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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
四蟲 誰そ彼も不死の殺人友戯

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ただ個々で殺したい

 二回戦の束の間の休息。

 三人死んで残るは十三人。主催者曰く一人も死ななければこのままだったそうだが、三人も死んでくれたから部屋を統合するべきだという判断に至ったそうな。この分断された状態からどうやって合流するのかは分からないが、ともかく今はインターバルとも言うべき空白の時間。

「…………う…………うう……有難う、ございます」

「まあまあ。僕は他人だからさ、それにゲーム外で死人を出すべきじゃないよ。何が起こるか分からない」

 ムシカゴが働いていないせいか、サクモが受けたリンチの傷は当たり前のように治らない。たまたまディースが応急処置出来るだけの治療具を持っていなければこのゲームが終わっても傷が尾を引いてもしかしたら……素性はどうあれこの人に、感謝だ。

「……という、と?」

「ゲームで死んだ人間は三人だ。次のデスゲームは十三人で始まる。さっきの終了条件は全員が一回以上装置側として座る事……あれ、おかしいな? まだ全員が内側に座った訳じゃないんだけど」



『その件につきまして、プレイヤーより追加ルールを提案されましたので、一度仕切り直す形で一回線を終了いたしました』


 

「―――ゲーム途中でルール変更なんて不公平なデスゲームだなあ。そんな事じゃ参加者が減っちゃうぞ?」


『申し訳ございません。████ゲームはリアルタイムに変化するのが売りのゲームです。皆様の動きを観戦席はとても楽しみにしておられます』


「か、観客……! こんなの見てる奴がいるの!?」

 桜庭が軽蔑する様な表情を……しかし何処へ向けていいか分からない為に、また俯いた。高井と鏑木は友人を失った事実と一旦冷静になった反動から何を言う気力もなく、ただ二人で蹲っている。

「もうやだぁ…………帰りたい……帰りたいよおぉ…………」

 向こうの部屋にと比べるつもりはないが、目の前で人が一人死んだだけでもこのグループ全体の士気は大きく下がった。全員で生き残ろうという前提は崩壊しているか、建前だ。全員が全員裏切るものと考えた方が幾らか楽。というか外側に関しては『青』を選んでおけばまず死なないので、その瞬間を生き残るだけなら裏切り得だったりする。

 俺も……どうだろう。反金の事はそこまで好きではなかったが、あんな惨い死に方をするのは違う。彼の死について謎は幾つもあるが、ただ脳裏を過るだけでも連鎖的に死体が浮かんできて辛いので今は考えない様にしている。

「でー追加ルールは? プレイヤーに理不尽だったりするのかい?」

「………………そもそも。誰が提案したんだよ、向こうの部屋か?」

「匿名性も兼ねたんだろうね」


『追加ルールとして参加者―――プレイヤーが一人だけ生き残った場合ですが。賞金を追加して一億円。また運営側として以降はゲームに参加出来る特典を受けられます。具体的には『赤』を押しても『青』を押しても死ぬ事はないという物です』


そんな事していいとか参加者いなく…………なら、ないね。うん」


 このデスゲームの詳細を、俺達は実際に行くまで何も分からなかった。仮に経験者だと明かしたなら生き残った方法も知っているという事であり、警戒心のない人間をまきこめる魔法のワードがこの世には存在する。



 『誰も死なないデスゲーム』



 その誘い文句の破壊力は言うに及ばない。タダより高いモノはないのに。それは何よりも人を引き付ける。

 そこまで言うなら他の生存者に裏を取ればいいだけなのだが、そもそもデスゲームに誘える仲ならそう疑う仲でもないという事だ。

 以降はアナウンスが黙ってくれたので、ディースが話をつづけた。

「イカサマOKか。エンタメ重視って事だよね。観てる人が楽しければ何でもいいって事か。まあ公平なデスゲームなんて僕は見た事ないけど。おっと、話が逸れた。ゲームとは無関係に死人を出す危険性だよね。よろしい? ルールに明記されてない事は大分柔軟なこのゲームだけど、主催者は確かに十三人になったから部屋を統合するって言ったんだ。それに今はインターバル。観戦側からも見えてないと考える方が妥当だ。それでいざ始まってみれば一人減ってたなんて、主催者の面目はどうなる? 観客は? 俺達が見えてない間に誰か死んだのに画面に映ってないなんて酷いとか何とか。僕は観客じゃないから知らないけど。そんな風に思われちゃエンタメとしてお終いだよ」

