第十六話 望外の褒美
2016/11/22 誤字修正。
アーサーとの一騎打ちに運良く勝利した俺。
セバスチャンにはめられた気がするが、二度と一騎打ちはやらないぞ。
でもまあ、アーサーも素直に引き下がってくれたし、ティーナも無事に婚約解消ができて良かった。
幸せになれそうに無い結婚ってのもね。
あと、ほ、ほっぺのチューがね…にょほっ!
いかん、そんな事を考えている場合じゃなかった。
ここはミッドランドの王城の待合室。
ロフォール侵攻作戦の中で敵国の王子を捕らえるという大手柄を上げた俺は、国王陛下直々に褒美を賜る手筈になっている。
まあ、ご褒美は嬉しいと言えば嬉しいんだけど、いちいち緊張を強いられる謁見なんて、出来ることなら遠慮したいところなんだが。
そうも行かないからねえ…。
「時間になりました。こちらへ」
王宮の官吏がやってきて俺たちを呼んだ。今回は騎士である俺の手柄ということで、俺と付き添いのティーナだけが謁見する。他のみんなは俺の部下と言うことになっているので、以下略ということのようだ。ちょっと申し訳ないと言うか、羨ましいぜと思うが、仕方が無い。みんなは王宮に来たがらなかったし。
「じゃ、行きましょう」
「ああ」
広間へ向かう。巨大な両開きの扉を再び通って、赤い絨毯の道を進む。
「おお」
「例の奴隷だ」
「大手柄と聞いたが、本当なのか」
「大方、ラインシュバルト家が裏で段取りしたのであろうよ」
「オズワード卿の領地で足りぬと申すか」
「そうまでして家を大きくしたいとは、名門の名が泣くな」
「滅多な事を言うでない。白き竜の一派に睨まれたら、終わりぞ」
集まっている騎士や貴族がひそひそ話を始める。
気にはなるが、王の手前、無視しないといけないルール。それを知っていて、集まった貴族達の方も好き勝手言うらしい。ただし、特定されたらタダでは済まないので、野次とまでは行かないという。
案内人に先導され、玉座に近いところで、跪く。
「ラインシュバルト卿、卿は呼んではおらぬ。下がれ」
王の脇に立つオーバルト宰相が言う。
これはちょっと痛いが、想定内。ティーナの褒賞の場では無いし。
もし説明を求められたら、元奴隷の俺とパーティーを組んで懇意にしているから、粗相の無いように…とかなんとか言ってその場に居座り俺に助言する予定だったのだが、仕方ない。
「はっ、失礼致しました」
ティーナも弁えているので、ここは抗弁せずにさっさと下がった。退出はせず、貴族が立っている列の最前列に割り込んでいるはず。
「うむ、良いぞ」
「陛下のお許しが出た。面を上げい」
「ははっ」
「陛下、此度の戦を率いた大将軍のアーロン卿によれば、スレイダーンの王子を捕らえたのは、この者の部隊とのこと。アーロン卿の統率とカーティス卿の策略も見事ながら、それを成功させた騎士ユーイチの武芸も誉れ高きものかと」
宰相が俺の戦功を国王に報告した。
アレを武芸と言うと世界中の剣士が怒りそうだが、冗談でも突っ込める場ではないので、神妙な顔で黙しておく。
「うむ。スレイダーンとの交渉はそなたらの働きにより、実に上手く行った。兵の損失もほとんど無しに砦を一つ取ったのだ、ここは手柄を立てた者を厚く報いて当然であろう」
「おお」
貴族達のどよめき。
「御意。アーロン卿より、騎士ユーイチに陛下のご高配を期待する推薦状も届いております」
またどよめき。
「うむ。通例ならば、位を一つ上げて済むところであろうが…」
「は。しかし、騎士ユーイチは、先日陛下の温情を賜り、騎士となったばかりにございます」
やはりそこがネックになるみたいね。そうポンポン地位を変えられないだろうし。ま、いいんですのよ? 金貨や宝玉だけでも。剣は止めてね?
