第三話 バーライン村の村長に学ぶ
2016/11/22 若干修正。
着任を控え、良き村長になるべく、統治機構や納税について色々と勉強していた俺だったが…。
あまりに物を知らないと言うことが分かってしまった。
麦と稲って収穫時期も違うのね。
もうそこからでしたよ。
「お館様、ラインシュバルトの村を視察して実際に農作業を見てみたいのですが」
言う。
「うむ、百聞は一見にしかずとも言うし、それが良いだろう。ティーナはどうする?」
「私も行きます」
「では、午後の指導は休みとするから、リックス、案内をしてやってくれ」
「承知しました。さっそく向かわれますか?」
「「もちろん!」」
ティーナ、俺、リックスの三人で、すぐ近くの村に向かった。
「ま、待ってくれ、ティーナ」
三人とも馬で移動中だが、早足となると俺にはキツイ。
「もう。早くしないと置いていくわよ!」
「なんでそんなに急ぐんだよ…」
早く学びたいという思いは俺にもよく分かるんだがね。本当に置いて行かれるかとヒヤヒヤしたが、ティーナは待ってくれた。
「しかし、剣と冒険にしか興味の無かったお嬢様が、ここまで本気になられるとは。こんなことなら、代官として街の一つでもお任せするようお館様に進言すべきでしたな」
リックスが軽く肩をすくめて言う。
「ううん、でも、前の私なら、断ってたかも」
「ほう。それは、成長ですか、それとも、この男の存在ですかな」
「両方よ。恥ずかしいからこの話は無しよ。それでバーライン村はどっち?」
「向こうです。そこの丘を越えれば、麦畑が見えますよ」
「じゃ、急ぎましょう」
「ええ」
丘を越えると、期待した麦の垂れ穂ではなく、すでに刈り取った後の麦畑がどこまでも広がっていた。
「ここの収穫はいつ頃終わったの?」
ティーナが聞く。
「出陣前にはまだ刈っていなかったので二日三日前というところですかな」
リックスが答えるが、もうちょっと早く来ればなあ。
「そう。惜しかったわ」
「ですが、脱穀など、他にもやることはあります」
「ええ。それを見に来たんだものね」
俺に笑顔を向け、頷くティーナ。こちらも頷き返す。
村長の家に行き、リックスとティーナが事情を簡単に話すと、村長はすぐに快諾してくれた。
「好きなだけご覧下され。それにしてもモンスター退治にしか興味がなかったお嬢様が立派になられて…」
「もう、どうしてみんな私をバカっぽい子だったみたいに感心するかなあ」
それは実際にバカだったからだろ? と突っ込んでみたくなるが、止めておく。
「ユーイチ、何か言いたいことがあればはっきり言いなさいよ」
「む。俺の知っている話に、わざとバカなフリをして周囲の油断を誘っていた人物、幼少時代は大うつけと呼ばれた切れ者がいてね」
「ちょっと、私のはそう言うことじゃ無いから。それより、農作業」
「こちらですじゃ」
村長が建物の中に案内すると、そこで若夫婦と老婆が三人で脱穀を行っていた。細長い二メートルくらいの鉄製の櫛に、麦の穂を差し込んで、引っ張り、さらに落ちた麦穂を木の棒で叩いていく手作業。
延々と同じ作業を農民達はやっていた。脱穀する機械とかがあれば楽なのにね。
「これを一日やって、どの程度、仕事が捗るの?」
ティーナが質問する。
「そうですな、一日、二袋行けば良い方でしょうな。半月は掛かります」
「うわあ。私はこういう仕事はちょっと無理かも」
俺も。
「お嬢様は領主様ですからな。脱穀が終わったら、水車で引いて粉にします。そちらも見て行かれますかの」
「ええ、是非」
今度は水車に案内してもらった。小川に身長より大きな水車が設置されており、小屋の中では石臼が回っていた。
「ここは人がいなくて良いの?」
「仕掛けておけば一時間は放って置いてもいいですじゃ。時々、こうして刷毛で寄せてやって、楽なもんです」
「へえ」
「危険ですから、あまり近づかれますな」
リックスが注意する。
「ええ。分かってるわ。これは一日でどれくらい?」
「一日で半袋と言ったところですかの。楽ですが、時間は掛かるので、もう三つ、向こうの水車にも仕掛けてありますじゃ」
「なるほどね。水車の数で稼ぐんだ」
「ええ。修理となると大事ですが、有ると無いでは大違いですからの」
スレイダーンの、いや、すでにミッドランドの領有となったのだから、ミッドランド国ロフォール領と言うべきか。あっちに水車が無いようなら大工を雇ってでも作ろう。多分、有るだろうけどね。
「この小川の水を畑に水路で通しているわけね?」
畑の端に真っ直ぐな水路が通っているが、人力で作ったのだろう。スゲえな。ずっと向こうまでキロ単位で続いてるし。
「麦は水が無くても育ちますがの、水をやった方が育ちが良くなりますでの。今も通っていない水路を暇を見てはこつこつと作っておりますじゃ」
「ああ。一つの畑を囲むのにどれくらいかかったの?」
「さて、昔から有るもんで、どれくらいですかのう。ワシの祖父の代であの辺だったから、三代で畑半分と言ったところですかの」
「うわ、そんなに掛かるんだ…」
「すぐに必要なものでも無いですから、たまにしか作ってないんですじゃ。他にすることがたくさんありますから」
水路には感心させられたが、他に農夫達がやっていることも俺たちは知っておきたい。
「ティーナ、ここはもう良いだろ? 引いた小麦粉をどうするのか、その辺を」
「そうね」
「引いた麦粉は、麻袋に詰めて、湿気に弱いですからの、石倉の下にスノコを敷いて保管しておりますじゃ。あっちです」
石ブロックで組まれた建物に向かう。湿気対策なら木造の方が良いと思うが、雨漏りがネックになるかな?
