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異世界の闇軍師  作者: まさな
第九章 料理の魔術士

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第十話 カルボナーラで大工を餌付けする

2016/11/24 若干修正。

 乳牛を仕入れ、生クリームの開発も成功した。

 ならば今こそ、カルボナーラであろう。


 あの濃厚な…いかにも健康に悪そうな、贅沢な料理。


 ベーコンがまだ出来てないんだが、それはまた今度でいいや。


 生クリームに低温殺菌した卵黄を入れ、かき混ぜる。

 淡く黄色になって、食欲をそそる。

 そこに黒胡椒とテルペの粗挽き粉末を少々。 


「じゃ、ソースはこれでいいとして、後はパスタだな」


 この日のために麺を陰干ししておいた。

 それを鍋でぐつぐつと。

 塩もひとつまみ入れておく。


 ソースをまた一煮立ちさせて、パスタを載せた皿の上におたまで掛ける。


「んー」


 湯気が立って、凄く良い感じだ。

 クロも期待した瞳で見ている。


 一口。

 程良い甘みと濃厚なコク。ミルクのふんわりした香りに、食欲をそそる香辛料(テルペ)の風味が溶け合い口いっぱいに広がっていく。

 そして後から黒胡椒が舌を刺激してスッキリした変化を与えてくる。

 温かいパスタの歯ごたえも楽しい。


「勝った!」


 何に勝ったのかは俺にもよく分からんが、そんな気分になれた。


「お、美味しい!」


 驚きと感動が入り交じったクロの声。

 そうだろう、そうだろう。

 もうちょっと麺に歯ごたえが欲しいところだが、味はカルボナーラだ。


「よし! これは村人全員に振る舞ってやろう」


「そうですね! 私達だけで食べてはもったいないです」


 大量に作って、村人を集め、振る舞うことにした。



「なんだべ? 何が始まるだ?」


「なんぞ村長がまた新しい料理を出してくれるんだそうだが」


「へえ、そいつぁ、ありがたいね!」


「かー、新しい料理なんていらねえべ! オラはあの唐揚げが食いたかっただ!」


「ハンバーグは出てこないべか?」


 いつもよりなんだかそわそわした村人達が工房の前に集まってきた。

 ここで集会をやったり料理を振る舞うから、今度、テーブルや椅子も用意するかな。


「よし、だいたい集まったな。エル、もう良いぞ、配れ」


 ネルロが指示を出す。


「ええ? ダメよネルロ。ちゃんと揃ったか、数えないと」


「いいんだよ! 来ねえ奴は食う気がねえんだからよ。冷えちまったらせっかくの料理が台無しだぜ」


「もう、じゃ、こっちに並んで下さい。全員分、あるので順に渡しますから、押さないで下さいね」


 エルが配膳を手伝ってくれたり、村人を整列させたりしているが、君が村長をやるのが一番良くない?

 何でネルロにやらせてたんだか。


「いい? まだ食べちゃ駄目だよー! みんな」


「ああ? なんでだよ、ベリル。もらった奴から食って良いぞ。冷える前に食わねえと」


「ダメダメ、みんなでせーので食べて、一斉に驚く方が楽しいじゃん」


「お。そうだな」


「ええ? 村長、いいんですか?」


 エルが俺に確認する。


「まあ、そうだな。そんなにすぐに冷えないだろうし、いいぞ」


 皿を事前にヒーターで適度に暖めているので、この人数なら大丈夫だと思う。

 全員に配ってから、食べて良し! とネルロが偉そうに合図。


「むっ! これは初めて食べた味だべ」


「なんとまあ、美味しいねえ」


「んめえだ」


「止まらねえべ! 魔法だべ!」


「霊じゃ! 霊の仕業じゃ!」


「おっかあの料理よりずーっとうめえだ!」


「美味しい! んまんま」


「ほっぺの下がキューって痛い~」


 村人にも大好評。

 ふっふっふっ。


「くっ、なんだこの料理は。細長く歯ごたえの良い何かに、このソースのとろみがまた良い感じに絡みついて、ほのかな甘みと、ううっ、このピリッとした胡椒が大人の風味を出していて…!」


