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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
四蟲 誰そ彼も不死の殺人友戯

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Death GAME?

「おい、起きろ」

「………………ん」

 目が覚めたら、知らない場所で気絶していた。知らない場所は知らない場所だ。どうも俺は気絶していたらしいが、だとしても記憶が繋がらない。病院みたいな白い床と、壁中を覆いつくす動物の剥製。それも首だけが飛び出したように飾られている物ばかり。博物館でもこうはならないというか、ここが博物館だったとしてもやはり脈絡がない。

 サクモは隣に居るが、それ以外の人物は同行メンバーと違うというか……


「桜庭と……鏑木!?」


 二人は俺もしくは誰かの誘いを断った共通点がある。というか二人がたまたま目についただけで遠くには高井も反金も居る。もう一人は……同じクラスの柊木と、知らない制服を着た誰か。他人はともかく同級生の五人は明らかに怯えた様子で、それは多分俺を見た事で更に増してしまった。これを寝起きと言っていいかは分からないが、他の全員が怯えているお陰で俺自身は大して動揺していない。

 同級生の五人とサクモに俺。、それで他人も加えたら八人。

 

 参加上限に届いている。


「……じょ、状況を教えてくれないか? さっぱり分からない」

「気絶して、気づいたらここに居た。以上だ」

「おい!」

「俺にも分からないからな……アイツ等も同じだ。どうも俺達の誘いを断ったのは紹介状を貰ってたからみたいだ」

「はあ?」

「同じゲームに招待されてるならわざわざ合流する必要があるのかって事だよ。誘った時はぼかされたけどな」

「―――日方ぁ!」

「うおおおおっ!」

 状況把握の為に周囲を見回していると、桜庭が飛び込んできた。大して交流もない俺を頼ろうとする意味は良く分からないと言いたい所だが、この件については随分前に決着がついている。

「……良かったぁ。日方が居て。平常点の低い奴らしか居なくて困ってたんだー!」

「……お前らもデスゲームを?」

「そうそう。反金が目に眩んでねー。あ、私は全然興味なかったんだけど」

「はあ!? お前が一番食いついてきただろうが!」

「あんな事言ってるけど無視してね! それで、ここに居るって事は参加してるんだよね。いやあもう、大丈夫! 日方が居れば万事安全! あっはっはっは!」

 



『皆さま、今宵は████ゲームへのご参加、誠に有難うございます。総勢十六名、全四回戦。また、今回に限り特別に一千万円をご用意しております。さて、ご質問等がなければこのままゲームを開始させていただきますが、何かご質問などはございますか?』




 放送をしているのは紹介状をくれた主催者だろう。名前を明かす事はなかったが、しかし確実に存在している。どうやって質問すればいいか分からなかったので、とりあえず大声をあげてみた。

「ここには八名しか居ないんですけど!」

『一つの紹介状につき、最大八名様のご案内となっております。残る八名様は別のお部屋に。組み合わせはランダムとさせていただきました』

 ランダムと言われたらどんな可能性もあり得るのであまり強くは言えないが、高井と鏑木は反金と行動を共にしてる取り巻きみたいな存在だ。桜庭と反金が一緒に来たなら彼らも一緒に来た可能性が高い。この四人が集中したのは……単なる偶然だろうか。

 だが十六人という事は彼らも八人を集めて来た訳だから、考えすぎかもしれない。

「一千万円は山分けか、個別支払いか?」

『個別でのお支払いとなります。よって十六人全員が生存した場合は一億六千万円となります』

 また随分と太っ腹な金額だ。

 宝くじなんかでも税金やら何やらで額面通りの額は貰えないと聞いた事がある。これがもし額面通り貰えて、しかも誰も死なないなら確かに参加し得なイベントだ。旨味しかなさすぎて逆に怪しい。どう考えても運営側の負担が高すぎるし、十六人と言わず…………

「十六人?」

「どうかしたか?」

「俺達……七人で来た筈なんだけど。最後の一人が集まらなくてな。桜庭達が八人、俺達が七人なら総勢は十五人になる筈だろ」

「おい日方! 勝手に八人って前提はやめろ。俺達も七人で来たんだぞ!」

「そう……なのか?」

「そうだよ。だからここに知らない奴が居るんだ。いや、すっげえ可愛いけど!」

「僕が可愛いって? ……ふふ。有難う」

 背中まで伸ばした金髪に緩くウェーブを掛けた華奢な子が、まさか僕という一人称を使うのは予想外だったが、自分が部外者という自覚はあるらしい。白い革ジャンのチャックを首元まで閉めてそっぽを向いてしまった。


 ―――気になるのはこれくらいか?


