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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
四蟲 誰そ彼も不死の殺人友戯

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闇巫子

 誰も死なないデスゲーム。

 たった数文字で完全に矛盾した表現だ。誰も死なないならデスゲームじゃないし、デスゲームじゃないなら誰も死なないので、やはりデスゲームとは名乗れない。誰も死なないのにデスゲームを名乗れるならこれから俺がするべき事全てデスゲームだ。

「お金っていうのはどれくらいなんだ?」

「その辺りは詳しく聞いておりません。たた、言葉の響きからしても普通ではないでしょう。明日からは各々デスゲームについて調べてみるのは如何でしょうか」

「……まあ、そうだな。それしかないか。椎もバイト先で何となく聞けないか? お客さんとか。金稼げるバイトだったら学生だけで広まってるとも思わないし」

「ん。聞いてみてもいいけど笑われそうね。まあいいか。怪しまれたらゲームの話って事にすればいいんだし~」

「あーデスゲームみたいなゲームってあるよな。それはそれで見ず知らずの人間にゲームの話題振るお前がおかしいけど」

「実際ゲーム好きだから怪しまれてもだいじょーぶ。ユージンに教えてもらった知識が役に立つ時な訳よ、世の中何が役に立つか分からないってねっ」

「本当に大丈夫? 椎乃ちゃんから私たちの関係が明らかになったらって思うと」

「うっさいなあ澪雨は。澪雨にゃんって呼んじゃうぞ?」


「澪雨にゃん!?」


「アンタが反応するんかい!」

 衝撃的な呼び方だ。澪雨にゃんなんてお嬢様には似つかわしくない軽々しい呼び名、しかし脳内で猫耳を付けてみるとあり得ないぐらい可愛い。この部屋に猫耳があれば危うく俺は衝動のままに澪雨の頭へ装着していただろう。

「澪雨にゃん……頭が痛くなる呼び方ですね」

「凛ちゃんの呼び方は堅苦しいよね。同い年ならもっと気安く呼んでもいいんじゃない?」

「……そういう訳にはいかないんですよ、椎乃」

「私は呼ばれても気にしないよ」

「いえいえ、呼び捨てなんてとんでもない。澪雨様はいつまでも澪雨様です」

 心の壁というか、罪悪感というか。凛は澪雨よりも澪雨自身を知っている。俺に打ち明けたのも秘密を抱え続けるのが嫌だったからだろう。はぐらかしたってあの場は別に問題なかった。その後また俺が追求するかどうかというだけで、教えてくれたのは偏にそんな理由だと考えている。二人の問題は二人だけで解決するべきなのかもしれないが、いつまでも距離感があるのは……どうなのだろう。

 澪雨とも凛とも裏の顔で付き合っている為にある程度仲が良いのは認めるが、それは別に親友という訳ではない。何もかも悩みを打ち明けられるなら苦労はしないのだ。俺だって隠したい事があるように、二人も何か隠し……いや、澪雨は怪しいが。



 ズキッ。



「「「痛ッ!」」」

 それぞれに刻まれた『契り』に刺すような痛みが奔る。俺と凛は一瞬の痛みだったが、澪雨だけは違った。座った体勢のままうつ伏せになり、食いしばるような唸り声をあげている。心なしか苦しそうなのは、己の胸のせいで呼吸が圧迫されているのだろう。

「澪雨ッ」

 首の痛みは既に引いている。椎乃と協力して体勢を仰向けに直し、背中に触らないように抱えると、呼吸の方は落ち着いた。生地を突っ張らせる双丘の動きが緩やかになっていく。背中に触らず抱えるのも大変だ。今は首を持っているが、これが正しいのかどうか。


『ムシカゴは夜には効力を発揮出来ない。家族殺しがしたいのか?』


 不審者の言葉が脳裏を過る。ムシカゴとやらは恐らくこの町全体を覆う不思議な力を指しているとして、まさか澪雨も例外ではないのか。凛を一瞥するも、俺の視線には気づかない。心配そうにお嬢様の手を握って、その甲を撫でていた。

