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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
四蟲 誰そ彼も不死の殺人友戯

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新生なる同盟

「内部通報制度は元々あった筈です。可視化しただけでしょう―――」

 昼休み。普段はゲーム仲間の二人と食べるのだが、今日だけはどうしても夜更かし同盟の二人と昼に話したかったので、無理を言って屋上に澪雨を連れてきた。まさかあの澪雨に話しかけるとはと思われるかもしれないが、平常点が公開された今、俺と澪雨は同列の立場にある。

 それを示すように、昼休みまでの間に俺を見る目は全く変わってしまった。


『日方。一緒に昼どうよ?』

『私、前々から思ってたんだけど日方ってカッコいいよね? どう? 今度遊びに行かない?』


 ただゲームをしているだけの奴にここまで媚を売れるのかと人間不信に陥りそうだ。平常点が高いやつが隣にいればおこぼれを貰えるとでも、確かに俺は澪雨程とっつきにくくはないが。

 だから二人と駄弁る気にはならなかった。どう考えても外から水を差される。

「―――日方君?」

「ん? ああすまん。聞いてなかった。ここに来るまでに苦労したからちょっとな」

「一番ついていくのに苦労したのは私という事をお忘れなく」

「まあでも尾行はされてないんだろ。だったら大丈夫だ。今更盗聴なんて平常点が下がりそうな真似をする訳ない。平常点公開されて見る目が変わったのはちょっとだるいけど。どうしても今集まりたかった。色々、言いたい事があったしな」



「左目が見えるようになったんだね?」



 動いてるから明らかだと言わんばかりだが、その通りだ。ただ理解し難い物を頼ったので何がどうとは語らずに、目が見えている事を伝えた。

 ただし、右耳が使えなくなった事も。

「……どういう原理ですか?」

「俺も分かってないから説明しても理解させられる自信がない。ただ一応、夜になれば聞こえるようになる。それまでは出来るだけ俺の左側から話しかけてくれ」

「……大丈夫なの?」

「目が使えないのとは大違いだ。見た目からじゃバレないしな。昨夜何があったかは全く理解してない。正直言って理解の外だ。それでも一応、説明しようと思う。わかりにくかったらすまん。俺も分からないんだ」

 とにかく二人を混乱させないように、ありのまま見た光景を説明した。やたら絡んでくる不審者に二人は余程気になっているみたいだが、俺だって正体を知らない。性別も把握出来ない。

 だがそもそもこの二人は不審者と出会ってすらいない。信用におけない奴の言う事を信じる俺が奇妙に思えて仕方ないだろう。

「………………気になる事しかありませんが、大体事情は把握しました。私達がいない間にそのような事になっていたとは」

「仲間なのに役に立てなくてごめんなさい。私がいれば、きっと何か出来たと思うのに」

「もう終わった事だから気にしないでくれ。ただちょっと……おい! もういいぞ、出てきて」

  携帯越しに話しかけると、屋上入り口の壁裏から椎乃がひょこっと顔を出した。凛も澪雨も完全に不意打ちを食らって固まっている。椎乃の方は、ギャルでもない凛と砕けた口調で話す澪雨が信じられないようで、こちらも固まっていた。

「夜更かし同盟に、加えてほしい」

「………………何を。一体」

「そんな気軽に秘密が広まったらいつか決定的にバレるかんね。もう手遅れだけど」





「じゃあお前達は、俺がこいつを助けたのが間違いだって言うのか?」





 昨夜の出来事を話したが、椎乃周りは敢えて濁した。それもこれも全ては順序があると思ったからだ。しかし本人を差し置いて俺が一番真剣とはどういう了見だろう。契約者は俺ではない。俺はあくまで代理人。右耳の聴力を失ったのはその仲介料みたいなものであった。

