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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
四蟲 誰そ彼も不死の殺人友戯

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ハッピーポリシーメディスン

『どうやら話を聞いていなかったようですから改めて。内部通報制度が可視化されたのには牽制目的がある筈です』

『牽制?』

『澪雨様や日方君には何の旨味もありませんが、そうでない人にとってこれはまたとない好機……実際、夜に外へ出た例は生まれた訳ですからね。元々チクリは有効だったのに、学校側から推奨してきた……暗に外へ出るなと警告しているのでしょう』


 これからの学校生活は相互監視が続くだろうとは凛の予想だったが、それよりも何よりも他の学生なら涎を垂らしてでも受け入れそうなくらい、俺はモテモテだった。それは女子に限った話じゃない。スポーツ万能な……まあつまり趣味の合わない奴であったり、陰で俺達を小馬鹿にしていた女子までも、がニコニコと他のイケメンに向けるような面を俺に見せてくる始末。相互監視どころか一方的に俺が監視されているのではないか。もうそんな気さえしてくる。

 

「ねえ日方、よかったら一緒に帰ろ! カラオケカラオケ!」

「おーいいなそれ! 日方悠心の一位記念ってか! なあ!」


 なれなれしく話しかけてくる女子と男子はそれぞれ桜庭華子さくらばかこ反金仁ほんがねじん。一年生から顔と名前は知っているが、交流は学校行事―――文化祭でもないと、存在しない。仁の周りに居るのは鏑木誠也かぶらぎせいやとか高井新道たかいあらみちとか。こちらもやはり名前だけ。同じクラスでもグループがあるのはお約束で、澪雨を除けば華子の率いるグループがトップティアだ。俺が言うのも何だがここに馴染めない人はちょっと陰気な所がある。俺も陰気なので良く分かる。だからサッカーとバスケが趣味の仁なんかとは、話も合わなければ興味も出てこないのだ。

「…………これ、何人参加するんだ?」

「十人くらいでパーっとやろうよ! ねえ!」

「いいねえ!」

 俺を差し置いて話が勝手に進められる。誰も悪意はないだろうし、華子や仁もただ趣味が合わないだけで決して悪い人間ではない。それでもサクモ達と距離が離れるのは個人的に不愉快だ。しかし今や秀才よりも秀才みたいな扱いを受けている手前、そんな俗っぽい理由で拒否するのも今後生活するうえで気まずそうなので。

「あー。参加はいいけど。一緒に帰るのは待ってくれ。実は放課後にプール掃除をやらないといけなくてな」

「え、先生が言ってたの?」

「あーうん。そんな感じ……かな」

 先生以前に誰もそんな事は頼んでいないがどうせ美化委員辺りが突然任される作業だ。自主的に代わってやる分には文句も出まい。この学校の平常点が特殊な仕様である限り、この手の自主的な活動は評価されて然るべきだ。点数が欲しいというよりこの場を逃げる言い訳が欲しい。丁度確かめたい事もある。

「どうする? 付き合う?」

「やーあちーし怠いから任せようぜ。来るって言ってるし」


 ―――ついてこないか。


 成程成程。本気で平常点を稼ぎに行こうというよりは俺の周りに集まる事で何となく評価してもらいたいと。気持ちは非常に分かる。暑いのも怠いのも嫌いなのは俺も同じ。だが、昔からの友人であるかのような態度で接してくるなら付き合ってほしかった。

 趣味は合わなくてもその場の話題だったら合わせられる。暑い事とか怠い事とかも全部話題だろう。友達と話そうとする時、最初は何を話すか考えようとするが気づけば脊髄反射だ。俺達は何となくで会話が出来る。きっかけが点数でも仲良くする気があるならと思ったら……案の定だ。