疑問に思った事は聞いてみるか。
「これは木造じゃダメなんですか?」
「なんの、それではネズミが入ってしまいますぞ」
「ああ、なるほど…や、失礼」
「ユーイチって農夫の子だと聞いたけど、あんまりその辺は知らないのね」
「うう、無知でごめんよ…」
「………」
リックスが無表情で俺の顔を見ていたが、密偵説が高まってるんだろうなあ。やれやれ。
「これが引き終わった麦粉ですじゃ」
石倉に袋がいくつも置いてあるが、積み上げてはいない。麻袋の耐久力が問題なのかな。
魔法で分析してみる。
【名称】 麦粉入りの麻袋
【種別】 穀物
【材質】 麦、麻
【耐久】 87 / 100
【重量】 40
【総合評価】 D
【解説】
生きていく上で必要な食料。
パンやオートミールに調理して食す。
保管に際しては、湿気、臭気に弱いので注意が必要。
麻袋を持つときは手袋をしないと怪我をしやすい。
お。
「村長、麻袋は手袋をして運ばないとダメですよね?」
「ええ、そうですじゃ。そうしないと手を切りますからの」
「へえ、そんなこともあるんだ。さすが、農夫の子ね」
「ふむ」
これで疑いは少しは晴れただろう。
「ところで、この葉っぱはなんなの?」
麻袋の上やスノコのしたに敷いてある大きめのカエデのような葉っぱ。俺も気になる。
「それは湿気取りと虫除けになるんですじゃ。これが昨日入れた方で、こっちは先月、比べてみなされ」
村長が葉っぱを取ってきて、ティーナに渡す。
「あ、こっちはぶよぶよね。膨れてるし、水を吸ってるわ」
俺も触らせてもらう。確かにこっちは水を吸って分厚くなり、内側がぶにょっとしている。ただ、外側の表皮が硬いので、ちょっと触ったくらいで水は漏れない様子。
さっそく分析
【名称】 水吸い草
【種別】 薬草
【材質】 植物
【耐久】 57 / 60
【重量】 1
【総合評価】 E
【解説】
湿気や臭気を内部に溜め込む性質のある草。
切れ目を入れても水が出にくいので、
水筒のような使い方はできない。
虫を寄せ付けないので、穀物の保管に役立つ。
膨れ上がって黄色に変わると、
それ以上の水分を取らないので、
三ヶ月程度で交換が必要。
生えたときには水を吸っておらず、緑色。
表皮が硬いので、食用には向かない。
便利だわー。
こんなのがあると、下手すると現代日本より品質管理が良くなりそうだが、あのパンの硬さとまずさはなんなのかね?
調理に問題があるのかなぁ。
「ありがとう、村長。勉強になったわ」
「なんの、お嬢様のお役に立ったなら何よりですじゃ」
石倉を出る。少し離れたところに同じ石倉があった。
「向こうの石倉も同じ?」
「いや、向こうは脱穀前の麦を入れております」
「ああ」
鉄製のタンクやサイロはこの世界の建築技術では難しいんだろうな。いや…王都とか六階建てが有っただろ…城も凄いレベルだし、なんか差が激しいんだよなぁ。
「配送はどうするの?」
「ロドルを使いますじゃ。こちらへ」
厩舎には四匹の大トカゲが飼われており、荷車も見せてもらったが、それは普通だった。
「そ。ありがとう。他に何かあるかしら…麦を納めた後は何をするの?」
「収穫祭の準備ですじゃ。それが終わったら、干し草を集めて、耕して、冬蒔きの種蒔きをやります」
「忙しいのね…」
「暇なのは雪が積もったときと、雨が降ったときくらいですかの。はっはっはっ」
「村長! どこ行った!」
「む。なんぞ有ったかの。ここじゃ!」
すると大きな弓矢を持った男が走ってきたので、一同に緊張が走る。
「むっ、こっちの御方は誰だ?」
男が俺たちを見て怪訝な顔になる。右手には仕留めたらしい鳥を掴んでいるが、猟師かな。刺客とかでは無さそう。
「何を言っておる。ティーナ様の顔を忘れたか、ベルガ」
村長が言う。
「おお、ティーナ様だったか。いやー、随分と大きくなられたもんだ」
「あ! そう言えば、一度、あなたと狩りに行ったわね!」
知り合いだったようでほっとする。リックスも柄から手を離した。
「行きましたが、熊を狩らせろってこのくらいの娘っ子が言うんだから、あの時は困りましたよ。鹿とピロピロ鳥で何とかなだめて帰ってもらったが」
「む、それは初耳ですぞ、お嬢様」
護衛無しで行ったんだろうし、お目付役であろうリックスも見過ごせまい。時効だろうけど。
「権力を笠に着て領民を困らせるとか…予想以上のやんちゃ姫だな」
ちょっとからかっておく。
「あ、あれは小さい頃の話で、もう良いでしょ! あと姫じゃ無いし!」
顔を赤くしたティーナは慌てて火消ししていたが、最後には猟師のベルガに謝っていた。




