第三話 幼なじみ
2016/11/24 若干修正。
「アクアをほったらかしにしない。いいわね?」
戻ったときアクアとマリアンヌがそこにいなかったので焦ったが、リサが宿を決めてそこに連れて行ってくれていた。
「「「 はい、反省してます… 」」」
俺とティーナとクロが謝る。
「よし。じゃ、部屋割りは相部屋だから、ティーナとクロ、ミネアとレーネ、ミオとエリカ、リムと私、クレアとミミ、ユーイチは個室ね」
「えー、私、ユーイチと一緒がいい!」
ミミが言うが、可愛い奴だな。
「ダメよ。コイツ何するかわかんないし」
「ちょっ! リサ、するわけ無いだろ。教育に悪いから変な冗談は止めてくれ」
それで無くともロリコン疑惑がパーティーメンバーに深まっていると言うのに。
「冗談はともかく、ミミ、あなたも女の子なんだから、ね?」
「むー」
ティーナが言い聞かせ、クレアと一緒に部屋に上がっていった。
俺は自分の部屋にリュックを下ろし、ポーションの状態を確認。よし、問題無いな。
「ユーイチー」
リムが俺の部屋にやってきた。
「なんだ?」
「一緒に、魚を買いに行くニャ!」
「ええ? でも、もうじき、夕食だぞ」
「その前に腹ごしらえニャ」
それおかしいだろ。
「面倒臭えなあ。じゃ、耳を触らせてくれたら、付いて行ってやろう」
前にしっぽを触らせてくれと頼んでみたこともあるのだが、リムは顔を真っ赤にして照れるし、みんなは激怒するしで、さんざんだった。
獣人のしっぽは家族か恋人しか触っちゃダメらしい。触りたいんだけどなぁ。
「ニャニャ。ウーン、ちょっとだけなら。くすぐったくしないニャ?」
「ああ、ちょっとだけちょっとだけ」
頷いて、リムの頭の上のネコミミを触る。髪の色と同じ赤。
「ニャッ! くすぐったいニャ」
こういうときのリムは可愛いな。
「ほれほれ」
「ニャーン」
「何してるの」
「うお! ティーナ」
「ニャニャ! ニャ、ニャんでもないニャ!」
「ふーん。なんだか二人で嫌らしいこと、してたみたいだけど」
「いや、普通に、耳を触らせてもらってただけだ」
「むぅ。嫌らしいじゃない」
「耳だぞ?」
「じゃ、ユーイチは私の耳とか、触れる?」
「え? いや、それは…」
本人が同意しているならともかく、いや、人前じゃちょっと無理かも。
だが、ここで否定したら、ティーナも怒るだろうし。
「む」
「いや、もちろん触れるぞ!」
両手を伸ばす。
「ええ? あっ、ちょっと、やっ」
首をすくめて逃げるティーナだが、本気で逃げようとはしていないようで、ティーナの耳を触ることが出来た。
「こ、これ、恥ずかしいね…」
「そ、そうだな」
「あー! ティーナお姉ちゃんとユーイチがキスしてる!」
「「 なっ! 」」
ミミが勘違いして大きな声で言うから、後々面倒になりそうだったが、いちいち今のは誤解だとみんなに言って回るのも変なので、そのままにしてリムに付き合い、魚を四人で買いに行く。
「おっさかな♪ おっさかな♪」
リムは魚を買いに行くとあってご機嫌。
「もうすぐ夕食なんだから、食べ過ぎちゃダメよ?」
「分かってるニャ」
船は使わず、道を行く。
「ニャ、魚屋はどこニャー」
結構大きな街なので、リムの嗅覚でも見つけられないようだ。
「仕方ないわね。ちょっと待ってて、聞いてきてあげるから」
「頼んだニャ」
ティーナが店の場所を聞き出し、そちらに向かう。
その途中。
道ばたで荷台から壺を下ろしているグレーのネコミミ娘を発見!
