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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
三蟲 天上天下在す予言

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明星の彼女

「おっまたーせっ」

「本当にいいのか?」

「いいのいいの。買い物って結構好きだし。買う物がなくても見るだけで面白いんだよ。ユージンは違うんだっけ?」

「俺は目的がないと買い物したくないタイプというか、目的の物買ったらすぐ帰るからな」

 勧めたからにはついていきたいと言ってきかないので、椎乃のバイトが終わり次第、一緒に行くという流れになった。何故こうなったのかは分からないが、お礼をしようとした俺が間違っていたのかもしれない。見事に付け込まれたというか、彼女の押しが強かったというか。

 ただゲームを買いに行くだけで同伴はどうかと思うが、椎乃と一緒に居ると心が明るくなるので断り切れなかった。左目の視力を失ってから、または成す術もなく八人が殺されてからというもの、俺の心には陰りが生じている。誰が悪いとかはなく、強いて言えば俺が悪い。俺の能力もそうだが…………心構えも。

 今後都合が悪くなりそうだから全滅してもそれはそれなんて。

 俺はなんて薄情な男だろうか。でも、じゃあどうすれば良かった? 何が正しかった? 時限爆弾と思わしき痕を持った俺達には選択する事しか出来ない。自分が死ぬのも覚悟で全員を助けたとして、これからも夜に外へ出た秘密を共有するのか? 彼らにそこまでの善性はあるか? 仲良しではないので到底信じられない。それに、平常時がそうであったとしても緊急時はどうだ。簡単に裏切るのではないか?

 澪雨と凛と俺は良い。この関係が始まったのはそもそもここからで、俺は二人に脅迫されているから。だがそれ以外の人間は成り行きだ。人助けの精神で秘密を漏らしてしまえば今後どうなるかは誰にも分からない。多人数で共有される秘密は秘密ではないのだと。一例をあげるとするなら……誰にも言わないという約束で友達に教えた好きな人の情報が、いつの間にかクラスに広まっていたとか。

 だからあの日の誰かが生き残っていたら今よりも状況は良かったのかと言われるとそんな事はない筈だ。かといって今が最善かというと、ここまで悩む時点でお察しではある。じゃあどうすれば良かったのかなんて、やはり分からない。



「どうかした?」



「……何でもないよ」

 左に行かれると椎乃の顔が見えないので右に来てもらった。この町には夜がないので、彼女は学校帰りにそのまま直行した事になる。夏はまだ夜までの時間が長いからいいが、冬なんかたった数時間でとんでもない量の客を捌く事になるのだろう。

 バイトしていない俺には計り知れない苦しみだ。したくもならない。今の俺はそれどころではないし。

「ただそのゲームだけど、他の奴と夜遊ぶ約束してるからそれまでの間だけな」

「おっけー。じゃあ約束がない日に私と遊んでよ。ユージンと遊びたくて通信環境整えたみたいな所とかもあるんだしっ」

「そうなのか?」

「勿論、バイトしてる一番の理由は平常点稼ぎだけどね? 貰ったお金はちゃんと使わなきゃ。私としては一石二鳥って感じ。私のクラスでゲームの話題に付き合ってくれる人って殆ど居なくてさ」

「そんな事あるか? 男子って大体ゲーム好きだろ」

「それ偏見。それに私は有名タイトルばかりじゃなくて色んなゲームの話がしたいんだ。女子にはもっと居ないし、男子もアウトドアが好きな奴は全くかみ合わないしね」

「奴言うな。しかしお前と遊ばなくなってからそんなにハマるとは思わなかった。もしかしていつも夜更かししてるのか?」

「それは流石にない。早く寝ないと寝坊しちゃうし。でも休日とかはゲーム三昧なんて……ごめんそれは言い過ぎかもしれない。でも結構やってるつもり。自慢じゃないけど!」

「自慢したそうな感じだな。まあ自慢かどうかはともかく、そこまでハマってくれてるなら俺も誘いやすいよ。そんなに好きでもない奴を誘うのは普通に気が引けるからな」

「悪い気はしないわ」

 他愛もない話を交えている内にお店が見えてきた。左の景色が全く分からないので信号を渡る際は特に注意が必要だ。頼めば手くらい繋いでくれそうだが、視界の補助というよりデートとして誤解されかねない。こんな薄味のデートがあってたまるかという話もそうだし、ただでさえ俺には弱味があるのに、これ以上妙な所でプライベートを突っつかれたくはない。