「…………ディース、さん」

「ユウシン君、敬語はいいってのに。僕は年長者でもないし、あの不審者みたいに頼れる訳じゃないんだから」

「―――こんな状況じゃ、頼りたくもなりますよ。プレイヤーから提案……どう思いますか?」

「どうも何も、怪しすぎるね」

「………………俺も、そう思うぞ」

 サクモが傷だらけの身体を起こして壁に凭れかかる。背中を僅かに動かすだけでも痛みが奔るらしい。顔は醜く腫れあがって、所々に痣と頭にはコブが浮かんでいる。骨折までは行かなかったのは幸運だったかもしれない。これでそもそも動けないとなっていたら、必然的に俺はサクモと組む事になっていたし。

「……主催者の、嘘なんじゃない、か? こうして……不和を招けば、もっと、結果が混乱するって。それか、既に特典を受けたプレイヤーが……」

「それは無いと思うな。追加ルールって言ってるし、これが最初から説明されていれば話は違ったかもだけど。ゲームはゲームだ。面白ければオーケーもあくまでプレイヤーに不利が無かったからだと思わないか? 追加ルールと言ってもいわば全滅勝利特典だ。参加中の僕達には関係のない話。ただそれを提案したのがプレイヤーっていうのが気になるね」

「それは、何でだ?」

「この手のゲームで最初から主催者にルール提案するって、発想としてどうなの? 最初から知らなかったら出来ないと思わない?」


 ―――!


 追加ルールは今回だけに限った話として、前回参加者が居ると?

 考えもしなかった発想だが、無いとも言い切れないのが恐ろしい所だ。俺達がこの存在を知ったのは凛からだが、彼女は以前のクラスから聞いたと言っていた。つまりD組の誰かが生還者という可能性だ。

「さて、僕はそろそろ残りの人達を励ましに行くよ。あんな風に落ち込まれてちゃ助けられるものも助けられない。ばいばい」

 ディースが割れ際にウィンクをして、俺達に背中を向ける。こんな状況でも余裕を崩さない寛容さも含めて、ただ見惚れていると、背中からサクモが肩を引っ張ってきた。

「……アイツを、あんまり信用するなよ」

「……え? 何で」

「前回参加者が居たとすればアイツとか……あっちの部屋の不審者だろ。参加者が足りないのを知ってて来たに違いない。埋め合わせのように参加が許されるなんて不自然だ…………ルールを追加したのも。多分そうだ。悠。あまり……全く信じるなとは言わない。参考にするのも……大切だとは思うが。流されるなよ」

「………………なあ、サクモ。教えたくないならそれでもいいんだけど、お前装置側に居たよな。何で……『青』を選んだんだ」

「………………」




『それではこれより、二回戦を始めます』




 左目が、痛む。

 ナニカ、タベナイト。



「……アイツが、俺を殺そうとしてきたからだ。そうでもなきゃ、やらねえよ」


























 控室が繋がるのかと思いきや、繋がるのは奥の部屋……ゲーム的に言えば『外』側の部屋の壁が撤去されて繋がった。控室の壁には大量に剥製が付いており、これを一々撤去するならゲームスタッフと会える可能性が高いと思っていたが、やはり不動だったか。しかしこの剥製、どうしてこうも過剰なのだろう。

 理由もなく怖いので、誰も触ろうともしないが。

『計十三名。二回戦も一回戦と変わりありません。二回戦終了は全員が一回以上装置側に座る事を合図とします。また、これ以上の仕切り直しは無粋であるとして、以降の提案によるルール追加は禁止といたします』

「向こうの部屋と連絡は取れないんだ?」

『奥の部屋で一人ずつが情報を共有する分には制限などございません』

「そっか。じゃあいいや」



『それでは、話し合って参加者をお選び下さい』



「俺が行く」

 このゲーム、後に残れば残る程大変な事になりそうだ。俯瞰して考える為にも最初に行くのはありだ。この部屋だけで参加者を完結出来れば良かったが、ディースやサクモは今回は見送るとの事。他の参加者はそもそも自主的に参加する気概が感じられない。無理もないのだが。

 奥の部屋に入ると、確かに部屋の壁が撤去されて横長になっている。そんなに剥製が好きならいっそこの部屋にもつけてやればいいの…………


 ―――あれ?


 反金の死体は、何処だ?

 それだけじゃない。向こうも死人が出た筈だ。凛に付着した血液を除けば何処にもそんな痕跡がない。外側なら死体が、装置側なら装置側に血痕が付着していて。

「え」

 今度は装置が変わっている。椅子タイプとは違ってリラックスできそうもない絞首台のような装置だ。上から吊り下がる縄に首を掛けるのだろうが、それだと普通に苦しそうで、正常な判断をする余裕があるのかどうか。


「へえ。貴方が来るんだ」


 気が付けば、背後に壱夏が立っていた。開幕参加した理由は似たような物だろうが、非常に気まずい。脅されている相手と組むなんてデスゲーム以上に気が気でなく、早く終わらせたくなってきた。




「じゃあ、お前が内側に」

「じゃあ、貴方が内側ね」

 

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[一言] 早く事後諸葛亮したい。
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