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メイドロイドには優しくしよう

 「――代わりと言っては何ですが、メイドロイドはいかがでしょうか?」

 

 そう言われて、僕は目が点になってしまった。まさか、結婚相談所の相談員からメイドロイドの購入を勧められるとは思ってもみなかったからだ。

 メイドロイドというのは、メイド型のアンドロイドの事で、つまりは相談員は少しも女性からのデート申請が来ない僕に、“メイドロイドで寂しさを紛らわせてはどうか?”と提案しているのだった。

 本当はどうすれば女性からデート申請のOKが来るのかを相談しに来たのに、アコギな商売をするものだと思ったりもしたけれど、それでも僕はメイドロイドに心惹かれてしまった。怒りもほとんど覚えなかった。

 きっと、それだけ僕は女性からOKの返事がない事に傷ついていたのだと思う。慰めて欲しかったし、家で一人でもいたくなかった。

 それなりの価格だったけど、「モニターとして、データ収集に協力していただけるのであれば、お安くしておきます」という事だったので頼むことにした。値引きしてもらってもそれなりにしたけど、まあ、どうせ、金を遣う予定もない。

 

 購入後、しばらくしてメイドロイドが送られて来た。

 柔らかい皮膚にコーティングされていて、写真の通りに、可愛い顔で女性的なボディのデザインだった。しかし、それでも“機械である”という存在感は拭えず、正直に言うと、僕は最初は少し怖かった。人間のように思えて、人間ではないないものが同じ家の中にいるというのは、少なからず不安な気持ちを喚起するものだ。

 ただ、彼女(どう呼べば良いのか分からないので、“彼女”という事にした。人間じゃないから“それ”が本来は正しいのかもしれないが、ちょっと冷たい気がするから気が引ける)は必死に僕に尽くしてくれようとしていて、少しずつ僕は心を許していった。

 だって、不器用ながら、必死に掃除や洗濯をしてくれようとして、僕の身体に気を遣った料理の献立を考え、おまけにそれを作ってくれようとさえするんだ。家事は満足にできなくて、僕が手伝ってあげなくちゃいけない事もあったけど、それでも……、否、だからこそ僕は彼女に愛情を感じるようになっていた。

 介護までは期待できなくても、話し相手にはなってくれる。これなら寂しい生活を送らなくて済みそうだ。このまま、結婚相手が見つからなくても。

 が、そんな矢先だった。登録した結婚相談所から女性のデート申請が送られて来たのだ。しかも複数。僕は目が点になってしまった。一体、何が起こったのだろう?

 

 「――黙っていてすいませんでした。タネを明かしてしまうと、データ収集になりませんので、致し方なかったのです」

 

 結婚相談所に電話をかけると相談員がそう僕に説明をした。

 「はい?」と僕は思わず声を上げる。

 「実はマッチングサイトで、男性が申請を受けられ難いのは普通の事なのです。まず、そもそも女性の方が登録者が少ない。また女性の方が相手を慎重に選ぶ傾向にあり、数多くの男性からの申請を受けるので、どうしても理想が高くなってしまいます。

 ここで問題なのが、マッチングサイトでは女性が男性を選ぶ情報が限定されてしまう点です。例えば、あるタイプの女性は、“子供に優しい男性”を選ぶ傾向にあるのですが、マッチングサイトの情報からだけではそれは分かりません。結果、写真や収入、その他分かり易い情報でのみ女性は男性を判断する事になります。

 つまり、それ以外の男性の魅力は女性には伝わらないのですね。その所為で、本来は魅力的なのに、自尊心を傷つけられてしまう男性が多くいるのです」

 相談員は柔らかい言葉で表現しているけれど、つまりは僕の男性としてのスペックが低いと言っているのだ。

 まぁ、分かってはいたけれど。

 だけど、それから相談員はこう説明を続けたのだった。

 「……ですが、マッチングサイトから得られる情報以外の男性の魅力に惹かれる女性も本当は多くいるのです。優しかったり、面白かったり、気遣いができたり。そして、そういった情報さえ伝えられたならモテる男性も多いのです。

 そこで、わたくし達は、それが分かるようにする為のデータ収集を始めました。具体的には、あなたが購入したメイドロイドです。あのメイドロイドは家事の能力はそれほど高くありません。その家事のできないメイドロイドに対する男性の態度で、男性を評価するシステムを構築したのです。

 あなたは家事のできない“彼女”に苛立つことなく、むしろ愛情をもって接していました。それは充分に結婚相手…… 一緒に生活する相手として魅力的な条件になります」

 その相談員の説明で、僕はようやく納得ができた。僕の本当の魅力が女性達に伝わって、申請が来たと言うのなら、信頼しても良いのかもしれない。

 

 ――そして、そうして僕は自尊心を回復し、なんとか結婚相手も見つけられそうなのだけど、ただ一つだけ心配事があった。

 ……果たして、人間の女性は、今、僕が一緒に暮らしているメイドロイドの“彼女”よりも魅力的なのだろうか?

海外の本なのですが、

少子化問題を調べていたら、マッチングサイトで傷つく男性が多いという話が出て来ました。

日本人男性でも多そうです。

一部、女性嫌悪に陥っている人もいるみたいですし。

あまり気にしないようにしましょう。


・本編とはまったく関係のないオマケ

挿絵(By みてみん)


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