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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
三蟲 天上天下在す予言

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50/157

神は予言を以て全能とす

 翌日。

 俺は先んじて二人に対して弁明を試みていた。結局昨日は一秒として二人と遊ぶ事はなく、夜明けギリギリまで女子二人と盛り上がっていた。官能的な意味はなく、単に勝敗を競い合ってマジになっていたのだ。

「や、すまんすまん。昨日は結局参加出来なかった」

「俺は特に気にしてないぞ。それに……参加しない方が良かったまである」

「は? 何で?」

「俺っちが無双しちゃうからだにゃ~」

「こいつのきもいキャラ付けは無視しろ。深夜テンションを引きずってるだけだ。少し感傷的になっていてな」

 俺が参加しなかった事より別の話題にシフトしている辺り、本気でどうでも良さそうだ。仲に亀裂が生じる事はないと思っていたとはいえ、ここまで無関心なのは想定外。俺達はそこまでドライな関係だったのか。

「感傷的って、何があったんだ?」

「……推しのアイドルが死んだ事をふと思い出したんだよ。こゆるちゃんなー。分かるだろ」

 こゆるとは波園こゆるというアイドルの事で、この国で一番誰が人気なのかという投票をすれば間違いなく彼女の名前が上がるくらいにはトップアイドルだった女の子だ。俺も良く知っているし、多少はファンだった。だって凄く可愛かったし、スタイルも良かったし。何より握手会で見せてくれたあの笑顔が忘れられない。当時思春期真っ盛りだった俺には劇薬の様な人で、芸能人とはこうも眩い人なのかとも思った。 

 思えば中学生の頃出来た恋人には、そういう輝きを求めていた節もあったような。

「……事故な。まあ脈絡もなく急に思い出す事くらいはあるよ」

「それだけなら良かったんだがな、泣き酒入ったみたいに弱音吐くこいつに付き合ってる内に段々様子がおかしくなってきたというか」

「具体的には」



「お前が来るまで対戦してるつもりだった。勝率は俺が七割くらいだったんだが、その瞬間を境に超強くなった」


 

 サクモは不愉快そうに喜平の顔を見て悔しそうに歯を軋ませた。喜平は相変わらずへらへらしているが、この二人の共通点としてとんでもない負けず嫌いというのがある。口では『負けても良い』と発言する事はあるが、絶対に手加減などはしてくれない。ただしゲーム限定。勉強の方は負け犬上等だ。

「誇張なしだ。数えた。悔しすぎてな。五三連敗した」

「…………ガチ?」

「だからお前が参加しなかったのは別に気にしてないんだ。俺は気分悪かったし、こいつは勝ちすぎて気分良かったし。だからさっきまでその理由を問い質してた所なんだよ」

 二人して喜平に向けて視線で問い質す。喜平は昨夜無双した影響か、テンションと共に全能感も引きずっているように見える。今なら何でもできると言わんばかり。心なしか胸を張っているのは溢れる自信の表れか。

「何だよ何だよ。俺っちが強すぎるからって強さのコツを知りたいってか? 普段なら教える所なんだが、信じてもらえねーとは思うかな」

「いいから言えよ。信じるかどうかはこっちが決める事だ」

「夜に外へ出たから強くなれた、とは言うなよ。それは禁止だからな」


 …………。


 俺への牽制?

「言わねえよそんな事。実は俺っちはな…………予言が聞こえるようになったのさ」

「…………」

 サクモと二人で顔を見合わせる。控えめに言ってこいつは何を言っているのだろうか。現実的な原因は感傷に浸りすぎて頭がおかしくなったとか。こういう場合、発言している本人は至って大真面目なので性質が悪い。

「えーと……その予言って言うのは?」

「『ヒキヒメサマ』の予言だよ。知らないか? 町内でも結構聞こえるって人が居るんだ。あーほら、端っこに敷島いるだろ? アイツも聞こえるぜ。だからほら……右側を見てるだろ?」

 やはりサクモと一緒に視線を向かわせるが、確かに敷島はクラスの端っこで廊下を覗くように右側を見ている。予言が何なのかは分からないが、一度予言を受けると他にも予言を受けている人間が分かるのだろうか。