 別の部屋には恐らく俺達の同伴者と、また知らない奴がいる筈だ。人数の埋め合わせを運営側から行った……? これは今考えても仕方ないか。目の前でサクモが癖で手を挙げながら叫んだ。

「今宵って言ったな? 今、何時だ?」







『現在時刻は…………午後、八時です』








 誰も死なないという名目と、莫大な賞金に裏打ちされた信頼。そこから流れていた和やかな雰囲気が一瞬で崩れ去った。季節は夏だが、異常気象にでもやられない限りどの季節でも夜と呼ばれる時間だ。

「はああああ!? ちょ、ま。ふざけ……帰る!」

「俺も帰らないと!」

 鏑木と高井が真っ先に帰ろうとしたが、しかし出口が見当たらない。正面のドアはどう考えても出入り口ではないだろう。硝子越しに見えるのはまた別の今度は殺風景な部屋である。遅れて放送がその早とちりに回答を出した。

『残念ですが、ゲーム終了まで参加者を外に出す事は出来ません。また、棄権行為も認められておりません』

「ふ―――ざけんな! そんな事書いてたら参加しねえよ!」

『おやおや。確かに記載はしておりませんが、しかし。私共は参加者様に有利になる様なゲーム作りを心掛けているのですよ。何処で誰が広めたかも分かりませんが、誰も死なないデスゲームなどと。ええ、その通りですが、公式名称ではございません。しかし黙認しているのです。それで参加者が増えるのなら幾ら賞金が膨れ上がろうとも関係ない。それだけでございます』

「…………くそ!」

「……取り敢えず、いいわよね。賞金貰っちゃって。夜に出歩いてももしかしたら許してくれるかも~なんて」

「そうだそうだ! 確かに出歩いちゃ駄目かもしれないが、一千万円だぞ? そんだけありゃ流石に許してくれるって! 気楽にいこうぜ気楽に!」

 桜庭と反金に宥められて、二人はどうにか落ち着きを取り戻した。また、サクモが質問する。

「隣の部屋に居る奴と会話は出来ないのか?」

『映像のみお届け出来ます。東の方角……ナガユキ様から見て左の方角にある犬の剥製を剥ぎ取っていただきますと、隣の部屋を写すモニターが表示されます。逆も然り、同様の質問をしたミオ様も、犬の剥製をお取りください』

 

 ミオ、という単語に俺と他人を除いた全員が驚きを露わにした。


「いや…………いやいやいや。ヤバくね?」

「澪雨が参加……いや、ど、同姓同名の誰かでしょ……」

「それはマジでヤバくね? バレるとかバレないとかじゃなくね?」

「……悠。お前が連れて来たのか? よく許可してくれたな」

「え? まあ…………奇跡、かな」

 椎乃はどうやって連れてきたのだろう。

 指示通り犬の剥製をすっぽ抜くと、小さなモニターが向こうの部屋を写しているらしかった。どうもモニターとカメラは位置が違う様で、澪雨と互いに見つめ合う様な状態にはならなかった。こちらからは遠目に彼女のお尻のラインが見えるだけ。カメラの存在に気づいて目を合わせているのは―――壁の隅で腕を組んでいる、あの不審者だけだ。知らない二人は反金の連れか。

「…………大体分かった。俺達は危機的状況って事だな」

「流石に……それは早くないか?」

「早くはない。いいか悠、俺達は夜に外へ出る禁忌を破らされたんだ。このデスゲームじゃ誰も死なないのかもしれないが―――」

 サクモはアームロックをかけるように俺の首を巻き込み、小さく呟いた。

「先生が言ってたろ。夜に外へ出たら退学だ。この場に居る全員……同じ弱味を抱える事になる。誰かが漏らせばそいつはもれなく平常点がプレゼントされる状況だ。それに対してやり返したとして、万が一成功しても相打ち。どの道退学は免れなくなる。これが危機的じゃなくて何だってんだ?」





『質問が無いようですので、次にルール説明とさせていただきます。また、ルールに対する質問を除いた回答はゲームが始まってからとさせていただきます』







『簡単なゲームです。全四回戦。二回のフェーズに分けて進行させていただきます。まずはこの部屋で話し合っていただき、二人の参加者を決めていただきます。残る参加者はここでお待ちください。部屋に入った参加者二人の内、一人はボタンの先にある部屋へと入り、椅子にお座り下さい。これが第一フェーズです。第二フェーズは外側、装置側の参加者で五分間だけ話し合っていただき、どちらかのボタンを押してもらいます。赤が『助ける』のボタン、青が『助けない』ボタンです。装置側は自分が助かるか助からないかという意味でお考え下さい』

