第十三話 招かれざる客
2016/9/28 数行ほど修正。
ティーナの父は別段、俺を疎ましくは思っていないようで、ちょっとほっとした。
セバスチャンが強烈すぎたせいだろうなあ。
誰の命令で動いてるんだよ、アイツは。
「では、君たち、これからもティーナと仲良くしてやってくれ」
「もちろんニャ!」
「「「はい」」」
「ティーナ、ユーイチ、二人とも着替えたら、私の部屋に来るように」
げげ? もしかしてこれからが本番?
「お父様が聞きたいような話は、だいたい話したと思うけど」
「婚約の件だ」
「ああ…」
俺とティーナは視線を交わして頷き合ったが、ま、ここで拒否という選択は無いだろう。認められるかどうかはともかく、ティーナの気持ちなりなんなり、きちんと話し合っておいた方が良いと思われる。
「じゃ、後で、ユーイチ」
「ああ」
再びメイドに裸にされて普段着に着替えた俺は、そのメイドの一人に案内されて、ティーナの父の部屋に向かった。
こういうときに限って、セバスチャンじゃないし。
「ユーイチ」
廊下で待っていると、ティーナがやって来た。
「基本的には私が全部話すから、あなたは聞かれたことには正直に答えて。お父様がどう決めるかは分からないけど、これ以上、あなたに迷惑は掛けられないし」
「俺の方は別に良いんだが、まあ、分かった」
あまりお芝居をやっていると、ティーナの母のように本気にして、先走りそうだしな。
頷いて、ティーナがノックする。
「お父様、私です」
「入りなさい」
俺と連れだって、ティーナが部屋の中に入る。
「なっ!」
だが、中に入るなり、驚きの声を上げた。
無理もない。
そこには形式上のフィアンセ、アーサー=フォン=ライオネルが笑顔で待っていた。
「お父様、これはどういうことですか!」
執務室らしきその部屋の、大きな机の席に座っている父親に対して、詰問するティーナ。
「まあ、落ち着きなさい。君が婚約を解消したがっていると言うのはもう聞いたが、アーサーが謝罪してやり直したいと言って来たからね。場を設けさせてもらった」
「むぅ。何度謝られても、もう気は変わりませんから」
「そう言わないでくれ、ティーナ。僕が悪かった。君の大切にしている仲間を侮辱した件については、正式に謝罪する。ユーイチ君、君にも、酷い態度だったと反省しているところだ。済まなかったね」
アーサーが俺に対しても謝ってくるが、本心とは思えないんだよなあ。だって、あれだけ激しく俺を忌避してたのに、そう簡単に好き嫌いって変わらないでしょ?
「それ、つまり、私の仲間だから、態度を変えたってことよね?」
「当然だ。君が大切に思っている物を婚約者である僕が受け入れないと言うのは狭量だと父上に諭されてね」
「ふう、自分で反省したってわけでも無いんだ…そうやって親の言いなりであなたはいいの? アーサー」
「もちろん。僕はライオネル家の一人っ子だからね。家督を継ぐのに、好き勝手は出来ないし、父上に学ぶことも多くある」
「んん? イライザはあなたの妹じゃ無かったの?」
「ああ、イライザは平民の落胤だからね。彼女は家督には無関係だ」
「そう。あなたにとっては家督が第一で、私が嫁いだらライオネル夫人としての役割を望むのね?」
「その通りだが、もちろん、ラインシュバルトの流儀も僕は受け入れるよ? ユーイチを一緒に連れてくると良い。子供が成人するまでは一緒に冒険というわけにも行かないだろうけど、跡継ぎさえしっかりできれば、三人でダンジョンに潜るのも良い」
「それって、私である必要があるのかしら?」
「…どう言う意味だい?」
「あなたはライオネル家の跡継ぎとパーティーで脇に立つそこそこ名の知れたご夫人が欲しいだけでしょう?」
「いや、もちろん、幼なじみで気心知れた君が一番だと思ってるし、君は美しいからね。僕に一番ふさわしい女性だよ」
「お褒めの言葉と受け取っておくけど、ごめんなさい、やっぱり、あなたとは結婚できそうに無いわね」
「む。何が気に入らないんだ」
「全部よ。考え方にしても私の役割にしても。あなたにはもっとふさわしい貴族のお嫁さんがいると思うわ」
「…僕がユーイチに劣っていると?」
「そうは言ってないでしょう。私は、貴族や家のことだけじゃなくて、個人としての私を見てくれる人と結婚したいの」
「いや、見てるじゃないか。君が剣術の鍛錬をしてるのだって知ってるし、ルークと仲が良いのも知ってるし、嘘や不正が嫌いなのも知ってる。君が誰にでも優しい事も知ってるし、好奇心旺盛で思いついたら即実行ってところもね。ほら、子供の頃に森深くに僕と出かけて迷子になったこともあったじゃないか」
いいなあ幼なじみポジション。素直になれない幼なじみが見知らぬ奴と婚約しちゃって、追い詰められた主人公が本気を出すパターンだな。俺とティーナが結婚式を挙げたら、式の最中に花嫁を連れ去られそうで、うわー嫌だー!
