第七話 アッセリオ連続毒殺事件 解決編
2016/11/25 若干修正。後書き追加。
次の現場は個人宅の裏口。個人宅に船着き場があるとは、それなりの階級か金持ちかと思ったら、ただの平民の靴職人で賃貸らしい。
「ここだ」
イザベルが立ち止まって俺に言う。
人通りは少ないが、水路の向かいからはよく見える場所。
犯人はこんな見とがめられそうな場所で毒を撒いた…?
「家族構成は?」
「靴職人の夫、針子の妻、八歳の娘が一人だ。全員、私が面接したが、普通の平民だったな。特に敵意も感じなかった」
となると、靴職人に対する恨み辛みで…いやいや、それだと資材置き場で毒をバラ撒くのは意味が分からなくなる。
なんだコレ?
「何か、資材置き場との関係は?」
聞いたが、イザベルは首を横に振った。
「徹底的に洗った。だが、まったく、縁もゆかりも無かったな。さっぱりだ」
「そうでしょうねえ。こちらもさっぱりです」
「やれやれ、錬金術師のお前なら、何か現場から掴めるかと思って連れてきたんだぞ?」
「ええ? ご期待に背いて申し訳ありませんが、くんくん…む、ちょっと臭いかな」
「む。まあ、洗い流したが、あの臭いは強烈だからな。一度付いてしまったら、当分はダメだろう」
なら、魔法だね。
「我の前に在りし汚れよ、元に還れ! クリーニング!」
「おお」
「くんくん、ありゃ? 取れてないな…む、水が臭いのか?」
「周辺に毒が散っているのかもしれんな。面倒な事をしてくれる」
腹立たしそうなイザベルだが、水質検査もする必要がありそうだよね。
分析っと。
【名称】 水路の水
【種別】 運河
【材質】 水
【耐久】 88 / 100
【重量】 1000
【総合評価】 D
【解説】 トリスタン国アッセリオの街にある水。
腐乱した卵の臭いが混ざっており、有毒。
水が滞る場所は致死性の濃度となるので要注意。
「むむっ。これって水が全部汚染されてるのか…?」
「なんだと!? そうかッ! 上流か!」
すぐに詰め所に行こうと走り出すイザベルを呼び止める。
「待って下さい! 今まで街の上流側で事件は?」
「いや、むう? 妙だな…言われてみれば、下流側でしか起きていない」
「上流も調べた方がいいですけどね」
「ああ。行くぞ!」
「はい!」
「はっ!」
連れの兵士も一緒に、まずは街の北側、水路の最上流へ向かう。
「お前は、詰め所に行って、街全体の水が汚染されていないか、手分けして調べさせろ」
「了解しました」
イザベルが途中で兵士を一人詰め所に帰し、そのまま、上流へ向かう。
「ここが、街に引いた水路の北側、つまり、水路の入り口だ」
上流から荷を運んでくる船がやってくるのが見える。
イザベルと兵士がまず、水路に伏せるようにして鼻を近づけ、嗅ぐ。
俺は分析の呪文。
【名称】 水路の水
【種別】 運河
【材質】 水
【耐久】 98 / 100
【重量】 1000
【総合評価】 D
【解説】 トリスタン国アッセリオの街にある水。
「む、ここは毒が混入してない…」
「どういうことだ?」
「きっと街の中に毒物の汚染源が…ハッ! これは怨恨では無くて、自然に出てきた毒かもしれません」
気づいて俺はそう言った。
「バカな!」
「イザベル様、最近、この街で、温泉が湧いたりしませんでしたか?」
「そんな事は無い」
「じゃあ、何か工場…廃棄物が出るような施設を作ったりは?」
「む。施設は作っていないが、水路の大規模な補修を半年前にやっているな」
「それはどこです?」
「街の中程のところだ。こっちだ」
イザベルに案内してもらうと、石ブロックの組み上げではなく、その一帯だけ真っ白のコンクリのような素材で作られた水路があった。
なんかコレ、綺麗すぎて有毒っぽい感じの色だわ…。
「この白いのは、何です?」
「聞いたが、忘れたな。セリーヌを呼んでこい!」
「はっ!」
兵士が呼びに行くが、俺は分析が有ったんだった。
【名称】 水路
【種別】 建築物
【材質】 石膏
【耐久】 773 / 800
【重量】 500
【総合評価】 CC
【解説】 トリスタン国アッセリオの街にある水路。
通常、彫刻に用いられる石膏を使い、
建築物を芸術的に仕上げた意欲作。
ただし、混ぜるな危険。
これか!
