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異世界の闇軍師  作者: まさな
第十章 子爵家の家臣

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第十三話 交易の開設

2017/8/2 若干修正。

 大きな商隊の会頭、ロバートと再会した。

 用件はまだ聞いていないが、アルカディアの女王からの紹介らしい。


 とは言え、塩の件はまだ許可を取ってないのよね。

 独断で進めて、後で揉めるのは嫌なので、その点は正直にロバートにも伝えておいた方が良さそうだ。


 だが、それを承知でやってきた節もあるんだよなぁ…。

 話が漏れるのを警戒してる風でもあるし。


「皆様のご活躍は方々で耳にしますよ。トリスタンやフランジェでも話が伝わっていますから」


 ぬあっ、西のフランジェもか。

 やべえ…。


 ロバートは空気の読める男らしく、仮面美少女がどうのこうのとは口にしなかった。

 ティーナも、黙りで軽くスルー。

 怖いです。


 は、早くイシーダを捕まえないと。


「ロバートさん、吟遊詩人のイシーダさんってご存じですか」


 商人なら情報も何か知っているかと思い、聞いてみる。


「ああ、ええ。名高いバードですよ、彼は。各国の王宮にも出入りしていますから」


 おうふ、王宮御用達かよ。しかもグローバルかよ! 超一流どころの人じゃねえか。

 あそこで銀貨一枚を出すことなど、彼には何でも無かった事だろう。

 甘かった…。


「ちょっと…」


 ティーナも懸念した様子。俺は身を乗り出して真剣な顔で言う。


「出来るだけ早く彼を捕まえたいんです。もし出会うようなことがあれば、ユーイチが探していたと伝えてもらえますか」


「承りました。私の支部の者にも言っておきましょう」


「ありがとうございます」


 ロバートの店は、反物を扱っているようで、中にはシルクもあった。


「こちらです」


 二階に上がり、応接間に通された。豪華な内装で、おそらく、貴族中心の客層なのだろう。

 メイド服の女の子がお茶を入れてくれた。可愛い感じの子だな。


「どこ見てるの」


「お、おう」


「では、まずは再会を祝して乾杯と行きましょうか」


「ええ」


 軽くティーカップを上げるだけの簡略で、ぶつけずに乾杯。


「それと、祝辞が遅れて申し訳ありません。ロフォール子爵への加封、おめでとうございます、閣下」


「ありがとう。でも、ここにいるのは平民の冒険者ティーナよ。お忍びと言うことで理解して頂戴」


「これは失礼を。ユーイチさんも、そう言うことですね?」


「ええまあ、そう言うことで」


 俺は別にそんな細かい区別はどうでもいいのだが、ティーナに合わせておく。


「では、上級騎士への昇格と村長就任祝いについては、またの機会に」


「ああ、それについては、この場で言ってもらって構わないわよ」


「そうですか。では、おめでとうございます、ユーイチ様」


「いやいや、どうも」


「いかがでしょう、ご注文さえして頂ければ、お二人の正装を格安で承りますが」


「間に合ってるわ」


「そうですか。ちょっとしたお祝いの品と言うつもりでしたが、では、冒険者らしく、守りの指輪(プロテクトリング)はどうでしょう」


「えっ! それって、高いんじゃ…」


 俺は驚いて聞き返す。

 プロテクトリング。

 装備が限られる魔法使い系のクラスとしては、かなり欲しい防具だ。


「それほどでも無いんですよ。たまたま、手に入れましてね。では、どうぞ」


 白い指輪を渡された。シンプルなデザイン。


「おおー。ありがとうございます!」


 良い物、もらっちゃった。

 なるほど、こうやって汚職が生まれていくのね。おっと、探部、汚職捜査を行う内務大臣の娘がティーナなんだよなあ。ジトッとした目で見られているが。

 だ、大丈夫、これはお忍びだから! 冒険者として知り合いからもらっただけで、官吏の役職には何の関係も無いのよ!


