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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
弐蟲 死神に口なし

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秘宝探索

 これは『口なしさん』とのゲームだ。

 

 正気を保つ為に、そう考えさせてもらう。そうでもないと気が狂いそうだ。現実と架空の区別をつける。それはとても簡単な事だが、この状況は果たして? この世には現実と認めたくない景色がある。架空と逃避する事の許されない現実がある。目の前がどうあれ死ぬのなら、俺は折り合いをつけてこの状況と向き合わないとならない。

 だからこれはゲームとして接する。だるまさんが転んだ様な物だ。いつもの遊びに変則ルールが加わったのだと。とにかくそういう認識の前提で考えさせてもらう。

 

 そう考えると、見えてくる情報がある。


「日方、何を見てるの?」

「教室棟の昼の写真だ。さっきから気づいてた事だが、夜と昼とで教室の構造というか、中身が違うんだよ。早い話が間違い探ししてるんだな」

「外と同じ様に変わっているのですか? しかし道に迷った覚えは」

「机があるとかないとかその程度の違いだ。まだ全部の教室を巡った訳じゃないから一概には何も言えないけどな。ぶっちゃけ何の意味もないなあとは思ってたけど…………こういう事なら納得だ。ノートの手がかりは全くないと思ってたけど……この為に変化が起きてるんじゃないか?」

 鍵束を見つけた今、突発的な遭遇を除けば『口なしさん」をやり過ごす事は簡単だ。音を出さなければいいだけ。猿轡のちゃんとした作り方についても教えておいた。尤も、今は誰一人として噛んでいないが。

 三年A組に入ると、俺は写真を貯めたノートを教壇の上に置いてライトをその場に残した。念の為に扉は閉めて、密室を作っておく。根拠はないのだが、俺がおびき出しに使ったあの教室には鍵なんてかかっていなかった。あの時はまだ鍵束を手に入れる前だ。何故開いてるかと言われたら…………何故だろう。『口なしさん』が開けたとか?

 鍵などなくとも内側なら施錠は可能だが、おびき出したいのだからやはり掛ける訳がない。だのに『口なしさん』は何故か扉を開けられなかった。少しでも開けたら構わず入って来たので、鍵の有無は問わず、密室には入れないという仮説を提唱したい。そうすればわざわざ鍵束を奪っていた事にも説明がつく。引き籠って欲しくないからだ。

 しかし万が一があっては怖いので、結局鍵は閉めているのだが。

「凛、ちょっとこの教室が昼とどこが違うかってのを教えてくれないか。俺と澪雨でそこを調べてみるから」

「分かりました。ライトはこちらのを使えばいいんですね」

「……あれ? じゃあ私はいいけど日方は明かりなしでやるの?」

「もう一本持ってるから大丈夫だ。相変わらず暗闇に効果が薄い光だけどな」

「少々お待ちを…………掲示物の数が減っていますね」

 掲示物というのは教室の後ろに留められている数々の書類の事だ。どうでもいいお知らせから興味のないお知らせまでよりどりみどり。行事関係を除けば物好きでもない限り注視する事はない。後はテスト後の成績優秀者張り出しくらいか。俺は基本的に乗らないので無縁である。大抵澪雨が載っているようだが、勉強と習い事を強いられているのだから当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。お嬢様なら量も質も高い学習が期待出来るだろう。

 こういう状況にも対応出来る様な学習は、していないみたいだが。

「掲示物か……何がない?」

「真ん中あたりの白い紙が……これ、ちょっと遠いですね。全体像ははっきりしても細部までは」

「俺の撮影技術のせいかよ。しょうがねえだろこんな事になる―――」



 ギイイイイイイ。



「………………」

 何の掲示物が足りなくても、それがノートにどう繋がってくるのか。丁度照らしている個所は『定期考査のお知らせ』だ。これではないという確信がある。音が止んだ所で一つずつ丁寧に掲示物を見ていたが、明らかにおかしな掲示物というのは無かった。案の定というか、凛の言った変化とは異変の足し算ではなく引き算なので(何かがある、ではなく何かがない)、目に見えた変化があるとは考えにくいのだ。

「………………目に見えた変化はない?」

「どうかしたの?」

 変化が表れているから何かがあるという確信はないものの、確信がないからと言って行動しないのもおかしな話だ。疑問に思ったらすぐ行動。そうでもしないと朝が来る。俺は手持ちのライトを澪雨に預けると、掲示板に貼られた紙を片っ端から捲って裏を確認する。

「……あった!」

 目に見えた変化がないなら隠れているのでは。屁理屈のような仮説だったが、正しかったようだ。そこにはチョークで『多目的室の机』と書かれている。特別教室棟に行く必要があるみたいだ。

「多目的室……」

「こちらからでは何も分かりませんが、向かいますか?」

「ああ。向かおうか。たらい回しにされるかされないかも調べておきたい」


















 