…んー、でも、薄汚れてて、美形は美形だけど、なんか今ひとつだな。
疲れている感じだ。
「あっ!」
その子がふらついて壺ごと倒れ込む。
「危ない!」
とっさにティーナが駆け込んで、その子を抱き止める。壺の方は落ちて派手に割れ中身もぶちまけてしまったが、一緒に倒れ込むよりは良かっただろう。
「ふう、大丈夫?」
「あ…す、すみません」
「おい! 何の音だ! あーあー、チッ! 仕事もまともに出来ねえのか、このクソ猫が!」
建物の中から、妙に小柄な男が出てきた。ちょっと高い声だが、しわがれていて変な感じ。ドワーフにしては体が細い。スイッフナーかな。ヒゲも無いし、耳もちょっと尖ってるし。
リサやティーナにこの世界の種族についても聞いていたのだが、人間に分類される主な種族には、人族や獣人の他に、ドワーフ、エルフ、スイッフナーがいるという。
スイッフナーについては俺もそれまで固有名は聞いたことが無かったのだが、成人しても子供のような姿で、すばしっこいとくれば、だいたい掴める。ゲームで言えば、シーフやスカウトに特化してキャラメイクするスピード回避のタイプだ。
「も、申し訳ありません!」
今気づいたが、この子は左手に奴隷の刻印があった。
「ケッ、謝って済むのかよ。この壺がいくらすると―――」
「主人、その割れた壺、言い値で買おう」
俺が言う。
「ム。じゃあ、400ゴールドで、どうだ?」
中身は何かの乳、割れて無くても相場の倍だが、500万ゴールドを持っている今の俺には余裕だ。
大銅貨を4枚渡す。
「へへ、ありがとよ。じゃ、さっさと片付けろ!」
「は、はい」
「主人」
「なんだ?」
「物は相談だが、その奴隷、こちらに売ってくれないか」
今度は言い値でとは言わない。味を占めてふっかけてくるはずだ。
「ほう、いくらで? こう見えても働き者だし、顔も良い。安くは無いぜ」
ちゃっかり値をつり上げようとしてくるし、ごうつくばりだな。
「呆れた。それならもうちょっと優しくしてあげればいいのに」
「そうだよ! おっちゃん」
ティーナとミミも口を挟む。
「む」
「銀貨一枚でどうだ?」
「もう一声」
「では大銅貨三枚を上乗せだ」
「よし、売った!」
安いなー。人間がドレスや鋼の剣より安いのは納得が行かないが。
「じゃ、片付けておくか。氷の精霊よ、集まりて壁となれ、アイスウォール!」
「うお」
やはり魔法は珍しかったか、スイッフナーの商人も驚く。
みんなで凍った乳を片付け、終わった。
「じゃ、荷物を取って来て」
その子に言う。
「あ、はい」
「ユーイチ、どうするの?」
ティーナが聞いてくるが。
「どうするって、まあ、事情を聞いてからだな」
「そうねえ…。む、行く当てが無いとかだったら、私が買い上げるから。はい、お金」
「ええ? いいよ、俺が買ったんだし」
「それがダメなの!」
「ええ?」
どうやらティーナは、俺がさっきの子を、怪しい目的で買い上げたと疑っているようだ。
酷いな。
そりゃ、今はちょっと、奴隷の女の子に何をさせようかと想像を膨らませているけどね、ぐへへ。
「お待たせしました」
やってきたその子は、手提げ袋が一つだけ。
「それだけなの?」
ティーナが驚いて聞く。
「ええ…」
その子も、自分の持ち物が少ないのが恥ずかしかったか、ばつが悪そうに頷く。
「じゃ、私達の宿に行きましょう。まず、お風呂に入れないとね」
「あ、ありがとうございます。でも、その前に…」
「んん?」
「リム、よね?」
「ニャ? あっ! ニーナ!?」
あれ? こいつら知り合いなのか。
宿へ向かいつつ、ニーナから話を聞いたが、リムとは同じ村の幼なじみだそうだ。
行商人に見込まれて付いて行ったはいいが、半年前にモンスターに襲われて行商人が深手を負ってしまい、その治療費で借金をしてしまったため、結局、破産して身売りする羽目になったという。師と仰いでいた行商人の方も治療の甲斐無く死んでしまい、なんだか聞いていて暗くなる話だ。
「――と、言う訳なんだ」
ニーナがお風呂に入っている間に、俺がみんなに説明しておいた。
「運の無い話ね」
いつもドライなリサだが、今回は同情した様子。
「大変やったろうなぁ」
ミネアは心根が優しいから、聞いただけで辛そうだ。
「可哀想」
クロも心を痛めて悲しい顔。
