ハワイ島、カウアイ島上陸 ~セオドア・ルーズベルト、ハワイに現る~
アメリカ本土カリフォルニアとハワイとは約4千キロの距離で隔てられている。
アメリカの裏庭であるカリブ海のキューバを攻めるように、簡単には行かない。
アメリカがフィリピンを攻めた時、後方基地として真珠湾が機能していた。
だがハワイと戦争になり、アメリカは遠いハワイを攻めあぐね、フィリピン派遣軍を孤軍としていた。
フィリピンを攻めた時は、開戦数日で制海権を確保出来た。
そして次々と兵員輸送船を送り込み、数万人の軍を展開した。
だがハワイという小さな国相手に、いまだ制海権は取れていない。
それが戦争中なのに、いつもと変わらぬ日々を送るハワイを作り出していた。
制海権が取れない以上、大規模に輸送船で兵士を運搬出来ない。
輸送船団は敵艦隊によって沈められ、精強な兵士も何も出来ないまま海の藻屑と化すだろう。
無論、強力な護衛艦隊をつければ問題は無い。
その護衛艦隊が、1898年時点のアメリカには無いのだ。
アメリカの主力艦隊は大西洋・カリブ海方面に展開中で、太平洋には巡洋艦戦隊しか居なかった。
その巡洋艦戦隊が相次いで敗北した。
喪失は確かに南北戦争型のスループと砲艦に過ぎない。
それでも海軍軍人たちは「ハワイ、侮り難し」と認識を改めつつあった。
その海軍と、他との認識のズレは大きい。
世論は弱小国の、封建君主が操る艦隊に敗北した海軍を責め、「マニラ湾海戦」の英雄デューイ提督や海軍長官の辞任を要求した。
現時点でデューイ以上の提督は居ない。
世論に負けて有能な人材を解雇する程、アメリカ政府も馬鹿ではない。
だが、作戦計画の練り直し、というより立案もする必要は無いという甘い認識は変わっていなかった。
北ライン諸島アメリカ合衆国領キングマン・リーフ。
ジョージ・デューイ提督と3隻の防護巡洋艦はここに停泊している。
巡洋艦「ローリー」の応急処置は済んだが、デューイ提督はこの艦は本格的な修理の為、本土に送ろうと考えている。
巡洋艦「オリンピア」は艦内設備や木製の部分が燃やされたが、機関や航行機能には問題が無かった為、このまま使用する。
マニラ湾を警備中の巡洋艦「ボストン」と巡洋艦「チャールストン」を呼び寄せ、合流させる。
この時、可能な限りの輸送船に物資を持って来させた。
2隻の巡洋艦と1隻の輸送船はカイウイ海峡ではなく、広いカイエイエワホ海峡を通過した。
彼等は警戒していたが、ハワイ艦隊は現れず、この方面の無防備さが目についた。
到着後、補給を受けるデューイ提督に、2人の艦長はカイエイエワホ海峡方面、つまりカウアイ島とオアフ島コオラウ山脈のカウアイ島側からの攻撃を求めた。
そんな所に、セオドア・ルーズベルトと1万7千人の部隊が、多数の輸送船と共にやって来た。
前の海軍次官と現時点で最優秀の提督は、寂しいキングマン・リーフの沖合で握手をした。
事情を聞かれたデューイ提督は、ハワイに居る戦艦部隊の話をした。
12インチ砲で攻撃され、我が8インチ砲は弾かれた。
更に後方には、やはり12インチ砲搭載と思われるモニター艦が居た。
この情報を海軍省は掴んでいたのか?
ルーズベルトは即座にデューイに詫びを入れる。
そんな重要な情報を仕入れていないのは、海軍省の怠慢と言えた。
その上で最新の情報も交えた上で作戦を立案する。
「巡洋艦『ボストン』『チャールストン』の報告では、カウアイ島は無防備なようだ。
補給もした事だし、ハワイ島、マウイ島の辺りも偵察してみないか?
我々は古い情報を元に、侮った対応をしている」
ルーズベルトの言にデューイも頷く。
まずは『チャールストン』を単艦で出動させ、ハワイ近海の艦隊の様子を探らせる事にした。
「それにしても、真珠湾からホノルルを落とし、サムライどもを撃滅すれば戦争は終わると思っていたが、思いの外厄介な連中なようだね」
「ルーズベルト次官、連中が厄介かどうかは分かりません。
軍艦は確かに厄介です。
しかし彼等の砲撃能力は低いと判断します。
我々は12インチ砲の5斉射を受けましたが、当たったのは僅か2発です。
『コンコード』は余りに至近距離過ぎました」
「そうだ、我々の方が優秀なのだ。
その心が挫けていないのを見て、私も安心した。
期待しているよ、デューイ君」
色々と情報は間違っている。
12インチ(30.5cm)砲ではなく、24cm砲であり防護巡洋艦「マウナロア」の主砲と変わらない。
モニター艦ではなく砲艦で、これも12インチ砲ではなく28cm砲である。
そして戦艦等ではなく、海防戦艦という小型艦種で、しかも欠陥を持っていた。
そういう些末な間違いはそのままに、威力偵察に出た「チャールストン」は、カイウイ海峡以外の水域がガラ空きである事を確認して帰還した。
「有り得る事だ。
彼等は持てる戦力をカイウイ海峡に集中しているのだ。
最主要都市ホノルルを守るという意味では理にかなっている。
という事は、他の島なら上陸可能だな」
ルーズベルトは喜ぶ。
「そのハワイ艦隊を、カイウイ海峡に釘付け出来れば、輸送船だけで何とかなりますな。
