第十六話 英雄ランスロットの実力
リアルに想像すると少しグロい部分があるかも知れません。
2016/11/26 誤字修正。
武闘大会の決勝を観戦して帰ろうと思っていた俺達だが、突如現れたモンスターによって会場は大パニック。
観客が避難するまでの足止めをリーダーのティーナが決定したわけだが。
モンスターは体は大きいものの、一体だけ。
今まで見かけたことの無い緑色の巨体オークだ。
しかし、段違いのパワーと巨体に似合わぬスピードが有り、何より厄介なのは、傷が独りでに高速回復する点だ。
剣も魔法もダメージは与えられるものの、致命傷には届かない。
HPも高そうなので、よほどの必殺技か、タイミングを合わせた集中攻撃が必要になると思われる。
「で、どうするんだ、ランスロット。俺にはいくつか手があるが、まだ仕掛けないのか?」
グリーズが聞く。緑のゴツい鎧を着た剣士でスピードタイプ。レベルは45。回避力は緑オークを超えているので、前衛には打って付けだろう。
「ああ。それで倒せれば言うことは無いが、せっかく高レベルの戦士が揃ってるんだ。できれば協力して片付けたい」
ランスロットがロングソードを構えたまま答える。青い軽装の鎧。タイプは不明だが、パリィを見る限り防御はしっかりしている。レベルはこの中で最高の61。
「ハッ、そいつは構わないが、優勝候補のアンタが、そんな弱音を吐くとはな。驚きだぜ」
「何か、嫌な予感がするんだ。アイツは今までのモンスターとは違う。何がって聞かれると困るけどね。君も、そう感じているから、あの奥義で攻撃しないんだろう?」
「けっ、アレはお前さんを倒す為の技だからな、そうポンポン、手の内を見せるかっての」
「はは、なるほど。じゃ、ティーナ、君達は僕とグリーズのバックアップを頼むよ。今は僕のスキル、ZOCと威圧で動きを封じているが、奴はもっと動けるから」
「え、ええ。そんなスキルが…」
ティーナも驚いたようだが、Zone of Control がこの世界のスキルにあるとはね。後でランスロットに俺に使ってもらって、どういう風に動きが制限されるのか体験してみたい気もするが、ランスロット一人でも足止めはできそうだ。
「おい、テメーみたいな一回戦負けの奴は後ろで大人しくしてやがれ」
グリーズが横を見て言ったが、黒い鎧の毒使い。俺と戦って負けたゲーリックだ。レベルは33。
だが、彼は無言でさらに前に出ると、両手を振るい、投げナイフを緑オークに向けて数本飛ばし、突き立てた。
さて、ゲーリックの毒は、効果があるのかね?
これであっさり倒せるとはとても思えないのだが、試しておいた方が良いだろう。
「フン、ありゃ、効いてねえな」
「ああ、無効のようだ」
しばらく待ってみたが、緑オークは特に変化無し。ゲーリックは無言で後ろに下がった。
格好良いけど、なんか喋れ!
「おい、ランスロット、もう良いだろう。観客は離れたぞ」
グリーズが観客席を見て苛立ったように言う。
「まだだ。言っただろう。コイツは本来、もっと動けるんだ」
どの程度動き回るんだろうね? 後衛の魔法チームにグリーズ並の速さで突進されたらもうお終いだけど、ランスロットが警告しないと言うことは、そこまでじゃないだろう。
「どうした、ランスロット。お前さんが苦戦とは、珍しいじゃないか」
後ろから茶色いマントに身を包んだ壮年の男が出てきた。S級冒険者のアレクサンダーか。レベルは…おお、59か。HPは少なめだが、二度の優勝と言うからには、よほどのスピードタイプか魔法でも使えるんだろう。MPが結構高い。
「アレクさん、観客の避難を急がせて下さい。コイツはあなたでも手に余ると思いますよ?」
ランスロットが緑オークから視線を逸らさずに言う。
「言ってくれるね、若造が。だが、見ない奴だな。三つ目の緑のオークか…、誰か、知っている奴はいるか?」
アレクサンダーが見回すが、返事をした者はいない。
「あなたが知らないんだ、多分、誰も知りませんよ」
「買いかぶりすぎだ。俺はファーベル博士じゃないんだ、知らないモンスターだって結構いるさ」
「ユーイチ様」
「うおっ、イシーダさん、いや、話があるとは言いましたが…」
今、やってこられてもね。
「ふふ、ご心配なく、自分の身は自分で守れますよ。そうで無いと、諸国を回る吟遊詩人など務まりませんから」
「ああ、うお」
そりゃそうだと思って、ステータスを掛け直したら、レベル57とか。
それって自分で冒険して自分の冒険譚を披露する方が儲かりそうだが。
「何をしている! さっさと戦わんか」
そう言ってやってきたのは、大盾をもった鎧の男。ここの警備隊長とかかな。レベルは思った通り24と低い。
「いや、待ってくれ。コイツはちょっと手強い。レベル40でも簡単には行かんぞ」
アレクサンダーが言う。
「何ぃ? むう」
「それより、観客の避難を急がせて下さい。そうでないとこちらも本気が出せない」
ランスロットが言うが。
「今、急がせておる。いったい、モンスターなど、どこから忍び入ったのか。とにかく、早く倒すのだ。陛下もご臨席されていたというのに大会が滅茶苦茶ではないか」
警備主任として苛立つのは分かるんだが、イマイチ話が通じてないよね。
「おっさん、テメーは後ろに引っ込んでろ。死ぬぞ」
グリーズが言う。