「ティーナさんもどうぞ」


「いえ、要らないわ。それより、用件を」


「まあまあ、お急ぎですか? そうでなければ、せっかくの再会です、ゆっくりお茶を味わって下さい。この指輪ですが、よく冒険者の新婚夫婦がペアで買いそろえるんですよ。縁起物ですからね」


「へえ」


 それは俺も知らなかった。


「む、そうなんだ…じゃ、じゃあ、やっぱり、もらっちゃおうかな」


 おっと、ティーナが興味を示した。冒険者の縁起物と言うところに心引かれたのは間違いないな。


「ええ、どうぞ。私はほら、もう持ってますし、要らない物ですから」


 左手の人差し指にしているロバート。俺もそれに倣ってはめる。ティーナもそれを見て、少し迷ったようだが、人差し指にはめた。


「では、用向きの話ですが、塩の取引を考えていらっしゃるそうですね」


「ええ、だけど、その件はまだ許可をもらってないわ。もらったら、あなたにも話を通してあげるから、それはまたの機会に」


「まあまあ、ええ、アルカディアとの交易については、そのようにして頂けるとありがたいのですが、塩は今すぐ、ご入り用ではないですか? 私も蓄えがありますから、少しなら、融通が利きますが」


「ああ、別に、足りてないわけじゃ無いでしょ? ユーイチ」


「ああ。塩が高いから、安くなればいいなと思って話を持ちかけただけで、緊急と言うほどでは無いんですよ」


「そうでしたか。ええ、今すぐ欲しいと言ってしまうと、足下を見られますからね。なかなか商売もお上手だ」


「いや、そうじゃ無くてホントに、そうなの!」


 ティーナが鋭い声を出す。


「はは、そうでしたか、それは失礼いたしました」


「ロバートさんは、塩も扱ってるんですか?」


 俺が聞く。


「ええ、以前、ユーイチさんにはうちの主力は服だと申し上げたと思いますが、塩もそれなりに扱ってますよ。各国を行き来するので、服だけと言うのももったいないですし、辺境の国では生活物資の方が喜ばれますからね」


 実績があるのなら、ロバートに間に入ってもらってもいいだろう。本当のことを言っているかどうかについては、調べればすぐに分かるだろうし、まともな商人がそんな事で信用を損なうとは思えない。


「じゃ、もういいかしら」


 席を立とうとしたティーナを止める。


「あ、待ってくれ、ティーナ」


「ええ?」


「ちょっと聞いてから。ロバートさん、水田で育つ稲という植物と、大豆の加工品で、塩辛い黒いソース、醤油というのは聞いたことがありませんか」


「イネと醤油ですか。イネは私も聞いたことが無いですが、醤油はありますよ。魚に合うヤツですよね?」


 おお。


「そ、それです。ど、どこにありますか?」


「ああ、ユーリタニアという小さな国、ミッドランドの北、ハイランドの西ですね。今は手元に無いですが、仕入れておきましょうか?」


「是非!!!」


 ロバートは塩の取引の話をしたがっていたが、ティーナが受け付けなかったので、その場の話はそこで終わった。


「醤油って、料理に使うのよね?」


 帰り道、ティーナが聞いてくる。


「ああ」


「ふうん? そんなに重要なの?」


「当たり前だ。それがあると無いとでは、料理のレパートリーが大幅に変わるからな。お米もどっかにあればいいんだけど」


「見つかるといいわね、あなたの故郷の物が」


「ああ」



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ロフォール領に戻った時には新年を迎えていた。こちらの世界では新年と言っても特別なことはやらないらしい。飾り付けも何も無いので、年が変わった気分がしない。


