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マッキンリー関税法に揺れるハワイ

 1890年、ハワイの議会はとある議題について真剣に討議が成されていた。

 ハワイ王国の財源を揺るがしかねない重大事項である。

 最大の商売相手であるアメリカで「マッキンリー関税」が施行されたのだった。


 共和党のウィリアム・マッキンリー議員は国内産業の保護を訴えている。

 その為、歴代の大統領が優遇して来た関税を引き上げる法案を提出した。

 今も昔も巨大な購入国であるアメリカは、大量に消費するものは輸入に頼り、関税は低く設定して物価を抑えていた。

 それに対しマッキンリーは自国産業育成の保護主義と共に、連邦議会の財源確保の為の高関税を考えた。

 そして平均関税が38%から49.5%に引き上げられる法案を通した。

 ブリキ等は従来の30%から70%に上がった。

 砂糖、糖蜜、茶、コーヒー、皮に関しては逆に関税0となる。

 これは砂糖産業に頼るハワイには良い事だったが、マッキンリー関税法はそう甘くない。

 砂糖に関しては「不当に儲けている国がある」とし、国内の砂糖産業の保護の為に補助金を出した。

 補助金の為にアメリカ国内産砂糖は値を下げ、ハワイ産は売れなくなってしまった。

 これへの対策が目下、議論されているのだった。




 元上総国請西藩当主の林忠崇は、上院議員に選出された。

 それも白人の支持、投票によってである。

 彼は何度も事業を失敗したりしたが、その際に退路を断つべく日本国籍を放棄しハワイ国籍一本にする。

 やがて彼の農園や企業は上手く回転し始めた。

 その後起きた内戦において、林家は最初から中立を宣言し、ハワイアン・リーグ穏健派の白人を保護する。

 ハワイアン・リーグは、中核の13人こそ「ハワイの王政を停止し、アメリカに併合させる」を目的としていたが、穏健派は「王政停止までさせずとも、今の議会軽視を改めさせる」「現在の憲法の王権の強過ぎる部分を変える」程度の者もいた。

 また王を銃剣で脅したり、内戦を起こす事もなく、話し合いで行えば良いとも思っていた。

 さらには数合わせというか「隣も反対側の隣もリーグに加盟するなら、近所づきあいから自分のとこも」程度の者すら居た。

 そういう穏健派やノン・ポリシーの加盟者を林家では保護し、裁判にすらかけさせなかった。


「一切彼等には陰謀に関わった証拠が無い。

 動機についても、民主化を望む、王権の強過ぎる部分の改革を望むだけで、それも暴力を使う意志は無い。

 近所づきあいの延長だったりした。

 故に、参考人としての出廷は有っても、被告としての出廷は在ってはならない。

 近所づきあい、仲間のノリで加盟を誘われたというのは、かく言う自分にもあった事だ。

 その程度の勢力拡大に乗った者に、責任は一切無い」

 そう王にも検事総監にも主張してた。


 黒駒の保険利用作戦で、直接標的とはされなかったが、連帯保証人として目をつけられた時も林忠崇はロイズ相手に戦った。

 彼は書類の細かいとこを読み返し、あくまでも事業経営による損失について連帯する、陰謀加担や破壊活動は事業とは別であり、免責される、少なくとも事業以外の記述が無い以上責任は発生しない、と突き返した。

 法律事務所とかを経営していた者が、内戦に加担して戦死したり、新撰組に殺されたりして減少、そんな中で降って湧いた保険金騒動であり、黒駒一家やロイズも「あわよくば、法律に詳しく無いアメリカ農園主を芋づる式に」と思っていた。

