第八話 露天風呂にて
2016/10/3 誤字修正。
紳士なワタクシは、地獄耳の呪文で、温泉を普通に楽しもうと思ったわけですが。
「でも、頼りになるのよね。もちろん、みんなもだけど、ユーイチが指示してなかったら、結構危なかったところも多かったと思う」
ティーナの声が聞こえたが、おや?
俺が戦闘中で指示を出したのって、メタリックスライムやゴブリン軍団の時くらいの気がするが。
「ま、そうね。ああ見えてモンスターにはかなり詳しいみたいだから。アレでもうちょっと度胸があれば言うことは無いんだけど」
リサの声。
「呪文も妙に知ってるし…人族のくせに」
エリカは嫉妬だろうな。エルフは長寿で魔法に長けているとしても、個人差はあるし、お前はまだ若い。
「ん、魔道具もどんどん開発して、師匠は凄い」
ミオが言うが、元世界の現代知識はルールを超えた感じで、チート臭いからなあ。
「ああ、確かに色々、作ってくれてるわね。美味しいモノとかも」
「ニャ、ハンバーグ、美味しいニャー。猫の実もいつもくれるし、ユーイチが一人いれば食うのに困らないニャ」
一家に一台みたいな言い方が安っぽいぞ、リム。まあいいか。
「あはは。みんなのことも気遣ってるし、村人とも上手くやってるようやね。村長に就任って聞いて、うちは心配やったけど」
ミネアが心配してくれていたようだ。夕食の時に村の様子を聞いたり、リサと一緒に森の見回りもしてくれてるからな。
「ああ、うん、それだけど、お父様やリックスも感心してたわ。私より統治のやり方、覚えが早いし、むぅ」
「ふふ、お館様としては頑張らんとな」
「分かってるけどぉ」
珍しく拗ねたような声を出すティーナ。
「ま、お前も良くやってると思うぞ。少なくとも仕事はこなしてるじゃないか」
レーネが言うが、領主としてのハードルが低いよな。それって。
「そうだけど、愚鈍な領主なんてレッテルは欲しくないわ。うちのお父様が名領主なんて言われてる分、比べられそうでキツイ…」
「ですが、領民も不満は言っていませんし、きっと将来はティーナさんもそのように呼ばれると思いますよ」
クレアがフォロー。
「そう?」
「領主の評判は悪くないわよ。来たばかりの時は酷かったけど。ま、これで慢心せず、せいぜい名門の名を汚さないよう、頑張る事ね」
リサも言う。
「うう、はい」
「それよりも、農夫の子でしかなかったユーイチが、謁見も統治もさらりとこなしてるのが気になるのよね」
「あー、アレはあたしもびっくりニャ!」
「あれは多分、どこかの貴族の子やったんやないかと思うけど…」
ミネアが言うが、異世界の話はまだティーナからは聞いてないようだ。リサは話したその場にいたが、半信半疑の様子。
「いずれにしても、私の命の恩人には変わり有りません」
クロがはっきりと言う。保護者的なことはやってるけど、命の恩人とまでは行かない気がするんだが。
「そうね。私も助けてもらったかな。助け返したのも何度もあるけど」
ティーナが言う。
「みんなユーイチが好きなんだね! 一緒にお風呂、入れば良かったのに」
ミミが言うが、みんな一瞬、言葉に詰まってしまう。
俺も一緒に入りたかったんだけどね!
「ま、どこかで覗いてたり、聞き耳立ててるかもね。アイツのことだから」
くっ! リサ、悔しいが大当たりだぜ。
「ええ? いくらえっちなユーイチでも、その辺は弁えてると、思いたい…」
えっちなのを俺の前提にしているティーナには、考えを改めて頂きたいが。
「見たいなら見せてやってもいいが、ここは警戒が厳しそうだな」
レーネが本気か冗談か区別の付かない事を言うが、彼女もこの周囲のトラップは気がついているようだ。
「うん、有刺鉄線はともかく、ほかにもえげつないトラップがあるし、警告はしてあげた方がええんちゃうかな」
「大丈夫よ。ユーイチはやたら慎重だから、すぐ気づくでしょ。気づかないで引っかかるようなら、いっぺん、死んだ方がいいわ」
ホント、容赦ないな、リサは。
「あはは。でも、空から来るビーストテイマー対策にグリフォンまで飼ってるって、やり過ぎちゃう?」
うわ。俺のプランはこの宿の警備責任者にはお見通しだったようだね。
ひー、実行に移さなくて正解だった。
相当、ひねくれたプロフェッショナルが担当したに違いない。
疾きこと風のごとく―――俺は速やかに自分の部屋に戻り、普通に着替えを持って男風呂に行くことにした。
風呂の脱衣所にやってきたが、盗難防止のため鍵の掛かるロッカーが並んでおり、警備員もちゃんと見張っている。
でも、いくら男でも、脱ぐときに、じいーっと見られていたら、なんか恥ずかしいよね。
なので、さっさと着替えて露天風呂の方へ出る。
露天風呂は湯気で見通しが悪いが、客が数人、お湯に浸かっているのが見えた。貴族らしい恰幅の良い老人に、商人、あと体に傷がやたらあるムキムキの男がいるが、冒険者だろう。
この世界のマナーは知らないが、先に体を洗ってから湯に浸かる。
「ふいー…」
程良い湯加減で、リラックスできるわぁ。
「貴殿、まだお若いが、どこか悪いのか?」
貴族らしい老人が聞いてくる。
「はい? ああいえ、湯治に来たのでは無く、冒険者として立ち寄っただけですから」
「おお、そうかそうか。それは失敬。そこの若いのは見ればすぐに分かったが」
老人が奥側にいるムキムキの冒険者を視線で指し示して言う。
「生憎、俺の方は湯治だぜ? 竜にあばらと内臓をやられちまってな」
と、ムキムキの冒険者。
それで生きてるのが凄いが、ドラゴンとやり合ったのか…凄いな。
「ほう、竜か。この山にも出るのか?」
「いや、クリスタニアの方だ。こっちにはいないぞ」
おし、安全情報を頂きました。
火山と聞いてちょっと不安だったのだが、大丈夫そうだね。
複数の情報源からここは安全だと確認しているが、また裏が取れた。
こういう何気ない情報収集が生死を分けるから、気を付けないとな!
「そうか。やはり、強かったか」
「ああ。二度とやり合いたくは無いな。正直、生きてるのが不思議なくらいだ。鋼の鎧をあっさり切り裂きやがるしよ」
思い出したくも無いと言うように首を横に振りながら言う冒険者の男。
ゲームならドラゴンと一度やり合ってみたいと思うが、リアルではホント、ご遠慮したいです。
アクアも、今は素直でいい子なんだが、グレなきゃいいけど。
不安になったので、風呂から上がり、アクアの様子を見に行く。
「キュッ! キュッ!」
「クエー」
厩舎にアクアとマリアンヌは押し込められているので、俺が会いに来て嬉しいようだ。
「いい子にしてたか?」
「キュッ!」
「クエッ!」
もちろん! と言うように頷く二匹。
「よしよし」
猫の実を一個ずつ、食わせておく。
「いいか、アクア、不満なことがあったら、まず、誰かに言うかちゃんと相談するんだぞ」
「キュッ? キュー! キュー!」
「え? 猫の実がもっと欲しい? ここから出たい? うーん、猫の実で我慢してくれ。宿屋だからな。明日にはちゃんと出してやるから」
「キュッ」
公平にマリアンヌにも猫の実をもう一つやってから、部屋に戻る。
明日は山登りかぁ。山の中に温泉があればいいな。