我が艦隊は再度カイウイ海峡に突入し、敵艦隊を拘束します。
その間に次官閣下の部隊は上陸をして下さい」
「ところで質問したい。
敵の主力は水雷艇と君に聞いた。
この水雷艇対策はどうすれば良い?」
「簡単です。
ああいう小さな艦艇は、狙って撃つ必要はありません。
居る辺り一帯に弾をバラ撒いて下さい。
激しい波や水柱の中を小型艦艇は走り抜ける事は出来ません。
転覆するでしょう。
あと停泊中は、水雷防護ネットを展開しておいて下さい」
「よく分かった。
輸送船の砲手諸君、聞いた通り水雷艇が出たら、進路をやたらめったら撃てばそれで良い。
兎に角近づけさえしなければ十分だ」
士気が上がり、米軍はキングマン・リーフを抜錨する。
4隻の巡洋艦が真っ直ぐカイウイ海峡を目指し、7千人を乗せた輸送船はカウアイ島に、ルーズベルトを含む1万人はハワイ島を目指した。
第二次カイウイ海峡海戦は、全く劇的では無かった。
デューイ提督は、優速を活かして海防戦艦部隊にも巡洋艦部隊にも近づかない。
かと言って海峡を突破する訳でも無く、ただ徘徊しつつ砲距離砲撃をするだけだった。
そんな散歩のような艦隊運動の中、デューイ提督はハワイ艦隊を観察し、いくつもの情報を得ている。
(あの巡洋艦隊だが、速力が安定していない。
おそらくは機関に欠陥を抱えている)
(あの時は戦艦に見えたが、違うようだ。
随分小さい。
ヨーロッパで建造されている海防戦艦ってものだな)
(モニター艦の巨砲だが、あれは前にしか撃てないようだ。
確かにあんなに小さい艦に旋回砲を積んだら、傾いて照準出来ないだろう。
それと、どうも露天砲で防御はほとんど無いな)
「艦隊運動の演習」と称したこの海戦だったが、流石に何度か出羽やボイドに距離を詰められ、砲撃を浴びる事も有った。
「チャールストン」がどの艦が放ったか分からない12cm砲を受けた段階で、既に海戦開始から8時間も過ぎていた為、デューイは反転して再度キングマン・リーフを目指す。
目的は果たしたと言って良いだろう。
第二次カイウイ海峡海戦が茶番で終わる中、陸軍部隊を乗せた輸送船はハワイ島とカウアイ島に接岸、上陸に成功していた。
ハワイ島の上陸地点は、かつてキャプテン・クックが上陸した場所である。
原住民たちが遠くから見ている。
(支配してやるぞ! この黒人どもがぁ!)
という差別感情をしまい込み、ルーズベルトは蠱惑的な笑顔を浮かべる。
「ねえ、君たち、友達になろうよ。
恐れる事なんて無いんだよ」
しかし原住民たちは逃げて行った。
(まあ良かろう。
この島からまず始めよう。
その前に、古い地図しか無いから地理を調べ直さんとなあ)
その古い地図だが、役には立った。
地図に記されている場所にある牧場に行くと、白人の牧場主と多数の馬がいた。
ルーズベルトは、自らが議員である事や、次回の大統領選挙ではマッキンリー大統領の下で副大統領候補として立候補する事になるだろう、等と偉さをアピールした。
アメリカ系である牧場主は、中立というか戦争とは無関係であろうと思ったが、このように軍に囲まれ、かつ副大統領候補とやらから頼まれたのではどうしようもない。
(断罪者土方よ、見逃して下さい!
こんな状況では断れる筈がありません)
そう祈りながら、馬と最新の地図を提供した。
「ほほお、面白い」
「どうかしたかい、テディ」
「見ろよ、ここに城がある。
こっちには要塞だが、両者は別物のようだ。
城には領主様が暮らしているようだ。
まずはこちらを攻めよう」
「待ってくれ。
我々の目的は、日本人等大した事は無い、と原住民や白人に思わせて、彼等を従わせる事だろう?
だったらこちらの要塞を抜くべきだ。
君はサンフアン・ヒルではそうしたではないか」
「昨日正しかった戦術が、明日も正しいなんて言えないよ。
いきなり要塞を攻めて失敗したら、ハワイ国民のアメリカに対する侮りは増すだろう。
それに要塞の方も用心しているだろう。
それよりも、まずは手薄な城の方を落とし、要塞から兵を出動させて、野戦を行って何度も何度も勝とう!
徹底的に、アメリカ人には勝てないという気持ちを植え付けよう!!」
そうして進むルーズベルト率いるラフ・ライダース連隊の前に、ハワイの酋長の部隊が現れた。
百数十人の部隊だが、果敢に攻撃を仕掛けて来る。
当然だが、1万のアメリカ軍が圧勝した。
これがセオドア・ルーズベルトのハワイにおける最初の戦いとなった。
「ちょいとでも私にかなうとでも思ったか!
マヌケがァ~~~~!
貴様らは犬死する為にここへ来たのだ」
「おい、テディ、素が出ているぞ。
アイビーリーグの同窓生として警告する。
たまにその素が出るから、見せないようにしておけ。
大統領になるんだろ?
油断するな」
「ありがとう、よく覚えておくよ」
「それで、逃げて行った連中はどうする?
追撃するか?」
「いや、むしろ逃げて貰って我々の強さを宣伝して貰おう!
恐怖を!
戦慄を!
そうして奴らは我々の下僕と成り果てるのだ」
ラフ・ライダースはハワイ島を反時計回りに進撃し始めた。
ルーズベルトの栄光への行軍と、なるものであろうか。




