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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
五蟲 死屍の儀

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醜縁の影

『……心当たり、ございませんか』

『……ある訳ない。俺達は確かに友達だったけど、何から何まで全部知ってるっていう間柄でもないんだ。それで、妙ってのは具体的には?』

『内容までは……ですが例年と比較してかなり慌ただしい感じがしますね。ともかく、動向には気をつけてください。くれぐれも迂闊な言葉を発さない様に。貴方には誰が町内会と通じているのかいないのか分からないと思います』

『…………いや、流石に分かるよ。大人全員だろ。でなきゃ夜に外へ出ない決まりなんざ守らない』

 順序が滅茶苦茶かもしれないが、決まりを全員守っているから誰も外に出ないし、だからムシカゴは今まで強固な結界……加護……良く分からないが、、人々に有難がられて、澪雨は巫女として信仰されているのではないか。

『……失礼します』

『え、答え合わせは!? おい、合ってるんだよな? 何でちょっと拗ねてる感じなんだ!?』

『気まぐれに情報屋ぶろうとしたら揚げ足を取る事も許されない答え方をされたのでー』

『いや……お前なあ』

 凛はギャル凛をしていない時はあまり表情の変化もなく、喋り方も淡白だ。もう少し気軽に話してくれる時もあるが、それは正真正銘俺と二人きりの時だけ見せてくれる顔であり、今はメッセージだからその顔が出る事はない。

『話を戻しますが、その通りです。祭りなど大人の監視下にわざわざ入る様なもの……その準備期間にピリピリするのは当然と言えば当然なのかもしれませんが。お気を付けください。それと』

『まだ何かあるのか?』

『これは勘ですが……日方君は怪しまれていると思います。互いの安全の為にも私や澪雨様に連絡する事は控えてください』

 女の勘はよく当たると言うが、当てにしても良いのだろうか。ネエネは勘なんて言わなかったので判断材料に困る。丁度隣に普通の女の子が居たから聞いてみればいか。

「椎。お前なんか勘で言ってくれ」

「……は?」

「勘。勘でなんか当ててくれ」

「私、そんな特殊能力ないけど……ええ、勘かあ。勘なのに当てる内容決めるとか意味分かんないんですけど……あ、そうだ。ユージンが好きな食べ物はホットケーキ!」

「…………」

「どう? 当たってる? …………そうよね、当たってる訳ないか。だって私の好きな食べ物言っただけだし……」


 信用しても良さそうだ。


 メッセージとはいえ不自然になっていた会話の間も気にせず喋る。


『分かった』

『何を……?』

『いや、何でもない。連絡したら俺達の繋がりがバレるものな。分かったよ』

『―――もし、本当にどうしても手詰まりで、自分一人ではどうしようもないという時は電話をしてきてください。その時は、どうにかくらいはしましょー』

『いやに太っ腹だな』

『元を辿れば脅迫して貴方を協力させているんですから、これくらいは。せめて命だけでも助けるのが筋でしょう。それでは……気をつけて』

 

 凛からのメッセージが終了した所で、椎乃に顔を向ける。彼女は気にしてない風を装いつつもちらちらと携帯の画面を覗き込もうとしており、嘘を吐くのが純粋に下手だった。

「誰から?」

「凛から。なんか町内会の動きがおかしいんだと。注意せよって。何か……喜平が関わってるかもみたいな。俺が……殺したせいかな」

 じゃあ誰を殺せば良かったのか。誰も殺さなくていいならそれが正解だった。しかし誰も殺さないのでは今後デカイリスクを背負っていたかもしれない。良く知らないからって反金とか高井とか桜庭辺りを殺すなんてただ罪悪感が生まれるだけだ。

 殺したくない。殺さないといけない。必要なのは殺す理由。どう考え直してもそれがあったのは喜平一人だけだ。他の人物は誰であっても……罪悪感の比重が大きすぎる。じゃあアイツを何の迷いもなく殺せたのかと言えば…………そんな事は、ないのだが。

「…………後悔してる?」

「……してない。だって腹ペコな姫様の空腹を満たせなきゃ契約は恐らく破棄される。お前が死んだら…………」

 身勝手に蘇生させたのは俺だ。その行為を徒労だったと呼ぶつもりはない。だが椎乃に死ぬ気はなかった。現にこうして楽しもうとしてくれている。なら俺は、何も間違っていない筈だ。少し秘密を知られただけで友達を殺す様な奴と、まだまだ生きたかったであろう女の子。命の天秤はいつも最悪な時に判断を求めてくる。