洗剤を混ぜるな危険ってのは知ってたが、この石膏、何かまずいものでも混ぜてるのかね?
周囲の水を分析してみたが、毒水だった。臭ってみると、卵の腐った臭いが少しする。
「来たか、セリーヌ」
「ええ、この水路は石膏を使っていますが、何か問題が?」
やってきたセリーヌに、「犯人はあなたですね、セリーヌさん」と言いたくなるが、わざとじゃないだろうし、死人も出てしまっているので自重する。
事情を説明し理解してもらったので、ストーンウォールの呪文を無詠唱で使い、石膏は水から上げて、運びやすいブロックにしておく。後の処理はセリーヌ達がやってくれるだろう。
宿屋に帰ってみんなにも説明しておかないとな。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「つまり、その新しい水路が毒を撒き散らしていたのね?」
ティーナが確認する。
「多分、そうなるな。今後、毒ガスが発生しないなら、あの水路で間違いないはずだ」
「そう…人騒がせな話ね」
「自分たちが悪いのに犯人扱いまでされたんだから、落とし前をきっちりさせるべきね」
リサが言うが。
「まあでも、わざとじゃ無いんだし、釈放もされてるからさ」
因縁を付けるような話でも無い。
「そうね」
ティーナも頷く。
「甘いわねえ」
リサがそう言うが、あっさりした声なので、それほど不満というわけでも無いようだ。
「錬金術師、ユーイチはいるか!」
イザベルが宿にやって来たので俺が出て応対する。
「これはイザベル様。何か問題が? まさか、また毒が出ましたか?」
「いや、例の件はもう片付いたぞ。また毒騒ぎがあれば話は別だが、お前達はもう気にしなくて良い」
「はあ」
「ふふ、協力してくれた礼にと思ってな。お前にコレをやろう」
十センチほどの白い何かを手渡された。反り返ったソフトクリームのコーンカップを分厚くしたような…固くて丈夫だ。重さは軽め。
「コレは?」
「飛竜の爪だ」
「おおー。へえ」
珍しい物をくれたな。普通にレアアイテムだと思う。
「錬金術師なら、何か材料に使えるかと思ってな」
「ああ、ありがとうございます。私は使い方は知りませんが、今度、調べてみます」
「うむ。そうか、お前でも知らないか。それは残念だが、まあいい、持って行け」
「はい」
一連の騒ぎで出発が当初の予定より遅れてしまったが、翌日、俺達は宿を引き払い、次の目的地を目指す。
「ここからアルカディアの国だそうよ」
情報を仕入れていたリサが川の橋の前で言う。周りは草が生えているだけの場所。国境を示す物は何も無さそうだ。
国境って日本じゃなじみが無いけど、どこもこんなものなのかね?