「そうね…」
エリカも頷く。
「………」
クレアも笑みが無い。ミミも困った顔だ。
「それで、リムと知り合いなんだったな。連れて行くのか?」
レーネが聞いた。
「いや、まだ、本人に聞いてないし」
俺は軽く肩をすくめる。何にせよ本人の意思を確認しないと。
「そうか。だが、レベルが低いなら、ダメだぞ?」
レーネが言う。
俺達はこれから、マグマタートルを狩りに火山に向かう予定だ。わざわざ危ない場所に、連れて行けないよな。俺も同意する。
「ああ。ま、そこはティーナが上手く話すだろう」
リムとティーナが洗うのを手伝って、一緒に風呂に入っている。
「あ! アクアにエサをやらないと。お兄ちゃん、猫の実、頂戴」
ミミが思い出す。ここの宿でも草くらいは出してくれるだろうが、渡しておく。
「ほれ」
「ありがと!」
「じゃ、ミミちゃん、行きましょう」
クロもマリアンヌの様子を見に行くようだ。
「お腹空いたんだけど…」
エリカが不満げに言う。
「じゃ、これでも食っとけ」
猫の実を渡す。
「む。いったい、いくつ持ち歩いてるのよ」
「内緒だ」
潰さない収納方法も創意工夫して、大量に持ち歩いている。
「お待たせ」
先に飯を食ってしまおうかと思い始めたとき、ようやくニーナを連れて戻って来るティーナとリム。
「えっ!」
くすんだグレーかと思っていたが、純白の髪の毛とネコミミ。しっぽも真っ白。
はにかむニーナは破壊力抜群の美少女だった。
青い瞳は透き通っている上に少し輝いていて、知性も感じさせる。
「ふふ、驚いたでしょ」
「あ、ああ」
「ニーナは村一番の美人で、男子どもに人気があったニャ。しっかりしてて優しいから、女子にも人気があったニャ」
ちょっと自慢げに鼻高々で言うリム。
「あの、ニーナと申します。助けて頂いてありがとうございました」
ふおおお…。
「ユーイチ、返事くらいしてあげなさいよ。アンタに言ってるんでしょ」
リサが言うが。
「お、おう、いやなに、大したことは無いよ、気にしないでくれ給え、ハッハッハッ!」
「うわ…変になってるし」
「ホントどうしようも無いドスケベね」
「ニャー」
「最低」
「ちょっ! 何でそこでドスケベとか言うの? 美人に見とれるのがドスケベなら、男はみんなドスケベでしょ!」
「はい、認めたわね。否定しないところからして、もう救いようが無いんだから」
リサが腕組みして言う。
ええ? そんな難癖言われても。
「まあまあ、ユーイチさんはいつものことですし、それより、お腹も空いたでしょう。食事にしましょう」
「そうね」
さらっとクレアがまとめたが、いつもの事って…。
ニーナに俺がどうしようも無いドスケベと第一印象が!
さっと目をそらされたし。くっ。
「じゃ、しっかり食べてな。遠慮はいらんよ?」
ミネアを初めとしてみんなが優しくする。
「うう…」
急にニーナが嗚咽したので、どうしたかと心配になったが、彼女は自分で大丈夫だと言った。
「すみません、良くして頂いて、つい」
「泣きたいときは、泣いてええんよ?」
「は、はい。大丈夫です」
「そう」
もうお腹いっぱいだと言うので、先に休ませた。
獣人は大食らいだと思っていたが、リムだけが大食らいだったようだ。
翌日、ニーナは一人でロフォールの屋敷に向かうことになった。
ニーナのレベルは一桁だった。
これでは連れて行くわけには行かない。本人もモンスター狩りなんて行きたくは無いだろう。
彼女の故郷には身寄りも無く、心機一転、新しい土地でやり直したいと言う。
奴隷の刻印は俺の呪文で消してやろうと思っていたが、地位を勝手にいじるのはまずいそうでティーナに止められた。ただ、ティーナも王宮にお願いの手紙を出してみると言うことで、上手く平民に戻してもらえるといいが。
「よし、じゃあ諸君、さっさと仕事を片付けて、ロフォールに帰ろうではないか! さあ早く出発しよう」
ん? おや? その呆れた目は何かしら?
「あんなのでいいの? ティーナ」
「ううん。ま、こうなるとは薄々思ったんだけど、思い切りだとイラつくわね」
「長引かせてやろうかしら」
やめてくれ! エリカ。
俺達が早く帰らないと、ニーナも新天地に馴染めないだろ。セバスチャンとか、メリッサとか、いじめなきゃいいけど…不安だなぁ。




