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異世界の闇軍師  作者: まさな
第七章 保護者ですから

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第五話 スレイダーン戦

2016/11/22 若干修正。

 聖暦 246年 7月 7日。


 俺がこの世界に飛ばされてから四ヶ月と少しが経過していた。


 ラインシュバルトの陣容は以下の通り。

 長男ルークが率いる先遣隊……騎兵部隊二百騎と歩兵一千人、これに糧食隊が百五十人付く。

 ティーナや俺もルークの先遣隊に配属された。

 侯爵自ら率いる本隊は三日遅れで出発する予定だ。陣容は先遣隊とほぼ同数らしい。

 道中、伯爵やら子爵やらの騎士団が加わり、ルークの見立てでは、騎兵五百、歩兵七千、糧食隊一千の総勢八千五百の大部隊となるそうだ。


 これほどの大部隊が移動するとなると、行軍ルートと野営地の選定をしっかりしておかないと大変なことになる。


 まず、行軍ルート。前線から離れた領内であれば、街道を一列でも良いが、糧食隊の荷車が通れる道幅でないと、部隊が進めなくなってしまう。さらに、敵の奇襲が予想される前線では、陣形を保ったまま進むため、周囲に麦畑があろうとも、お構いなしに踏みつぶしていく。

 これには俺も唖然としてしまった。麦畑で雑草を取っていた農夫たちが、文句こそ言わないが渋い顔で兵団の行軍をじっと見ていたのが、なんとも。

 俺も以前に畑を耕すのを手伝ったことがあるので、苦労してせっかく作った麦がダメにされる気持ちはいくらか分かる。もちろん、ルークも無駄に畑をダメにするつもりは無いので、斥候を多めに出して、ギリギリのところを選んだと言っていた。


 次に野営地。これも、八千五百の兵が飯を食い横になれる場所を確保する必要がある。

 広い草原があれば問題無いが、周囲にモンスターの潜む森しか無い場合、やはり畑が野営地となる。まだ育ちきっていない麦のため、刈り取っておくと言うことも出来ない。歩兵の大半は農夫であり、彼らがどんな気分で畑の上に寝転がったかは、俺にも想像が付かない。

 

 さらに、排泄物。

 人間だろうと馬だろうと、食べれば出る。

 これだけの大人数になると、無計画に出させてしまうと、その土地は臭気と病原菌で数週間は近寄れなくなってしまう。

 川に出させるのはもっての外で、下流の生活用水が使えなくなるため、最悪、村や街が全滅する。

 なので、水源や畑から離れた森や平原に穴を掘り、そこに用を足し、最後に埋めておく。

 戦が初めての農夫は知らないので、騎士が指揮監督してその辺も教えねばならない。俺の初陣の時はその辺の道ばたでやっちゃったよ…。

 もちろん、生理現象でもあるし、敵との戦闘が予想される最前線でそんな悠長な事はやっていられないから、最終的には垂れ流しだ。


 これらの理由のため、街道と平行して行軍できそうなルートがあると、そちらを選んで街道が汚れないよう、配慮したりする。

 街道は行商や納税のルートであるため、そこが汚染されてしまうと、領地全体、ひいては国全体に影響が出る。

 抗生物質が発見されていないこの世界では、疫病は国家という枠を超えて防がねばならない禁忌だった。


 地図はさすがに見せてもらえなかったが、自分の領地の行軍ルートと野営予定地は地図に書き込んでおくのが常識らしい。

 

「この先にある砦を攻略する。横に広がれ!」


「横に広がれ!」


 あれ、いつの間にか国境を越えてたみたいね?