 林忠崇は思わぬ障壁であり、彼の護る農園主を狙うと時間が掛かる為、金権屋どもは標的を変える事にした。

 林忠崇は「将来は幕閣間違い無し」と言われた逸材ではあったが、保証人関係の法に強いのは別の理由があった。

 彼はハワイに来てから何度も事業に失敗した為、連帯保証人が必要とか、その責任とかを実地で学んでいたからである。

 保証人にはする時も、なる時も、騙された時もあり、経験は順調に経営していたアメリカ白人農園主より豊富であった。




 その林忠崇から、榎本や松平定敬、永井主水は議会内の様子を聞く事が出来た。

 はっきり言ってしまうと

「対案が誰も出せない状態で、只々摂政を批判するばかりである」

 との事だ。

 原因がアメリカの政策であり、しかも関税を上げられたのならともかく、自国産業の為の補助金というのでは、外国の農園主が「うちも優遇しろ」とは言い難い。

 林や一部の非農園系議員は「別の産業で輸出を」と提案するも、即効性が無い、明日にも破産する!と多くの議員から罵倒混じりの非難をされる。

 確かにハワイの経済は砂糖プランテーションに依存し、王国政府すら農園はまず砂糖を栽培して納税せよと推奨している。

 輸出に占める砂糖の比率は極めて大きい。

 米や林業では、ごく一部の農園の助けにしかならない。


 流通の発達により在庫が増え、砂糖のみならず穀物の極端な値下がりがあった事が、かつてハワイにおいて決済通貨を英ポンドから米ドルに切り替え、真珠湾を独占的に貸与してまでアメリカを宗主国に切り替えた理由である。

 では、もう一度イギリスに切り替えれば良い、という意見も出た。

 これにはアメリカ白人農園主のみでなく、王族の議員からも反対が出る。

 米ドルに切り替える際に、ポンド建ての債務や取引手形を、極めて有利な価格で処理して貰った借りがあるのだ。

 都合良くアメリカを利用した後で、用が済んだとばかりにまたイギリスに切り替えるというのも如何なものか。

 信用というものを甘く見過ぎていないか?


 こんな中、摂政リリウオカラニは驚くべき対案を出す。

「砂糖に限らず、貿易で経済を支える仕組み自体を見直しましょう。

 金融やサービス業の力を借りましょう。

 具体的には、マウイ島ラハイナで行われているカジノ事業や金融事業を、ハワイの国営産業としましょう」

 議員たちは驚くとともに、特に宣教師系の議員から猛烈な非難が浴びせられた。

「道徳的に問題がある」

「現在非合法なものを合法化して良いと思っているのか?

 それも国営で行うとは、正気の沙汰とは思えない」

「反社会勢力を公認するとは、何を考えているのか?」

「そもそも賭博や金融、地に足を付けず、労働とその対価が天より与えられる物ではない金儲けだけの事業は許されない」

 等等。

 リリウオカラニは

「では、即効性があり、アメリカの税制が変わるのを期待せずに我々が出来る政策が他にありますか?」

 そう言うが、この言い方は反対派を余計に苛立たせた。


「それで、ラハイナの方の反応はどうか分かりますか?」

 林は軍・警察関係から情報を得に榎本たちを訪れていたのだった。


 新撰組は既に解散し、藤田五郎、原田左之助という幹部もハワイを去った。

 だが局長を務めた相馬主計、監察方の島田魁、尾関泉等十数人はそのまま警察として残っている。

 原住ハワイ人隊士や白人隊士も帰郷はせず、ロイヤル・ガードやパレス・ガードという民兵組織に加入した。

 断罪者(ウリエル)土方の悪名のせいで、特に相馬等は穏健派で紳士と勘違いされている。

 そこで「新撰組がかつてやっていた汚れ仕事も必要、過激にする必要は無いが、危険な存在を監視する手練れは欲しい」との事で、内務省警察に登用されたのだった。

 見た目は「完全に解体した上で、前部隊同士の横の連絡を取らないよう」各地・各部署に分散配置されていたが、実態は警察長官補佐である相馬主計に情報が集まるよう、それぞれを活かす形で配置されていた。

