第64話 死神覚醒
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「──主、お待たせしました」
スッと現れた楓が、静かにそう呟いた。
「なっ!?」
突然、目の前に現れた楓に猪熊が驚愕する。無理もない。なにしろ、今の楓は新しい異能……【絶対隠密】の能力に目覚めている。
──【絶対隠密】
二代目の半蔵、正成が持つ【気配消去】の上位互換の異能。しかし、その能力は比べ物にならない。半径十メートル程の中でなら、完全に気配を断つ事が出来るらしい。勿論、正成の様な制限は無い。しかも、足音や発する物音まで、完璧に消す事が出来ると言うのだから、猪熊にしてみれば、突然現れた様にしか見えないだろう。
「ご苦労だったな、楓。で、首尾よくいったか?」
俺は跪く楓を労い、声をかけた。楓は発言の許しを得た事を確認し、報告を始める。
「はい。主の仰せのままに、ここにいる以外の家臣……屋敷の外にいる、この者に手を貸していた者達は、全て始末致しました」
「な、何だとっ!?」
側で楓の報告を聞いていた、猪熊が驚きの声を上げた。そして、信じられない様な表情で声を漏らす。
「そ、そんな……表には、ここの倍の数はいた筈だ。それをこんな小娘が……しかも、たった一人でだと……」
ブツブツと、まるでうわ言の様に呟く猪熊。そう。俺はここに来る前に、楓に周辺の状況を探らせていた。そして、その暗殺も……今の楓の実力なら、何の問題も無いと思ったからだ。事実、楓はその任務を、見事に遂行して見せた。一人残らず、全員を皆殺しに……気配で分かる。生き残りは一人もいない。
「そうか……ご苦労だったな。それで、例の件も上手く行ったのか?」
俺は楓に、もう一つの任務について問いかけた。
「はい。何の問題もございません」
楓は顔色一つ変えず、淡々とした態度で答えた。俺はその様子を見て、再び猪熊に目線を向ける。
「だ、そうだ。残念だったな、ジジイ」
「む……?」
何の事を言われているのか理解出来ず、猪熊は俺を睨み付けながら唸った。俺はそんな猪熊に、トドメとなる言葉を投げ掛ける。
「お前が喋らなくても情報は全て、楓がお前の家臣達から聞き出した。京との関係も、半兵衛との謀略の内容も……全て、な。だから、お前に聞きたい事はもう、何も無い。安心して死ね」
「なっ!?」
そう。俺が楓に命じていた、もう一つの指令。それは、猪熊の側近達から、今回の謀反の裏側……更に、それに関わった人間関係について、徹底的に聞き出させて来る事だった。土方の話では、猪熊は絶えず、何人かを連れて行動していたそうだからな。どうやら、俺の思惑は上手くいったらしい。
すると、傍らで聞いていた家康が、驚きの声を上げた。
「お、お主……ここまで考えておったのか? それに、それをいとも簡単に、たった一人でやり遂げるとは……楓。お主、一体どんな強さを身に付けたというのじゃ……」
余りの楓の成長振りに、家康は驚きの色を隠せない。すると、そんな家康の姿を見て、楓は神妙な表情で答えた。
「主に頂いたこの能力……まだ、完全には使いこなせておりませんが、一日も早く、『半蔵』の名に恥じない様……そして、主のお役に立てる忍になってみせます。それが、自由を下さった家康様、そして、お師匠様への恩返しになると思いますので……」
楓は、決意を込めた目で家康に言い切った。俺は、そんな楓をさがらせると、猪熊に一歩近づいた。
「ひっ!」
義手の嵌った両手を使い、必死に後退りする猪熊。腰が抜けたままだから、何とも滑稽な姿だ。俺はそんな猪熊に、最後の言葉を投げ掛ける。
「大人しくしてればいい物を……お前のせいで、せっかく築き上げた町は焼け野原だ。それに、そこにいた連中もな……。お前、楽に死ねると思うなよ?」
俺はそう言って、猪熊の右足を斬り付けた。
「ひぎゃあ!!」
無様な悲鳴が、静まり返った道場に響き渡る。猪熊は、一瞬で右足を失った。
「ひ、ひぎぃぃぃぃぃぃっ!!」
尚も這いずり回る虫の様に、必死で逃げようと試みる猪熊。そんな猪熊の背中を、俺は軽く蹴り飛ばして転がせる。
「ふぐあぁっ!!」
前のめりに吹き転ぶ猪熊。俺は、そのままゆっくりと近付いて、うつ伏せになった猪熊の頭を踏み付けた。
「へぐぅっ!!」
顔面を床板に押し付けられて、苦しそうに藻掻く猪熊に、俺は冷たく吐き捨てた。
「安心しろ……俺は優しいからな。中途半端に希望はやらん。ちゃんとお前が自分から、死にたくなる様になるまで追い詰めてやる」
「や、優しいって……め、滅茶苦茶な理屈だ……」
「まさに死神……」
土方と近藤が、恐れとも呆れとも取れる様な、微妙な表情で呟いた。そして、ようやく一人で立てるまでに回復した、忠勝がボソリと口を開く。
「う、上様……あれは……あの者は、本当に我等と同じ人間なのですか……? わ、我は、あんなに恐ろしい男を見た事が無い。強い者を見ると滾る筈の我の血が、恐怖で今にも凍えそうな程に冷たい……。我は……我は、あの男とだけは戦いたく無い!」
忠勝も相当の実力者……だからこそ、その危険を察知する能力、強い者を嗅ぎ分ける嗅覚も、人一倍優れているのだろう。全身に走る、悪寒と恐怖……忠勝は、それを一切隠そうともせず、恐れ慄いた表情で家康にそう告げた。
「うむ……お主の言う通り、最早あれは、妾達と同じ人間では無いのかも知れぬな。まさに死神……死を司どる神。目を付けられた者は、生きる事を許されない……。猪熊は、人間が絶対に触れてはならぬ死神に、どうやら魅入られてしまったのやも知れぬ……」
「真人は殺ると言ったら、本当に殺る。何の躊躇も無しに……だから恐ろしいんだ……」
忠勝同様に恐れを抱き、それでも尚、気丈に振る舞い答える家康。そして、そんな家康の言葉に、説明を付け加える新八。そんな二人の声は、恐怖で僅かに震えていた。俺は、そんな家康達の事など気にも止めず、猪熊を甚振り続けて行く。
義手の嵌ったその両手を、今度は肩から切り落とす。右腕……そして、左腕。蹴り転がして仰向けにさせ、更に目の光を刀で奪う。
「ぎぃやあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
両目を切りつけられた猪熊が、この世の物とは思えない叫びを上げる。目から血と涙が溢れ出し、鼻水と嗚咽で呼吸が荒い。猪熊にとってはまるで、無限に続くとでも感じられたであろう、そんな地獄を味合わさせる。
もしかしたら俺の表情は、この時、笑っていたのかも知れない。無意識に俺の口元は、三日月の様に歪んでいた。
今にも腰を抜かしそうな程、恐怖に震え、顔を歪める家康達。それとは対照的に、その光景を静かに見守り続ける、ジンとコン……そして、楓。
──そんな悪夢の様な地獄が終わりを告げ、猪熊が人形の様に事切れたのは、それから暫くしてからの事だった。
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