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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
四蟲 誰そ彼も不死の殺人友戯

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誰もし七愛

「ただいま」

「随分遅かったな」

「…………プール掃除、任されたからな。あーもう無理。だるだるだるだるだる」

 ようやく帰宅した俺を迎えたのはいつも通りの歓迎だ。両親とは喧嘩こそしたが、本当に怪我が治ってしまったと言うか、あれ以上追及しても実際に見ている筈がないというか。俺の左目は無事に回復し、追及するべき要素も消えてしまったので突っ込めないというか。完全な和解とは言い難いが、それでもある程度は修復した。

「晩御飯多めにしといてー。腹が減ってやばい」

「……いいけど」

 まだ一度も体験していないが、左眼窩に気持ち悪い生物を入れたのは紛れもない俺の意思であり、それは事実だ。体内を食い荒らされるなんてどんな痛みが伴うのか想像もつかない。今日も学校に登校するのが億劫だった。神経の痛みとはかくも敏感な物であったか。

 自分の部屋に戻ると、身体は自動的にベッドへと吸い寄せられた。欠けたブローチを握り締めると、布団に身体を包めて目を瞑った。


 全く楽しくなかったと言えば嘘になるが、疲労の方が大きかった。


 むしろ楽しかったのはプール掃除の方。やっぱり俺は、大勢が苦手なのだろうか。そんな意識は全く持ってこなかったが、本当にただ疲れて……順序が逆ならプール掃除が嫌になってたかもしれない。ただ、あれは元々嫌だった。晴と壱夏の助けがあったからギリギリ楽しかったと言った方が正しいかもしれない。


 ピロン。


 携帯に通知が入ったので覗いてみると、晴から画像が送られてきた。彼女とのグループを開くと画像の他に何個かメッセージが入っている。


『今日は楽しかったですね。日方先輩』

『そうだ。最後に撮った写真、自由に使ってもいいですか?』

『これです』


 そういえば帰り際に何故か写真を求められた記憶がある。プール掃除の記念というか何というか。スク水姿の晴が俺の腕に身体ごと絡ませながら、もう片方の手で自撮り気味に三人をフレームに収めている。壱夏はほぼ不意打ちで取られたので振り返り際の顔だ。だから七割くらいしか映っていない。この写真の面白い所があるとすれば笑顔なのは晴だけで、俺と壱夏の疲弊具合が凄いという所だ。


『好きにしてくれ。ああでも、変な噂が立っても困るからばら撒いたりはするなよ』

『大切にしますね』


 青春ってのは、こういう平和を言うのだろう。本当にこの町は、夜に外へ出ない人間にはとことん優しい。外に出る人間はたった一度、ほんの気の迷いでも許されない。いつまで俺達はこんな苦労をしなければいけないのだろうか。時限爆弾が起動して随分経つが、だからと言って放置は出来ない。タイムリミットを知らせる痛みがやってきた頃には手の打ちようがなくなっていた―――なんて笑えないだろう。

 だから破り続けないと。

「あー」

 そういえばあの不審者に色々聞き忘れた。どう考えてもアイツは凛以上に事情を知っている。目を渡しに来た時なんて千載一遇のチャンスではなかったのか。本当に俺って奴は短絡的というか、寝起きで頭が回らなかったのだが。


 ピロン。


 晩御飯があんまり出来上がらなくてそろそろ空腹が恐ろしくなってきた頃、また晴からメッセージかと思ったら、サクモと喜平だった。


『カラオケに誘われて大変だったな。まあ俺らがそれに付き合う事はないが』

『まーこっちは気にしてないから~よ! 気まずく思ったりするなよな!』

『流石の俺らもゲームには誘わん。お疲れ様だな』


 本当にこいつらは気の良い奴だ。友達でいてくれて本当に助かっている。気が置けない関係は、大いに越した事はない。その方が圧倒的に幸せだ。気にかけてくれたお陰で少し心に余裕が生まれた。ただこの二人にちょっかいを掛けると確実に面倒くさがられるので、ちゃんと対応してくれそうな律儀な人に。

 晴とのグループに何となくピースを決めた写真を送ると、すぐにお返しのピースが返ってきた。どうも彼女は自室に居る様だ。背景に勉強机が見える。



 ………………。



『今日、そっちに行っていい?』


 冗談で椎乃にも送ろうかと悩んでいたら律儀にそんなメッセージが送られてきた。凛も澪雨もこんな確認はしてこない。ちょっとおかしくて、笑ってしまう。


『ああ、来ていいぞ』

『ん。じゃあ行くわね。部屋着でいいの?』

『何なら寝間着でいいと思うぞ』

『それはなんか恥ずかしいからヤダ』

『バイトじゃねえから服装指定はない。好きな服着てこい』


 そうだ、今日の夜は新メンバーを加えた夜更かし同盟初の集会となる。こんな所でくたばっている暇は無い。下の物音を聞いている感じだと晩御飯が出来る頃だ。先に降りておこう。命の危険をそれとなく感じている。




