「予言ってのは具体的には?」

「その時々の正解だよ。サクモと戦った時はま~相手が何するかとかだよな。それに対して何を振ればいいかも全部教えてくれる。タイミングもな」

「にわかには信じがたいが……あれだけ連勝した奴には何も言えんな」

「証明を求めるって訳じゃないけど、今も聞こえてるのか?」

「聞こえてるぜ~? じゃあちょっと試してやろうか。お前らにも加護が来るように願って、今から放課後までに俺は積極的に手を挙げるな。そんで、全部解答する。ついでにちょっとした未来も当ててやろうじゃんか! まず三限に抜き打ちテストがある。教科書のページ範囲で言うと大体~」






















 信じ難い事だが、喜平は本当に予言とやらを信じているし、その効力も本物である事が……信じられないが、証明されてしまった。今日という日の主人公は喜平であると。誰もがそう思ったに違いない。

「予言の力は偉大だろ? ひっひひ。ふっははは!」

 昼休みになっても自慢を止めない喜平だが、それくらいの活躍を授業中ではしてくれた為に俺達は言い返せずにいる。正しくはあるのだ。傲慢とかではなくて、ただその態度が滅茶苦茶にムカツクというだけで。

「…………予言か」

「信じるのか?」

「これだけ見せられたら全く信じないという訳にも行かないな。一番は勿論俺にも聞こえれば良いんだが……右側から聞こえると言うのは良く分からないな。右に居るのか?」

「いんやー。それは知らねえけど。まあいいじゃんよ、細かい事は。頭使わずに天才ぶれるならそれに越した事はねーし? 」

「文字通り脳死って奴だな。考える事を止めるなんて」

「別にいいだろ~? 自分の頭で考えたって分からねえもんはあるんだからよ」

予言に対する嫉妬と思ってもらっても構わない。正解が分かるなら俺だってその力が欲しい。自分の頭で考えても分からない、その通りだ。俺は自分が一体どんな物に巻き込まれたかが見当もついていない。なのにいつまでも縛られている。ゲームとか成績とかそんな小さい事ではなく、こっちは命が懸かっている。どうにかして予言を手に入れられない物か。

 ああ、初めて喜平に嫉妬している。気が狂いそうだ。頭がどうかしてしまって、また取り返しのつかない行動でもするのではないか。左目が消えてしまったのだから、それくらいいだろう。多少のズルでも何でもない。正統な補填ではないか。

「悠。お前、予言が欲しいと思うか?」

「え? …………まあ、欲しくないと言ったら嘘になるけど。お前は違うのか?」

「聞こえれば信用するとは言ったが、個人的には欲しくないな。ゲームとは開拓だ。勝てればいいの精神なのかもしれないが、それが面白いのか? 勝てればいいにも種類があるだろ。格ゲーなら、強い連係やコンボ、怪しい読み合いで相手を追いつめるとか。広く知れ渡るコンボから自分が編み出したコンボまで、そこには想像と創造の余地がある。相手の出す手が分かってるから勝てる択を選ぶ。これじゃジャンケンと一緒だ。そんなにジャンケンがしたいならジャンケンマシンにでも縋るさ」

「そういう……もん。なのか?」

「俺はそう思ってるというだけだ。それに、正解を教えてくれるとは言うが、正解がない時はどんな予言が下されるんだろうな。もしくは正解が出せない時。例えば今日こいつは授業でたくさん答えたな。先生に名指しされるまでもなく。正解を予言が教えたからなんだろうが、じゃあもしコイツが失声症かなんかで声が出せなかったら? 書くか? 腕がなかったら? 答えを出そうとしても出せない状況ならどんな予言が来るんだろうな」

「なーんか俺っち抜きではなしてっけどさ~。そういうの詭弁ってんだぜサクモー。俺っちだってそこまでして授業なんか受けたくねえよ。予言はこっちの望む通りの正解を教えてくれるんだからよ」

「…………そうだな。それが一番恐ろしい所で、俺が要らないと思ってる理由だよ」

「は?」

「これ以上は個人の主張でも喧嘩になりそうだからやめる。まあとにかく、お前みたいに首輪をつけられるのは嫌いなんだよ」

 そういってサクモは、俺の首を指さした。

 





 慌ててカメラを起動すると、薄くなっていた筈の痕跡がまたくっきりと濃くなって、命を咎める枷のように浮き上がっていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] こ ゆ る ち ゃ ん
[良い点] あなたの書く作品にが好きでよく呼んでます [気になる点] マキナの世界と同じ世界だったんですね。驚きました
[一言] こゆるさんで劇薬ならマキナは、、、。
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