第七話 水源に悩む村長
2016/10/2 誤字修正。
ロフォール領の農村地帯は飢餓で弱り、病気が蔓延していた。
幸い、月見草はたくさん生えていたので、騎士も兵士も総動員して夜中に集めまくり、俺の指導の下、黄色い月見草ポーションを大量生産した。
これを売れば一儲けできそうな気もしたけど、月見草が枯渇してもアレなので、止めておこう。次に病気になったときに、無いと困るし。
「報告します! 不調を訴える村人はゼロになりました!」
「良し! ご苦労だった」
ティーナの執務室で、俺が報告を受けた。ティーナは行動派なので、自分でポーションやパンを村人に配りに行っている。
俺?
怠け者だしね。
ポーションさえできてしまえば、病人はなんとかなるだろう。ならなかったら、出張るつもりだったが、病人ゼロになったし。
それよりも、セルン村を中心として、水源をどうするか、それが喫緊の課題だ。
「森の賢者ぁ、なんか思いつかないの?」
「うるさいわね、今考えてるんだから」
今、ここにいるのは、俺とエリカとミオだけ。クロはケインと一緒に水源探しの旅に出ている。
俺は心が折れたので、もうあのやり方で探すのは嫌なの。クロちゃん頑張って!
「ミオ、天候を操る呪文は?」
「そんな大魔法、水を探すより大変。知るわけ無い」
「むう」
そりゃそうだな。氷系の上位魔法、ブリザードをミオは知っていたが、それも範囲は限られる。
あのだだっ広い畑に水を撒くとか、魔力がすぐ尽きそう。
まあ、麦って水があんまり無くても育つらしいからね。農業用水は後回しにするとして、綺麗な病気にならない生活用水をなんとかしないとな。
「まあいいや、ひとまず、ウォーターウォールで水を作ってくる」
「それだと毎日、作らなきゃいけないでしょうが」
エリカが反論するが。
「魔法使いがローテーションを組めば、四日に一度で済むぞ。あと、冒険者にクエスト出したりな」
「面倒臭い」
ま、俺も同感だ。
「ん、ちょっとその沼地を見てみたい」
「わかった。じゃ、ミオ、一緒に行こう」
「あ、私も行くわ」
「ここの留守番がいないと困ると思うから、エリカは待っててくれ」
「む。フン」
そっぽを向いてしまったが、移動のそぶりは見せないので、留守番してくれるのだろう。
「悪いな、エリカ。一つ借りだ」
「命で返してもらうから」
「いやいや、高過ぎだろそれは。適当になんか返すよ」
「フン! 勝手にすれば」
勝手にさせてもらう。
ティーナの屋敷を馬で出る。俺が前で、ミオは俺の後ろで抱きつきだ。ミオも乗れないことは無いそうだが、俺の方が乗馬は上手いし。
「どうやってあのエルフを手なづけたのか、それを教えて欲しい」
「いや、どう見ても懐いてないだろ」
「ん、すでに調教済み」
「怖いこと言うんじゃありません。聞かれたらエリカが何をするか分からんぞ。それより、ミオ、魔道器とかはどうかな?」
レーネにくれてやった杯の魔道器があったが、アレに似たような、水がいくらでも出てくる桶とか有れば便利だよね。
「あるにはあるけど、高価すぎて向かないと思う。盗まれたら困る」
「うーん」
盗難も心配せにゃならんのか。
この世界って治安、悪いしなあ。
「おお、村長!」
どうやら村人も俺を村長と認めてくれたらしく、見つけて駆け寄ってくる。
「じゃ、みんなに空の桶を持ってくるように言ってくれるか。綺麗な水の配給を行う」
「分かっただ! おーい、皆の衆、空の桶を持ってくるだ! 村長が水をくれるってよ!」
すぐに皆が桶を持ってきたので、ミオと手分けして呪文で水を入れていく。
「ありがとうごぜえますだ!」
「ありがたや、ありがたや」
拝まれてしまった。まあ良いけど。
「ネルロ、ちょっといいか」
「おう! 何だ?」
コイツだけ、やけに元気だよな。
「この村の人が使ってる沼を見たいんだが」
「分かった。案内する。こっちだ!」
「いや、走らなくて良いから」
馬を使い、一時間半かけて、ようやく沼に辿り着いた。
「遠すぎだろ…」
「だが、ここが一番近いぞ」