「俺は殺されたこいつを助ける為に、変な奴と契約する事になった。少なくとも椎は特に用がなくても毎晩外へ出なくちゃいけない。外に出ない選択肢がある俺達よりずっと過酷だ。わかるよな、形は違えどこいつも脅迫されてるんだ! それの一体、何処が信用できないんだよ!」

 脅迫が信用担保にならないなら俺もまた信用ならないという事になる。実質的には俺を担保にした信用だ、澪雨も凛も苦い顔は崩さなかったが、俺の論理を崩すことは出来ないと悟ったのだろう。二人して目を見合わせて言った。

「……そこまで日方が言うなら、私はいいよ」

「そう、ですね。今回の一件は、彼に全ての責任を押し付けたような形ですし、無碍にするのは筋が通りませんか」

「でも、私の背中の蟲も七愛の蛇もどんどん悪化してるのはきになるよね。ヒキヒメサマじゃないならなんなんだろ……」

「ん〜なんか、あれだね。澪雨の方は猫被ってたんだ?」

「まあ、大体そんな感じだな」

 椎乃はやや気まずそうに後頭部を掻いて立ち尽くしている。巻き込まないつもりでいたが、最早不可能だ。それならいっそ協力者でいてくれた方がいいと俺が提案した。

「……私は、普段からこんな感じで喋ってくれたら全然澪雨に絡んだと思うわ。えっと。クラスは違うけど緒切椎乃だよっ。二人ともよろしくね!」

「七愛凛です。以降は椎乃と呼ばせていただきますね」

「え、七愛がそう呼ぶなら……私はじゃあ、椎乃ちゃんでいい……かなあ?」

「あはは。高校生にもなってその呼び方はなんか可愛げがあるねっ。私はいいよ。そういう風に呼ばれるのが懐かしいしね」

「所で椎乃はゲーム等はお好きですか?」



「大好きだよ! あんまり誰も知らないけど、ユージンとゲームするようになってからずっと好きっ。二人プレイでワイワイ盛り上がるのなんかもう、最高よね!」




 最初は雲行きが怪しかったが、女同士という事もあってそれなりに上手く行きそうだ。

 椎乃に課された契約継続の条件は三つ。


・毎晩外に出て井戸の底でお祈りをする

・毎晩一時間だけ身体を貸す(任意)

・毎晩契約者でない人間を一人連れてくる


 三つ目は面倒に見えて同一人物でも可能なので俺が付き添ってやれば解決だ。そんな俺は契約者でこそないが代理人ではあるので、課された条件も存在している。


・身体の貸与(右耳の件はこれ)

・コドクの夜に新鮮な生首を?

・闇に身体を馴染ませる(毎晩二時間以上の外出)


 コドクの夜というのがよく分からないが、とにかくこれからは籠城し続ける選択肢がなくなり、誰一人死人を出さず収めるという選択肢も消える。

 契約を破れば椎乃は再び死んでしまう。そしてこの事は契約代理を務めた俺にしか伝えられていない。



 だがそれでいいじゃないか。死人を完璧に無くすのが無理なら有効活用すれば良い。生首が自然に生まれるとは考えにくいので、その場合は俺が死体を切り刻む事になる。まがりなりにも人間だった肉を切り離す抵抗は大きいだろうが、やらないと大事な友人が死んでしまう。続けている内に俺の心が荒む事になったとしても、やはりこれは変えられない。



『え、悠心って横断歩道渡ってる人助けないの? 冷たいんだね』

『赤点で困ってる友達がいるのに、助けてあげないんだ。苦手だから教えられない? 私の彼氏はそんな事言わないんだよ』



 ネエネと分け合ったブローチをぎゅっと握りしめる。視線の先には、新しい友達にはしゃぐ澪雨の姿。













 俺が耐えればいいだけ。それだけの事だ。




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― 新着の感想 ―
[良い点] いや〜目が見えるようになって良かった良かった! [気になる点] 契約内容がそれとなく不穏なのは些細なことですな、目に比べれば! [一言] 一旦スターシステムは除外すると不審者の正体は 怪…
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