「こうしてみると、俺の部屋も手狭だな」

 何度か集会を繰り返している内に、各自の位置みたいなものも自ずと決まってきた。俺は自分のベッドの上、澪雨は扇風機の前、凛はテレビの正面、そして椎乃は勉強机の椅子を跨ぐように座る。今日初めてここに来たのに椎乃の慣れ具合は何なのだろう。

 二人が制服なのはいつも通りとして、彼女だけが赤いチェックの服なのも一人だけリラックスしているみたいだ。オーバーサイズなのもそれに拍車をかけている。

「何となく集まりましたが、話す事などありますか?」

「まだこの痣が誰を発端としてるか判明してない。澪雨、背中の方は大丈夫か?」

「うん。大丈夫。まだちょっと痛いけど……服が擦れてまともに動けないみたいなのはないよ。もしそうなってたらここに来てないかんね」

「え~っとぉ。ごめん、ユージン。早速話についていけない。どういう事?」

 俺はこの三人が夜更かしをしている理由について簡潔に説明した。今は自分たちの過ちに気づいて止めたがっているが、それぞれに残る痣のせいで恐らくそれも許されていないという事。だからいつまでもバレない様に動かなければいけないという事。

 本当は椎乃を巻き込みたくなかったという事。

「…………そう」

「……ごめんな、椎。ごめんな」

「大丈夫。気にしてないよ。てゆーかさ、気にする仲な訳? 私はまだ生きてる。それでいいじゃん。あんまり自分を責めないで。『口なしさん』の件もさ、死人が出て辛いのはユージンでしょ?」

「……そして前回は遂に私達は協力もせず一人に圧しつけてしまった」

「私もその件は……どうにかしたかったんだけど。ごめんなさい、日方」

「いや、いいって。むしろお前達に動かれた方が迷惑だったかもしれない。特に澪雨は家柄が家柄だからな。椎は……まあ、そんな気休め言わなくてもって感じだけど。俺がもっと早く気づけてたらさ」

「ユージン!」

 椎が声を荒げて椅子を蹴る。俺の前まで近づくと、ほっぺに指を押し当てた。

「気にすんなって言ったでしょ。私ね、ユージンとまた遊べる様になってからもっと仲良くなりたいって思ってたんだ。なんかずっと心に壁がある感じだったし。だから仲間に誘ってくれて嬉しいっ。私は、アンタが友達で良かったと思ってるわ」

 心からの本音を明け透けに言われるとこちらも反応に困る。真っすぐな感謝を告げられるのが恥ずかしくて、照れ隠しの様に笑ってしまった。するとこちらの様子を窺っていた凛が大きい咳を払って空気を仕切り直すように唸った。

「オホン。話を戻しますが、ここ最近何か変わった事はございますか?」

「変わった事……あ、七愛。私の家がバイトを募集してる話は?」

「私は変わった事とは思いませんが……お二人はどうでしょうね」

 澪雨は俺と椎乃に向けてバイトの件を話し始めた。

「夏になるといつも募集してるんだけど、夏休み中にお祭りがあるじゃん? その設営の手伝いとか、ビラ配りとか、早い話が雑用なんだけど。時給二千円で色んな人に募集かけてるの」

「え、凄い時給……」

「そうなのか?」

「時給二千円はイカれてるっての! その手の募集、すぐ埋まるでしょ」

「それが、今年に限って学生だけ先行募集みたいで。私が誘ってもいいって言うから、一応言うんだけど」

 今年に限って、というのが不穏だ。今年と言うと俺達が初めて禁忌を破っている。また怪しまれているのかそれとも学生を対象にしたい事があるのか。澪雨にも詳細は教えられていないらしい。巫女の癖に内部事情をひた隠しにされているのは何故だ。己の能力もそうだが、澪雨にはとにかく自覚がない。

 まるで無菌室に育てられた様だ。箱入り娘とかいう次元ではない。そうである事を望まれた、命して清廉である事を強いられた様な歪さ。ひょっとすると生まれる前から、澪雨には自由という概念が許されていなかったのかと邪推してしまう。

「俺は今日平常点のせいでモテモテだったから何もない。疲れた」

「ああ聞いた聞いた。平常点満点なんだってね。なんかしたの?」

「誰も知らないぞ。本当に何故か満点なんだ。変と言えば変だけど、とっかかりがなさ過ぎて考える事がないよな」



「デスゲーム」



 誰が聞いても不穏すぎる響きに、空気が制止した。

「は?」

「私は補充要員としてあてがわれた身ですが、元のクラスとも交流は残っています。そこで聞いたのです。夏休み前の臨時収入としてあまりに優秀な。ただボタンを押すだけで金が貰えると言われる……曰く、誰も死なないデスゲームの話を」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新たに始まっちまったな、怪異が…怪異(デスゲーム)? [気になる点] ヒキヒメサマの種明かしされないまま終わったという事は今までの傾向から最終話付近で回収してくる凄く大事な蠱だな、さては …
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