こちらに来ている俺の感覚では、国と言うより領主ごとの土地という印象が強い。
「関所は無いのか?」
レーネが聞く。
「もう少し先らしいわ」
「そうか」
他のみんなも特に反応は無かった。
アルカディアでは、やや高めの関税を払い、サラマン山に近い街を目指して街道沿いに行く。
途中、治安の悪そうな街やそこそこ強めのモンスターに出くわしたりもしたが、無事に山の麓の街に到着した。
「アレが、サラマン山か…」
黒っぽい、大きな山。煙は吐いていないが、活火山だと言うし、本音は近づきたくないんだが。
「早くマグマタートルを見つけようよ!」
ミミが元気よくみんなに向かって言う。
「そうだな」
「ええ」
「うん」
働き者のミミのためにも、溶鉱炉になる甲羅を手に入れないとなあ。溶鉱炉があれば、腕の良いミミのことだ、色々と金物を作ってくれるに違いない。
「今日は街の宿に泊まりましょう。準備もあるし、情報も聞いた方がいいだろうし」
「そうね」
ティーナがそう言い、反対意見も出なかったので、サラマン山の麓町、サラマンドラに入る。
「む、この臭い…」
街に入ると、微妙に、卵の腐ったような臭い。
「なんだか臭ーい!」
「ユーイチ、毒かどうか、調べてよ」
「ああ、そうだな」
リサが言うので、分析の呪文で確認する。
「大丈夫だ。普通の空気だ」
「そう」
宿にチェックインすると、宿屋の主人がここには温泉を利用した露天風呂があると言う。
「へえ。お肌が綺麗になるらしいわね」
「ん、肩こり腰痛にも効くらしい」
女性陣は、まあ、普通に風呂に入れるだけでも喜ばしいのだが、ちょっと期待した様子。
一方、男性陣(一人だけだけど)の俺は、
「な、なんだと…!」
と、わざとらしく戦慄せずにはいられない。
こちらの世界に来てから、プールでポロリも無いし、浴衣も水着も無かっただけに、こんな一大イベントが用意されているとは思いもしなかった。
なんだよ、わかってんじゃん、神様。こっちのファルバスの神にも感謝しなくちゃね。お祈りをまともにしたのは村の祭壇を作った時とクロの呪いを解こうとしたときだけだけど。
異世界に飛ばされて、はや半年、ついに、俺も憧れの覗きクエストに男の冒険者として挑戦できるわけですか。
感無量だなぁ…。
「うう、ひんひん…」
「ん? ユーイチは温泉、嫌いだった? じゃ、別の宿にしてあげてもいいけど」
ティーナがわざとなのか、何も気づいていないのか、そんな事を真顔で言い出すし。
「誰が嫌いだと言ったよ! 温泉大好き! 温泉万歳! ビバ温泉!」
「そ、そう」
「ほっときなさいよ。いつもの病気でしょ。主人、ここのお風呂って、まさか混浴とかじゃないわよね?」
リサが大事なことを宿屋の主人に確認する。
「もちろん別々ですとも。当店は高級宿、女性のお客様にも気兼ねなく入って頂けるよう、覗き対策には力を入れておりますのでご安心を」
チッ。
「そ。だそうよ? ユーイチ。変な事は考えずに、普通に温泉を楽しみなさい」
「ああ」
ふっ。こちとらレベル37の天才錬金術師にして闇の大魔導師だぜ?
使える呪文は数知れず、ストーンウォールやカモフラージュあたりは特に使えそうだな。
ああ、いいとも、普通に男のロマンを楽しんでやんよ。
まずは何事も無く俺に割り振られた個室に入り、荷物を下ろす。
「真っ先に作戦だな。勝利を収める者は偶然によってでは無く、綿密な計算の上にあらゆる事態を想定して対処し自ら確固たる道を作る by ユーイチ、だ」
できれば詳細なこの宿の露天風呂の見取り図が欲しい所だが、宿屋の主人にそれを要求しては警戒されてしまうだろうし、大人しく渡すとも思えない。
マッパーの呪文で、多少歩き回ってマップを埋めていくしか無いな。
さっそく、部屋から出てオートマッピング機能を利用しつつ、埋めていく。普段から毎回のように唱えているし、熟練度もかなり溜まってスキルレベルも上がっているので、少し歩き回るだけで全部埋まるだろう。
「じゃ、さっそく行ってみましょうか。む、ユーイチ」
ちょうどドアから出てきたティーナ達は、これからすぐに風呂に向かうようだ。
「ああ、気にしないでくれ給え、諸君。ただの散歩だ」
片手を上げて言う。
「滅茶苦茶、気になるんですけど…普段、外を歩き回らないくせに」
ティーナが怪訝な顔。
「アンタ…、まあいいわ。犯罪者には容赦なくこのボウガンで行くつもりだし」
リサが左腕に装着したままのボウガンを見せてくるし。
「お、お前、まさか、それ付けたまんまでお風呂、入るの? マナー違反だろう?」
しかも当たり所が悪いと即死もあり得るよ?
