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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
五蟲 死屍の儀

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悪意の善意

『明日から夏休みだが、残念なお知らせがある。長谷河は転校した』



 それが早々、夜明けを凌いだ俺達に突き付けられた現実だった。あの日夜に外へ出てしまった人達はぼんやりとその記憶を持ってはいるものの、しかし顔を合わせづらくなっている。あんな物は夢であって欲しい、そうに違いないと。澪雨と凛にだけは『デスゲーム』抜きで夜に出た事のみ伝えておいた。

『クラスの人数が一人減ったのは悲しいが、皆で思い出を作って行こう。学生生活は短いからな。そこで、今から丁度一週間後に開かれる妃季比良祭りには全員参加してもらいたい。誰と行くのも自由だし、制限はない。ただし、祭りの締めに澪雨が何かをやるそうで、それだけには全員顔を出すようにとの事だ。見ての通りという訳にはいかないが部活は停止中、先生は夏休みでもあっちこっち走りまわされて大変な想いをしている。今までと比べて明らかに何かが違う。これも誰かが夜に外へ出ているせいだと……思う。夏休み中も通報は受け付けているから、見かけた奴は直ぐに知らせてくれ』

『先生、お祭りは朝から行われるんですか?』

『なんだ日方。お前は知らないのか?』

『……例年はゲームで時間潰してたもんで』

『朝から夕方までだ。部活もないから殆どの日が休みになるな。宿題さえこなしてくれるなら後は好きなだけ休めばいいと思うが、くれぐれもだらけすぎないようにな、以上だ!』



 そんな風に言われたら、予定づくりを先にするべきだと考えた。



 夏休みと聞けば流石の俺も喜びを隠せないが、どういう訳か首の痣は残ったままだ。タイムリミットが以前に比べてあまりにも長すぎる。逆に不安になったというか、凛と澪雨はそれで実際。恐怖していた。もう何が原因かなんてさっぱり分からないので、夏休み中は情報収集に努める様だ。『口なしさん』の様な噂がないとも限らない。凛は何か分かったら真っ先に俺に伝えるとも言っていた。

『所で、もし宜しければ祭りの日は共に過ごしませんか?』

『祭りを……? それ、大丈夫か? 一応お前は側近みたいな立ち位置だろ」』

『澪雨様と違い、私には自由があります―――ふふ。それに、新しく浴衣も買ったんです。こうも胸が大きいと似合わないなどとも言われますが……誰か一人には見せたい、よね。日方君にだったら…………全然、構わないのですがー』

『にしても二人だけってのは不味い。なんかこういい感じにもう一人くらい……それなら怪しまれずに済む筈だ』

『慎重ですね。石橋を叩いたらそれっきりにする勢いです。しかし……ええ。それで構いませんよー。澪雨様に振り回されてばかりで疲れていた所です。一日でもお暇は頂きませんと…………つまる所はデートだけど、楽しみにしてる。貴方が見惚れちゃう様な浴衣姿に、期待してて?』




 ―――なんて。凛は耳打ちでそう言ってくれたっけ。相変わらず無愛想というか表情がポーカーフェイス気味だが、彼女なりにお祭りを楽しみにしているのは明らかだ。本音を言えば俺は澪雨とも巡りたいのだが、それは神輿代わりに彼女を担ぐ文化によって成し遂げられなさそうだ。それでも一応、行けたら一緒に行くという約束をしたがどうだろう。守られなくても怒る気にはならない。そうやって何度も何度も何度も約束を破ってくれたら、俺だって嫌という程澪雨の不自由さを実感出来るから。その度に少しずつ寄り添えるようになっていくみたいで、嬉しかったり。普通に寂しかったり。









 


