「えっと……ねえねえ! これって、悩んでる相手の姿とかはずっと見えてる訳?」

『話し合いの時間にのみ確認が可能です。両者ボタンを押す際はお互いの選択を確認出来ないという事です。アイコンタクトや相手の反応を窺っての逆張りなど、ゲームとは関係のない要素で判断されるのを防ぐ為です』

 裏を返せば、話し合いの時はアイコンタクトでも何でもしていいという事だ。ゲームとしては話し合いの結果として進めていきたいのだろう。話し合いは全くの茶番で、ボタンを押す手元を見て判断されていたらゲームとして欠陥があり過ぎる。

『一回戦終了は各部屋に分けられた八人全員が一回以上装置側として参加いただけるまでとなります。次に、ボタンによる選択の結果を説明いたします』

『両者ともに赤のボタン、『助ける』を選択した場合、その時点でフェーズは終了。両者共に生存です。次に装置側が赤、もう一方が青を選択した場合ですが。外側は助けない事を選択しましたので、この時点で装置側は敗北、ゲームからは除外されます』

 除外。

 言葉は濁したが、デスゲームなのだからその意味は聞かずとも皆分かっている。見捨てられた側は死ぬしかないのだ。

『次に装置側が『(たすけない)』、外側が『(たすける)』を選択した場合ですが。この場合は救助を期待していない者を無理やり助けようとしたと解釈し、外側の参加者が敗北、ゲームからは除外されます』

『最後に両者が『青』を選択した場合ですが、これは誰も助けなかったし助かろうともしなかったと解釈し、内側の参加者が敗北、ゲームからは除外されます』

 まとめると、こうなる。


 赤=助ける  青=助けない  内 =装置に乗る



 内 『赤』  外 『赤』   =両者生存


 内 『赤』  外 『青』   =内死亡


 内 『青』  外 『赤』   =外死亡


 内 『青』  外 『青』   =内死亡



 俺はデスゲームマニアでも何でもないが、バランスとしてはどうなのだろう。勿論一番いいのは両者が赤を選択する事だが、青という選択肢がこの話をややこしくしている。内側はどちらともいえないが、外側の方があまりにゲームとして簡単なのは気のせいではないだろう。

 外側はとりあえず命が惜しければ『青』にしておけばいいのだ。相手がどちらを選んでも自分は生存出来る。赤を選べば最善を期待出来る一方で、自分が死ぬリスクもある。話し合いとは言ったが主導権があるのは明らかに外側だ。

 

 つまりそれを見越しての、一回以上の内側参加という訳か?。


『最後に、そのような事はないと思われますが、選択その物を放棄した場合は両者敗北、ゲームからは除外されます』

「ふーん。あ、僕はいいよ、気にしないで」

「おい、誰も死なないゲームなんて嘘っぱちじゃないか! 俺達は誰も死なないから参加したのに!」

「ありえねー!」

「いや、そうじゃねえだろ反金、高井」

 彼は主催者に食って掛かったのだが、質問に引っかかったのはサクモだった。

「確かにこれは誰も死なないデスゲームって呼ばれるのも納得だな」

「はあ!? でも除外ってどう考えても死ぬ―――」

「だろうよ。デスゲームだからな。だけど普通に考えろ。二人共『赤』を選び続ければいいだけの話だ。もし『青』を選ぶとするなら……そいつには殺意があるって事になる。考えてみろよ、どっちか死ぬ結果を引き起こすのは『青』だけだ。『赤』を選ぶ以外の選択には悪意しかない。俺達の知ってる映画とかのデスゲームは全員を生存させる気なんてないけど、これは違う。黙認されてるんだよ、全員生存の道が。誰も死なないなんて銘まで認めて。だからどんな説明を受けても関係ない。『赤』を何回か押すだけだ。それで、一千万」

「左雲って……時々頭良いわね。何で平常点が低いの?」

「ゲームばっかりやってるからだろうな。だから全員、慌てる必要なんかない。『赤』を押せばいいだけ。それだけなんだからな」

 サクモはつまり、こう言いたい訳だ。





 ゲーム上誰も死なない事は可能で、ルール上誰も死なない条件も簡単。殺すのはゲームじゃなくて、俺達自身の選択。

 




 成程。それがこのゲームの正体という訳か。ならば気になるのは―――参加者にどうやって『青』を選ばせるつもりかだ。賞金が増額されるなんてルールはないし、真っ当な倫理で生きているならこの最適解に抗う道理はない筈だが。








『質問が無いようですので、これより一回戦を始めさせていただきます。参加者を話し合ってお選び下さい』

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 僕っ娘!?
[良い点] 明らかにこの蟲では死ななそうな意味深キャラが来たぞー!!さては男の娘か? 仮面の不審者さんまで参加してるのね 怪異ではなく、今作既存の登場人物でも無いことが確定、と [一言] 赤押すだけ…
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