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ヒロ湾夜戦 ~内海艦隊の戦い~

 時間を少し遡る。

 マウイ島の戦いがまだ続いている頃、ボイド少将の内海艦隊は戦力集結を図っていた。

 カウアイ島の三個水雷戦隊24隻

 オアフ島カイルアとハレイアに配置された二個水雷戦隊16隻

 モロカイ島とラナイ島の二個水雷戦隊16隻

 そして水雷母艦「ハウメア」の4隻

 計60隻の水雷艇を一気に投入する。

 ボイド提督の要望により、「ハウメア」は臨時で内海艦隊に転属している。

 内海艦隊旗艦として水雷艇隊を指揮する。

 目標は2隻の巨艦、装甲巡洋艦「ボルチモア」と「ニューヨーク」。

 この2隻を撃沈もしくは行動不能に追い込めば、海陸からのヒロ奪還作戦が出来る。


 だが、今回敵を侮っていたのはハワイ側だった。

 シュレイ提督は優柔不断、臆病と呼ばれたが、その分慎重だった。

 海岸沿いに監視員コーストウォッチャーを置き、ハワイ軍の殴り込みに備えていた。

 水雷艇の航続距離は短い。

 低速の10ノットで1,600海里である。

 最高速度の20ノットだと、2の3乗で8倍の燃料を消費する為、200海里、約370kmとなる。

 母艦は60隻も搭載出来ない以上、どこかに集結して、そこから奇襲の為に全速で突っ込む。

 集結地はハワイ島北西部ウポル岬沖。

 集結に時間が掛かった事で、短艇カッターで監視員を遠くまで送っていたアメリカ軍の網に掛かった。


 水雷艇隊は5月16日に発進した。

 「ハウメア」が先導し、ヒロに迫る。

 ヒロ湾はホノルル港や真珠湾程入り組んではいないが、ラハイナ港程単調でも無い。

 モカオックの半島でヒロ湾とリーズ湾に区切られ、アメリカ艦隊は身を隠しやすいリーズ湾の方に停泊していた。

 ハワイ軍出撃を予め分かっていたシュレイ提督は輸送船を沖合に避難させ、巨艦2隻をヒロ湾の方に移動させた。

 また、陸軍に協力を依頼し、砲や探照灯サーチライトでの支援をして貰う。

 準備万端なアメリカ軍の懐に、ハワイ水雷艇隊は飛び込んで行った。


 軍艦を仕留める為にリーズ湾に侵入した32隻は、陸上からの猛射を食らった。

 彼等は居るべき場所に標的が居ないと判り、全速で湾から脱出を図るが、狭い湾に多数が突入し、陸からも攻撃されていた為、半数を衝突、転覆、被弾で失う。


 ヒロ湾に侵入した28隻は輸送船、商船を狙う役割であったが、港より遥かに沖で攻撃を喰らう。

 最初は砲で武装した輸送船が哨戒していて、攻撃して来たかと思ったが、それにしては攻撃力が高い。

 無灯火航行をしていた為気づかれ難かったが、砲の発する光が次第に艦影をはっきりさせる。

「デカブツが既に動いているぞ!」

 露天艦橋で艇長たちが怒鳴る。


 水雷艇は、カヌーを今まで使って来たハワイ人が好んで乗り組む艦艇であった。

 大型艦に乗るハワイ人に比べ、波風を肌に感じやすい水雷艇乗りのハワイ人は剽悍で命知らずだった。

 敵が輸送船でなく、装甲巡洋艦と分かった彼等は逆に喜んだ。

 小型艇で大艦を仕留められるなら本望だ。

 弱敵輸送船で無く、強敵だからなお良い。

 16隻が「ボルチモア」に、12隻が「ニューヨーク」に群がる。

 アメリカ軍の両艦は、敵を魚雷の射程距離内に入れないよう、戦いながら操艦している。

 速射砲や機関砲で戦うも、夜戦でありこちらも中々命中しない。

 20時ちょっと前の夕焼けが消えた時分に始まった夜戦は、1時間後には水雷艇の行動限界で撤退を始めた。


 やれやれ……


 アメリカ軍はハワイ軍撃退に成功し、一息ついた。


 アメリカは一つ見落としている。

 随伴で沖合に6千トン級の艦が居る事は知っていたが、その艦の役割を理解していたら安心出来なかっただろう。

 「ハウメア」は母艦たる機能を活かし、4隻ずつ補給と魚雷の再装填をする。

 2時間で4隻が終わり、また次の2時間で4隻の整備が終わった。

 ここでボイド提督は考える。

 現在日付が変わり、5月17日午前1時過ぎである。

 もう4隻の整備を待ち、午前3時頃に第二次攻撃をかけるか、今すぐ攻撃を仕掛けてるか。

 兵力の逐次投入は愚である。

 悩んだ挙句、ボイドは8隻での攻撃を決断した。

 待った結果、天候が急変する可能性もあるし、戦える時に戦っておこう。

 水雷艇隊は、先程戻った海を再度進む。


「まだ出すぞ。

 早く『ハウメア』に乗せて補給と整備をしろ」

 ボイドは叫ぶ。

 乗組員がロープワークに励む。

「ここから湾内までなら、石炭の補充は省略出来ないかな?

