接吻
「七福神として生きる上で、何か不満に思ってる事ってありますか」
「あるある。アタシ達七福神は、この嘘の姿が五十年毎に変わって、最初は二十歳の見た目から始まるんだけどさぁ、嘘の姿は自分で選べる訳じゃないから、たまに全然可愛くなかったり太ってたりするの。うわぁ、今回こんな感じかぁ、みたいな。だからそういう場合はその分、自分磨きが大変なの。元の姿と違ってちゃんと見た目も年取るし」
やはりこの女は自分の能力が絶対音感である事をコンプレックスには思っていないらしい。
「千里眼は、お仕事中も使ってるんですか」
「うん。使ってるよ。結構いるんだよ、いい事したお客さんも、悪い事したお客さんも。で、千里眼で視ると名前も解るから、こっそりメモって、あとで運を送るの。運を送るには名前が必要だからね」
「他の七福神の方々にはよく会うんですか」
「布袋ちゃんは見ての通りああいう人だからしょっちゅうアタシのバイト先に来るの。おっちゃんも福禄寿ちゃんもよくLINEするし、寿老人ちゃんともよくメールするし」
メモっていると、「ねぇ、目瞑って」と弁財天は云った。
それから、「何でですか」、「いいからいいから」というラリーが数回続いた。
異性に目を瞑るように促された後は、アレをされる展開しかイメージ出来ない。
いや、神様が無許可で人間にアレをする訳がない。
葛藤の末、小説の為にも従う事にした。
少し、緊張が走る。
すると、唇にゆっくりと柔らかい感触を覚えた。
「んなっ! ちょっ!」
反射的に目を開けると、テーブルに手を置いて身を乗り出し、笑みを浮かべる弁財天の顔が目の前にあった。
嫌な予感が的中してしまったらしい。唇を手で拭う。
「ホントはね、キスした相手の夢が叶うっていうのが、アタシの特殊能力なの。何か恥かしくて嘘ついちゃった。でも、やっぱ嘘は良くないなと思って。お詫びにキスしたから許して。美顔器もいらないから。あっ、アタシもう帰るね。じゃっ!」
夢が、叶う。
本当に、夢が叶うのだろうか。
思わず、茫然とした。
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