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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十章 子爵家の家臣

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第十六話 領主の責任

2016/11/25 若干修正。

 浮民が村へ来たので、対応しなくてはならない。

 だが、今回の二人はいかにもと言う感じのトラブルメーカーだ。

 本当はペルソナノングラータで、入村拒否したいところだったが。


 周りに誰もいないことを確認して、俺はケインに言う。


「あの二人の浮民の事だが」


「ええ、ユーイチ様、あの二人、特にロビーと名乗った金髪の男は怪しいです。どこかの密偵ではないでしょうか」


 さすがだね、ケイン。やはりラインシュバルト家の騎士。


「理由は?」


 俺も密偵だと睨んでいるが、一応、聞いておく。痩せてなかったもんな、あいつら。村長の息子のビートはともあかく、自分の村の名前を言えなかったロビーは限りなく黒だ。


「アレは剣の訓練を受けています。そんな動きでした。それに、自分の村の名前を言えないのにへらへら笑って悪びれもしてなかったじゃないですか」


「そうだな。俺が上級騎士と聞いても驚かなかったし、目上の人間にも慣れてる感じだった。ゆえに、アイツは密偵(スパイ)と見なす」


 疑わしきは罰せずとか人権とか、そんなのはここでは言っていられない。他国の工作員を放置すれば、村人や俺の生存が危うくなりかねない。


「はっ! ……やりますか?」


 ケインが鋭い目で問う。


「いや、泳がせる。俺の予想では、ロフォール砦の兵数や周辺の状況を確認しに来ただけだと思う。確認し終われば、すぐに自分から消えるだろう」


 もし、ティーナの暗殺まで狙うとしたら、身分が違いすぎて近づけない浮民などには(まぎ)れ込まないだろうし、セルン村は水源でもないから、毒を投げ込むなどの破壊工作も考えにくい。

 家臣に取り入るつもりなら、やはり浮民は避けるだろうし、もっと有能なスパイを送り込むだろう。

 斬られても気にしない程度の人材、下級騎士か志願した平民の兵士と言ったところ。

 送り出した相手は間違いなくスレイダーンだろうな。


「なるほど…」


「違うと思うなら、意見しても良いんだぞ? これは相談でもある」


「いえ、自分もそのように思います」


「よし。念のため、村には警備の名目で兵士を二人置いておく」


 俺の予想が裏切られて破壊工作をやり始めたとしても、相手は一人だ。凄腕の奴ならマズいが、まあ、アレは下っ端だろうな。


「ロビーを見張らせるのですね?」


「いや、それだと向こうも警戒するだろうからな。村で揉め事があったし、新参と古参が仲良くするよう目を光らせるという名目にしておく。見張りの兵士にもそう伝えるんだ」


「分かりました。自分は、どうしましょう?」


「ケインは俺の護衛だ。急にこっちの見張りに立ったら、やはり警戒するだろう」


「そうですね。分かりました」


「じゃ、交代要員を含めて、人選と運用は任せるぞ?」


「はい! お任せ下さい!」


「声がデカいって」


 苦笑して言う。


「あっ、も、申し訳ありません…」


「ま、聞かれてどうこうの部分じゃ無いけど」


「はい」


 ケインもばつが悪そうに苦笑して肩をすくめて反省。



 ティーナの屋敷に戻って、すぐに報告する。


「むっ。じゃ、敵に情報が渡る前にどうにかすべきでしょう」


「いや、情報って、大した情報で無ければ渡してやった方が良いと思うぞ」


「ええ?」


「バリバリに情報統制してたら、タダでさえロフォール砦には多めの兵が駐屯してるんだ。こっちから仕掛けてくるんじゃないかと向こうが疑心暗鬼になるとマズい」


 ラインシュバルトから派遣されている騎士団の兵が二千二百。リックスがその総隊長だ。さらにアーロン侯爵の騎士団も一緒に駐屯している。


「むむ…確かに」


「ま、そこはリックスと相談して、処分すべきだって話になれば、そうしてくれ」


 何せ俺はただの素人だからな。


「いいえ。相談はするけど、リックスも多分、同意するでしょうね」


「ふむ。それから、浮民と地元民の諍いが起き始めてる」


「こっちも、あちこちからそんな報告が来てるわ」


 ため息交じりのティーナは、良い手が思い浮かばないのだろう。


「俺の村は酒盛りをやらせてみたが、効果は低いだろうな」


「でも、酒盛りは良いアイディアだと思うわよ。うん、私の村でも、いいえ、ロフォール全体でやりましょう」


 ベルを振って鳴らして、メイドのメリッサを呼び、リックスを呼ぶように言いつけるティーナは行動が早い。


「なるほど、それは良いでしょうな」


 リックスも宴会の仲良し作戦には賛同してくれた。だが、密偵を泳がせるという件については否定的だった。


「砦にどれだけの兵士がいるかという情報は伏せておいた方が、かえって安全です。少数と思われては事ですが、それなら演習の一つもやって脅かしてやりましょう」


 敵兵がどれだけいるか不明なら、まあ、よほどのバカでない限り、敵の指揮官も賭けには出まい。だが、演習か…。

 こちらとしてはスレイダーンに攻めるつもりはさらさらない。

 これ以上、領地を増やしても良いことは何にもないからね。収穫はまだまだ先、浮民でヒイヒイ言ってるんだし、戦となればさらに村人達の生活が苦しくなり浮民が増えてしまう。