「何とでも言いなさい」
だ、大丈夫、あくまではったりの警告だ…いや、本気だろうな、リサは。ドライな奴だし。
そして、あの矢は二重物理バリアでは防ぎきれないか…アイスウォールだろうな、ここは。
その場はそのままやり過ごし、マッピングを続ける。
「結構、広い敷地だな…」
ここで、探知の呪文を使い、防犯装置も同時に確認しておくことにする。
「むむ!?」
赤いポイントがずらずらっと。
何この罠の多さ。
宿泊客が誤って引っかかったら、どうするつもりなんだろ?
うーん、でもまあ、よく見ると、普通は入らない場所に仕掛けてあるな。建物の裏の狭い隙間とか。
それと、この一直線の赤い線はなんだろ?
塀の上の方にあるのは、有刺鉄線で、見てすぐに分かるんだけど、別のものが足下にもある。
そちらは肉眼では見えない。
分析。もちろん、無詠唱で。
【名称】 ワイヤー型防犯装置
【種別】 罠
【材質】 ビッグスパイダーの糸
【耐久】 1988 / 2000
【重量】 1
【総合評価】 CC
【解説】 クモの糸を用いた早期警戒システム。
引っかかると別のトラップが作動する仕組み。
肉眼では見えない細さで有りながら、
魔法強化され鋼鉄並の強度を持つ。
………。
魔法強化しちゃってるのか…。
高級宿だし、ちょっとやることが手が込んでる感じだね。
別のトラップがどんなもんか気になるところだが、引っかからなければ問題無い。
探知の呪文で俺には通用しないね。
他には…。
「むっ!」
建物の裏の壁だが、ちょうど腰の辺りの高さに小さな穴が並んで空いているのが見えた。
注意深く観察しないと、とても気づかないだろう。
だが、ピラミッドの通路で似たような罠を見かけていたし、予測は付く。
矢が出てくるタイプの罠だ。
この隙間のルートは匍匐前進で移動すればいい。
次は…。
「む?」
見慣れない深緑色の植物が塀の近くに植えてある。
葉っぱ自体に棘があるし、嫌な予感がするので、分析。
【名称】 侵入封殺型防犯装置
【種別】 罠
【材質】 デスイラクサ
【耐久】 67 / 67
【重量】 2
【総合評価】 BB
【解説】 毒のある植物を用いた罠。
見た目は割と普通だが、致死性の猛毒を持つ。
葉や枝に鋭い棘がある。
おいおい…、本気かよ。
普通、そう言うのはいかにも毒ですよという感じの警戒色にして牽制するのが効果あると思うのだが、容赦ないね。
…うん、別に、覗きは男の義務じゃないしね。
命を賭けてまでロマンを追い求めたくは無い。
地上ルートがダメなら、空からと言う手も無いわけじゃあないんだが。
空を飛ぶ魔法は覚えてないから、風の魔法を自分に当てて一か八かという感じになる。浮遊の呪文はミオから教えてもらったが、アレは落下速度を緩めたり、せいぜい地面から十センチくらい浮かぶという感じのもの。
「アハハ! その通りニャ! ユーイチっぽいニャ」
む、向こうからリムと他の女性陣の笑い声が聞こえた。
どうせ俺を馬鹿にしてるんだろ?
よろしい、こうなったら、せめて音だけでも楽しむとしましょう。
紳士ですからね、ワタクシ。
「ウサギのごとく、ロバのごとく、物音に集中せよ、そして地獄耳となれ!」
ロフォールでの王子を捕まえる伏兵作戦の時にあったらいいなあと思ったので、開発しておいた呪文。
石膏と水中の細菌により有毒な硫化水素が発生した事例があるそうです。




