それぞれの主張
「何故だ! もうじき、また武闘会があるんだぞ!?」
「ガータ姉、さっきアジュールから徒歩で二週間くらいかかったって言ったよね? 大会、十日後って言ってなかった? そもそも間に合わないし、行って戻ってきたら四週間? そんなに店を休めないし、そもそも俺は軍人になるつもりもない」
「行きは変に絡まれるのが面倒で歩きで来たが、帰りは馬車を探す! お前の強さなら優勝出来るんだ! 私が里を出る時、後を任そうと思ったお前なら……あと、武闘会は軍人になるだけじゃない。さっきも言っただろう? 金でも良いし、何か商売をしたり役職が欲しいのなら、王族の名の下に可能な限り叶うんだ」
「えっ!?」
二人の話だと思っていたが、聞こえてきた内容が気になり過ぎて、恵理はたまらず声を上げた。そして、恵理の声に驚いた二人から視線を向けられたのに口を開く。
「……ごめんなさい、レアン。お店のことなんだけど、実はカツ丼が作れるように改築することになって」
「ありがとうございますっ」
カツ丼と聞いた途端、レアンが琥珀色の目を輝かせた。カツ丼人気を改めて実感しながらも、恵理は話の先を続けた。
「いえ、こちらこそ……それでね? その休みの間に、実はアジュールに買い付けに行くつもりだったの」
「……えっ?」
「新メニューを作るのに、香辛料が必要で……幸い、ティートが馬車を用意してくれるらしいから、片道二週間よりはもう少し早く行き来が出来そうだし。気乗りしないなら、私一人で行くからレアンは留守番お願い。値段が気がかりだったけど、ついでに武闘会でもし優勝出来れば、香辛料の関税も何とかなるかもしれないし」
「ちょっと待って下さい!」
「ちょっと待って下さいよ!」
「ちょっと待った!」
「……ちょっと、待って」
恵理の話を、レアン――だけでなく、店のドアを開けたサムエルとグイド、そしてミリアムも制止する。何事かと思っていると、それぞれが言葉を続けた。
「そういうことなら、話は別です! ガータ姉、俺、武闘会に出るよ!」
「師匠! 話は聞かせて貰いました! レアンが出るなら、魔法使い以外も出ますよね? 俺も出ます!」
「俺もだ! てか、エ……店長は無理すんなよ? 俺らが頑張るから、大船に乗った気で」
「私、も頑張る!」
「そんな訳にはいかないわ。私の店のメニューだし、それに」
グウゥ……キュルル……。
そんな言い合いは、盛大な腹の音によりピタリと止まる。
「……すまん」
そして、腹を鳴らした人物――ガータは、気まずけにそれだけ言うとそっぽを向いた。そうだった。全く飲まず食わずではないだろうが、彼女は二週間かけてロッコに来たのだと恵理は改めて気づいた。
「失礼しました……今すぐ、何か作りますね。皆も食べるわよね? ……賄いなので、気にしないで下さいね」
金銭的なものか、少しでも早く着きたかったのか。事情は解らないが、そもそも気を使わずに食べてほしい。
気を取り直した恵理は、そう思いながらガータに話しかけた。




