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異世界温泉であったかどんぶりごはん(旧題:パーティーを解雇されたアラサー女子はどんぶり屋を開く)  作者: 渡里あずま
第一部

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夢広がるよ、どこまでも

 今までは、帝都で悪目立ちして異世界人とバレないように、和風のメニューは恵理なりにではあるが控えていた。

 しかし、帝都から離れ――更に、魚醤だけではなくグルナに作り方を教わった味噌もある今となっては、自重なんて出来ない。


「今、考えているのは親子丼……魚醤で味をつけた鳥肉とオニョン(玉ねぎ)を、卵でとじてリーゾ(米)に乗せるの」

「なるほど。鳥と卵だから『親子丼』ですか、女神。カツ丼じゃないのは残念ですが、似た感じで良いと思います」

「材料も、鳥と卵は養鶏場のおかげで手に入りやすいですし。店長、良いんじゃないですか?」

「……そう、親子丼だけならね」


 恵理の説明に、ティートが感心したように呟き、レアンが目を輝かせる。

 だが、そこで恵理は言葉を切り、次いで話を続けた。


「私としては、親子丼だけじゃ寂しいから味噌汁をつけたい……どうせなら具は、豆腐にしたい」

「トーフ? 師匠、何ですかそれ?」

「色々と応用のきく加工食品なんだけど、帝都には豆腐自体もだけど大豆もなくて……でも、味噌が出来るんだから。頑張れば、作れるんじゃないかって……駄目なら、いつかニゲルに行って探してみたい。そして、豆腐が出来たらこんにゃくも探して、いつか豚汁をっ!」

「……コニャック?」

「惜しい、ミリー。こんにゃくよ」


 拳を握って力説する恵理に、サムエルとミリアムが不思議そうに首を傾げて尋ねてくる。それをやんわり訂正すると、今まで黙っていたグルナが口を開いた。


「ニゲルって、山の向こうまで行く気か? 食べたい気持ちは解るが、あんたは何を目指してるんだ?」

「何って……」


 異世界・ティエーラで米食を伝えたい。その目的の為に、恵理はこのどんぶり屋を開いた。

 ……けれど、開店してしばらく経った今となっては新たな目的と言うか、欲が出てきていたりする。


「私が作るどんぶりは、グルナとか他の店に比べると……まずいとは言わないけど、素人料理だとは思うのよね」

「「「「そんなっ!?」」」」

「ありがとう。でも、そんな私のどんぶりでも皆は美味しいって食べてくれるから……だから、もっと美味しいものを食べて欲しい。私が美味しいと思うものを、頑張って作るのが私の目指すものだわ」


 ティートとレアン、サムエルとミリアムからの即座の反論にお礼を言う。

 そう言って、真っ直にグルナの目を見返すと――何故か目を逸らされて、恵理は戸惑った。

 そんな彼女に、目を逸らしたままグルナが言う。


「……ごめん」

「えっ?」

「こんにゃくはともかく……豆腐は、ニゲルに行かなくても作れる」

「えぇっ!?」

「大豆じゃないけど……ルベルのひよこ豆で豆腐、作れるんだ」


 突然のグルナからのカミングアウトに、恵理は大きく目を見張った。

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