第十四話 パンを作る村長
2016/4/23 ひらがなをカタカナに修正。
一部の家電製品の代替品を作ることに成功した俺は、さらなる村の生活水準を上げるべく、奮闘している。
決して、決して、自分の生活だけを良くしようとしている訳では無いのだ。
お風呂だって、俺が使わない時は、村人に開放したからね。
赤邪鉄を内側に通した石のオーブンも作った。
「と言うわけで、今回、どーしても、改良したいのがパンです!」
俺の工房で、熱意をみなぎらせてプレゼン。この場にいるのは俺とクロだけだけど。
ともかく、この世界のパンと来たら…
固い、マズい、甘くない。
香りも今ひとつ。
上等なパンはそれなりだったが、現代日本で味わっていたパンとは比べものにならない。
特にセルン村のモノは今までで最悪だった。
どんな作り方をしてるのか、見せてもらったが、小麦粉と水を混ぜてこねて、焼くだけ。
そりゃあね。
砂糖、塩、バター、卵、牛乳、イースト菌、ふるいに掛ける、寝かせる、そんな美味しくなる要素をことごとく抜いてるんだから当然だ。
【白砂糖】 …… 見つからないので黒砂糖。
塊になってて削らないと使いにくい。
一キロが100ゴールドだが、いいじゃないか。
【塩】 …… 一キロが200ゴールドだが、そんなに使うわけでも無い。
【バター】 …… 値段が不明。
街では見かけず、ラインシュバルトから少量もらえる。
多分、お高い。
【卵】 …… 十個くらいで一ゴールド。安いじゃん!
【牛乳】 …… 一リットル50ゴールド。今の俺には安いが、保存状態が悪い。
飲んだらお腹壊した。
【イースト菌】 …… 街では見かけない…多分、売ってない…。
【ふるいに掛ける】 …… 目の細かい網が無いので、袋に入れて振り回すか。
【寝かせる】 …… 発酵すると分かってりゃ、誰でもいつでも出来る。
イースト菌をどうするかがポイントだろうな。
「クロは発酵について知ってる?」
「あ、はい。ヨーグルトですね」
発酵の知識はこの世界にもあるようだ。
「パンも発酵できるって知ってる?」
「パンですか? いえ…」
卵と発酵だけでも、大きく変わる気がするんだけどね。
「パンを発酵させるにはイースト菌が必要だ」
「イースト菌…」
「求めの天秤で、ちょっとやってみるか」
子供の頃に母と手作りでパンを作ったことが有るので、イメージは出来る。
左の皿が傾き、イメージのセットは成功したが、右の皿には何も引き寄せられなかった。
探知の呪文で探したが、これも空振り。
「ヌービアで食ったパンが、柔らかめだったんだけどな」
街でヌービア産のパンを探したが、仕入れてもいないという。ま、そうだろうな。
この世界では、輸送手段が乏しいから、地産地消が原則。
ヌービアの砂漠地帯までまた行ってくるのも面倒だし、空振りだと精神的に凄く疲れるから止めておく。
試しにイースト菌無しで、パンを作ってみた。
「ん、まあ、日本製のパンにはほど遠いが、この村のレベルは余裕で超えたな」
柔らかさが足りないが、中までしっかり焼けており、甘みと香ばしさもある。ちょっと塩味が足りなかったかも。
外側がカチカチにならないようにするためには、温度を少し下げればいいのか?
「美味しいです」
クロがニコニコしているのは嬉しいが、この子は俺がまずいパンを作ってもきっと同じ事を言うからな。
「お、旨えな、このパン」
む、ネルロ。勝手に食うんじゃ無い。それにお前、暇そうだな。ちゃんと村の仕事してるのか?
