第十五話 必殺技
描写軽めですが、刃物による重傷と流血が有ります。
2016/11/22 若干修正。
ティーナの婚約解消を賭けて、俺とアーサーとの一騎打ち。
それを魔法禁止でやってるんだが、なんでだろうね?
だが、アーサーの剣の動きはもう見切った。
俺の熟練度成長速度87倍を舐めないで頂きたい。
アーサーが十回斬り込めば、それだけで870回の回避練習をやったことになる計算だ。
もう軽く百回は超えてるし。
運動神経が相当低い俺でも、八千回も練習すれば、体も付いてくる。
アーサーだけじゃ無くて、今までの積み重ねもあるしね。
なので、反撃の隙を窺い、頭で動きをシミュレーションしておく。あのアーサーの鎧はかなりゴツいから、少々のことではダメージが入らないだろう。
アーサーは反応も技量もかなり良いから、カウンター前提で作戦を立てておかないとな。
斬って逃げ切るまでがヒット&アウェイだぜ。
よし、パターンも見切った。
ここ!
「ぐっ!」
ヒットぉ。もう一丁!
スカッ。
あれ? もう一回!
スカッ。
う…。
最初は油断しててくれたから当たったが、当たる気がしない…。
「あっ! 攻撃の練習、忘れてたぁ…」
おいぃ。ティーナ先生ぇ…。
どうすんのよ、このおバカ!
と言うか、俺も避けることばっかり考えてたわ……。
「ふふ、ははは、勝った! やはり魔術士、攻撃はてんでダメだな!」
むう…。
魔法さえ使えりゃあなあ。
まあいい、最後まで全力を出して負ければ、ティーナも俺に八つ当たりはすまい。
……しないよね?
いい加減、ギャラリーも飽きてきた顔だし、もうかなり長い間、一騎打ちをやっているから、俺も精神的にキツイ。前衛チームのみんなはホント凄いわ。
ここは命のやりとりでも無いんだし、果敢に攻めていく。
「そんな攻撃で! くっ、当たれ!」
双方の攻撃が当たらない。
「む! ふん!」
急にアーサーの肩が俺の胸当てにぶつかってきた。
「ぐえっ!?」
まさか、体当たりとは。油断したぁ…。
「あっ! ずるい」
ティーナも思わず言う。
「いや、ずるくは無いだろう! 審判!」
過剰に反応して審判に裁定を仰ぐアーサー。
「ええ、体当たりも禁止ではございません」
「ほら見ろ。よし、こうなったら、剣術などどうでもいい。とにかく倒す!」
わあ。剣士としての矜恃はどうした! アーサー! 君はそんな奴じゃ無いはずだ!
でも、そろそろ終わらせて欲しいのよね。腕もだるくなってきたし、サロン草を鎧下に予め装備してたんだが、限界が来ている。
「そこだ!」
「ぐっ!」
アーサーは斬撃で上手く俺を誘導して回避させ、そこに思い切り体当たりしてくるので、厄介。痛いし。
「やり返すニャ!」
リムが簡単に言ってくれるが、こっちはカバーの範囲が狭い胸当て、向こうの半身鎧はカバーしている範囲が広いから、こっちの方が多くダメージ食らうだろう。
とにかく、見切ってと。
よし、避けた。
「くっ。この回数で見切っただと? いや、そんなはずは」
ふふふ。体当たりは見える範囲が大きいし、タイミングさえ分かれば、見切るのはそう難しくない。
それに、アーサーの戦い方って、型にはまってる感じで、俺たちとちょっと違うのよね。
モンスターよりもさらに単調というか。
「アーサー様! 攻め手が素直すぎます。フェイントを入れて下さい」
「むっ」
「げげ」
うへっ、本当にフェイント入れて来やがった!
誰かあの青ビキニアーマーを黙らせて!
「なるほど。やはり素人か。これで決めてやる」
「ひい!」
何とか躱そうとするが、フェイントを挟まれると、タイミングがさっぱり掴めなくなった。
「ぐえっ!」
うう、今のは効いた…。
チラッとセバスチャンを見るが、レフリーストップは無い様子。
大丈夫? ちゃんと俺のHP見てくれてるよね?
それとも、やっぱり自分で降参しないとダメかな。
ティーナを見る。
「むぅ」
それで分かってくれたようで、渋々だが、肩を軽くすくめて仕方ないわねのポージング。
「こうさ―――うわっ!」
降参と言おうとしたのに、突っ込んで来やがるし、待って! 待って!
いった!