 ヴァネッサが驚嘆しつつも、手が止まっていない。意外に、繊細な味の分かる奴じゃないか。


「はい、アクア。コレすっごく美味しいよ!」


「キュッ!」


 ミミがアクアに自分のを分け与えてやってるのが見えたが、ああん、卵と牛乳は動物性タンパクで、食べさせて欲しくはなかったんだが…。手遅れ。


「お代わり!」


「いや、悪い、そこまでの量は作ってない」


 頑張ったけど、麺を作るの、結構、手間のかかる作業だしね。


「えー? もっと食べたいぃ」


「まあ、また今度な。それと、この村で料理の上手い奴は?」


「あ、エルだね!」


「エルだな」


 何でも出来そうな奴だな。


「じゃ、エルにもこの料理のレシピ、作り方は教えておくから」


「よーし! これでユーイチがいなくなっても食い放題だ!」


「やったね!」


 むう、フフ、秘匿して俺様を崇拝させてやろうかしらん?



 ティーナの屋敷でもクラウス料理長に作り方を教え、夕食に出してもらった。


「これは、また変わった料理ねえ」


 ティーナがどう論評して良いのかと、感心しつつも眺めている。


「細長くて、気持ち悪いんだけど?」


 エリカはフォークでツンツンしてるが、生き物じゃ無いし。


「でも、美味しそうな匂いがしますよ、うふふ」


 クレアは俺が出した物は何でも無条件で食べそうで、それもちょっと怖いんだけど。


「じゃ、食べるニャー」


「そうだな。むっ!」


「あ、これは…」


 皆が一口食べて、即座に驚きの色が表情に出る。


「美味しいニャー! 魚じゃないのに旨いニャー!」


 さすがリム、一発で材料が魚じゃ無いと気づいたか。


「ええと、これ、胡椒は分かるんだけど、他に何が入ってるの?」


 ティーナが俺に問う。


「麺はライ麦粉と卵、ソースは牛乳から作ったクリームと卵黄だ。黒胡椒とテルペの実も入れてある」


 製粉が荒いので、麺にざらついた食感が出てしまうが、ソースの出来が良いため、あまり気にならない。


「へえ、じゃあ、パンと似てるんだ…へえー」


「あかん、幸せやわぁー…」


「ん、まさに悪魔の味」


 気持ちは分からんでも無いが、もうちょっと別の例えを頼むぞミオ。


「ティーナ、これは、アレじゃないか?」


 レーネが意味ありげな目で聞く。


「そうね。これは、対アンジェリーナのメインディッシュにしましょう。これは領主としての決定事項よ」


 ティーナが宣言。

 確信を持った声と、レーネの推薦だが、なんだか料理バトルやってるみたいだな。


 他にも元料理長を旅に出させてしまった曰く付きのハンバーグもあるし、だが、あのゴージャスな、いかにもグルメっぽいお嬢様にどこまで通用するやら。

 鼻で笑われたりした日にはティーナも大恥だし、俺達も凄いショックを受けそうだ。


 大丈夫かなあ…。



 翌日、いつも通り村にやってくると、ヴァネッサが入り口近くで待ち構えてきた。


「ん? 何か俺に用? ヴァネッサ」


「ああ。次はいつ、カルボナーラを食わせてくれるんだ?」


「ええ? そんなに気に入ったの?」


「ああ。大枚叩いて王都の高級レストランに入った時よりも旨かった。お前、どこかの料理人だったのか?」


「いいや。ま、それも含めて、この村で長居して色々仕事してくれるなら、いくつか、とっておきの秘密を君にも教えよう」


「むっ! 分かった! しばらくこの村で腰を落ち着ける。で、その秘密ってのは何だ?」


「熟練度システム。悪用されるとアレだから、君が信用できると思う人間にだけ話して欲しいが、この世界は練習を積めば積むほど上手くなる」


「ああ? 煙に巻いてんのか? そんなの当たり前だろ」


「いや、まだ続きがあるんだ。熟練度の仕組みをより深く理解すれば、その練習の質というのかな。練習効率を上げることも可能だ」


「んん? ピンと来ねえが、アレか? 同じ練習量でも、上手くなるレベルが違うって話か?」


「そうそう」


 見た目はがさつに見えるのだが、ヴァネッサは飲み込みが早い。

 赤毛のポニーテールの大工さん。