「で、何処のカラオケだ?」

「スリーって所」

「あー……マップ使って探すわ」

「行った事ないってマジ!? やば!」

 そんな事も知らないのに、俺と親しそうに話すか。険悪な態度は表に出したくないが、話していると段々不愉快になっていく。早く行こう

「じゃあ行ってくる。別に後から参加しに来てもいいんだぞ。プール広すぎるから」

「誰も行かねえよ! 頑張れなッ!」

 サクモと喜平の姿は何処にもない。喧嘩した訳でもないのにこんな感じで疎遠になったら俺はとても悲しい。凛は表向き彼らと同じ反応を取らなければいけないので非協力的、澪雨は習い事、椎乃はバイトがあるのでやはり協力はしてくれない(バイト先まで付き添う約束は残っているが、関係性が変化してしまったのでうやむやになるだろう)。

 夜更かし同盟の事情はどうしてこう動きづらいのだろう。ならサクモ達と疎遠になったら俺は一人ぼっちじゃないか。上辺だけの友情だけが残ったら……一体どちらが俺にとって心地いい世界なんだ。

 プール掃除の件を伝えると、担任の教師は許可してくれた。許可しない理由もない。ただ、俺が一人だけでやるという事だけは心配していた。

「本当に大丈夫なのか?」

「まあ、時間だけはたっぷりあるんでね」

 誰か頼ってもいいんだぞ。広いからな」

「俺のクラスにそんな親切な奴は居ませんよ」

 ただ夜に外出さえしなければ、基本的にはいい人達の集まりこそこの町の特徴だ。治安の良さも関係しているのかもしれない。夜に外出が出来ないから他の地域と違って悪さする人間もいないし。先生からプールの鍵一式を借り受けると、俺は重い足取りを外に向かわせる。ここから最速でプール場に向かうには階段を最期まで下りて一年生の廊下を通り過ぎるのが最も効率的だ。言ってしまったものは取り消せないのでさっさと終わらせよう。それでカラオケだ。楽しめるかは分からない。





「あれ、日方先輩? 珍しい所で会いましたね」





 俺を先輩と呼ぶ人間は一人だけだ。何故なら部活に所属していない先輩は後輩と接点を持てないから。振り返ると、丁度教室から鞄を持って出ようとする晴の姿があった。

「晴か。帰る所か?」

「はい! 部活が再開した時についていけないってなったら格好悪いじゃないですか。そういう日方先輩は、普段からこんな帰り道を?」

「いや、プール掃除を頼まれてな……先生に。ほら、夏休み終わった後にプールあるだろ」

「あ……そうなんですか? え、一人で行うんですか? それとも先に誰かがやってるとか?」

「俺一人だけだが」

 九月のプールに関しては個人的に文句を言いたいが、この町は基本的に温暖気候で、特に夏は長引く。九月は地域によっては秋と呼ばれる季節だろうが、ここはまだ夏だ。それくらい暑いし、雨も大して降らないから。今月も雨が降った日というと死体が見つかって以降、『口なしさん』の噂が広まる前の数日くらいだ。

 一年前は夜に結構降っていたと思うが、あの一夜を経てから全然降らなくなったのは気のせいだろうか。

「ええ~! 大変じゃないですか! 学校見学で見ましたけど、すっごく広いですよ?」

「俺がやらなくても誰かやらされるさ。ちゃんとした清掃員でも雇えばいいのに金ケチってるからな。そんな訳で俺はほぼ居残りだ。そっちは気をつけて帰れよー」

 椎乃は失敗したが、晴の巻き込み回避だけは成功している。後は予言みたいにふざけた何かがまた関わってこないのを祈るだけだ。後輩の元気そうな顔を見て満足しつつ、そのまま適当に別れを告げて向かおうとすると、「日方先輩」と呼ぶ声が背中を止めた。

「私で良ければ、お手伝いしましょうか?」

「…………多分、面倒だぞ?」


「日方先輩と私なら、余裕ですッ。ふふッ、それに、二人でやったら楽しいかもしれませんよ! プールを独占出来るんですから!」

 




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― 新着の感想 ―
[一言] 晴がオアシスかもしれない。
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