 敵が近いから気を引き締めろとは聞いたけど。

 末端の兵は地図も見れないから、落ち着かないなあ。ティーナは他の貴族と共に、時々地図を持って話し合っていたが、俺達はそこには呼ばれなかった。


「みんな、そろそろよ。用意は良いわね?」


 などとティーナがこちらにやってきて言うので、慌てて防御力アップと回避率アップのポーションを俺達のパーティーに配った。


「弓兵、前へ!」


 弓を持った歩兵部隊が、先を進む。


「放て!」


「て、敵襲!」


 なんと、向こうはこちらの進軍に気づいていなかった様子。ダメダメだな。これだけの大軍、見ればすぐ分かるだろうに。見張りを怠っていたか。怖いなあ。


「騎馬隊、突撃!」


 命令が下り、騎兵である俺は、馬を周囲のスピードに合わせて走らせた。全速力では無い。怖いもん。


「も、門を閉めろ!」


 砦というか、関所だな、あれは。関所の兵が慌てて門を閉めようとしているが。

 閉められてしまったら、攻略に時間が掛かり、俺の身の危険も増すので、無詠唱で電撃呪文(ライトニング)を放つ。


「ぐあっ!」


「ま、魔術士だ! 魔術士がいるぞ!」


「もうダメだ、逃げろ!」


 まあ、関所の兵の数なんて、たかが知れてるしね。逃げた彼らは正解だ。

 関所はあっという間に占拠され、木の柵が一部、行軍のために壊された。


「おいっ! 先ほど、呪文を使った者を探せ!」


 え?


「今、呪文を使った奴はどいつだ!」


 ………。

 お、俺じゃ無いもん。

 ってか、呪文って、戦じゃ使ったらダメだった? そんな事は無いよね…。


「おい、ユーイチじゃないのか」


「なななな、何を言ってるんだ、レーネ。俺の他にも魔術士はいるだろ、そことか、そことか」


「ハア? あたし達は何もしてないんだけど」


 エリカは徒歩だったためか、何もしないうちに終わってしまったようだ。


「ん、早く自首してくる」


 ミオが俺を見て言うが、だ、黙ってなさい。マジで。


「ユーイチ、誰が呪文、使ったの?」


 ティーナが馬でこちらにやってきて問う。


「し、知らんぞ」

 

「ああ、なんだ、ここにいたわ!」


「えっ! おい…」


「何をビクビクしてるのか知らないけど、褒美が出るそうよ。良かったわね」


「ああ。叱られるのかと思った…」


「なんでよ。もう」


「だって、怒鳴ってたし」


「それは、声を張り上げないと、聞こえないでしょ」


 騎士がこちらにやってきて俺の格好を見る。


「ふむ、呪文を使った者は、そこの魔術士で間違いないな?」


「はい…」


「ええ、間違い有りません」


 ティーナが言う。


「本当だな?」


 騎士が俺に確認してくる。


「ええ、本当です」


「よし、大将軍閣下がお呼びだ。付いて参れ」


 大将か。副将軍閣下ならなあ。ルークなら別に緊張せずに済むんだが。


「連れて参りました」


「おお、そなたが先ほど、電撃の呪文を放った魔術士か」


 立派な鎧に身を包んだ壮年の男が馬上のままで言う。こちらはすぐに馬から降りて、片膝を突く。騎士になったとは言え、下っ端だからね。


「はっ、王宮直属の下級騎士、ユーイチにございます」


「む、ユーイチ。はて、どこかで聞いたぞ、そのけったいな名前は」


 多分、悪魔退治の一件でだろうが、俺がいちいち説明すべきなのかな? 

