
できれば、蒸留酒で消毒もしたいところだが、それは手持ちが少ない。今は応急処置だけにしておこう。
「眼は大丈夫ですか?」
聞く。兵士は鉄鎧を身につけているので、頭の怪我が多くなっているようだ。兜を身につけている兵士もいるが、それは少数。
「ああ、血が入って開けられなかっただけだ。やられちゃいない」
兵士がそう答えたので、水で洗い流してやり、完了。彼はすぐに立ち上がって戦いに戻った。
「クロ、そっちはどうだ?」
少し離れた場所で、軽傷者に薬草を貼ってやっているクロに声を掛ける。
「ヨモギ草が少ないです」
「よし、これを」
「はい」
重傷者に一区切り付いたところで、隊長に問う。
「ここには飛行部隊はいないのですか?」
「偵察用にグリフォンが二頭いるが、それだけだ。こんなことになるなら、一部隊、置いてもらっても良かったが」
それなりに大きな城塞都市だが、軍備はそんなものか。グリフォンを見たいと思ったが、それは後だ。
「トリスタンにはワイバーンの飛行部隊がいると聞きました。そのグリフォンで救援を求めてはいかがでしょう?」
俺は言う。
「何? 何をバカな。アルカディア軍はこれからトリスタンに遠征に行くのだぞ?」
当然、隊長も首を横に振って嫌そうな顔をする。
「そうですが、敵の戦力を決戦前に削るのは戦の常道、こちらの味方の兵の損失も減らせますよ?」
トリスタンが救援に応じるかどうかは望みが薄いが、もしも応じてくれれば両国の険悪なムードは改善されるだろう。ミッドランドの外交方針と合致する。
「ううむ…。ダメだ。私の一存では決められん」
それなりに頭は回る隊長のようだが、権限が無いのか。
「じゃ、上司はどこに?」
「王都だ。今から問い合わせていてはとても間に合わんが……」
「隊長! アプリコット騎士団が、アプリコット騎士団が到着しましたッ!」
駆け込んできた兵士が息を切らしながら告げた。
「なにっ! そうか、よぅし、間に合ったか! すぐに兵士全員に報せろ! 麗しき戦乙女がやって来たとな!」
「ははっ!」
「ほう? 隊長、そのアプリコット騎士団の隊長は美人の女性なのですか?」
これは聞き捨てなりませんね。
「ああ、隊長クラスは全員、女性だ。美人かどうかはともかく、まあ、団長は美人であられるな」
なんと素晴らしい騎士団! 俺は隊長の手をはっしと掴む。
「ささっ、隊長、こうしてはいられません。速やかにお出迎えと現状報告に参りましょう!」
「む、そうだな。手は放せ」
邪険に振り払われたが、付いて行くのはオーケーらしい。やったね!
「クロ、ここは頼んだぞ」
「はい」
まだ残っている軽傷者の治療を頼れる助手に任せ、俺は重要な任務のために、急いでアプリコット騎士団の下へ向かった。




