カラカウアの決意
講和会議は3回で終わり、形式上の処罰と恩赦、国外追放となる者等が決められた。
意外な事にアシュフォード大佐はハワイ残留が求められた。
これは本人にも意外であり、それを求めた者に直接話を聞く。
「軍人として貴方の手腕を認めたからです。
倍の戦力を持つ大鳥相手に互角以上に戦い、三ヶ所の戦場を統括する能力は素晴らしい。
是非、私どもに力を貸して頂きたいのです」
そうリリウオカラニ王妹が話した。
ホノルル・ライフルズも存続を認められると言う。
意外に戦った日本人からも、アシュフォード留任に反対は出なかった。
「敵ながら天晴」
と言ったところであろう。
ただ、彼がハワイ王国の為に忠誠を誓うのであれば、という注文は付いた。
兵士たちについても
「改心して共に戦ってくれるのなら、実に心強い。
民兵として独立採算なら予算も食わないし」
と大鳥圭介は寛容であった。
部下たちは不満を持っているが、一方で
「アメリカの銃は優秀だ。
我々も使いたい」
という意見が出ている。
山地、湿地、森林、火山による起伏の多い地形のハワイにおいて、フランスの長射程ライフルと防御型速射は意外に役に立たなかった。
騎兵銃という短銃身でありながら、取り回しが良く、短射程から中射程で威力を発揮する銃の方が合っているようだ。
民兵という本来実力の劣る相手だが、戦ってみて彼等はアメリカ兵の強さを実感した。
室内戦闘で新撰組相手に虐殺されまくったものの、野戦ではアメリカ兵は粘り強く、臨機応変に動き、少数の部隊でも自分の頭で判断して戦う。
アメリカ兵侮り難しと旧幕府軍は判断し、一方で賞賛して認めていた。
むしろハワイアン・リーグ残党の方が
「俺たちは勝っていたのではないか?」
と負けを認めていないくらいだ。
流石にアシュフォードは
(国王の確保と要求受諾、日本人の王であるマツダイラの確保、そのどちらも失敗した時点で戦術的勝利に何の意味も無い。
政治的に我々の要求が容れられたのは寧ろ奇跡に近い逆転だ)
と判断してるのだが。
一方でサンフォード・ドールは、ハワイアン・リーグの反乱指導者として死刑が宣告された。
まあ、茶番である。
講和会議は12月初頭に纏まり、処分は12月20日に発表、その後クリスマス休暇を終えて12月27日に収監、1月1日に正月を迎えて国王命令による恩赦が行われ、翌2日に王権を制限した新憲法を発布するという流れとなる。
ドールは恩赦により罪一等を免除され、国外追放となる。
ハワイアン・リーグ創設の13人の同志はほとんどが「イオラニ宮殿騒動」と王宮の戦いで死亡したが、数人は生き残った。
キニーと共にハワイ島で戦ったキングは、野戦後に山川浩率いる第三旅団第九大隊に投降した為、新撰組の狩りに巻き込まれずに済んだ。
生きてホノルルに送られたキングは、ドールと同席して講和会議に出席し、同じように死刑から恩赦国外追放となった。
資産家の彼の場合、財産没収が最も痛い処分と言える。
ピーター・クッシュマン・ジョーンズはホノルルの倉庫でギブソン前首相を監視していたが、「イオラニ宮殿騒動」と王宮の戦いの結果を聞くと、そのまま倉庫街に潜伏し、隙を見て海外に逃げて行った。
クラレンス・アシュフォード、アシュフォード大佐の兄だが、彼も本来は死刑宣告から罪一等を免じられての国外追放な筈が、弟が留任する事に伴ってハワイ滞在を許される事となった。
一番恩恵を受けた人物と言っても良い。
白人たちは寛大な処分だと喜んでいるが、日が経てば「上手くカラカウアと日本人たちに乗せられたのではないか?」と言う者も出て来るだろう。
何だかんだ言って白人たちの状況は現状維持ですらなく、大きく後退している。
議会政治への回帰と言いつつ、選挙権はアジア人や新参移民にまで拡大され、今までのような白人と王族ハワイ人だけの政治は成り立たなくなった。
商工会議所等で白人の力は相変わらず圧倒的だが、ここでは王国派の白人が優越し、併合派の白人はその地位を奪われていた。
何より憲法改正と言いつつ、改憲・外交・軍事における国王の拒否権を奪えなかったのだ。
「異議あり! 条件についてもっと交渉したい」
そう言い出されない内に話を纏めたのはカラカウアの炯眼とも言えたが、これについて
「土方がそう言ったのだ」
とカラカウアは言う。
「土方はお兄様にアドバイスをしてからハワイ島に行ったのですか?」
妹の問いに兄は首を振る。
「亡霊が出て来たのだ」
そう言われ、妹と妻は嫌な顔をし、周囲を見渡した後、震えた。
「気持ち悪い事言わないで下さい。
彼はクリスチャンでは無いから、神の御許に行けないのかもしれませんが、だからって亡霊となっているなんて言わなくても……」
「あなた、土方に失礼ですよ。
本当なら牧師様を呼んで天国へ送りましょう」
カラカウアは苦笑いする。
「あれは土方死亡の報を聞いた日の夜の事だった。
そこのカーテンが揺らいだと思ったら、黒い軍服を着た土方が立っていたのだ。
私は身体が動かなかった……。
殺される、私はそう思った。
だが土方は私に向かってこう言った。
自分の死に白人が浮かれている内に話を纏めなさい。
長引いて良い事は一つも無い、と。
そして土方は靄が消えるように居なくなった」
カピオラニは耳を塞いでガタガタ震えている。
リリウオカラニは疑問を覚えた。
「お兄様」
「何か?」
「どうして殺されるって思ったのですか?