「ああ…そんな事も有ったわね」
「ユーイチは君のことを見てくれているのか?」
「ううん、そこにユーイチは関係ないと思うし、比べるのはどうかと思うんだけど」
「では、なぜユーイチと将来の約束をしたんだ? 僕に対する当てつけかい?」
「それは違うわ。それについては、私もあなたに謝るけど、ユーイチと結婚しなくても、あなたとの結婚は無いから」
「む。他に誰かいるのか?」
「そうじゃないって…」
アーサーは自身が気に入られてないというのが感覚的に分かっていない様子。有る程度、妥協すれば良いだろうと高をくくってる感じだ。
「叔父上様、どうなのですか?」
アーサーが今度はティーナの父に顔を向けて問うが、そんなティーナと付き合ってる男はいないから。強いて言えば、ルーク。ハッ! え? そうなの? ティーナ。えー…。
「むむ、いや、私が調べた範囲では、親しいのはユーイチだけだ」
「調べたって、どういうことよ、お父様」
「むっ、いや、オホン、聞いた話ではと言うことだ」
「ふうん? どうせザックや人を使って、色々聞き回したんでしょ?」
「ザックは君の護衛にと思っただけだ。後は君の居場所を突き止めようと思っただけで…」
「ホントかしら?」
「むむ…いや…」
おっと、お父様が追い詰められております。そりゃ娘のことが気になるだろうし、俺の事も調べまくったに違いない。俺がお父様の立場なら、愛娘に近づくなと警告してちょっとビビらせるところだな。
む…セバスチャンをけしかけたの、やっぱり、この人だろ…。
「待った、ティーナ。君が家出して、家族が心配するのは当たり前じゃないか」
アーサーがお父様をかばった。
「む。そこは仕方ないけど…」
話が長引きそうだ。面倒臭いね。
そう思った時、ノックがあった。
「失礼、セバスチャンにございます。お茶をお持ちしました」
「おお、構わん、入れ」
「は」
「では、君たちも座りなさい」
「ああ、はい」
「私、長話するつもりは無いのだけれど」
「君はそうだろうが、当事者の一人、貴族の娘だろう。諦めなさい」
「いいえ、この際ですから、私、この家を出ようかと思います」
「むっ」
「な、何を言い出すんだ、ティーナ」
狼狽えるアーサー。
「ふふ、アーサー、私がラインシュバルト家の人間で無くなったら、どうするのかしら?」
「むう、変わらないさ。君が勝手に家を出ると言ったところで、そんな話が認められるものか」
「ええ?」
「さて、お嬢様のご意向で自由に出来るはずもありませんが、お館様の怒りを買って放逐されると言うことはございましょうな」
セバスチャンがお茶を入れながら、凄いことを言い出す。その手が有ったか、みたいな。でも、やるかね?
「ふむ、致し方ない。ティーナ、婚約者がありながら奴隷に手を出し、ライオネル家との関係を悪化させ、家を出るなどとワガママを言ったのだ。今日をもって、お前はラインシュバルトの名を名乗ることを禁じる。修道院へ入りなさい」
うわ。そうきたか。「冒険者でも何でも好きにするがいい!」って言えば格好良いお父様で、ティーナも飛びついて感謝しただろうに、やっぱり愛娘を危ないところに行かせたくないんだろうね。土壇場で修道院とか。いや、これが普通なのかな。罰だし。
「ちょっ! 何を言い出すの、お父様!」
「叔父上様、それはいけません! 我が家の事を考えて下さるなら、そのようなことはかえって迷惑です」
アーサーが言うが。
「その点については後日、ライオネル侯爵に私から直に謝罪しよう。だが、これは当家の問題だ。君は口出ししないでくれ、アーサー」
「くっ」
「当家の問題なら、私は口を出せるわよね」
「むむ、主は私だぞ」
「横暴だわ。修道院なんて、冗談じゃ無い。どんな手を使ってでも逃げ出してやるんだから」
ふむ、逃げ出せれば、それで自由じゃんね?