 ちょっと考え込んでいると、大将閣下の隣にいた騎士が、何やら耳打ちした。


「おお、陛下に奴隷から騎士に上げてもらった奴だったな!」


「は、左様でございます」


「上手いことやりおってからに。ふむ、しかし、呪文が使える奴隷も珍しいが、貴族から落とされたのか?」


「いいえ、私の親は農夫でございまして、たまたま、魔法入門の書を見て覚えました」


「ほお? フン、けしからんな。このワシが覚えられなかったモノを、そうも簡単に覚えたか」


「は、はあ、恐れながら、閣下は剣の天賦の才がお有りになるかと。天は二物を与えずと申します」


「ははは、聞いたかレオナルド。こやつ、ワシに剣の才があると抜かしおったぞ」


「事実かと。才は磨かねば光りませぬゆえに。大将軍閣下」


 大将軍の隣にいた貴族がにこりともせずに言う。


「フン! ワシが今回の司令を頂いたのは、名門の家柄と言うだけの事よ。まあいい、関所の門を閉めるのを阻止してそれなりに攻略の手助けをしたのだ、褒美をくれてやれ」


「はっ」


 騎士の一人が俺に小袋を渡してきた。うえ、これ一枚だけしか入ってないし。ケチくさい…まあいい。


「ありがたき幸せ」


「今後も励めよ。下がれ」


「ははっ」


 馬に乗って戻ろうとするとルークが追いついてきた。


「ユーイチ、いくらもらえたんだ?」


 袋を確かめる。


「はあ、金貨一枚ですね」


「たった一枚だけか。まあ、関所の一番槍はそんなものか。次、頑張れ」


「ええ」


 ルークはポンと肩を叩いて戻っていく。無駄に緊張するから、次の一番槍は取るつもり無いけどね。

 取らなくてもこの大軍なら余裕で勝てたし。


「ええ? 一枚だけ? むぅ、文句言ってやろうかしら」


 ティーナのところに戻ったが、彼女は褒美が金貨一枚と聞くと、そんな不穏な事を言い出す。


「や、止めてくれ。君が俺の活躍を見ててさえくれれば、それで充分満足だよ」


「そ、そう。じゃ、私から、はい、ご褒美」


 そう言って、ズッシリ入った袋を渡してくる。


「これは渡しすぎだ。公平さが損なわれるし、二枚だけ、もらっておくよ」


「ええ? まあいいけど。ああ、もっと活躍するつもりなのね?」


「いやいや」


 ねーよ。


「ユーイチ、次は私が一番槍を取るからな」


 レーネが宣言するが、どうぞどうぞ。


「次は邪魔してやる…」


 エリカ、後ろから俺に電撃ってのは止めてね?


「ティーナ様、行軍に入るそうです。隊列にお戻り下さい」


 ティーナの部下の女騎士が迎えに来た。


「分かった。じゃ、みんな、また後で」


「あ…まあいいか」


 この場所がどこなのか、聞きそびれてしまった。スレイダーン国だというのは分かっているんだけど。

 俺が前に仕えていたエイト男爵領に攻撃を仕掛けるとなると、さすがに恩義もあるので、気が引ける。とは言え、もしそうだったとしても、拒否はできまい。


「なんか聞きたいことでもあったん?」


 ミネアが気に掛けてくれた。


「いや、ここがどこの領主の土地かなって。実は、スレイダーンのエイト男爵の使用人として働いてた時があるんだ。短い間だったけど」


「ああ、そう言えば、ユーイチはスレイダーンの農夫の子や言うて聞いたなあ。ううん、辛かったら言うてな」


「ああいや、そっちは別に良いんだけどさ」


 薄情に聞こえるかもしれないが、俺にはこちらの世界の親の記憶がさっぱり無いし。


「自分の生まれ故郷に裏切って攻め入るとか、人族のやることは本当に理解できないわね」


 嫌そうに言うエリカだが、俺の生まれ故郷は日本なんだよ。


「エリカ、そこまでにしておけ。今はユーイチはミッドランドの騎士、本心がどうあろうと、そう言うしか無い」


 レーネが擁護してくれるが、いや、そんな殊勝な理由じゃ無いのよ?


「ユーイチさん、辛くなったら、後で私のところへ来て下さいね。色々(・・)、慰めてあげますから」


 クレアが色々のアクセントを強調して言うので、それはイケナイことも含めてなのかと、凄く気になってくる。


「おい、お前達、無駄口はそこまでだ。隊列を組め。出発するぞ!」


 俺の上司である騎士隊長が鋭い声を出したので、気を引き締めて隊列の位置を確認した。

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