「ティーナの屋敷の井戸や、ロフォールの街から…うーん、同じくらいか」
「あそこは街の連中が使ってるからな。こっちなら待たずに済む」
「でも、汚い水は病気になるぞ?」
「むう。だが、街の連中は嫌いだ」
「同じ領内だから、仲良くして欲しいが、まあいいや。どれ、ふう」
馬から降りて、背伸び。ミオも疲れたか、背伸び。
そして、沼を見る。
「ふうん? そこまで汚いって感じでも無いな」
「だろう。味はマズいが、飲めないことは無い」
でも、ドブ臭いし。
「ミオ、浄化の魔法ってあるか?」
聖職者のクレアに聞いた方が早いか。
「ん。それより、濾過装置を作った方が良いかも」
「お。くそう、俺より現代人ぽい事を…」
「ん?」
「濾過装置ってなんだ?」
ネルロが聞く。
「砂や布を使って、水の中のゴミを取り除くフィルターにするって言えば、分かるかな? 綺麗な水よりも汚れの粒の方がサイズが大きいから、水だけ通る狭い所を濾してやれ―――」
「なるほど、分からん!」
お前な…。
「現物を見れば、分かるよ。じゃ、街に行って、材料を揃えるか」
「ん」
ネルロは街には行きたがらなかったので、俺とミオで材料を探す。
「スポンジみたいなのが有ればいいんだが…」
「ん、綿で行けると思う」
「ん? ミオはスポンジが何か分かってるのか?」
「海のもにゅっとした生物」
「え? んー、まあ、綿でいいや」
「ん」
綿と目の細かい丈夫な織布と針金を買って、村へ戻る。
「壊れた桶があれば、くれ」
壊れた桶をもらい、底に穴を開け、針金で補強し、型を作る。次に、織布を下に敷き、その上に綿を敷き詰め、さらに目の細かい砂、目の粗い砂の順で詰めていき、できあがり。
「じゃ、水を入れてみよう」
沼から汲み上げてきた水を入れて、その下に置いた桶に濾過されていくのを待つ。
「こんなので水が綺麗になるのか?」
ネルロは信じていない様子だ。
「まあ、最初は泥水になると思うけど、何度かやってれば、少しは行けると思うが」
「ふうん?」
水はゆっくりと染みこんでいるので時間が掛かる。
「ネルロ、待つ間、この村の問題点があれば教えてくれ」
「ううん? そうだな。近頃、野菜の畑を荒らす奴と、北の森でゴブリンが出たと、狩人のブーイが言っていたぞ」
「畑を荒らしたのはゴブリンなのか?」
「いや、そっちは多分、イノシシかキツネだ」
「ああ。じゃ畑は柵でも作るかなあ」
「そうしたいが、木が切れない。良いのを作ろうと思うなら、街まで買いに行く必要がある」
「んん? 木が切れないって、なんで?」
「木こりのダルが兵役に取られちまったんだ。ダルの爺さんもくたばっちまって、うちの村にはもう木こりがいねえんだよ」
「なるほど…それは困ったな。まあいい。木は魔法でなんとかできるかもしれないし、ちょっとやるだけはやってみよう。ダメなら、街へ行けば良い」
「魔法か…俺も使えればなあ」
「魔道器に力を通してみたり、試してみたか?」
「やった。明かりの魔道器がうちにもあるからな。それで村の子供は全員、魔力があるかどうかは確かめるんだ」
「そう」
残念だが、使えない物は仕方ない。ネルロはある程度の木材になればノコギリが使えると言うから、それまでは脱穀の仕事に戻ってもらった。
「この木が良いかな」
「ん」
あまり大きな木はご神木だったりしたらマズいし、持ち運びに困るので、近場で手頃な木を選ぶ。
「風よ、刃となりて敵を切り裂け! ウインドカッター!」
枝や葉っぱが邪魔なので、まずは風の中級呪文で木を攻撃してみる。スパパッと、太めの枝が二本、切れた。
「おお? 結構凄い威力だな」
「ん。風よ、刃となりて敵を切り裂け! ウインドカッター!」
ミオも唱え、枝を一本、落とした。俺よりは多少、威力が弱いか。だが、それは競わなくても良い。
二人で同じ木を攻撃しまくり、枝は全部そぎ落とした。
「こっからだよなあ」
「ん」
真横にウインドカッターを唱えてみるが、太い幹は一発では傷が入るだけで、スパッとは行かない。
「あ、ズレた」
同じ場所に当て続けないと、効率が悪い。
