第八話 燻製と生クリームの元
2016/11/24 若干修正。
村の生産施設は大工のヴァネッサが良い仕事をしてくれている。
ティーナ達も俺の話を聞いて、各々の村に高床式麦倉を作ると決めたようだ。
ネズミ返しが大事だよチミ達! と知ったかをしておいたが、リサやミネアや、リムまで知っていたので、この世界でも一般的なようだ。
単にロフォール地方が遅れているだけなのね。なんでこんな領地、もらってるのよ…。
種蒔きも村人中心でやっているので、俺が特に口を出すことも無い。
ベーコンの方は、チップの善し悪しじゃなくて、もう作り方をきちんと教わった方が良いな。
「と、言うわけで、燻製肉の作り方を一から教えて頂きたく」
ティーナの屋敷の厨房に行き、二人の料理人に頭を下げる。
「およし下さいませ! 我らは平民、ガイウス様とは違いますので」
「そうですよ、ユーイチ様。上級騎士ともあろう御方が」
前の料理長のガイウスは元は騎士階級だったが、料理好きが高じて料理人の道を目指したらしい。
この世界では料理人は使用人の一種と考えられているようで、周囲の反対もあって家を出奔したというから、地位が高ければ高いほど良いと言うのでもなさそうだ。
「そう。まあ、とにかく教えてよ」
この二人は俺とそんなに年の離れていない若者なので、ガイウスに比べたら話しやすい。
「ええ、もちろんです。燻製肉でしたね。一からなら、肉の塩漬けから、実際に作ってみましょうか」
「そうそう、何事も実演ですからねえ、ユーイチ様」
笑顔を見せる二人、新料理長はクラウス、その相方はテッドという名前だったかな。俺は名前、覚えるの苦手だからなぁ。
いざとなったら、アナライズやステータス魔法で調べるとしよう。
「まずは肉を水で綺麗に洗います」
「えっ! おおう、肉を洗うのか…」
目から鱗だね。その発想は俺には無かった。塩漬もだけど。
「ええ。血が付いていると良くありませんから」
布巾で肉の水気を拭き取ると、クラウスはアイスピックを持ち出してきた。
肉にザクザクと突き立てる。
「こうやって、肉に穴を開けておくと、塩の通りが良くなります」
「ほほう」
「次に、塩をまぶしていきます。少し揉んでやると、水気が出てくるので、これも布で拭き取ります」
「ふむふむ」
そんなにたくさんの塩は使わなくて良いのね。
「香りのスパイスもまぶして、月桂樹の葉と一緒に布に包んだら、あとは猫に食われないよう、桶に落とし蓋をしておきます」
「で、毎日布を取り替えて、一週間後のがこっちです」
テッドが桶をドンと机の上に置くが。
「えっ? 料理番組でも無いのになぜそれが」
「ええ? 料理…なんですって? 燻製肉は時々、作っているので作りかけを出しただけですが」
「ああ、なるほど」
「途中、肉の汁気が出てくるので、きちんと捨てて下さい。塩が多めなら腐らないと思いますが、夏の常温だと危ないので」
「分かりました」
こっちの世界は、基本、冷蔵庫が無いからな。ティーナの屋敷には魔道具の大型冷蔵庫があったりするのだが。
値段が高そうだしなあ。俺は石の箱を作って、毎日アイスウォールでも唱えておくか。
「そして、一週間からひと月ほど塩漬けにした物を、水で洗って塩抜きをします」
「えっ? 塩をまぶして塩を抜くんだ…」
「まあ、変な感じはしますけど、熟成して味が変わるんですよ。塩味もちゃんと残ります」
「へえ、なるほど」
「漬け置きでもいいですが、水は必ず一日一回は取り替えて下さい」
一週間の塩漬けなら一日、一ヶ月の塩漬けなら四日、水に浸して塩抜きをやり、今度は吊して陰干し。
「一晩おいて、表面が乾いたら、いよいよ燻しです」
塩抜きと陰干しをはしょって、布で拭いただけの肉を、燻製用の釜の上にセット。上に鉄棒の支柱が横に設置されており、ここに針金で巻いた肉を引っかける。
「火は弱めにして、煙もそんなにかける必要は無いです。じっくり炙る感じで」
香り付けのチップと炭が別々というのも目から鱗だ。
「あー、道理で、火が強すぎたかぁ」
「火が強いとすぐ焼き肉になって燻製になりませんからね。私も初めての時は失敗して料理長にどやされました」
クラウスが笑う。
「俺も俺も。途中で中を見てやらないと、焼けてる時があるんだよな」
テッドも頷く。
「そうそう」
一人前であるはずのこの二人も燻製には苦労しているらしい。
ぴーんと来たね。
燻製装置を作ろう!