「さっさと買って、帰ろう」

「私は少しだけ見て回りたいな。ユージンも付き合ってくれるよね?」

「…………まあ、夜までに帰るのは変わらないからいいけどさ」

 ゲームショップに入ると、夜が近いという事でいつにも増して客足が多い様に感じる。いつもの事だし、他のどんな業種でもこんな感じだ。特に気にする必要はない。目当てのゲームは何のハードかを見れば大体見当がつく。新作なら猶更見つけやすい場所に置いてある筈だ。右に向かう客とすれ違って商品棚の中を縫っていく。

「こう見ると、結構知らないゲームがあるのよね」

「ただ付き添いできただけってのもあれだろうから、お前もなんか買えばいいんじゃないか? お金は出さないぞ」

「金欠じゃないっての!」

 むっと口を結びながらもの言いたげにこちらを睨む椎乃。金欠はむしろお前の方だと言わんばかりだが実に正しい。俺の収入源は親から貰える小遣いだけだ。転校の事情も事情なのであまり無理も言えない。優秀な成績を取ったら上げてくれというのも厳しい。

 それにしても椎乃は純粋というか素直というか、ゲームのパッケージをこんな輝かしい目で見る人間は久しぶりに見た。昔の俺もそうだったとは思うが、子供の頃なら多くの人間が当てはまるであろう。凄いのは高校生でもその精神を忘れないでいられる事だ。尤も、椎乃の場合は俺と遊んでからハマったという背景から、実質的にはマンネリになる年数ではないのかもしれないが。

「椎。好きなジャンルとかあるか?」

「んー基本的には全部好きだけど」

 パッケージを手に取って、一つ一つじっくり見つめる瞳を綺麗以外の何と表そうか。保護者の様に横で見つめていると、不意に彼女と目が合った。特に意味なんかはないが、気まずくなって視線を逸らす。

 微笑まれると、恥ずかしい。

「ユージンはどんなジャンルが好き?」

「パズル以外」

「パズル苦手なんだ?」

 椎乃は露骨にジャンルを選び始めた。話題に上がったパズル系のゲームを品定めしている。彼女の視線の先、または指の先にあるゲームはどれもこれも俺が苦手とするパズル―――特に立体パズルばかりだ。

「具体的に何が苦手なの? 嫌いではないんでしょ?」

「あー最適解を探す感じがなんか苦手なんだよ。気楽に楽しめない性格と言えばそれまでだ」

 右に通り過ぎていく他客を見ながら俺は天井を見上げた。必要以上にマジになってしまうのが悪癖になっているのだろう。自覚はあるが直すつもりはそれ程ない。病気でも何でもない。単に苦手意識を持つジャンルがあったという話だ。

「……実は私も、頭使う系が苦手なんだよね」

「…………ん? そうなのか?」

「苦手っていうか、もやもやする感じがなんかね……勿論嫌いじゃないよ? 見ただけで殴りつけたくなるとかそこまではないんだけど。もしかしなくてもユージンと私って苦手方向も合うんだねっ。なんか、ちょっと嬉しい偶然? 的な?」

「いや、多分ゲームの沼に沈めたのが俺だから好みが似通ったんだと思うけどな。それで? まさかその苦手なゲームを買って克服するつもりか?」

「ううん、夜じゃなければローカルで出来るでしょ。苦手かもしれないけど、二人でやったら楽しいと思わない? 相談出来るし」

「……ああー。成程な。それはあるかもしれないな。因みになんだけど、そのローカルプレイはどっちの家でするつもりだ?」

 椎乃は後ろ手にパッケージを持ちながらニコっと俺に向かって微笑んだ。まあそうなるか。俺も女子の家に突撃するのは勇気がいると思っていた。うちの両親は女子を一人家に上げたくらいで騒ぐような野次馬気質でもない。深夜に呼ぶのは大騒ぎだが、そうでもないなら歓迎してくれるだろう。

「分かった。近い内に誘うな」

「その時はまたお店に来てよねっ。割引してあげるから!」

 俺の肩を軽く小突いて、椎乃は一足先に会計を済ませに行くようだ。まさかゲーム一つだけでここまで話が広がるとは。サクモも喜平も想定していない事だろう。練習相手が見つかれば少しは初狩りも防げるか。あわよくば初狩り狩りも出来れば最高だ。

 後を追ってカウンターに向かうと、対応する筈の店員が右を向いたまま俺達を無視していた。

「すみませーん」

 椎乃が声を掛けるとその存在に気が付いて、店員は慌ただしく対応をしにくる。ただ呼ばれただけで何の制限も迫っていないのに焦るのはよくある事だ。それが不意打ちという奴なのだから。





 ふと右を見ると、本来はお店全体に散っていて然るべき客の四〇人程が右奥の壁……端の陳列棚を真っすぐ見つめていた。 


  


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― 新着の感想 ―
[一言]  悠心じゃ死人を出さずに乗り越えるのは無理な気がしますね。知識がないんだからしょうがないです。
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