「なんだと!」
「まあまあ、ここは冒険者の我々だけで充分でしょう。それより、街の警備は大丈夫なのでしょうか? モンスターが一匹だけなら、いいのですがね」
イシーダが言う。
「な、なに? 他にも入ってきておるのか?」
「それを調べるのがあんたらの仕事じゃねえのか? 俺らは知らねえぞ」
「くそっ、いいか、お前達は見張っておけ」
「はっ!」
部下の兵士に命令して、口やかましそうな警備隊長は去ってくれた。ふう、ああいうのがいると、戦いにくいよね。役人だけに、無視すると後が怖いし。
「こんなのが何体も入ってきたとすると、かなりまずいぞ。それに、どこが突破されたんだ?」
アレクサンダーはあの女魔術士は見ていなかったようだ。
俺が教えておく。
「黒ローブを着た紫の口紅の女魔術士が魔法陣を描いていました。多分、彼女の仕業で、それほど多数のモンスターの侵入は無いと思います」
魔法陣のエキスパートでは無いから間違っている可能性もあるが、呼び出すのにはそれなりの触媒が必要な上に、一度崩れた魔法陣からは連続して呼び出すこともできない。
「ん、このクラスの触媒は、そうたくさんあるはず無い」
ミオも言う。
「なるほど。ま、外で騒ぎになれば、いずれ分かるか。だが、そうなる前に、早めに片付けた方が良いかもしれんぞ」
アレクサンダーの言うとおり、他にもいた場合、その辺の警備兵ではとても手に負えないだろうし、ここに戦力が集中しすぎている。
「そうですね。じゃ、グリーズ、君が一番手だ。何かいい手があるんだろう?」
ランスロットが方針を変えたようだ。
「へっ、いい手かどうかは知らねえが、仕留めるなら当たり前にやることだぞっ!」
そう言うなり、グリーズが緑オークに前屈みに突っ込む。
目の前にやってきたグリーズに反応して緑オークが右腕を振り下ろすが。
「良い動きだ」
アレクサンダーが満足げに顔を崩して頷いたが、あれ? グリーズはどこ行った?
「後ろですよ、ユーイチ様」
イシーダが教えてくれたので緑オークの後ろを見たが、そこにグリーズがいた。
「ざっと、こうだ」
んん? あっ。
緑オークの首がぼとっと落ちる。
うーん、お見事。
だが、皆、警戒は解かない。緑オークは煙と化していない。
つまり、まだ奴は生きているのだ。
「む、再生するか…」
ランスロットが少し残念そうにつぶやく。緑オークの首周りには膨らんだ新しい肉が生まれており、すぐに頭の形となった。
「こりゃ、切りが無いぜ?」
グリーズは手札が無くなったか、軽く肩をすくめた。
普通の生物なら、頭を切り落とされて生きてはいまい。吸血鬼でも頭を切り落とされたり心臓を貫かれれば死ぬという伝承もあった。
この世界の吸血鬼はどうなのかは知らないけど。
「核だ。奴の体の中に魔石かそれに相当する何かがあるはずだ。そこを潰すしか無い」
ランスロットが緑オークを睨みながら言う。
「だがよ、どうやってこの巨体からその核ってヤツを探すんだ? 適当に切っても見つからないんじゃねーのか?」
グリーズの言うとおり、三メートルを超える巨体だ。浅く切っただけでは届かないし、どこに核が有るのかも不明だ。
「まずは、心の臓をやってみるのが良いと思うが、お前さんならどうするね、ランスロット」
アレクサンダーが問う。
「ふっ、知れたこと。どこにあるか分からないなら、全部切り刻んでみれば良いのですよ!」
ランスロットが地面を蹴って、消える。
くっそ、このクラスの剣士になると、普通の動体視力じゃ絶対に追えないな。何か、スキルを開発するか、魔法でどうにかしないと。
「飛天! みじん切り!」
上か! 声に気づいて、上を見るが、ランスロットが着地しながらもの凄い勢いで剣を振るっていた。ああー、漫画に出てくるアレみたいに、腕や剣がいっぱい見えるわー。
声は出していないが、オラオラオラとか、アタタタタとか、そんなレベル。
いや、しかしね。ド派手に切り刻んでくれたのは良いけど、そのネーミングセンスはダサいです。
みじん切りって。
もっと、『コスモ・ウルトラ・ブレード!』とか、『千手千剣』とか、なんかあったでしょうに。
どんなに凄い大技でも、普通に料理に出てくる言葉だと、フツーのスケールに見えてしまう。
だが。
「バカな…!」
「なんだと!?」
「おいおい…」
切り刻まれた肉片がブルブルと震えながら近くの肉片とくっつき、うわー、これはアレだ、人工衛星のレーザーあたりじゃないと倒せないかも。
「ランスロット、手応えはどうだった?」
アレクサンダーが問う。
「いえ、骨は感じましたが、それ以外は何も」
「ふむ、内臓も無さそうだし、魔法生物の類いか?」
ゴーレムも内臓が無いし、それに近い感じだろうな。
「ねえ、何かさっきと形が違わない?」
ティーナが皆に確認する。
「そう言えば、頭が少し、大きくなりましたね。むう、これはまずいですよ。早めに倒した方が良いです」
イシーダが言うが、何か知っているのだろうか。
「簡単に言ってくれるがよ、あれだけ細かく切り刻んでダメなら、どうしろってんだ」
「魔法だ」
アレクサンダーが短く言い、バッとマントを翻す。手に持っているのは複雑な形をした短剣だが。
「光れ! 太陽に近き灼熱よ、黒き災いの瞳をもって、全てを溶かせ! フレア!」
うえ、この呪文は!