「お祭り?」

 翌朝。

 椎乃の家で朝食を済ませ、腹ごなしにゲームで協力プレイを重ねていた折の勧誘だったが、彼女は楽しそうに頷いた。

「ユージン行くんだ…………へえ、凛に誘われたと。私は別にいいよ、バイトも少し穴開けたって問題ナッシング! だって学校から言われたんだものね、祭りには参加する様にって。平常点の為とあらばとてもとてもバイトに行くなんてそんな不信心な真似はしないわね?」

「……お金は良いのか?」

「私、良く分からないのよね。惹姫様に身体を貸した後に、気が付いたら部屋にこれが入ってて」

 そういってベッドの下から引っ張り出されたのは十キロもありそうなジュラルミンケース。実際の重さは分からないが、引っ張り出そうとする床の擦れる音なんかを聞いてそう判断した。

 内部には山の様に積まれた札束が何枚も詰まっている。数えた日の判断が正しければきっかり一千万円。中には不審者の置手紙で『デスゲーム勝利者へ』という文言が入っていた。

「お前ん家にも届いてたのか」

「お前ん家……アンタんとこにも?」

「怖くて開けてないからしまってるんだけどな。しかしマジで一千万送りつける奴が何処にいるんだよ……」

 多分というか間違いなく不審者やディースの仕業だと思うのだが、口止め料のつもりだろうか。大金自体は有難いが存在がバレた時に何処から得た収入かと問われたらまともに返せる自信がない。

「これ偽札じゃないわよね」

「じゃないだろ。資金源がいまいち分からないけど……経費とかで落とせる金額かこれ。資金源と言えば、澪雨を連れ出すのに使った金は回収出来たのか」

「こんだけありゃ余裕でプラスだわ! こんな大金でマイナスになるんだったらまず私がどんな金持ちかって話よ。まあバイトはやめないけどね。平常点下がっちゃうから」



『時期は不明だけど、一定ラインを下回った生徒は必ず行方不明になる。転校とか家の都合とかそんな理由を付けてね。そりゃ固執するわよ。こんな曖昧な基準がいつ引き上げられるかも分からない。点数が低ければそれだけ死ぬ可能性が上がるんだから」



 平常点が低ければ、行方不明になる?

 いや、どうだろう。壱夏のものの見方には客観的な事実を踏まえた部分がある。今回、俺がこの手で二時間もかけて首を切り落とした喜平が同じ扱いを受けているのだ。行方不明は死亡と同義ではないだろうか。

「……椎はさ。何で平常点を稼ごうとしてるんだ?」

「へ? 教育方針っていうか。なんかそんなのよ。多少テストの点数は悪くてもいいけど平常点だけは損ねるなって。アンタも似たような感じでしょ……って、知らない内に満点なんだっけ」

「それもそうだし、そもそも最初は非公開だからな。稼ぐ方法もいまいち分からない。お前はその方法を両親に聞いたのか」

「まあねー。ズルとか言わないでよ。みんなやってる事だし」

 ズルというか、もし死ぬのなら死なない為に何でもやるのは正しい事なので責める気も起きない。そして家に帰る気も戻ってこない。夏休みくらい親の目から離れた所で羽を伸ばしたい物だ。何を言われるか分からないのでは楽しみよりも先に不安が来る。