「じゃ、クラウス、テッド、ありがとう」
「はい、またいつでもいらしてください」
料理長のクラウスとテッドに礼を言い、俺はティーナの屋敷を後にする。その足でさっそく村に戻り、肉を塩漬けにした後で、今度は燻製装置に取りかかった。
「要は、火を使わなければ良いんだよ!」
必要以上に高い温度は燻製にはむしろ邪魔になる。
なら、適度で一定な温度になるよう、ゴーレム発電の電気ヒーターを使えば、解決だろう。
いちいち炭の火加減を確かめなくとも、ゴーレムなら一定速度で動いて、温度も一定になるからな。
装置の容器の部分は例によってストーンウォールの魔術で石造りだ。
モーターとゴーレムを接続して、あっという間に完成!
ガラス窓にして、外から中の肉が見えるのがポイントだ。
アナライザーさんに見てもらいましょう。
【名称】 燻製器
【種別】 魔道具
【材質】 石、鉄、赤邪鉄、銅、エナメル、ガラス
【耐久】 1500/1500
【重量】 40
【総合評価】 BBB
【解説】 錬金術師ユーイチが作った魔道器。
魔力が無い者でも動かせる。
肉が焦げない。
おお、なかなかの高評価じゃね?
肉が焦げないのはいいよね!
まあ、ゴーレムがセットで無いと、延々と発電機のハンドルを回さなきゃいけないから、キツイと思うが。
「ああ、戻ってたか。村長、土台の方、頼むぜ」
ヴァネッサがやってきた。
そう言えば、高床式倉はまだ二棟しか出来ていなかった。
村に保管する麦袋の数は八百袋だそうだから、その倍、八棟は建てておきたい。
収穫量も石灰の肥料の関係で二倍三倍と上がるだろうし。十倍…はねえよな?
ま、その時はまた増築してもらうか。
「むう、すまん、すぐ行く」
「別に焦らなくても、こっちも先に柱を削って作っておいたからな。やることはいくらでもあるぜ」
ヴァネッサも働き者のようだ。俺なら、
「村長がいないなら、仕方ないよねー」
と、ぼーっとして休むところなんだがねえ。
ヴァネッサを手伝い、今日は三棟出来た。
「早いな。いつもこんなにすぐ出来ちゃうのか?」
「バカ言うな。お前とゴーレムが手伝ってるだろうが。普通なら土台無しでも二週間はかかるぞ」
「あー」
「それに、ロイの覚えが早いしな。コイツ、見た感じは不器用そうに見えるが、筋が良いぞ」
「へえ」
意外だ。
一メートル九十センチくらいの大柄な男だが、顔が穏やかなのでそこまでの威圧感は無い。性格も大人しいし。
指も太いので、ぶきっちょに見えたんだが、ジーナ大ババ様のご推薦だしな。
「い、いや、オラは大したことねえだ。姉御の教え方が上手い、と思う」
ロイが笑顔で照れる。
「だが、木の切り方もダルとやらに教わってたそうじゃないか」
「ああ、ちょっとだけだども…」
なんだ、木の切れる奴、いたのかよ。早く言って欲しかったなあ。今じゃ、エリカが専属みたいになってるけど。
木こりの美少女エルフって…。
「じゃ、ロイ、他のみんなも、明日もよろしく」
「「分かっただ」」
翌日、俺は土台だけ用意して、ゴーレムはクロに任せて、別のことをやりに行く。
生クリームの元、乳牛をもらいに別の村へ。
すでにティーナに話を通して、余っている牛を譲ってもらうよう調整してもらっている。
俺のパーティーの魔術チームがいる村なら、アイスウォールなどで冷温にして牛乳を保管・運搬が可能だが、やはり、一番近い自分の村にいた方が手間が省けるものね。
「セルン村の村長のユーイチです」