 椎乃が手を繋ぐように指を絡めてきた。指だけが絡まっているので、これが手を繋いでいる状態かどうかは疑わしい。

「ごめん。そんなつもりじゃなかったの。大丈夫、ユージンのした事は間違ってなんかない」

「………そう、か?」

「ええっ。だって私、死にたくなかった。本当にもっとやりたい事沢山あって……長谷河に死んでほしいって意味じゃないわよ。ただ……死にたくなかった……から」

 それ以上は、人として言えない。楽しい雰囲気が台無しになったとしても、こういう問題にはいつまでも付き合っていかないといけないのだろう。そんな彼女を生かす為に俺はこれからも殺人をしないといけないし、椎乃は生き続ける度に何者かの死を実感する。仮にも女友達であるなら健全な付き合いで行きたいのに、こんな不健全はない。


 どうすれば、良かったのだろう。



























 お化け屋敷と呼ばれる廃墟は、広い敷地と広大な壁によって仕切られていた。鉄門扉の大きさは俺と椎乃が縦に重なってもギリギリ届かない。監視カメラ等の機器はなくまたそもそも門扉自体が錆びついている。扉は鎖で括られているが、これも立入禁止のというよりは扉が無防備に開け放されて通行の邪魔にならない様にしていると言われた方が納得がいく。隙間は余程太っていない限り普通に通れるくらい大きかった。

「明るい内にこういう場所行くのってなんか新鮮。テレビだけかと思ってた」

「この町ならそうだろうな」

 一応不法侵入は自覚しているが、人通りは皆無だ。そんな寂れた場所でもないが今は祭りの準備に向けて多くの人間が出払っているのだ。凛はここまで見据えて教えた可能性がある。本当に、澪雨が隣にいるから言わないのかもしれないがどれだけ知っているのだろうか。椎乃を先に通して廃墟をより近くで見つめる。

 不気味、というのが第一印象。

 窓という窓に白いカーテンが掛かっている。廃墟と言ってもそこまで寂れている訳ではないが、汚れも傷も目に付くあらゆる箇所に存在するのに、カーテンだけにはそれがない。毎日誰かが選択をして、干しているかの様に綺麗だ。

「…………因みにお前、こういうの苦手か?」

「一回も経験ないから分からないや。まー、入ってみましょう」

 ゴキブリの居ない地域出身者はゴキブリが出る地域で見かけたとしても怖がらないらしいが、そういう物なのか。俺も、特別苦手な経験は……『口なしさん』の一件以降身構える様にはなったが、まだ大丈夫だ。出会ってはいけない様な奴と遭遇する訳でもない。俺は飽くまでこの痣は何が原因なのかをハッキリさせたいだけで。

 触るだけでもギイと軋む扉を開けて中に入ると、電気も通っておらずあれだけカーテンが掛かっているなら当たり前だが、全く光がない。たった今開けた玄関を唯一の光源とするのはあまりにも心もとないので、仕方なしに携帯のライトを起動する。

「暗いし……埃っぽいわ」

「まあ廃墟なんてそんなもんだろ。大丈夫、お化けが昼に出たなんて話――――――」

 足が止まる。

「え、ユージン?」

 円形状に広がる光がたまたま人型にくりぬかれた様に明るさを失うなんて話は寡聞にして聞いた事がない。その影は。その存在は。




 デッと、きっテアはいケかったな。






だよ」    「どうしたん


悠心!」      「なあ




 どこかで聞いたような声。林山という名前で、いつぞや首を吊って死んだ様な。二度と聞く筈のなかった、あまりにも似すぎた声。










 ああ、こいつは。









 出会ってはいけない。




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[良い点] 返しありがとうございます 押し付ける案は人間蠱毒の方ですね 巫女の立場に不憫さを抱いたとか、何かしらの返しが巫女にはその内くる、からそれから逃す為に悠心に〜とも考えてましたが違いそう […
[良い点] フラグ回収早すぎませんかね噂教えてくれた人さんよぉ せめて屋敷にもう少し踏み込んでからにしようや [気になる点] 場当たり的な謎解きや考察は置いておいて、物語の向かう方向性も考えたいな …
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