「閃光を直視するな!」
そう言って手をかざし、まぶしさを防ぐ。
辺りがまばゆい白い光に包まれ、そして元に戻った。
熱さも何も感じなかったが、なんておっかない呪文を使うのか。
太陽の表面温度は六千度。コロナは百万度にも達する。
これは鉄ですら蒸発し、さらにその上の"第四の形態"と言われるプラズマと化してしまう。超高温だ。
「ちいっ、見えねえぞ、コラ。どうなったか教えやがれ!」
グリーズはまともに見て目がくらんでしまったらしい。
「上手く行った、いや、くそ、回復している。肉片が少しでも残っているとダメなのか…」
ランスロットが言うが、地面の肉片が集まっていくのが俺にも見えた。
「観客の避難は目処が付いたわ。それで、状況は?」
リサとミネアが戻って来た。
「みんなは無事だけど最悪の状況よ。剣で切り刻んでも、魔法で焼き尽くしても、まだ回復してくるわ。倒せるのかしら」
ティーナが呆れたように言う。
「そこの司祭殿、アンタは何か手が有るかね?」
アレクサンダーがクレアに向かって聞く。
「いえ、ですが、この手の魔物は、封印するしか有りません。ユーイチさん、ストーンウォールでやってみてもらえませんか」
「やれと言われれば、やってみるが……期待はしないでくれ」
ちょうど、リングの丈夫そうな石畳のタイルがあるので、それを使うことにする。
「む、この呪文は」
アレクサンダーも目を見張ったが、知らない呪文だったか。
タイルがゼリーのようにプルンとくっつきながら、俺の思う場所、緑オークのところへ飛んでいく。
肉片を外側に残さないよう、へらの部分で掻き入れるように変形させながら、どんどん掃除していく。
「ナイス、ミオ」
ミオもウインドウォールを操り、肉片を集めてくれた。クロやエリカも手伝う。
アレクサンダーも手伝い、風魔法で集めながら肉片をさらに切り刻んだりと、芸が細かいな、この人。
「もう無いか?」
アレクサンダーが問うが。
「ちょっと待って下さい」
蓋はしておいて、探知の呪文で周囲を探る。
「ええ、クリアです」
「よし、密閉しろ」
密閉。空気を残さない。隙間を石で埋めていく。
「おお、行けるか?」
問題はここから。あれほどの再生力だと、おそらくこの石も…。
「ああ、やっぱり。ダメです。強度が足りない」
石の壁にヒビが入り、中から緑オークが完全体となって出てきてしまった。
こうなると窒息も無効だな。やはり魔法生物か。
「さて、こうなるとどうしたものか…」
アレクサンダーも自分のあご髭をつつきながら考え込む。
「食べるニャ?」
リムが言うが、ダメだっての。お腹壊すから。
「よくそんな事、思いつきやがるな…感心するぜ」
グリーズが半ば本気でそう言ってるし。
「ニャハハ、それほどでも無いニャ」
「ユーイチ、薬か何かでどうにかできない?」
ティーナが聞く。
「その道の専門家じゃないしなあ。王水は試すといいかもしれないが」
塩酸と硝酸の混合液。
「よし、その王水とやらを出せ」
グリーズが聞きつけて言うが。
「いや、作らないと行けないし、塩酸や硝酸も…」
「塩酸と硝酸でええんやね?」
ミネアが確認してくる。
「え? ああ、そうだが、分かるのか?」
「うん、大丈夫や。なら、ちょっと時間、もらえるかな。仕入れてくる」
「あ、ミネア、なるべく濃度の高いヤツで頼む!」
「分かった!」
「その王水とはどんなものかね?」
アレクサンダーが聞いてくる。
「金も溶かす劇薬です」
「ほう、金も溶かすか。ああ、アクアレギアの事か」
俺はアクアレギアの方は知らないが、金を溶かせるほどの液体なら、何でもいい。
それでダメなら、他の手を考えた方が良いだろう。