「あ、ホントだ、美味しい! エルの分、もらって行くね!」
そう言うなり、俺が止める間もなく、ベリルもパンを持って行ってしまう。
「むう、ミミに持って行ってやろうと思ったのに」
まあいいか。材料はたくさんあるんだし。また作れば良い。
石のテーブルの上で、クロと二人で生地をこねこね。今度は多めに作った。
「よし、焼くのは夕方にして、他の事をやるか」
「はい」
勝手に食われないようにストーンウォールでテーブルを変形させ、しまっておく。
森の近くに行き、エリカが余分に切り倒して放置している木を、ミスリルのノコギリで切る。
クロもウインドカッターで頑張って板を作ってくれる。
作りたいのはベッドと脱穀用の農機具。あと、風車も挑戦したいが、これは大工がいないと無理だろう。
すでに石のベッドを作ってみたが、夏はヒンヤリしていいけど、冬がね。それに、下にマットのような分厚い物を挟まないと、背中が痛い。
この村では脱穀は全て手作業なので、見ているだけで大変だ。麦を木の棒でひたすら叩き続けているんだもの。
ゴーレムにも手伝わせてみたが、木の棒をすぐ壊すので、使えなかった。
石臼も作ってみたが、脱穀してからで無いと使えないし、籾殻が混ざってしまうのでよろしくない。
今までパンの中の固いつぶつぶは何なんだろうと思っていたが、籾殻だったようだ。
「じゃ、そろそろ時間だから、今日はここまでにしよう」
「はい」
「でも、割と捗ったな」
板が十数枚、できあがっている。杭板を作った時は表面がどこもガタガタだったが、今回は綺麗な面もある。
オーブンを設置した俺の工房に戻り、パンを焼き上げる。
「お、良い匂いがするじゃねえか」
「美味しそうね!」
ネルロとベリルが匂いに釣られてやってきた。タイミングの良い奴らだ。
「ほれ、お前らの分な。きちんとしたのが出来たら、もっと大量に、村人全員分、作るから」
「ええ? これ、きちんとしてるじゃねえか」
「それに、全員分って大変よ?」
「味と言い食感と言い、まだまだだ。それに、オーブンはまだデカくできるからな。ま、気長に待ってろ」
「へへ、楽しみだぜ」
「それは待つけど…」
「じゃ、俺たちは屋敷に戻る。ネルロ、後はよろしくな」
「おう」
ミミの工房に寄る。
「ミミ、そろそろ帰るぞ」
「分かった!」
ミミを連れてティーナの屋敷に戻る。ミミはもう鍛冶に使う道具を一式、作り上げたそうだ。
溶鉱炉が欲しいと言っているが、売りに出てるような物でも無いからな…。
「お兄ちゃん達は、何作ってたの?」
「ああ、今日はパンと、ベッドや農機具に使う板だな」
「そっか、じゃあ、明日は釘も作っておくね!」
ああ、釘もいるよな。頼りになる鍛冶屋だ。くっ、九歳児に負けて堪るか。
夕食の時、俺とクロで作ったパンをみんなに配る。
「へえ、パン作りなんてしてるんだ」
「ああ。あそこの村のは耐えられない味だったからな」
「お、これはまあまあ旨いぞ、ユーイチ」
レーネは舌が肥えてるからなあ。
「旨いニャ!」
コイツは調理さえすれば、たいてい旨いと言い出すし。リムの評価は当てにしない。
「中までしっかり焼けてて、ええ感じや」
ミネアは細かいところまで良く気がつく。
「ん、74点」
ミオも細かいが、適当だろうな。
「フン、どうせクロが作ったんでしょ」
おのれエリカ…。まあ、クロも手伝ってくれたし、俺が作った! とは言いにくい。
「いえ、分量や作り方は全部ユーイチ様が」
「美味しいパンが欲しいなら、ここから持って行っても良いわよ?」
ティーナ…それじゃいつまで経っても村人の生産力みたいなものが上がらないだろ。
しかも、屋敷のパンの方が美味いと暗に言ってるし。くそっ。
「私はユーイチさんの手作りのパンが食べたいです。うふっ」
クレアがそう言うと、なんだか体温、上がっちゃうんだよなあ。
「パンも良いけど、農機具の方、頑張りなさいよ」
リサが釘を刺してくる。分かってるっての。
翌日、材料の分量を変えて、クロと一緒にパン作りに励んでいると、ターバンを頭に巻いた商人と女剣士がやってきた。
「お久しぶりです、ユーイチさん」
「ええと…」
笑顔の商人のほうはどっかで見た事あるんだけど、誰だっけ?
