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異世界温泉であったかどんぶりごはん(旧題:パーティーを解雇されたアラサー女子はどんぶり屋を開く)  作者: 渡里あずま
第二部

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それぞれの主張

「何故だ! もうじき、また武闘会があるんだぞ!?」

「ガータねぇ、さっきアジュールから徒歩で二週間くらいかかったって言ったよね? 大会、十日後って言ってなかった? そもそも間に合わないし、行って戻ってきたら四週間? そんなに店を休めないし、そもそも俺は軍人になるつもりもない」

「行きは変に絡まれるのが面倒で歩きで来たが、帰りは馬車を探す! お前の強さなら優勝出来るんだ! 私が里を出る時、後を任そうと思ったお前なら……あと、武闘会は軍人になるだけじゃない。さっきも言っただろう? 金でも良いし、何か商売をしたり役職が欲しいのなら、王族の名の下に可能な限り叶うんだ」

「えっ!?」


 二人の話だと思っていたが、聞こえてきた内容が気になり過ぎて、恵理はたまらず声を上げた。そして、恵理の声に驚いた二人から視線を向けられたのに口を開く。


「……ごめんなさい、レアン。お店のことなんだけど、実はカツ丼が作れるように改築することになって」

「ありがとうございますっ」


 カツ丼と聞いた途端、レアンが琥珀色の目を輝かせた。カツ丼人気を改めて実感しながらも、恵理は話の先を続けた。


「いえ、こちらこそ……それでね? その休みの間に、実はアジュールに買い付けに行くつもりだったの」

「……えっ?」

「新メニューを作るのに、香辛料が必要で……幸い、ティートが馬車を用意してくれるらしいから、片道二週間よりはもう少し早く行き来が出来そうだし。気乗りしないなら、私一人で行くからレアンは留守番お願い。値段が気がかりだったけど、ついでに武闘会でもし優勝出来れば、香辛料の関税も何とかなるかもしれないし」

「ちょっと待って下さい!」

「ちょっと待って下さいよ!」

「ちょっと待った!」

「……ちょっと、待って」


 恵理の話を、レアン――だけでなく、店のドアを開けたサムエルとグイド、そしてミリアムも制止する。何事かと思っていると、それぞれが言葉を続けた。


「そういうことなら、話は別です! ガータ姉、俺、武闘会に出るよ!」

「師匠! 話は聞かせて貰いました! レアンが出るなら、魔法使い以外も出ますよね? 俺も出ます!」

「俺もだ! てか、エ……店長は無理すんなよ? 俺らが頑張るから、大船に乗った気で」

「私、も頑張る!」

「そんな訳にはいかないわ。私の店のメニューだし、それに」


 グウゥ……キュルル……。


 そんな言い合いは、盛大な腹の音によりピタリと止まる。


「……すまん」


 そして、腹を鳴らした人物――ガータは、気まずけにそれだけ言うとそっぽを向いた。そうだった。全く飲まず食わずではないだろうが、彼女は二週間かけてロッコに来たのだと恵理は改めて気づいた。


「失礼しました……今すぐ、何か作りますね。皆も食べるわよね? ……賄いなので、気にしないで下さいね」


 金銭的なものか、少しでも早く着きたかったのか。事情は解らないが、そもそも気を使わずに食べてほしい。

 気を取り直した恵理は、そう思いながらガータに話しかけた。

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