セバスチャンがカートにお茶を片付け、こちらを向いた。
「まあまあ、お嬢様、お怒りはお鎮め下さい。アーサー様もご納得行かない様子、いかがでしょう旦那様、ここは一つ、ユーイチ様とアーサー様の一騎打ちにて、決着を図っては」
は?
「んん? ユーイチが勝てばティーナをくれてやれと言うのかね?」
「いえ、それでは旦那様がご納得行かない話かと。ここは、ユーイチ様が勝った場合、婚約の解消。アーサー様が勝った場合は、パーティーの解散。二度とお嬢様に近づかないとユーイチ様に約束して頂くということで」
「ほう?」
「それはつまり、僕が勝てば、婚約は破棄しないと言うことか?」
アーサーが確認するが。
「それについてはお嬢様がこの賭けに乗るかどうかでございましょうな」
「むぅ、アーサーと…」
「いや、ま、待って待って、待って下さい! 僕の生命と気持ちはどうなるんですか?」
勝手に話を進められても困る。戦うの俺なんだから。
「なに、命までは賭けなくて良い。決闘では無いのだからな」
お父様はそう言ったが、俺の気持ちは軽くスルーなのね。
すると、セバスチャンが耳打ちしてきた。
「ユーイチ様、お受けなさいませ。私は双方の力量を知っておりますれば」
お? ほほう、そうだな、セバスチャンはお父様の味方だもんね。ここでアーサーに遺恨無く婚約解消ができれば、ティーナの不満も収まってめでたしめでたしか。
俺の今のレベルは36だし、ダンジョンや冒険に興味なさそうなお坊ちゃまよりは多分、ずっと上だろう。
行けるかも知れない。
いや、でもなあ。
「ユーイチよ、ここで引くなら、君とティーナの結婚は認めるわけには行かないが、それでいいのかね?」
お父様がそう言ってくるが、俺の目的はティーナとの結婚では無い!
はっきりそう言うとこれまでの俺の言動からして色々ヤバいので、殊勝に言っておこう。
「いえ、そのような重大な話は、ご家族様とティーナ本人のお心次第にございますれば、勝ち負けで決めるようなことでは」
「待って、それなら、私がアーサーと対決するわ」
「ま、待ってくれ、ティーナ。僕は君とは戦えないよ」
またゴチャゴチャしそうだなぁ。
「いや、ユーイチ、君が戦うのだ。これに勝てば実力と勇気を認め、ティーナとの交際を正式に認めてやろう。逆に、ここで逃げるのであれば、どうなるかは分かっているね?」
「え…?」
東京湾に沈めるとか、そんなお話ですか? お父様。
「当然だ。他人の婚約者に手を付けて、家族に挨拶も無しなど、許されるはずも無いぞ。しかも下級騎士風情が」
「アーサー!」
「む、だがな…」
「ええい、ユーイチ、男ならビシッと決めて! アーサーなんかボコボコにしちゃいなさいよ!」
うわ、ティーナがキレてるし。どうしてこうなる…。
「娘はこう言っているが、どうするね?」
「むう…分かりました。では、命のやりとりはしない、出来れば寸止めで…」
「そんな稽古にもならないやり方では実力が出せない。練習用の剣で良いが、鎧は装備、魔法は禁止で」
うわ、アーサー君、さりげなくだけど、せこいね、君。
「ちょっと。ユーイチは魔法使いなのよ? まあ、デスとかの攻撃魔法は…」
「それでよろしいのではないでしょうか。ここは貴族の古式に則り、剣の一騎打ちにて」
セバスチャンがそんな事を言い出すし。
「うむ、なら、それでやるとしよう」
「ええ? お父様!」
うーん、まあ、短い間だったが、お世話になりました、ティーナ。君の事は大切な思い出にするよ。




