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論功行賞〜国内編

 戦争は始めるより終わらせる方が難しい。

 終わらせた後の後始末はより難しい。

 故に孫子は説く「兵は国の大事なり」と。


 徳川定敬、クヒオ王子、林忠崇、バーニス・ビショップは先のモロカイ夏の陣の論功行賞で、ここ数ヶ月激務が続いていた。

 財務担当の老中ビショップが語るに、今回の戦争で味方についた白人の土地は全部でハワイ全土の2割程度、没収可能な土地はハワイ全土の4割以上である。

 しかし、その4割を全て現地ハワイ人に分配しては、ハワイの経済構造が変わり過ぎて、かえって幕府とリリウオカラニ女王が恨みを買うだろう。

 農地は細分化すれば生産効率が悪くなる。

 これは鎌倉時代以来相続に苦労して来て、「田分け者」なる悪口が生まれた武家政権には痛い程分かる話だ。

 だから、全体の3割から5割は白人農園主の土地にしないと、砂糖交易が失速する。

 折角アメリカがマッキンリー関税法を撤廃したのに、自ら利を手離す事も無い。

 これにより、ハワイや幕府に好意的だった白人農園主の中には、更に土地を拡大させて「領主様」と部下からはおべっかで、ライバルからは悪意を込めて呼ばれる大地主も出来てしまった。

 そんな大地主の中にはカメハメハ大王の政策で、ハワイ王族と婚姻関係にある者もいて、王国政府からも幕府からも諸侯として扱われる事になる。

 白人は敵味方で運命が大きく変わった。

 女王、幕府から優遇された者は、没落した白人も吸収し、更に事業を拡大させる。

 一度苦境を乗り越えた彼らも、また同じような目に遭わないように事業を多角化させ、販路を別に切り開いていった。

 彼らはもう幕府の強力な与党であり、手に入れた栄華は手放せなくなった。

 更に、販路拡大においてリリウオカラニは、ラハイナの表や裏の人士を積極的に斡旋し、共栄させていた。

 こうして「砂糖貴族」改め「諸侯」は王家との関係もより深まっていく。


 一方で現地ハワイ人たちは、無知に付け込まれて奪われた土地の回復を願っている。

 土地回復を公約に幕府は酋長勢力の参陣を乞うた。

 これを蔑ろにしたら、幕府の信頼は無となる。

 かと言って永仁の徳政令のような真似も出来ない。

 悩ましいところだ。


 ビショップはハワイの王女と結婚し、王族扱いとなった交易商人である。

 ホノルル幕府の連中が来るより前からハワイに住んで、ポリネシアの文化をよく知っていた。

 ポリネシア人は、土地には拘るが、土地所有には必ずしも拘らないのだ。


 こんな感じで説明してみる。

 ポリネシア人はとある空き地を欲しがっている。

 ここで祭りをしたり、大会をしたりすると、子分たちに屋台を出させたりして儲けられる。

 ポリネシア人は海の遊牧民である為、しばらくその土地を離れる場合がある。

 その場合、有効に使ってくれる者に土地を貸す。

 こんな感じで必要な時に使えれば、必ずしも自分がその土地の所有者でなくとも問題無い。

 だがある日、突然「貴方が所有者だ」と書類を渡され、すかさず「土地を使いたいのだが」と言われ、貸出契約かと思って署名したら、それは譲渡契約書で、一時の泡銭と引き換えにハワイ人は土地から締め出され、収入の手段を失った。

 だから彼らの悲願は「土地の回復」であり、占有的な所有権は求めていない。


「だから、土地の所有者としてハワイ人たちに土地を返すも、使用権として毎年契約更新、或いはオーナーとして必要時の使用を認める、或いは共同経営者として名を使う等で、彼等の要求は満たせます」

 とビショップは言う。

「法律や文書に弱い酋長たちの代理人として、法律家を派遣します。

 無論、サーストンやドールとは違う誠実な人ですが」

 ビショップの言に一同が笑う。

 ビショップにも白人ならではの思惑はある。

 契約事が増えれば増える程、白人仲間に多い弁護士や代筆屋の実入りが増えるのだ。


 酋長たちの問題は他にもある。

「生け贄を捧げたい。

 早く捕虜を殺させろ」

 と言って来ていたのだ。


 生け贄はカメハメハ3世の時に、キリスト教宣教師の指示で禁止された。

 カメハメハ4世とエマ王妃が、病気になったアルバート王子の快癒を祈って捧げられたのが、最後の公的な生け贄である。

 しかし、カメハメハ5世の治世後期、状況が変わる。

 新撰組と呼ばれる、袖口にサメの牙の紋様(だんだら模様の事)をつけた者たちが、首を天に捧げる、身をバラバラに切り刻んでサメの亜神に贄を捧げる等、失われていた儀式が復活した。

 それとともに、旧弊と共に消え去りかけていた酋長らの村落社会が、病を克服して復活し始めた。

 高松凌雲、松本良順を始めとした医師たちの働きなのだが、酋長たちはそうは思わなかった。

「生け贄が復活したから、村が蘇ったのだ!」

 そう信じた。

 今回の戦いで酋長たちの中には、生きたまま敵を捕らえた者も出た。

 彼等は早期の生け贄の儀式を求めた。

 そうしないと血に飢えた神々からの神罰が当たるから、死活問題なのだ。


「生け贄とか、野蛮だなぁ」

 と感想を漏らした林忠崇に、クヒオ王子とビショップは

(あんたらには言われたく無い!

