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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
三蟲 天上天下在す予言

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右に倣う神下の予言

「………………」

 信じられなくて、トイレの鏡で改めて確認をしている。だが鏡で確認しようがカメラで確認しようがそこに大した違いはない。『口なしさん』に対処して消えた筈の時限爆弾は案の定というか、そうあって欲しくなかったというか、とにかく再起動してしまった。

「やめて、くれよ……」

 二人には今までの誤魔化しのお陰でそこまで気にされなかったが、誰よりも俺が気にしている。何で再起動したのかも分からない。これで俺はゲーム三昧の日々からおさらばだ。毎日毎日夜になったらどうにか行動しないと死んでしまうかもしれない。

 

 ―――かもってのがマジで。


 絞蛇の印とか首の痣とか良く分からないが、もしかしたら文献に記述してある痕とは違う可能性はある。あるが、違うかどうかを確かめるには一旦タイムリミットまで待ってみるしかない。これはそんな単純な話なのだが、生きるか死ぬかの完全二択を俺の命で試す気にはなれない。それならいっそ死ぬという前提で動いた方がマシだ。

 ああ予言が欲しい。俺に正解を教えてくれ。話を聞いている感じだと予言は飽くまで聞こえる人間の行動にしか反応しない。だから俺が悩み相談をして、喜平が予言を俺に伝えられるような利便性は恐らくない。あったら流石に共有しようとするだろう。喜平がしなくても、他に聞こえるという奴らがその素振りさえないのは妙だ。予言は飽くまで聞こえる人の役にしか立たないと思ってもいいかもしれない

「………………こいつのせいか?」

 もしかして次は、この予言をどうにかしないといけないのだろうか。だとしたら厄介だ。『口なしさん』は俺達にも害を与えてきたが、予言はまず声が聞こえない。そしていまいち害もないというか……そもそも実体があるのだろうか。『ヒキヒメサマ』というくらいなら物理的な存在くらいはあるのか……?

 或いは、予言は一切関係ないという線も考えられるが、こっちはこっちで最低だ。何が原因で痕が再浮上したのかが分からない。前者が『何をどうすればいいか分からない』なら、後者は『まず何が時限爆弾を再起動させたか』だ。

 俺だけが同じ目に遭ったとは思えない。今日にでも二人は夜に現れるだろう。それでも一体なにをすればいいか分からない。だが出来る事はある筈だ。



 ワイシャツのボタンを一番上まで留めてから教室に戻ると、クラスメイトの半分程度が俺の事を見ていた。



「え」

 それは間もなく気のせいだと分かる。教室の出口は右。俺を見ていると思ったクラスメイトは俺というよりその方向を見ているだけだった。

「おう。随分長かったな。腹下したか~?」

「それくらい予言に教えてもらえよ」

「んなの何が正解なんだ? お前が金くれるってんなら喜んでやるけどなー!」

「あげねえよ。イカサマじゃねえか」

「ひっひっひ! 俺っちはこの予言がある限り無敵なのさ~」

 少しでも情報を引き出せればと思ったが相変わらずの自慢に終始して空ぶった。昼休み終了のチャイムが鳴り、次の授業の担任がフライング気味に入ってくる。


「今日は、自習だ。以上」


 青いスーツが一瞬見えたかと思うと、担任は扉を閉めて何処かへ行ってしまった。何処かといってもどうせ職員室だが、日本史の授業で自習とはどういう事だろうか。この授業の醍醐味は先生の余談にあり、余談をどれだけ覚えているかで点数もある程度底上げしてもらえるという救済措置が俺達のような生徒に人気だ。それがない自習は、単なる教科書丸暗記ではないのか……そもそもテスト範囲もまだ言われていなかったと思うが。

「んーそうか~」

 