「ルキーノですよ! ほら、エスターンの街の近くで助けて頂いた」
思い出した。ヌービア国で盗賊に襲われているところを助けてやった若手の行商だ。
ポーションと銀細工を扱っている人。
後ろのゴツい女剣士は盗賊に懲りて雇った護衛だろう。
「ああ、ルキーノさん、お久しぶりですね」
「ええ。ロフォールの新しい領主様の名前がティーナ様と聞いて、もしやと思ったんですが、やはりあなた方でしたか」
互いの近況を述べ合う。ルキーノはヌービアとクリスタニア、そしてミッドランドとトリスタンまで、国を越えて往復するような形で行商をしているという。往復だけで四ヶ月かかるそうで結構大変だな。
ヌービアに行くなら、ちょっと頼んでみるか。
「うーん、パンですか…」
だが、俺の要望を聞いたルキーノが渋る。
「ええ。ダメになっても良いから、ヌービアのパンが欲しいんです」
「でも、そんな物食べたら、お腹壊しますよ?」
「まあまあ。食べるわけでは無いので」
欲しいのはイースト菌だ。ヌービア国で食べたパンは柔らかかったし、イースト菌の可能性が有る。
「そうですか。分かりました。では一つ、寄ったときに買っておきましょう」
「お願いします」
溶鉱炉についても聞いてみたが、専門外とのことで、ダメそうだ。それでも知り合いの商人や鍛冶職人に当たってみてくれるという。
ルキーノに高級ポーションを五個売ってもらい、代わりに月見草ポーションを五個買い取ってもらった。
月見草をまた取りに行けば、すぐ作れるし。一個300ゴールドの粗利だぜー。
パン生地を寝かせて、今度は板作りのため、森へ向かう。
「ついでだから、多めに作っておくか」
「はい」
最後に、ファイアウォールで板を少し炙ってやり、すぐ腐らないようにしておく。
「じゃ、……ベッドからだなぁ」
農機具に取りかかりたいが、日曜大工なんてろくにやってない俺は熟練度も低いし知識もゼロ。
簡単な物から挑戦していこう。
板をロドルの荷車に乗せ、俺の工房まで戻る。ミミの工房の隣だ。その隣がネルロとエルの家。
「ミミー、釘、出来てるか?」
「うひゃっ! お、お兄ちゃん!」
慌てて何かをスカートの中に隠したミミ。
「ん? お、おい、何を隠した!」
ミミのお腹がもごもご動いているし。足下に見えてるのは爪?
「何にも隠してないよ! だ、ダメ、出てきちゃ!」
「キュッ!」
体長四十センチくらいの動物がミミから逃れるようにスカートから出てきた。水色のロドル?
ってか、これ、ドラゴンっぽいよね?
念のため、分析してみましょう。
古代水竜の幼生 Lv 1 HP 73/73
【弱点】 炎
【耐性】 水、氷、窒息、恐怖、魅了、麻痺、石化、即死
【状態】 通常
【解説】 神代の上位竜。神々に匹敵する強大な力を持つ。
鱗は鋼鉄よりも固く、爪はミスリルも切り裂く。
知能も高く、魔法も使いこなす。
ただし、幼生時は弱い。
繁殖力が極端に低く、絶滅危惧種である。
「おいぃ…」
なんてモノを連れてくるんだ。普通の動物なら飼って良しと言うところだが、コイツはダメだろう。
育ってしまうと手に負えない。
いや、その前に、コイツの親が取り戻しに来たら…。