「大丈夫、澪雨」

「ううううう…………何で、今。タイミング、悪すぎじゃん」

「下着を外しましょうか?」

「もしそうなら俺は席を外すが」

「やだ! 一緒に居て…………日方」

 目に涙を浮かべながらありったけの力で俺の腕を握る澪雨。爪を食いこませんばかりの勢いで普通に痛いが、歯を軋ませてまで痛みに耐えている彼女を前に俺がそんな弱音を吐けるか。痛みが治まるまで実に十分。常に苦しそうだった澪雨を見続ける程辛いものはなかった。

「…………有難う、もう、大丈夫だから」

「タイムリミットだっけ。これがそうなの?」

「恐らくはそうですね。あまり時間は残されていないのかもしれません。『ヒキヒメサマ』と併せてかなりの日数が経過していますから」

「今日は解散しよう。俺も出かけないといけない」

「出かける……ああ、例の」

 バツの悪そうな顔で俯く椎乃の肩を叩いて、俺は立ち上がった。

「行くぞ」

 

























 玄関前で二人と別れ、俺達は林の奥にある井戸へと向かっていた。二時間以上の外出をしないといけないので次に帰る頃にはほぼ明け方だ。段々生活が夜に侵食されているのを実感として覚え始めている。

「……椎は死んだ時の事は覚えてるのか?」

「ええ。まあね。でも痛かったかどうかは忘れた。だから死ぬほど痛いって表現に対してマウントは取れないのは残念」

「何の話をしてるんだよ」

「ユージンは優しいもんね。色々気にしてくれるのは分かる。でも私は大丈夫だって言いたいの。アンタはゲームでも、ちょっとの事で不安視する癖があるし」

「悪かったな。リスクは避ける主義なんだよ」

「…………じゃあ何で、二人の誘いに乗ったの?」

「俺は転校生だからな。それまで夜に出ちゃ駄目ってのは夜に出歩くのは不審者と出くわして危険程度にしか思ってなかったんだよ。軽率だったのは認めるが、その時の俺にとってはどうしようもない。脅迫されてたんだからな」

 井戸が見えてきた。枯井戸の筈だが、どうも夜は構造が変わっているようだ。ライトを持ってくると何故か悍ましい物を見る予感があったので持ってきていない。どうせ真っ暗でも壁にぶつかったり怪我はしないのだ。良く分からないが、ここはそういう空間。納得するしかない。

 真っ黒い空間はどうしても同伴者を見失いがちなので、ポケットから出した手で無造作に彼女の手を掴む。

「もう身体は貸したのか?」

「まだ。お祈りを済ませてから身体を貸すつもりだけど……初めての事だからどうなるか分からない。変な事したら、ごめんね」

「付き合うぞ」

 真っ黒い空間を進んでいくと、壊れた鳥居とご神体と思わしき苔むした石像が納められている。椎乃はこれに対して片膝をついて願うように腕を組み、目を瞑る。俺にその義務はないが、見様見真似で横に並んで、無音世界に祈りを捧いだ。

「………………今度から、ちょっとだけ早めに来いよ」

 祈りの最中に喋るなとは言われていないので、普通に話しかけてみる。

「…………何で?」

「二人でゲームするんだろ。俺の家で。何なら泊まりに来るか?」

「…………ふふっ。夏休みになったら、お邪魔しよ~かな」

「夜更かし出来ないかもな。一日中遊ぶから」

「一日だけって言わずに、色んな所で遊ばなきゃ損よ。夏なんだから。私も、せっかくアンタに生き返らせてもらったし、たくさん遊ばなきゃね。いっぱい誘わないと、今のうちにたくさん計画して」

 祈りの最中は決して目を開かなかったが、身体を貸すまで俺達は喋りつづけた。祈りをいつまで続けるべきなのかは椎乃みぞ知る。俺はただ付き合っているだけ。






「ハジメテにしては、中々悪くないナ」






 椎乃の声を借りた、しかし別人の声と混じり合って電子音のように甲高い声。目を開けて彼女を見遣ると、その身体は既に立ち上がっており。




「儂の憑巫よりましには十分ダ。美しく、心の欠けたモノ。闇が潜むにはそうでなければナ」




 無気力で退廃的な笑みを浮かべる椎乃が、不自然に輝いた瞳を俺に向けていた。

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