「お待ち下さいませ! 宰相閣下!」
「無礼な、謁見の最中に口を挟むなど、名門貴族であろうと憚られようものを。卿に意見は求めておらぬぞ、エクセルロット卿」
聞いた声だなと思って振り向くと、あの金髪、縦ドリルのお嬢様だった。オズワードの城の晩餐会で、おーほっほっほっと高笑いしていたティーナのライバルっぽい人。
「その点についてはお許しを。ですが、つい先日まで奴隷であった者を、ラインシュバルト家と懇意という理由で厚遇なされば、公平さに欠くと思いまして」
「それは邪推というものだ、エクセルロット卿。これがラインシュバルト家の采配や推薦であれば、そのような疑いも出てこようが、今回の作戦にラインシュバルトは関わっておらぬぞ」
宰相が否定した。
「は、ならば余計な事を申し上げました。お許しを」
待ったを掛けた割には、あっさり引き下がっちゃうのね。高笑いもしてないし。
「ま、物言いの一つも言いたくなるであろうな」
国王がニヤッとして言う。
「だが、褒賞は褒賞だ。ユーイチよ、そなたを上級騎士に任ず。並びに、領地を一つくれてやろう」
むむっ? ティーナの見立てだと、運が良ければ男爵の爵位と領地、悪くても上級騎士と貴重品ということだったが、実質的にこれは男爵レベルのご褒美かも。
でも、領地はもらっても嬉しくないん…。貴重品かお金が良かったなぁ。
「な、なんと!」
「それでは爵位と同じ事ではないか…!」
「信じられぬ!」
うわ、後ろが騒ぎ出した。
「静まれ! 謁見の最中なるぞ! 静まらんかっ!」
宰相が声を裏返しながら叱り飛ばす。出たよ、プルプル唇。ヤバい、噴き出して笑っちゃいそう。た、耐えろ、俺。
「陛下、お考え直しを。こ奴は先日まで奴隷だったのですぞ?」
太った中年の貴族が前に出てきて言う。なんか、あくどい顔だなあ。
「ディープシュガー卿、陛下もその点はご理解された上での話であるぞ」
「いやいや、領地となれば、税務大臣として黙っておれぬ。この者に統治や徴税ができるとお思いか?」
税務大臣か。要職だろうな。日本で言う財務大臣あたりの。
「ディープシュガーよ、そう慌てるな。与えると言っても村一つ、それに、ラインシュバルトを後見に付ける。それなら、其方の手を煩わせることもあるまい」
国王が言う。
「むむっ、しかしですな…」
「陛下、ディープシュガー侯爵閣下の懸念ももっとも、ここは―――」
キノコを思わせる髪型の若い貴族も笑顔で前に出てくる。うーん、なんか収拾付くのか、これは。
「下がれっ! 下郎! 伯爵ごときが口を挟める場と思うてか!」
うおっ、宰相の態度も、地位でがらっと変わるんだな。上級騎士になったけど、俺は絶対に黙っておこう…。
「も、申し訳ございませぬっ!」
「あらあら、ディープシュガー卿の腰巾着は随分と態度が大きいですわね。侯爵気取りとは」
ここぞとばかりに縦ドリルが嫌みを言うが、なんか嬉しそう。
国王が静まれという感じで、右手を挙げた。皆、押し黙る。
「いささか不満もあるようだが、これは余の決定である。よいな」
「ははっ!」
「む…」
ディープシュガー侯爵は渋い顔をしていたが、一礼して下がっていった。
「さて、ラインシュバルトよ、聞いての通りだ。この者の後見となり、納税が滞り無く行われるようにせよ」
「はっ! 仰せのままに」
「それから、先の加封の件であるが、そなたにロフォール砦を与える」
「えっ」
ん? そこって俺らが戦った敵地だよね。最前線だし、オズワード侯爵領やヌール子爵領と比べるとかなり質が落ちるのでは?
他の貴族も水を打ったようにシーンとしてるし、何この雰囲気。
「ユーイチもその地を加封とし、村を一つ、与えておくのだ」
え? 俺も…。うええ。
「オーバルトよ、ラインシュバルトの娘は、嫡子では無かったな?」
国王が宰相に確認した。
「は、嫡子は長男のルークと聞いております」
「よし、ならば、ラインシュバルトよ、そなたを子爵に任じよう。見事、ロフォールを治めてみせよ」
「…は」
ティーナの声が小さい。後ろのどよめきは大きいけど。
「心配には及ばぬぞ。条約を取り付け、三年は彼の地で戦はせぬ取り決めだ。その取り決めが破られた場合でも、王軍を出して守ろう」
「はあ、お言葉ですが…」
「ならぬ! 陛下が王軍をもって領地を安堵すると仰せであるぞ、感謝申し上げるのが筋であろう」
宰相はそう言うけど、あんまり美味しくない領地じゃあねえ?
「は、ありがたき幸せ」
「前線ではあるが、ラインシュバルトであれば、治められよう。それから、オーバルト、ユーイチは王宮直属であったな?」
「は、左様にございます。今はラインシュバルト家に貸し出しということになっておりますが」
「ふふ、喜べ、ラインシュバルト。ユーイチはそなたにくれてやる。ラインシュバルト子爵の直属とするが良いぞ」
「えっ! そ、それは、困り…いえ、そこまで頂いては、過分にございます。役に立つ者にて、陛下の手元に置かれますよう」
「ふん、陛下のお側には親衛隊がおるわ。奴隷上がりの騎士など、王宮にふさわしくも無い」
税務大臣がそう言ったが、そういう理由なのかね。
「ディープシュガーよ、それは口が過ぎよう。余が上級騎士に任じたのだ。大手柄を立ててこそ、騎士にふさわしい」
「は、騎士は左様にございますな。これはご無礼を。良かったではないか、ラインシュバルトの娘よ。卿もその騎士に入れ込んでいると聞いたぞ? ライオネルに捨てられて、行き遅れるかとワシも心配であったが、家臣ならば好き勝手できよう。ふふふ」
「くっ! ライオネル卿には私から婚約解消を申し出たので、誤解無きよう。それに、ラインシュバルトでは家臣を大事に致しております故、どこかの家のように好き勝手は出来ませんが」
「むっ、それはどう言う意味だ?」
「よさぬか、二人とも。ディープシュガーよ、ロフォールでの徴税に関しては、三年は無税とせよ」
「なんと! 陛下、いくら手に入れたばかりの領地とは言え、今回はさほど戦乱の影響は無いはず。せめて調査した上で」
「ふむ」
するとオーバルトが陛下に何やら耳打ちする。ずるいなー、自分だけは陛下に物言いができるじゃん。って、一番上の宰相か。
「よし、ならば、無税は一年とし、調査して充分な税が取れる状態であれば、二年目三年目でも徴税とする。以上だ」
そう言うなり立ち上がって、玉座を後にする国王。物言いは受け付けないぞという意思表示だろう。
これから面倒になりそうだ…。




