第63話 人間の心
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「──し、死神……」
楓から聞いていたのか、家康はその名を口にした。そんな、呆然と立ち尽くしていた家康と土方の許に、近藤の肩を借りた忠勝が歩み寄る。そして、家康の呟いた、その言葉に反応を示した。
「死神……」
忠勝が、うわ言の様に呟く。すると、肩を貸していた近藤が、意を決した様に問いかけた。
「上様は……何かご存知なのですか? あの者は一体……」
依然、逃げ惑う家臣達をゴミの様に斬り捨てる、俺に視線を向けながら、近藤は問いかけた。呆然としていた家康が、ハッと我に返り、その問いに答える。
「楓から聞いておったのじゃ。あの者……真人が樹海で、『死神』と呼ばれておるという話をの……」
そう言って家康も、俺の方へ目線を向けて来た。そして、更に家康達の目線は、逃げようとする家臣達を蹂躙する、ジン達の方へと向けられる。ジンは、家康達の視線を浴びながら、それでも淡々と首を刈る。傍らではコンが、【狐火】で逃げ惑う者達を、一人残らず焼き尽くしていた。
「がっ……はっ!」
「ぎゃああああああああああ!」
声にならない呻き声と、断末魔の様な悲鳴が道場内に響き渡る。
「な、何者なんだ……あいつ等……」
思わず、近藤は口にした。すると、それを聞いた家康が、更に説明を加える。
「楓の報告によれば、あの執事服の男……あれは、噂に聞く樹海の魔神じゃ。そして、もう一人のあの女……おそらくあれは、東端の森に棲むという、伝説の妖狐……九尾じゃろう」
「なっ! ま、魔神ですと!?」
「あれが……九尾の……狐……」
今度は、土方も反応した。どうやら土方達は、魔神の事を知っていたらしい。そして、近藤の反応を見るに、おそらく九尾の狐の事も……。楓は、コンの事は知らない筈だから、これは家康の推測だろう。コンの奴、結構有名人だったみたいだな……人間達の社会でも。
「妾も、本当にそんな者達が存在するなんぞ、この目で見る迄は信じられんかったがの……じゃが、あれ等は紛れもなく本物じゃ」
家康は、そう付け加えると息を飲んだ。
「そんな伝説級が二体も……」
「新八達が必死に止める訳だ……あんなの、戦って勝てる筈が無い」
近藤と土方が、各々に口にする。俺達の実力は認めていたみたいだが、ようやく、その開きに気付いたらしい。そして、近藤は改めて、その思いを言葉にした。
「そんな伝説級を二体も従えている、真人はいったい何者なんだ……」
絞り出す様に呟く近藤に、家康は溜息混じりで答えた。
「死神じゃよ……そんな、伝説級達を力尽くで黙らせた、新しい樹海の支配者。それが、あ奴……真人じゃ」
家康と土方。そして、近藤と忠勝。四人の視線が俺に集まった頃、既に生き残っている家臣は、猪熊を除けば一人になっていた。
「あ……あ……」
最後の一人が、刀を構えたまま後退りする。どうやら、逃げる事は諦めたらしい。俺は、淡々と歩いて間合いを詰め、脅えるその男に吐き捨てた。
「お前で最後だ。俺の町を襲った事を、後悔しながら──」
真空の刃で斬り続けた為、血糊ひとつ無い刀を振りかざす。そして……
「──死ね」
俺は、何の躊躇もなく、その首を斬り落とした。男の頭が、ゴロンと足下に転がる。遅れて、首の無い体が崩れ落ちた。
二百人近くいた家臣達が一瞬にして全滅し、その凄惨な光景を見せられて、唖然とする家康達。道場内には、殆どが真っ二つに斬り裂かれた死体……そして、首の無い死体と、黒焦げの死体。そんな、足の踏み場も無い程の、文字通り、死体の山が築かれていた。そこら中に飛び散った、血飛沫と臓物。それは、まさしく、地獄と呼ぶに相応しい光景だった。
そんな死体の山の上を、俺は無造作に踏み付けながら、ゆっくりと猪熊の許へと歩み寄る。生き残りがいない事を確認し、ジンとコンも続いて来た。腰を抜かしたままの猪熊を見下ろす、俺達三人の許に、遅れて家康達が近寄って来る。そこら中に転がる死体を踏まぬ様、気遣いながら歩くのに苦労している様だ。
平気で死体を踏みつけ、蹴飛ばしていた俺は、やはりどこかおかしいのかも知れない。俺は、雪の復讐を誓ったあの日から、更に同族への愛着が薄れた様な気がする。ジンやコン、それにウォルフ……そんな亜人達と出会ってからは、尚更だ。人間達に、死神と呼ばれるのも仕方ない気がする……。
『真人さん……?』
そんな事を考えていると、何かを察した雪が話しかけて来た。俺は、咄嗟に頭を切り替え、取り繕う。
(ああ……すまん。大丈夫だ)
別に大した事では無い。元々、嫌いだった人間を殺しても、心が痛まないのは前からだ。今迄にも散々、殺ってきたし……今更、気にする事でも無いだろう。俺は軽く頭を振り、目の前の現実を意識した。目下に、尻餅をついた様な体勢で、腰を抜かした猪熊がいる。よく見ると、袴の裾が濡れていた。どうやら、失禁しているらしい。俺は、家康達が来るのを待ってから、猪熊に向かって吐き捨てた。
「随分、舐めた真似をしてくれたな……せっかく、見逃してやってたのに。馬鹿な奴だ……」
「あ……うぁ……」
猪熊は、余りの恐怖に言葉が出ない。そんな猪熊の様子を見ると、家康が話しかけて来た。
「真人よ……こ奴にはまだ、聞かねばならぬ事がある。何故、謀反を企てたのか……それに、京との関係も気になるしの。すまんが、殺すのはそれからにして貰えぬか……」
そう提案する家康を見て、猪熊はパッと表情を明るくした。まるで、九死に一生を得た様に、その好機にしがみ付く。
「そ、そうじゃっ! 儂を殺したら、何も聞けんぞ! 知りたいんじゃろ? 京の事とか……」
恥も外聞も無く、生への執着を見せる猪熊。ここぞとばかりに、更に要求を重ねて来る。
「ま、まずは儂の、身の安全を保証しろ! そしたら、何でも話してやる! ご、拷問なんぞしよったら、儂は何も喋らんからなっ! そ、それと武蔵っ……武蔵を呼べ!」
宮本武蔵……確か、鬼道館で抱え込んでいるんだったな。なるほど……武蔵に、自分の警護をさせるつもりか。そして、隙を見てそのまま、姿を眩ませるつもりだろう。自分が、安全な所へ逃げ切る迄の、ボディーガードっていう事か。全く、本当に悪知恵だけは働く奴だ。どうせ、武蔵が来るまでは、喋らず時間を稼ぐに決まってる。そんな、猪熊の浅知恵に気付き、家康は奥歯を噛み締めた。しかし……
「残念だったな、ジジイ。お前の猿知恵なんか、お見通しだ」
俺は猪熊に吐き捨てた。言われた猪熊だけでなく、家康達も、俺の発言に困惑の表情を浮かべる。すると、猪熊は想定外の展開に、取り乱し始めた。
「な、何を馬鹿な! しゃ、喋らんぞ!? いいのか!? も、もし儂に変な事をしたら──」
そんな、明からさまに混乱し始める、猪熊の言葉が遮られた。
「──『主』、お待たせしました」
スッと影が現れ、そして、跪く。新しい能力に目覚めた、新しい『半蔵』……楓だ。
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