 現在特に「危険」と見られているのは、ラハイナに巣食う旧黒駒党である。

 国王を神輿に担ぎ、内輪揉めを起こさないようにしているが、本来が弱者を食い物にする暗黒街の住人、いつ抗争を始めるか知れたものではない。

 相馬はそんなラハイナの情報を掴んでいる。

 現地情報網は前任の藤田五郎が作ったものをそのまま引き継げば良く、難しい事では無かった。


「摂政の発言は、一瞬は彼等を驚かしたようです。

 政府が自分たちの仕事を奪いに来るのか?と。

 しばらく奴らも情報を集めた上で、どうやら現在の事業を公認し、政府の後ろ盾で出来る仕事もあると聞き、逆に表の仕事を増やそうとしています。

 裏の方も、まあ…………活気づいています」

「まあ、摂政があんな事言ったら、裏の方も頑張るよなあ……」


 問題となったのはリリウオカラニの「阿片売買も国の管理を入れますが、合法化して税源にします」というものだった。

 阿片売買は基本禁止であるが、多くの船乗りが集まるハワイでは監視し切れるものでなく、黙認状態となっていた。

 それを追認というより、積極的に国の管理化に置こうというものである。

 監視し切れないのは国と売人が対立状態にあるからで、売人を国の免許で公的に認めれば、ある程度の管理は可能となる。

 無論、全面的に彼等が従う訳ではないのは分かっている。

 そこで「国の免許を持つ売人は、自由裁量枠を与え、国に払う税金以外は自由とする」という方針だ。

 王族、アメリカ白人系農園主、法律家、宣教師系あらゆる議員が反対している。

 逆に暗黒街では大賛成で、反対派議員を切り崩しに動いているようだ。

「暗殺とかなら我々も動きますが、死んだ黒駒の教育が効いてるようで、穏健にいくとこは穏健にやるようです」

「穏健にやる、とは?」

「賄賂ですよ」

「ふう……、前回の内戦の口実に『腐敗政治横行』があったが、また繰り返すのかね」

 林忠崇はため息をつく。


「摂政はタバコをふかし、博打に強く、肝も太い。

 非常に、その……ふくよかな体型と目つきに鋭さもあり、むしろカラカウア王よりもラハイナの纏め役に向いているが……」

「榎本殿、貴殿らしくない見落としをしている。

 カジノを国有化くらいなら他にやっておる国もあろう。

 だが阿片取引や資金洗浄を国営でするとなると、目をつけられかねない。

 摂政は危険な政治をしようとしている。

 ……一方で、それ以外に有効な方策も無い。

 舵取りが難しい」

 議員となった林忠崇は、否応なくハワイ王国の行く末を考えざるを得なくなった。

 この辺は日本人の律義さとでも言うのであろうか。




 こういう問題がある時期に、カラカウア王は治療の為に渡米した。

 この関税についてカラカウアも内容を知っていた為、彼はサンフランシスコ到着後、自身の入院もそこそこにアメリカ政府関係者との会談を希望する。

 彼は説得する術を持たない。

 只々懇願するだけである。

 互恵条約を結び、アメリカ以外の外国への土地売却を禁じ、米ドル経済圏に入り、真珠湾の独占使用権を提供したばかりではないか。

 ハワイ王国にもアメリカ国内と同じ優遇措置をお願いしたい、虫の良い申し出だが、まずこれが受け入れ可能かどうか?

 受け入れ可能ならば、何を提供すれば良いか?

 民主化や議会中心の政治には自らが転換した、さらにアメリカは何を望むのか?


 だが、西海岸のサンフランシスコから、東海岸のワシントンD.C.に願いは届かなかった。

 海軍病院に入院させられたカラカウアの症状は悪化の一途を辿った。

 もしも彼が翌年末まで生きていたなら、希望を見出せたに違いない。

 翌1891年の選挙において、関税引き上げにより生活物資の価格上昇が起こり、物価高に怒った有権者によってウィリアム・マッキンリーは落選、関税法も見直しの動きが出るのだ。

 しかしカラカウアは選挙結果を見る事は無かった。


 1891年1月20日、ハワイ王国第7代国王デーヴィッド・カラカウアはアメリカ・サンフランシスコにて客死する。

 摂政リリウオカラニがそのまま、第8代国王として即位する。

 そして動乱の年が始まる。

黒駒の話。

この回でリリウオカラニが賭博や阿片売買を国営化と言いました。

我々の歴史でも、リリウオカラニは「宝くじと阿片ライセンスで経済危機を克服しよう」と言っています。

だったら、もしも「既にそういう賭博と阿片とで莫大な金を産んでいる地域が、国内にあったなら?」という想定の元、黒駒勝蔵にはラハイナを育てて貰い、時間が来たので神代直人によって殺されました。

我々の歴史ではハワイ王国崩壊までのヤマ場は2つ、銃剣憲法とハワイ革命です。

ハワイ革命の頃には新撰組ももう年を取り過ぎてますので、伝説を残すなら銃剣憲法の頃まで。

銃剣憲法からハワイ革命までの短い期間に、土方を斬るという事で黒駒に繋がっていた神代が、ずっと待たせた黒駒を斬るというのは流れの中でそうなってしまいました。

そして、丁度良いタイミングで「頭を失った非合法集団」と「財源が欲しく、非合法ビジネスもOKな王族」が出来て、需要と供給が合ったわけです。

上手くいけば、万年財産不足のハワイが一気に金持ちに返り咲きます。

が、それでは面白くないのがスティーブンス大使他多数いますので、また一山これから迎えますので、その様子を書いていきたいと思います。

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