「そういう事か」


「分かるわあー」


 突如として頷き合うクラスメイト。俺には何も分からない。途中で澪雨と目が合った。彼女も事態を把握出来ておらず、周囲の変化に困惑している様だ。

「なあ喜平。何がそういう事かお前は分かるのか?」

「ん~? まあ分かっちゃったりする。先生も予言が聞こえんのよな。だから自習にしたって話よ。お分かりか?」

「……予言って?」

「そりゃ知らねえよ。予言は人それぞれさ。そりゃそうさ。人生は人それぞれなんだから正解も違うわな。例えば今も……うん。ははあ。成程な。おい悠心。喜べよな。ヒキヒメサマが今から指示する場所に向かえば、お前も予言が聞こえるようになるってよ。やったな!」



「付き合ってられん…………悠、こいつの発言は無視しろ。ちょっとおかしい」



「…………今からってのは、授業を抜け出せって意味か?」

「おうさ! まあ後で行ってもいいんじゃないか? 聞くだけでも損はないと思うぞ?」

「おい、悠!」

「…………」

 サクモは気付いていない様だ。





 予言が聞こえているであろう全員が、不自然に目を見開きながらこちらを見ている事に。























「お、待っててくれたんだっ」

「……」

 クラスを訪ねるのも気まずかったので校門で待っていたら、椎乃も俺に気が付いた。昨日の約束は勿論覚えている。彼女はそれが余程嬉しかったのか、俺の前で小躍りしながらガッツポーズなんか決めてくれる。

「ありがと、ユージン。じゃあ勘違いされない内に行こっか」

「…………お前は何にも変わらないみたいで良かったよ」

「え? 何が?」

 俺は今日一日で起きた不思議な出来事についてを彼女に伝えた。予言がどうこうなんて、とてもとても信じられないとは思う。だがそれは確実に起きたし、それで俺は嫌な選択を迫られていた。結局乗らなかったが、放課後になるまでやたらと右側を気にする人間が多くて居心地が悪かった。クラスメイトが豹変したとまでは言わない。喜平でさえもちょっと自慢がうざいくらいでそれを除けばいつも通りだし。

「お前の方にはなかったのか?」

「……いや、あった。右側をすっごい気にしてる人が居たわ。でもまさかそんな理由? 本当に?」

「信じられないだろ?」

「そりゃそうよ。でもなんか……怖い感じ。知らない人が勝手に話しかけてくるって普通に考えたら怖くない?」

「まあな。新手の不審者かと思うよ」

 サクモの理屈よりは親近感がわく。確かに知らない奴から急に話しかけられるのは怖い。しかも相手は姿もないし、声が脳内に響くという状況だ。俺なら予言と思うより前に己の頭がおかしくなったのかと疑うところ。

「……何か、気になるな。ちょっと調べてみようかな」

「おい、待て。椎。首を突っ込む事はないぞ。危ないかもしれない」

「危ない? 危ない事ないよユージン。この町は安全なんだから。それに危なくなったら逃げる準備は出来てる。その予言っていうのが聞こえるようになったらいいんだけど……方法とかないよね」

「…………ああ、無いと思う」

 興味を持たせてしまった様なので、嘘を吐いてそれとなく関与を遠ざける。駄目だ。彼女が死んだら俺は耐えられない。知り合いでも何でもない奴が死んでもギリギリだったのに、知り合いが死んでしまったら俺はどうなる。

「…………せめて、何か分かったら俺に伝えてくれないか?」

「へ? どうして?」

「俺は心配性なんだよ。最近うちの学校じゃしに……転校ばっかりで変だし、お前に居なくなられたら一体誰が俺に割引してくれるんだ!」

「……あはは。ユージンって金にがめついねっ」

「うるせー。俺は働いてないからお金に限度があるんだ」

「もう……しょうがないなあ。分かったよ。何かあったらユージンに相談するね。危ない事なんてないと思うけど」

「…………」

 

 危ない事なんてない、か。確かに昼はそうかもしれない。或いは昼の安全の皺寄せとして、危険になっているだけなのか。





 



 ますます動かないといけなくなった。椎乃をこんな事で死なせたくないし関わらせたくもない。何とかしないと。

  



 

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