 参謀、どう思う?」

「行って見て来ましょう」

 内海艦隊は副司令はハワイ人、参謀長はイギリス系白人である。

 守備的な戦力ではあるが、艦隊人員の敢闘精神は高い。

 走って後甲板の整備場に行って事情を聴取し、参謀は艦橋に戻って来た。

「行けます。

 一番時間が掛かる給炭作業は短縮可能です。

 ただ、艇によるバラつきは有ります。

 艇によっては石炭をほぼ使い切っていますし、別な艇だと無補給でもう1回戦出来ます」

「よし、余剰石炭の多い艇を優先的に整備、魚雷再装填をする。

 0300(午前3時)までに出せるだけ出すぞ!」


 第二次攻撃隊はアメリカ軍の意表を完全についた。

 だが、夜目の利く攻撃側も疲れていたのか、夜も深まり完全に真っ暗になったせいか、誤射して岸壁に魚雷を当て、それで気づかれてしまった。

 急ぎ水兵が速射砲、機関砲に駆け寄るも、魚雷の有効射程距離に入り込まれる。

 だが、水雷防御網を張っていた。

 魚雷は装甲巡洋艦よりちょっと手前で絡め取られたり、爆発したりした。

 爆発は流石に艦を揺らす。

 僅か8隻の攻撃であり、双方ろくな戦果も無く、1時間も経たずに戦闘終結する。


 被害が無いという報告を受けたシュレイ提督は、念の為輸送船、商船に湾岸待機を命じる。

 2時間後の午前3時、11隻の水雷艇が襲来する。

 やはり水雷防御網越しに速射砲、機関砲での戦いになった。

 やはり熾烈だが戦果の無い戦いとなり、夜明け前に水雷艇は引き上げた。

 ボイドは陽がある内の攻撃は効果が無いと見て、夜明けと共に撤退した。

 嫌がらせの為、機雷を僅かに撒いて内海艦隊は撤退した。

 だが、そんな意図は知らないシュレイ艦隊は夜明け後の警戒態勢を解かなかった。

 2時間後、午前5時にも攻撃があると踏んだ。

 洋上待機の商船、輸送船にも待機を命じるが、これには不満が出て、昼には入港を認めざるを得なかった。

 その前に掃海作業を行い、機雷を発見、潜水夫を出して処理をした。


 ハワイ艦隊は水雷艇の攻撃力不足を知った。

 艦首に固定1門、1発だけ魚雷搭載の水雷艇では撃ったらおしまいだし、艦首を敵に向けていないと攻撃が出来ない。

 新型の連装、旋回式魚雷発射管を持つ水雷艇は、現在ハワイには無かった。

 アメリカ艦隊は水雷艇に肉薄される事は危険であり、警備と防御用の小艦艇の必要性を悟った。

 水雷防御網を張った状態だとろくな航行は出来ないし、それを装備している艦船は良いが、それが無い艦船を警備するには大型艦だと数を揃えづらく、夜間警備で座礁とかさせたら大問題だ。

 両軍とも

「駆逐艦が必要だ」

 と期せずして同じ艦種の必要性を感じていた。


 ボイド艦隊は、出羽重遠少将の水雷砲艦「デュラハン」と入れ替えで撤退した。

 「デュラハン」もヒロ湾口に姿を見せると、嫌がらせも兼ねた機雷を沈降させて去っていく。

 巨艦は強いが、手軽に使える小型艦が必要、沖合での敵の自由を封じる砲台も必要、敵艦が簡単に侵入出来ない設備も必要。

 港湾として、やはりヒロは使い辛い。

 真珠湾が改めて良港だとアメリカ海軍は実感した。


 ヒロでは、アメリカ軍が居る事への不満が出て来ていた。

 今迄は特に不満も無かったが、ヒロ湾夜戦で戦火が迫った事で、市民からアメリカ軍にどうにかしろ、出来ないなら出て行け、となった。

 ヒロ市民と良好な関係を築いていた比呂松平家出の幕府軍は戦火をヒロに及ぼさない為、敵将に手紙を送り、知事や市長に説明をして撤退した。

 アメリカ軍はそれに倣えないのか?


 これでアメリカ軍の陸海軍司令官が、南北戦争の一発屋や、インディアン戦争の虐殺者ジェノサイダーなら、市民の要望等は無視し、逆に迫害したりして封殺したであろう。

 その気が有った陸軍のイーガン准将はマウイ島に侵攻し、海軍のシュレイ少将はまともな人物であった。

 シュレイは善処を約束し、本国に対応について問い合わせをする。

 意外な回答が海軍省から届いた。

 シュレイはそれを読んだ後、ヒロ知事官舎を訪れる。

「合衆国はハワイとの停戦を申し込むそうです。

 幕府との交渉は政府が行うそうですが、現地軍の我々は比呂城に居る幕府軍と停戦交渉します。

 それが上手く行った場合、まだ我々を停泊させていただきたいが、如何ですか?」

「それは認める。

 しかし、一体どうしたのですか?

 我々はこれから戦争が更に激しくなるものと予測し、だから対処か撤退を申し入れたのですが」

 シュレイは副官と話し合い、内情を明かす。


「どうやらハーグで停戦の話し合いが始まったようです。

 それが決裂しない限り、戦闘を仕掛けてはならないとの事でした」

「ハーグ?

 オランダのハーグでですか?」

 ヒロ知事が聞く。

 シュレイ提督が肯くと、知事は

「それが成れば嬉しい事です。

 言っちゃなんですが、戦争等私共は望んでおりません。

 最近は貿易が止まって、私共も困っていたのです。

 早く以前の関係に戻りたいものですね」


 ハワイの運命を賭けた交渉がハーグで始まろうとしていた。

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