「ああ、ユーイチ様、お待ちしておりました」
隣村にケインと兵士を護衛に引き連れて行くと、すぐに対応してくれ、村長が牧場主のところへ案内してくれた。
「カール! 連れてきたぞ」
「おお、アンタがユーイチだべか」
体格の良いあごひげの農夫がやってきた。麦わら帽子の似合う男だ。
「失礼だぞ、カール。こちらは上級騎士の御方だ」
「ああ、それは申し訳なかっただ」
「いえ、構いません。それで、乳牛の方ですが」
「ああ。一歳半の、若牛だべ。アイツだ。乳の出も良いだよ。今年の春に子を産んだから、来年の二月くらいまでは乳が出るべ」
あごひげ麦わら帽子のカールが指差すと、予想に反して立派な大人の牛だ。
と言うか、他の牛と見分け付かないけど、この人はタダもんじゃねえな。
「そうですか。えっ? 子を産んだ? 生後一年と六ヶ月で?」
「んだべ。牛とクーボとヤギは、人間や馬よりずっと大人になるのが早いだよ」
「へえ、なるほど」
「連れて行くのはいいが、面倒は誰が見なさるね?」
「ああ、それは僕が」
「牛を飼ったこと、あるだか?」
「いや…無いんですが」
「無いだか…んだば、少し、教えておいた方がええだな」
「はい、お願いします」
近くの村だから、分からないことがあれば聞きに来るなり牛の様子を見に来てもらう事も出来るだろうが、別々の村、最初からおんぶにだっこでもまずい。
「牛は朝に乳を桶二杯に絞ってから外に出して草を食わせてやるだ。夕方も桶二杯。放っておくと乳が張って痛がるべ」
「あー。桶二杯…、ちなみに、桶の大きさは?」
「んだば、来て見るだよ。ちょっと、乳搾りば見せるべ」
「あ、お願いします」
行ってみると、桶は普通の大きさだった。これで二杯となると、何リットル行くんだ?
ペットボトルで三本や四本は軽く行きそうだ。え? それを朝夕二回も?
一日16リットルくらい?
「こうやって、乳首の上から下につまんで絞るだよ」
カールが手本を見せるが、うお…何その機械的な速さ。シャッシャッシャッシャッ、と、乳が凄い勢いで出てる。
「やってみるべ」
「はい」
おっかなびっくり、それでも俺は最近、馬に慣れてきたので、牛でも問題無く乳を握れた。
だが、俺が乳搾りをやると、カールの十分の一のスピードも出ない。
「もっと早くするだ。日が暮れちまうべ」
「うう、後で練習します」
「あとは、夕方に牛を牛舎に入れて休ませてやるだよ。干し草は毎日取り替えて、フンもきちんと取るだ」
「ええ、その辺はロドルや馬で慣れてますから、大丈夫です」
「そうだべか。まあ、後は、分からないことは近くだし、聞いてくれればいいべ」
「ありがとうございます。では、代金の方を」
カールと村長に礼を言い、精算を済ませ、牛をそのまま徒歩で連れて帰る。
「花子~元気でなー」
花子さんだそうです。むう、名前付け替えてもいいかな? せめてハナちゃんで。
乳牛のハナは俺に懐いたのか、引っ張らなくても付いてくるんだよね。
あら賢いと思ったのも束の間、俺のローブをガジガジやり始めた。
「うお、こら、止めろ花子。俺は食べ物じゃ無いぞー! いーやぁー! あーれぇー!」
「ゆ、ユーイチ様!」
護衛の兵士達が慌てて牛を引き離すが、四人がかりでも苦労した。
さすが牛。パワーあるわー。
「この匂いに引かれたのか…」
猫の実をローブの中から出すと、んもーと鳴いて喜んで食べるし。
食われるかと焦ったわー。