ズブッ。
「ん?」
何だ今の音。
「ぐあっ!」
え? うえ、俺の剣が、アーサーの喉元から刺さっちゃってるし。体当たりでちょうどやっちゃったか。
「む! それまで! 失礼致します」
凄い勢いでセバスチャンが割って入り、俺の剣を引き抜いた。
うえ、凄い血が。大丈夫か、これ。
「か、かはっ」
お、おい、死ぬな。
ぽ、ポーション、うえ、無いや。
持ってると勝手に使うでしょ、なんてティーナが取り上げるから。
「誰か、ポーションを!」
「いえ、私が持っておりますので。これを、さ、アーサー様、お飲み下さい」
セバスチャンが懐からさっとポーションを出した。出来る執事だ。
「む、無理だ」
「飲まぬと、致命傷ですぞ?」
「! くっ、ごぶっ、ごほっ、んぐっ」
血を吐きながらだが、何とか、飲んだ。セバスチャンは、布で首の出血部分を押さえつつ、器用に左手で新しいポーションを出してそこに振りかける。
「アーサー様!」
「しっかりして下さい!」
アーサーのお付きの二人、青剣士と赤魔術士が青ざめつつ必死に声を掛ける。
「クレア! 頼む」
「はい」
「いえ、もう安心でございます」
ふう…。
「気を失っておられるだけです。そのまま治療室へ運びましょう」
セバスチャンがお姫様だっこでアーサーを城の中へ運んでいく。お付きの二人が付いて行ったが、まあ、俺が行くと揉めそうだし、止めておくか。
「良くやった!」
「うえっ!」
バシッと、レーネが背中を叩くので、よろける。
「ちょっと、レーネ! クレア、回復を」
「ええ」
クレアが俺の頬に手を当てると、暖かな光が包んでくる。無詠唱か。
「これでいいでしょう。まだ痛みますか?」
「いや、大丈夫、ありがとう」
「いいえ、ふふっ」
「ユーイチ様! うう、ご無事で、うう」
「ああ、クロ、大丈夫だったから」
ナデナデ。
「さっきの、狙ったの?」
ティーナが聞いてくる。
「まさか。俺は降参しようと思って、言いかけたところだったんだぞ。偶然だ」
「そう。ま、そうでしょうね。慣れない体当たりなんてやってるから…」
「ティーナ、そこはユーイチを褒めてあげなさいよ」
リサがもっともなことを言ってくれる。
「あ、ああ、ごめんね。うん、ありがとう。じゃ、ご褒美のキスね。ちゅっ」
うお…!
△※○□◇■!!!
「んん? ユーイチが固まったニャ」
「あはは、可愛いなあ。顔が真っ赤や」
おおう、ほっぺたでこの威力。
うおおおおおおおお!
生きてて良かったああああ!
気がつくと、アーサーが戻って来ていた。
うえ、また再戦とかしようなんていわないよね? ひいい…。
「ああ、もう平気?」
ティーナが聞く。
「ああ、心配を掛けた。いや、みっともないところを見せたな」
「それは気にしてないけど、約束は覚えてるわね」
「ああ。僕も、親衛隊に加入していたことで、少し、驕りが有ったようだ。実力はそれほど…いや、実力だろうな。ユーイチ、君のレベルはいくつなんだ?」
「ああ、36です」
「むっ、僕より9レベルも高いのか。そりゃ躱されるわけだ」
アーサーはレベル27か。結構高めじゃん。誰だよ、温室育ちのお坊ちゃんとか甘く見てたの。
俺だよ…。
「ええっ? アーサー、そんなに上げてたの?」
ティーナも驚く。
「まあな。親衛隊の先輩方にはしごかれるし、キツイとは聞いていたが、あれほどとは思わなかった」
「そう。親衛隊かぁ」
「興味があるなら、僕が推薦してやろうか?」
「ああ、いえ、私はあまり堅苦しいところはいいわ。貴族が多いんでしょ?」
「半々と言ったところか。下っ端はともかく、隊長クラスは実力者揃いだ」
「でしょうね」
「じゃ、僕はうちの城に帰るよ」
「ええ、気を付けて」
「そっちもな。婚約の件は僕から父上に言っておく。叔父上様のお話でもあるし、ひっくり返されるということは無いだろう」
「そう願いたいわね」
「ああ。じゃ」
しつこく食い下がるかと思ったが、アーサーはどこかスッキリした顔で去って行った。
夕食後、セバスチャンがいたので、手招きする。
「なんでございましょう、ユーイチ様」
「アーサーの強さなんだけど」
「おお、その事でございますか」
「すっごい強かったじゃん。普通にやったら俺が負けてたじゃん」
「はて、良い勝負になるとは思いましたが、勝ち負けのお約束までは致しておりませんが」
しれっと言うジジイ。
汚ぇ。あの場面であんなニュアンスで言われたら、そう思うだろ!




