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蟲毒な彼女は夜更かしのような恋がしたい  作者: 氷雨 ユータ
弐蟲 死神に口なし

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『』の噂も後???日

 凛のクラスをそもそも知らなかったのだが、D組だったのか。分からないのに何故D組だと聞いた時点で確信したかなんて、あのお嬢様のアドリブの下手さを見れば何となく察せるだろう。俺は名探偵でも何でもないが、澪雨が嘘を吐くのに慣れていない人柄である事は何となく分かる。嘘に慣れていないのと隠し事をしないはまた別の話として、他所のクラスを尋ねるには放課後くらいしかタイミングがない。彼女が居るなら話は別だ。

 首の痣は、日を追う毎に濃くなっている。このまま内側にめり込んでくるようなら、首が千切れ飛んでしまうだろう。実際どうなるかなんて分からないが、ここまで何かの力で圧迫されていると痛いので、早い所対処したい。


 夏に首まで隠すのは、流石に限度がある。


 二人はまだ気にも留めていないみたいだが、これが何日も続くといつか急に尋ねられる可能性は何処までも存在していて―――そうなったら、誤魔化せない。百聞は一見に如かず。ごちゃごちゃ事情聴取するより見た方が早いなんて、勉強しなくても分かる事だ。

「何やら妙な噂が出てるようだが…………夜に外へは出るなよ! HR終わり! 以上!」

 担任の声を皮切りに、クラスメイトが各々の目的に沿って散っていく。部活が休みになると用事がなくなる生徒もいる様だ。俺達の他にも、何人かが机の上で携帯を弄っていた。その内の一グループは俺達だ。携帯を通して新しいグループを作り、そこに全員が入室する。簡単に言ってしまえば情報共有室だ。俺達はこれから三手に分かれるが、噂の発端ついて何か分かった事があれば共有していく。二人には何の実利もないのに、付き合ってくれるなんて―――涙が出そうだ。持つべきものは友達である。

「一応さ、噂についても調べといた方がいいよなー」

「何故だ? 根も葉もない話に付き合うメリットがあるとでも?」

「例えばよ。教師が狙われるって話しだったら教師に恨みがある奴が言い出したって絞れるじゃんか。恨まれる教師ってほら……言わせんなよ~」

「鮫切か」

「久保真とかもそうだな」

「……俺っちがぼかしてんだから言うなよ~」

 二人共、全く別の理由で嫌われる教師である。特に久保真は、自分に媚びない女子に厳しいともっぱらの評判であり、女子からは最悪の評価を受けている。男子には可もなく不可もなくの対応なのがまた絶妙だ。

「何にしても俺は興味ない。噂の中身はお前が調べろ」

「言われなくても調べんよー。んじゃ、悠。これもゲームの一環って事で頑張ろうや」

「協力プレイだな。任せろ」

 ゲームと言われるとやる気が違う。俺達は携帯を軽く突き合わせて、三銃士のようなポーズを決めて散開。俺は予定通りD組を尋ねる。



 こちらは、随分閑散としていた。



 同じ高校でもクラスが違えば雰囲気も違う。ここは用事がなければ直ぐにいなくなる奴らが集まった様だ。残っているのはギャル凛が取り巻きとなったグループと気の合っていそうな男子五人が集っているグループだけだ。どちらに話しかければ穏便に情報を集められるだろうか。

 しかしこうして遠目に見ると、本当の貧乳と隠れ貧乳の違いが何となく分かってしまう。凛以外の女子は生地が緩んでいるが、凛の方は膨らみこそ同じくらいに見えるだけで生地の張りだけが明らかに誤魔化せていない。間違い探しみたいだが、こういう状態でもないと分からないのは相当だ。

「…………」

 凛がそれとなく話を聞いていると信じて、男子の方へ声を掛けてみる。

「あ、あのさ。ちょっといいかな?」

「ん、何だ?」

「俺、違うクラスの日方ってんだけどさ。ちょっと聞きたい事がある。『口なしさん』の噂って知ってるか?」

「ああ、知ってるぞ。おい泣き虫。お前は誰から聞いたんだ?」

「へ、へえ!? ぼ、僕は……このクラスの、三毛花さんから……」

「だそうだぜ」

「その三毛花さんは?」

「もう帰ったと……思うよ」

 収穫なし、と。

 だがやはり。気になっている。この調子で三毛花さんに尋ねた所で結局同じクラスをぐるぐる回るだけなのではないかと。まだ確証はないが、自分のクラスを経た上でそう考えている。後で凛の報告を待とう。

 即席の共有グループを除くと、早速めぼしい情報が置かれていた。


『E組に居る奴に話回したら、全員知ってるみたいだな。噂はクラスの中で完結してるようだ。全員の話を鵜呑みにするならだが』

  

 携帯のメモ帳機能を使って俺は、噂についてハッキリした事を書き記した。


・噂に発端がない?


 噂とは、所詮誰かが言い出した事がたまたま伝言ゲームのように伝わっていただけの戯言に過ぎない。だからそこには必ず、最初の一人が居なければならない。そうでなければ噂は成立しない。誰かが言い出したが噂の決まり文句でも、その誰かは必ず存在しないといけない。


 ―――その筈、なんだが。


 次いで喜平からも連絡が届いた。


『口なしさんの質問を無視したら二度と喋れなくなるらしいぜ』

『誰が言ってた?』

『噂好きのセンコー。馬条な』

『その馬センは誰から聞いたんだ?』

『授業を受け持ったクラスで噂になってるのを耳にしたそうだぜ』


 つまり既に噂が浸透した環境から噂を知った、と。クラスで広まるなら教師を経由したという線も考えられたがたった今白紙になった。言い出しっぺを調べるなら……次はどうすればいい。事実の再確認も込めて、商店街なんかで聞き込んでみるべきか。

 夜までに使える時間は少ない。とにかく、動いてみよう。























「口なしさんの噂は知らないんですね?」

「あー。全然知んねえなあ」

「……有難うございます」

 行きつけの中華料理屋に顔を出してみたが、早速空振りだ。その後も街頭アンケートの如く道行く人に声を掛けたが、『口なしさん』の噂を知っている人間はゼロ。薄々感づいていたが、やはり校内にだけ広まっている噂で確定だ。つまり犯人は、学校関係者。

 だがそうなると噂の広まり方が不自然すぎる。例えば俺が『七愛凛は実は巨乳』という噂を流したとする。それが流行った時、元を辿ろうとするなら『男子が言ってた』『体育の時間に聞いた』、『B組が言ってた』、『日方が言ってた』と徐々に近づいてくる筈。誰にも辿り着かない噂なんて気味が悪い。




「あーユーシン丁度良かった~!」




 人ごみの中で棒立ちになる俺に声を掛けてきたのはギャルい凛だった。取り巻きの女子はいない様だ。腰に巻いたブレザーをはためかせながら笑顔で俺に駆け寄ってくる。

「ねえ、ちょっと暇? 話したい事あるんだっ」

「…………ああ。俺もちょっと話したい事あった。何処に行く? ついでに飯でも食べるか?」

「秘密基地とかどう? 男のロマン分かってるっしょ?」

「秘密基地?」

「ほらほら~い、く、ぞ? 女の子の誘いを断るっての?」

「…………」




 キャラが違い過ぎる。半ば放心状態のまま、俺は引きずられるように商店街を抜けた。 

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