 目が鋭いので苦手な印象だったが、いや、初対面でティーナに食ってかかってきたから、あれが尾を引いてるんだな。


 熟練度システムをヴァネッサと、護衛のケイン達にもそのまま聞かせておく。ケインの他はティーナの人選なので、信用に足りると見て間違いはあるまい。


「ううむ、そんなことが…」


 俺の今まで体験したことを聞かせてやると、少しは思い当たる節があったか、深く考え込むヴァネッサ。


「じゃ、まあ、また後で聞きたいことがあれば聞きに来てくれ」


 牛舎に行き、今日も乳搾りとお掃除お掃除。


 午後はケーキを作ってみたが、スポンジケーキがさっぱり上手く行かず、残念な結果となった。

 バターとイースト菌さえあれば……。



 次の日。

 またヴァネッサが村の入り口で俺の来るのを待っていた。


「よう、村長。麦倉は言われた数を作り終わったぞ」


「あ、そうなのか。じゃ…ええと、ちょっと待ってよ。封じた記憶を分かちて戻せ、メモリー!」


 建築物の予定表を呪文で呼び出す。


「ああ、そうだった、次は風車だ」


 言う。


「おい、図書館はともかく、ピラミッドなんてアタシには無理だぞ?」


 ウインドウを見たヴァネッサが渋い顔をするが。


「あー、それはお遊びというか、ゴーレムにやらせるつもりだから、ヴァネッサはノータッチだ」


「なんだそうなのか。しかし、チッ、風車か…アタシは、からくりは得意じゃねえんだよ。師匠がそう言うのは得意だったんだけどな」


「ふうん? お師匠様は今どこに?」


「もうとっくに死んじまったよ。アタシが十六の時だから、三年前だね」


「ああ、余計な事を聞いちゃったな。ごめん」


「いいや。ふん、兵役に取られてそれっきりさ。腕の立つ職人だったのに…」


「そうか」


 大工の親方ともなれば、賄賂を渡して見逃してもらうこともできるんじゃないかと思ったが、真っ直ぐな性格のヴァネッサが尊敬している感じとなると、曲がったことは嫌いな人物だったのかもしれない。


「じゃ、細かなからくり(・・・・)は俺が考えるから、木材で可能かどうか、ちょっと見てくれ」


 地面に大きめにメモの呪文で設計図や概略図を書いていく。


「むむっ。なるほど、ここで歯車を直角に交差させて、横軸の回転を縦軸に変える訳か」


「なんだ、分かってるじゃないか」


「その図をパッと出せないから、苦手なんだよ。まあいい。この仕組みなら、大体分かる。水車なら親方の手伝いで一度作ったことがあるしな」


「ああ、それなら、途中からは水車と仕組みは同じだし、楽勝だろう」


「いやいや、歯車を作るのは面倒なんだぞ? かなりの力が加わるし、やたら太い木があるなら一枚彫りもできるだろうが、組み上げて行くしか無いからな。くそ、組み上げ方、しっかり覚えておけば良かったぜ」


「ふうん、太い木から一枚彫りする方が丈夫で簡単なんだな?」


「そりゃそうさ。だが、そんな木は滅多に無いぞ」


「まあ、探すだけ、探してみよう。ヴァネッサは柱や必要な部品を作っててくれ。エリカに指示を出して良いから」


「あいつ、呪文でアタシを攻撃しそうで、おっかねえぞ?」


「まあ、変に絡まなきゃ大丈夫のはずだよ」


「じゃ、やめとくよ」


「ええ?」


「アタシは喧嘩っ早いところがあるからね」


「ううん、まあ、じゃ、必要な木材があれば、俺に言って」


「分かった」


 ジーナ大ババ様のところに行き、やたら太い木がないか駄目元で聞いてみる。


「ああ、それなら、ここから西に少し行ったところに、太古の森があるよ」


「え…?」


 それを聞いた途端に、なーんか嫌な予感がした。

たまに美味しいモノを食べたときに耳の下、舌の付け根あたりが痛くなることが有るかと思いますが、あれは唾液を出そうとする働きが急に活発になることで痛くなるのだそうです。


教えて頂きましたが、スポンジケーキは薄力粉と卵と砂糖だけでふあふあになるそうです(´Д`;)

イースト菌は要らないのですね。

泡立てがポイントらしいです。

ユーイチは失敗ということにして、頼むぞ新料理長ってことで。

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