 あんたらのせいで、キリスト教によって牙を抜かれたハワイが、カメハメハ大王以前のメンタルに戻ってしまったのだ!)

 と心の中でツッコミを入れていた。


 徳川定敬は

「捕虜を殺すのは諸外国への聞こえも良くない。

 ビショップ殿が言ったように、地主と地頭の関係、所有者と使用者とその契約等、調整に時間がかかる。

 だが、今すぐにやれる恩賞も無ければ不満は溜まる。

 生け贄を捧げたい酋長は、早々に認める代わりに土地問題からは外れる、

 逆に時間が掛かっても土地を取り戻したい者は、生け贄の白人を返し沙汰を待つように。

 そのようにしてみぬか?」

と折衷案を出した。

 クヒオ王子は

(これは事実上、捕虜を取り戻し、生け贄をさせない方策だな)

 と考えた。

 しかしポリネシア文化をよく知るビショップの表情は暗かった。


 やがて

「土地はもうどうでも良いから、さっさと殺させろ」

 と、該当の全ての酋長から返答が来る。


「土地より生け贄が大事とは……。

 血を見るのがそれ程好きなのか?」

 と林忠崇が呟き、クヒオ王子とビショップは

(日本人には絶対に言われたく無い!!

 大体、血祭りをするとか言い出したのはあんただろ!!)

 と内心ガンガンツッコミを入れていた。


※仲良しの酋長に土地利権配分して貰えれば用は足りるから、領有権には本当にこだわらない。





 結局、土地分配対象から頭数が減るという利もあって、生け贄は承認された。

 クヒオ王子はその伝達役を任せられた。

 酋長は朗報と王族の来訪とを喜び、儀式を見て行くよう誘う。

 クヒオは定敬から「嫌かもしれないけど、彼等の上に立つ者は、そういう行事は絶対に断らぬよう」と釘を刺されていた為、儀式に賓客として参加した。


「あれは?」

 軍神クーの横に、知らないティキ像が立っているのをクヒオは疑問に思った。

「ああ、あれはヒジカタ神だよ」

「はぁぁぁぁ???」

「クー神の眷属で、怒らせれば見境無く首を狩りまくる恐ろしい神様だよ」

「いやいやいやいや……」

 確かに手段を選ばず首を取りに行く人だったけどさ……。


 クヒオは土方が暴れていた時期、ホノルル市内に居た為よく知っている。

 十代後半はカウアイ島に預けられた為に離れていたが、それでも話だけはよく聞いていた。


「黒い衣を常に纏う、死神の一種だね」

 確かにそのきらいはあったが。

「神話に依ると、ハワイで古き良き風習が廃れ、神の怒りで滅びかけた時に、北からやって来て神を蔑ろにする者を斬り殺すと言われている」

(そんな神話聞いた事無いぞ!!)

「右手に持ってる刀は、あらゆる邪を祓うとされている」

 確かにティキ像の右側に刀と思しき物が付いている。

「村の婆さんが病で倒れた時、夢にヒジカタ神が出て来た。

 ヒジカタ神は婆さんの影に刀を刺した。

 すると悪霊が飛び出し、ヒジカタ神はそいつらを全部斬ったそうだ。

 翌朝、婆さんはすっかり良くなっていた」

 ……聞いていて段々、クヒオは頭がクラクラして来た。


「ハラダ!

 大人しくしないとヒジカタ神に怒られますよ!」

 若い母親が子供を叱っていた。

 3歳くらいだろうか、その子供は

「ヒ、ヒジカタ神様怖いぃぃぃぃ、ごめんなさぁぁい」

 と本気で怯えている。


「あの……、ハラダって何ですか? 名前ですか?」

「なんだ、王子は何にも知らないのお。

 ハラダってのはヒジカタ神に仕える武僧でな、銛の使い手だから漁師の子の名前に使われているのじゃ。

 左利きの子は、やはりヒジカタ神の武僧のフジタって名前を貰っている。

 賢そうな子にはソーマ、身体の大きい子にはシマダとか偉い武僧の名前を貰ってるのじゃよ」


 色々と間違って伝説になっていた。


 クヒオは天を仰いで

(土方さん、貴方今、とんでもない事になってますよ)

 と伝えてみた。

やがてヒジカタ神は木彫りアクセサリーとなってお土産品屋に並びます。

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[良い点] サツマン朝に出てきたネタにようやく追いつきましたw
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