土方はお兄様を命を懸けて護った男じゃないですか。
あんな頼りになる男は居ません。
むしろ、死んでまで護りに来てくれた、と思うのでは無いですか?」
「それは……、やはり死んだ男が現れたら、本能的に自分も死ぬのでは、と思うもんだろ」
「そうでしょうか?」
「そうだよ」
カラカウアは内心
(黒駒の誘いに乗って、土方暗殺を依頼してしまった等、知られてはならない……)
と、土方が殺しに来るに十分な所業を思い出していた。
絶対に秘密にしておかねばならぬ。
「ところでお兄様は、私に摂政を任せてどちらに行かれるのですか?」
「酒毒を抜く為に、アメリカで転地療養だよ」
「あら、なるほど。
では道中ご無事で」
「……裏があるとは考えてくれないのかい?」
「酒が過ぎる、身体に良くないとは、あのサンフォード・ドールも警告していた事じゃないですか。
治療に行くなら、もっともな理由ですよ。
私だって飲み過ぎだと思ってますから。
あの日もどうせ、飲み過ぎて寝てたとこを、サーストンたちに銃剣で脅されたのでしょう?」
「いや、飲んでないよ。
ギター弾いてただけだ。
それよりも、そのドールだよ」
「ドールが何か?」
「彼は国外追放となる。
私は彼に着いて行きたい」
「監視、ですね」
「それもある。
もう一つ、私自身がアメリカに留まって人質となろう。
アメリカ大統領と親しく交友し、アメリカの手で私を護らせよう。
もう二度と、脅迫者が近寄らないようにね」
「危険です!」
「むしろ安全だろう。
アメリカに居て、アメリカへの併合を企んだ首謀者と一緒に居るところに、同じアメリカへの併合主義者を通してしまう等、客人をまともに守れない、アメリカの恥になるから、必死に守るだろう」
「そうですか?」
「そうさ。
だから私は、可能な限り大統領と仲良くし、友好国たる立場を維持するよ。
社交界に出入りし、政治家や実業家と酒を酌み交わし、ハワイにとっての友を作るとするよ」
「……酒害の転地療養はどこ行ったんですか?」
「まあ、式典もポリネシア同盟も出来なくなった私は、寛大で民主的な国王として、知己を酒で作る事しか出来ないからね」
「だから、酒の害を治す話はどこ行ったんですか?」
「それは置いといて」
「置いとけません!
社交界より酒毒の治療の方が大事です!」
「私は来年にもアメリカに行くから、摂政として議会とよろしく付き合って欲しい」
「話逸らさない! 酒をどうすんですか!?」
「国王の力がまだ強い内に、真珠湾の独占使用権更新の手続きをアメリカ総領事と詰めないと。
終わったら祝杯だ」
「酒は控えましょう!!!」
「あなた! 言ってる事とこれからやる事が一致してませんわよ!」
「という訳だから、これからビショップ臨時首相と打ち合わせするんで」
「まったく……」
「そう言えばリリウオカラニ」
「何でしょう?」
「お前、イライラするとタバコ吸い過ぎるから、控えた方が良いぞ。
健康に良くない!」
「お兄様に言われたくありません!!」
しかしカラカウアが思うように事態は進まなかった。
事件はまたマウイ島から発生する。
土方歳三が死亡しました。
もう日本刀でどうにかなる時代は過ぎ去るので、丁度良い時期に近藤勇の元に行ったと思います。
ただ、退場とはなりません。
カラカウアのとこに出たように、亡霊となって出て来ると思います。
亡霊は生きた人間の心の中に棲んでますから、彼を覚えている人が出ている内は、土方歳三はまだ生きているのと同じかもしれません。
しかし、本来60話くらいでホノルル幕府成立までいく筈が、100話になってもまだ樹立出来ないとは…。
明治二年から17年を書くとこんな量にならざるを得ないのね。
まだ二十世紀まで14年あるし、あと70話くらい?
ヤマがあと2つはあるので、やっぱそれくらいになりそうです。