 領地を増やしたいと思う貴族も中にはいるだろうが、少なくとも今のロフォール子爵にとっては領地拡大の意思もなければ、戦を仕掛ける動機も無い。


 それをあえて「攻めるかも知れないよ?」とやって敵に警戒させると言うのだ。

 それをもってこちらに多数の軍備が整っていると敵に思わせ、侵攻を思いとどまらせようとする。

 それは現代の抑止力の考え方に近いんだろうけどな。


『兵は詭道(きどう)なり』


 戦国の雄、武田信玄の軍師であった山本勘助がハマっていたという孫子の兵法。

 そこに出てくる神髄。

 兵とはここでは戦のことで、即ち、戦争とは騙し合いだと言っているわけだ。


 押すと見せかけて引き、引くと見せかけて押す。

 敵の裏を掻く心理戦だ。


 だから、リックスの言うことには、一理ある。


 でもねー、敵をあえて刺激するって、フツーの日本人である俺にはちょっと抵抗感。

 そういう平和教育を受けてきているし、他と比べれば平和な国だからな。


 まあ、だからこそ、この世界の考え方を理解しておかないと、命取りになる。

 ついこの間も戦争やったばかりだし、冗談抜きの殺し合いだ。


「敵を刺激したら、国境の前線を固めてくるんじゃないかしら?」


 ティーナがそう疑問を呈した。


「それは当然、そうでしょうな。ですが、固めると言うことと、攻めると言うことは違いますぞ」


「ううん…。ユーイチはどう思う?」


「個人的な意見を言えば、反対だ。ただでさえスレイダーンとは戦をやって険悪な関係になっているんだから、両国間の緊張が偶発的戦争を発生させることもあり得る」


「じゃ、却下ね」


「いや、待ってくれ。俺は戦や外交に関してはド素人だぞ? 重臣のリックスの意見を重用すべきだ。経験豊富だろうし」


「ええ?」


「ふふ、確かにお前よりは長生きしているが、ユーイチも上級騎士、対等に意見を言って構わんし、そちらの理屈も通っているぞ。後はお館様の決断次第だ」


「もう、リックス、ここは大事なところなんだから、そう言う試しは止して。正解を教えて頂戴」


「いえ、お嬢様、ここでの正解という物はございません。どちらに転ぶかは神のみぞ知る。ですから、お決めになるのは領主である貴女でなくてはならないのです。無論、どちらを選ばれたとしても、私は命令に従いますぞ。文句も言いませぬ」


「ええ…?」


 ティーナが困った顔になるが、ヒュウ、俺は領主で無くて良かったぜー。この先いろいろ面倒な決断をやらされそうだ。

 しかもそれが人の生き死にも関わってくるとなると、もうね。


「ううん…、ユーイチはリックスの意見が正しいと思うのよね?」


「んー、まあ、そうなるかな」


 直感としては違うんだけど、理性的に考えるとリックスの意見を採用するのが妥当だろう。俺は上級騎士になったと言っても新参者だ。

 右も左も分からぬ素人が知ったかでやっても、上手く行くとは思えない。

 そう言えば、兵法書だけ読みまくったにわか(・・・)軍師が、歴戦の将軍の諫言も無視して独断専行をやったら大失敗ってエピソードが三国志にあったな。

 泣いて馬謖を斬る…ティーナが泣く泣く俺を斬る羽目になったら、ひぃ。


「じゃ、砦の情報は伏せて、演習を行います」


「「 御意! 」」


 ティーナも慎重に迷った上での決断だから、俺もそこは尊重しないとな。


「む、なんで自分の意見が不採用で嬉しそうなのかしら?」


「そりゃ、俺の意見が採用されて裏目に出たら、俺の責任になっちゃうだろ?」


「いやいや、勘違いしてはならんぞ、ユーイチ。お決めになったらそれはお館様の責任だ」


 リックスが言うが。でも、領主が詰め腹を切らされたりクビになるって事は無いから……いや?

 ここで戦争という事態になれば、国王は外交を阻害したティーナに責任を取らせるだろう。


 「平和条約を結んでいたのに、こちらから手を出すのは何事か!」


 って感じで。ま、ポーズだけで手は出してないんだけどさ。

 だが、外交戦略の失敗であることには違いないから、何らかの責任、つまり罰がティーナに下される。

 俺の首を差し出して済む話なら、俺が詰め腹を切り、俺の責任で収まるが……。

 なるほどな。それではとても済まず、領主の身にも関わってくるから、領主の責任か。


「ちなみに、最悪の場合、ティーナはどうなるんだ?」


 彼女の身が心配になった。


「そうだな。これが他領の事であったなら、領地没収の上、爵位剥奪もあろうが、元々、この土地は曰く付きの最前線だ。小言は言われるが、失うのは自分の領地。それ以上の罰は下るまいよ。だからそう深刻な顔をするな」


 リックスが笑う。


「ああ…」


「でも、私はここで領地を失うつもりなんか無いわよ?」


 ティーナが言うが、貴族のプライドか。

 こんな厄介な領地なんかほっぽりだして、お父様のお城で安全に暮らすか、気ままな冒険者をやってる方が幸せだと思うんだけど、大きなお世話かな。


 いずれにしても、俺も本気で動いた方がいいな。

 戦争となってしまったら、ティーナもセルン村もただじゃあ済まないだろうし。


「一つ、案があるんだが、聞いてもらえるか?」


 プランを聞いてもらうだけなら、責任は生じない――

 この時、そんな勘違いが俺の心にはあったのかも知れない。

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