 何度か『口なしさん』の聞き耳をやり過ごしつつ、多目的室へ。机に何かあるという情報から三人総出で机を覗いたが、何も見つからなかった。

「おい嘘だろ……」

「…………さ、さっきみたいに隠れてるとか、どう?」

「机の中は十分隠れてるだろ。そして机の上にも当然ない。ここまで来て単におちょくられてるってのは無いと思うんだけどな」

「他の方々にも協力してもらいますか? 事情を話せばきっと」

「俺達はどうせ死ぬからこうしてるだけで、アイツ等に時限爆弾なんかついてないだろ。戦う訳がない。俺達だって何にもないなら戦わないだろうが」

「それは……そうですが。やってみる価値くらいは」

 

 その時、凛の懐にある携帯が鳴り響いた。


「―――馬鹿、おい! 何でマナーモードにしてないんだよ!」

「す、すみません!」

「誰からなのッ?」

「グループ越しに……咲彩さん。申し訳ないのですが、少し外しますねー」

「駄目だ行くな!」

 教室の扉に手をかけようとした瞬間、俺は彼女の手を強く握り、退室を断固として拒否。音で『口なしさん』を引き寄せるからと、こちらへの迷惑を考えた配慮なのかもしれないが余計だ。

「あっちの手口は個別で狙う事だ。目の届かない場所に行くんじゃない。何にも分からないんだ、守れないぞ」

「しかし……特に澪雨様に迷惑をかける訳には」

「俺達は夜更かし同盟のメンバーだ。特に俺はお前たちに脅迫されてる身だ。迷惑も何もあるか。むしろそれくらいかけてくれよ。仲間だろ」

「それは同感。七愛が死んだらそれこそ一番迷惑だもの。日方に倣う訳じゃないけど、離れるのはやめて? いいじゃん、こんな頼もしい人が居るんだから、一回くらい来たって」

「……………………そう、ですか。ではここで対応させていただきますね」

 話している間も電話は鳴りっぱなしだ。凛は応答ボタンを押すと直ぐにスピーカーに切り替えて、遠慮なく声を拡散させる。


『もしもしー?』

『た、助けてくださあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい! おね、おねがひ、おねが! ああああきゃあああああああああああああ!』

『お、落ち着いてください! 何があったんですか!?』

『お、おか、岡田君びゃあああああ! 追ったの! 追ったら! 美寿紀ちゃんがああああああああああああ!』

 

 泣き声がノイズとなって会話が入ってこない。とにかく、美寿紀がどうにかなったらしい。体育館に引き籠っている限りどうにもならないと思っていたが、まさか籠城をやめたのか? 


『お、落ち着いて! 今は何処に!』

『言えない! 言えない! 言ったら聞かれる! 聞かれるから……!』

『ココハ何階?』

『……………………………………………え。さ、西藤…………く』

『無視スルナヨ』

 

 ギイイイッィィィィィィィヤ!


 絶叫と共に引き裂かれる肉の音。ガタッ、ガチャという音は携帯が落ちた音だろう。会話から内容を聞き取ろうと近づいてきた澪雨は、驚いて背後の机をなぎ倒しながら尻餅をついていた。

「い、いったー……!」

「今のは……『口なしさん』ですよね。しかしそのラジカセは……」

「鳴ってない。つまり聞き耳は立ててないんだな…………よく考えたらこのラジカセ、必須だな。聞き耳を立ててるかどうかなんて普通は分からない。でも常に物音を消し続けるのは不可能だ。いつ聞かれてるか分からないなら音を立てたタイミングがたまたま噛み合うって可能性は大いにあり得る。そのリスクをコントロール出来てるのはこれのお陰な訳で……このラジカセ、一体何なんだ……?」

「結局何処に居たのでしょうか。叫び声は向かいの方から聞こえた気がしますが」

「教室棟の何処か……トイレとかかな。鍵を介さずに入れる場所だろう。あっちで何があったか知らないが、助けに行った方がいいかもな。花中の安全も保障されてないって事だし」



「ねえ、ちょっと! ねえ! さっきから呼んでるんですけど!」



 凛との話し合いに夢中で澪雨の声など耳に入らなかった。二人して彼女の方を見つめると、お嬢様は得意げになって一冊のノートを差し出してきた。

「机の裏側に貼り付けられてた。これって、ノートでいいんだよね」

「…………タイトルは?」

「無題だけど。中身はまだ読んでない。一緒に読もう」

「……………………開いてくれ」

 助けに向かわないといけないのは分かるが、この中に他の情報があればより簡単に助けられるかもしれない。

 机の上にノートを置いて、最初のページを開く。






 そこに書かれていたのは、一冊の日記。タイトルはないと言ったが、表紙の裏側にそれは隠されていた。



『学校が怖い』



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― 新着の感想 ―
[一言] 質問自体は本当に親切設計ですね。
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