「…………お前さ、デスゲームの記憶あるんだよな」

「一応ね。でも私には何の事かさっぱりだよ。デスゲームを思い出せばあの二人の持ち物を盗んだ犯人がどうとかって。そういうユージンは?」

「ない事もない……けど、正直確信はないな。機会があれば聞いてみるしかないとして……どうだ? たまには暑いけど外にでも出てみるか。昼の散策と行こうぜ」

「ええー。夜にしない?」

「夜はもっと暑いだろここ。あ、そうだ。せっかくだからお化け屋敷に行ってみないか? 昼ならまず出ないだろ」

「お化け屋敷ねえ…………夜に外出しちゃ駄目だから、あったとしても噂なんかたたないと思うけど。詳しいのね」

 俺は首を見せつけるように服を引っ張る。



 痣はまだはっきりと残っていた。




「凛がな。もしかしたらって教えてくれたんだよ。夜に行ってる訳じゃないなら安全だと思うんだ。行ってみようぜ?」

























 ――――――誘ってはみたけど。

「…………」

 来てくれるならそれでいいし、来なくてもそれはそれ。嫌われたって当然だ。私は……よく覚えてないけど、何やら脅しをしたみたいだから。

「鮫島先輩。どうですか?」

「どうって。まだ送っただけだ。てゆーかさ、自分で送れよ。アイツと連絡先交換したんでしょ? 私を挟む理由イズ何?」

「夏休み入るまでは色々誘い方を考えてたんですよッ? でも日方先輩に迷惑掛けたら怒られるかなって……私。怒られるの苦手なんです」

「アイツが怒るねえ……早々ないと思うけど。プール掃除の時とか貴方にずっと鼻の下伸ばしてたし」

「鼻の下? 伸びる? 日方先輩は天狗なんですか?」

「天狗は鼻が長いだけだし伸びるのはピノキオだし……え、伝わらないの? 素寒貧とかってのも前通じなくてそれで困惑したんだけど、今日日使わないって事かしら」

 

 何でもいいけど。


 後輩に何故パシられているのだろうか。

 私と莱古はプール掃除をした仲だけど、それだけだった筈なのに。

「もう手伝っておいてあれなんだけど、貴方からやった方がオーケー貰えると思うわよ。逆効果な気がする」

「そう……なんですか? でも後輩がうざくて困るみたいな先輩方の話は耳にしますよ?」

「日方に限ってはないでしょ。だって部活入ってないし。貴方みたいな可愛い後輩に慕われて嬉しくないとか逆張りにも程があるというか」

 全部勝手な妄想だけど、私が男だったらそうしているかもしれない。莱古の頼みを聞いてるのだって、こんな感じに頼られるのが嫌いじゃないからってのもあるし。

 せっかく送った誘いだけど、日方は携帯が電池切れにでもなったのか全く返しやがらない。純朴そうな顔で返事を今か今かと待ち続ける莱古には悪いけど、苛々してきた。

「可愛い……ですか? 有難うございますッ。鮫島先輩は日方先輩の事に詳しいんですね! 宜しければもう少しだけ聞かせてくれませんかッ?」

「例えば?」

「日方先輩の好きな食べ物とか…………趣味とか、場所とか!」

「私、彼女じゃないわ。どうしてそこまでアイツが気になるの?」



「はい! 私、日方先輩と、もっと仲良くなりたいんです!」



 曇り一つない、十五年とかその辺りを生きた女子とは思いたくない綺麗な眼差し。邪な気持ちが微塵も感じられず、妙な下心もなく、ただ感情が感情のまま言葉として出力された様な力強さ。褐色肌には太陽の様な笑顔が良く似合う……なんて。それくらい活発な子なのは最初からだけど。


 ―――早く返せよ。


 長谷河喜平が居なくなってから、町内会の動きが顕在化してる。アイツが『行方不明』になったのは偶然なんかじゃないし、きっと何かあって行方不明に……いいや。違うか。全部逆なんじゃない?

 行方不明になったから、顕在化したんじゃ?

 そもそもアイツは、日方悠心が来るまでゲームをやる趣味なんかなかった。点数も殆どドベで、その度に補填として町内会の手伝いに赴いていた筈で。

「……………………」

 記憶がすっぽり抜けてしまって、一部思い出せない。返事が来ない状況にも飽きてきた所で、私にしては珍しく直球で尋ねてみた。




『貴方が喜平殺したの?』


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― 新着の感想 ―
[良い点] 壱夏生き残ったし、今作では凛以外で視点が描写された数少ないキャラだから今後ヒロインになれるのか、今は圧倒的不人気勝ち取る立ち位置だが、さて [気になる点] デスゲームで眠りに落ちた時点で盗…
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