精神を集中させて、切れ込みに重なるようにウインドカッターを出していく。ミオも協力し、四十発目くらいで、木がこっちに倒れてきた。
「うお!」
慌てて左右に逃げる。ふう、二人とも怪我は無し。
「正面に立つと危ないんだな」
「ん、理屈ではその通りなのに、忘れてた」
「ああ」
「おい、なんか凄い音がしたが、大丈夫か? む、おお、木を倒したか」
「最後は上手く行かなかったけどね。反対側からも切り込みを入れておかないといけなかった」
綺麗に切れてない木が倒れている。
「ま、そこを切ればなんとかなるだろう。じゃ、男衆を呼んでくる」
「待った。運ぶのはこっちでやるし、農作業をしててもらって良いよ」
「だが、こんな大きな木を二人で運べるわけ無いだろう」
「それも魔法でやるから。な? ミオ」
「ん、ゴーレムの出番」
「ゴーレム?」
「泥人形さ」
「へえ?」
ネルロはゴーレムを知らないようだった。ミオが準備に取りかかったが、結構時間が掛かる。途中で飽きたのか、ネルロは仕事に戻って行った。
「ミオの名において命ず、出でよ、ゴーレム!」
土と同じ色、焦げ茶色のズッシリした泥人形ができあがった。
「レベルはいくつにしたんだ?」
「10にしてみた。多分、余裕」
「そうか」
「じゃ、さっそく」
ミオが指差してゴーレムに指示を送り、大木を抱きかかえて引っ張る。綺麗に木が切れていない部分に俺のウインドカッターをかまして援護してやり、木を引きちぎった。
「力は凄いな」
「ん、こういうときは役に立つ」
ゴーレムって今ひとつと言う気がしていたが、古代の魔術士もおそらく土木作業用の労働力として作ったのだろう。
そのままゴーレムで木を引きずらせて畑の近くまで引っ張って行くと、村人達が家から出てきて、唖然としていた。
「うお、なんだコイツは」
「ネルロ、これがゴーレムだ」
「ど、どうやって動いてるんだ?」
「まあ、魔力で、としか言いようが無いけどな」
物理法則とかを考えたら負けだ。
「ん、ひとまずこの辺で」
「そうだな。じゃあ、次は、縦に切ってみるか…」
柵の平たい杭を作りたいのだが、ここからは難易度が上がる。
「まず、そうだな。的になる印を入れておこう」
メモの呪文で黒い直線を木に描く。
後はひたすら、ウインドカッター。
「うーん、さすがに綺麗には行かないか」
思ったところより少しズレてしまい、でこぼこになっている部分がいくつか。あと、魔力切れでまだ半分には割れていない。
「ん、また明日」
「そうだな。じゃ、濾過した水がどうなったか、見てみよう」
上の濾過装置をどけて、下の桶を見てみると、意外にも、透き通った水が溜まっていた。
「む、ここまで上手く行くとは」
綿が砂や泥水を上手く吸収して濾過しているようだ。
「臭いも、少し、抑えられてるな」
「ん。成功」
「うん。良くやった、ミオ。後はこれを煮沸消毒して、それで飲料水に適しているかどうか、そうだな、分析の呪文で見てみれば良いか」
ネルロにこの水を煮込んでもらい、チェックしたが、
【名称】 ミネラル飲料水
【種別】 飲料水
【材質】 水
【耐久】 -
【重量】 5
【総合評価】 D
【解説】 必須栄養素を適度に含んだ水。
飲み水に最適。
「嘘だッ!」
「ん?」
だって、元が泥水だぞ? ドブ臭かったし。
細菌の毒素とか残ってるかもしれないし?
「どうしたんだ? ユーイチ」
「いや、結果がちょっと予想外と言うか…念のため、明日、毒物かどうかの判定装置を持ってくる」
トリプルAランクの魔道具、王の燭台なら、信用できる。
「はあ? 毒って、俺たちは毎日、これを飲んでるんだぞ? 毒じゃねえよ」
「いやいやいや」
即死レベルじゃないのは分かってるが、お腹壊すかも知れないし。
村長としては衛生面、特に飲料水の品質にはこだわりたいじゃん?
ついでに、煮沸前の水と、濾過前の水もアナライズしたかったが、MPが2しか残ってないので、止めておく。
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