「お帰りなさいませ、お館様。無事で何より」


 ティーナの屋敷に戻ると、リックスやケインが笑顔で出迎えてくれた。


「ええ。こっちに変わりは?」


「特にありません。いくつか報告しなければならないことがありますが、急ぎというわけでも」


「そ。じゃあ、みんなご苦労様。今日はもうゆっくり休みましょう。甲羅は明日、工房に持って行けばいいわ」


「えー?」


 ミミが今日のうちに持って行きたそうな顔をするが、設置も時間が掛かるだろうしな。


「まあ、焦るな。工房に持って行っても、すぐ使える訳じゃないだろ?」


「むー。分かった」



 夕食ではリックス達に、マグマタートルの伝説級を封印したことを話したが、リックスは苦笑しながら「領主としてのお立場をお忘れ無く」とティーナに釘を刺していた。

 まあ、普通、領主は冒険には出ないよな。


「あっ! 家臣に行かせるとか、冒険者にクエストを出すとか、その手が有ったか…!」


「それだとどのみち、家臣のアンタは行く羽目になると思うわよ」


 リサが言うが。


「じゃあ、依頼(クエスト)で」


「ダメだよ。それじゃ、私の使いやすい甲羅かどうか、分からないでしょ!」


 ミミが言うが、ミミをその依頼した冒険者に押しつけて…いやー、ちょっと心配だな。


「いいじゃない、もうクリアしたんだから」


 ティーナがさらっと言うが、次は依頼(クエスト)を出すとしよう。金はあるんだし。



 翌日、急かすミミに折れて、俺は朝食も取らずにセルン村に甲羅を持って行く。


「おう、村長、戻って来たか」


「お帰りなさい。無事で良かった」


 俺達がやってきたことに気づいて、ネルロやエルが家から出てくる。


「ああ。こっちは問題、無かったか?」


「んー、それがなあ。ま、飯食った後で話す」


 あるのかよ。ま、それほど深刻なことでも無さそうだし、飯の後でいいか。


 アクアに運んでもらった甲羅を下ろしてやり、ミミの工房へ運び込む。


「それで、どうするか、ミミは知ってるか?」


「うん! ちゃんとおっとうに教えてもらったよ!」


 帰りにラジールに寄って、ダルクに甲羅を見せて褒められていたが、あの時か。ダルクも事前に調べてくれていたのだろう。親子水入らずを邪魔しちゃ悪いと俺は遠慮したので知らなかった。


 ミミは金槌を取り出すと、甲羅の腹の部分をガンガンと叩いて余計な岩をこそぎ落とすところから入った。

 かなり時間が掛かりそうだな。


「ミミ、俺が手伝わなくていいか?」


「んー、多分、大丈夫。手伝ってもらう時はその時に呼ぶよ!」


「じゃ、任せた」


「うん! 任された!」


 ミミの工房を出て、ネルロの家に向かう。エルがこちらに来ていたが、ネルロはまだ飯を食ってる最中だった。


「ちょっと待ってくれよ、んぐんぐ」


 両手でパンを口に押し込み始めるネルロ。


「別に焦らなくていいぞ。ゆっくり食え。それで、エル、お前も話があるのか?」


「はい。私から話す方が早いと思うので…」


「ああ、じゃ、それでいいぞ。報告してくれ」


「はい」


 エルの話では、俺達が出て行ってすぐ、森で他の里の人間が木の実を採っていて、出くわしたエルとリリムにあっちへ行くようにと指図したらしい。他の場所でも木の実は採れるので、そこは譲って別の場所にエル達は向かったと言うが。


「そう言うのは、こっちのしきたりでは、どうなんだ?」


「あそこは代々、俺達の森だ。余所者が採るときは、こっちの村長に挨拶と心付けを置いてくのが道理だ」


 ネルロが言う。


「ふむ」


「エルもすぐ俺に言えば良かったんだ。そうすりゃ、文句も言ってやったのによ」


「でも、木の実ならたくさんあるし、私達の森と知らなかったかもしれないでしょう?」


「そんなわけあるか。新しく入った森で他所の里の奴に会えば―――チッ、お前がそこでここは私達の森だからってちゃんと言わないからだぞ」


「ええ? ううん」


「まあ、話は分かった。エル、次に会ったときは、きちんとそれを言ってくれ。それで揉めるようなら、俺やネルロが出て行く」


「はい。それと…」


 まだあるようだ。


「ああ」


「これは先週の事なんですけど、森で行き倒れていた人がいたので、連れ帰っています」


「む、そうか。容態はどうなんだ?」


「ええ、お腹が空いていただけだそうで、食べたら元気にはなったんですが…」


 元気になったのなら良い話だと思うのだが、エルの歯切れが悪い。


「何か、問題があるのか? ひょっとして貴族?」


「いえ、ただの村人です。それが、追い出されたって」


「ええ?」


「なんか盗みか悪さをやって、つまはじきにされたんだろ。そんな奴、こっちも追い出せばいいんだ」


 ネルロが言うが、一応、事情を本人に直接聞いてからの方がいいだろう。


「そいつと会って話がしたい」

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