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女神に誘われ異世界へ  作者: 新垣すぎ太(sugi)
第4章 ドワーフの戦士
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04.15 巨竜の巣 中編

「しかし『闇の使い』って何なのかな?」


 早朝、竜の狩場に入ったシノブは、隣を進むイヴァールに問いかけた。

 一行は騎乗のまま、竜の狩場であるリソルピレン山脈に繋がる高地へと侵入した。昨日と同じくシノブ達の後ろに馬を世話する四人のドワーフの戦士が付き従い、総勢11名となった一団はドワーフ達が狩猟に使う山道を登っているのだ。


「おとぎ話に出てくる何でも出来る魔術師だな」


 イヴァールが、ぼそりと低い声で答えた。

 シノブは続きを待つが、イヴァールは口を閉ざす。どうやらイヴァールは何かを思い出そうとしているらしいが、残念ながら出てこないようだ。


「我がメリエンヌ王国のミステル・ラマールのような方らしいぞ」


 代わりにと思ったのか、シャルロットが会話に加わった。

 ミステル・ラマールは、メリエンヌ王国の建国王エクトル一世を助けた聖人だ。しかも彼は国を興す手伝いのみならず多種多様な知識を授け、それらの多くは五百年以上も経った今でも使われている。

 それ(ゆえ)メリエンヌ王国では、ミステル・ラマールを神の使いとしているのだ。


「剛腕アッシを影から支えた人物です。確かアーボイトスという名でしたね」


「お主、良く知っておるな! そうだ、『闇の使いアーボイトス』。初代大族長、剛腕アッシの友だな」


 シメオンの言葉に、イヴァールは『闇の使い』の名を思い出したようだ。

 剛腕アッシとは500年以上前のアハマス族の族長で、ヴォーリ連合国の初代大族長になった伝説の戦士である。剛腕アッシが巨竜を倒した偉業は今でも英雄詩(サガ)として謳われている。


「長老達が魔術師を連れてくるように言ったのも、『闇の使い』が頭にあったらしいな。

こうやって剛腕アッシの伝説を再現することになるのなら、もう少し長老達の昔話を真面目に聞いておけば良かったかもしれん」


 領都セリュジエールでイヴァールは『長老会議ほど退屈で長いものはない』と言っていた。

 どうやら彼は長老の話が苦手なようで、顔を(しか)めている。もっとも、アッシの英雄詩(サガ)に倣って山中に進んでいる今、長老の話を聞くことは不可能である。


「竜の狩場の中心まで三日くらいなんですよね~。道は大丈夫なんですか?」


 ミレーユがイヴァールに問いかける。彼女は、山中を100km以上進んで行くのに地図も持っていないイヴァールに不安を(いだ)いたようだ。


「我らにとって、この山は庭のようなものだ。子供のころから狩猟や鉱石掘りで通った道だぞ。目を(つぶ)っていても問題ないわ!」


 ミレーユの不審そうな声に、イヴァールが憤然と言葉を返す。


「いくらなんでも目を(つぶ)っていたらダメだと思いますけど。でもイヴァールさん達が案内してくれるから、魔力感知に集中できますね」


 アミィはシノブに笑いかける。感知に長けたシノブとアミィは、竜の魔力を警戒しているが、今のところ接近する様子はない。


「そうだな。ともかく道案内や休憩場所についてはイヴァール達に任せるから、よろしく頼むよ!」


「おお! 俺達が竜の棲家(すみか)まで連れて行ってやる!

『鍛冶は鍛冶師にまかせろ』という奴だな!」


 シノブの言葉に、イヴァールはドワーフの(ことわざ)を引用し、威勢よく叫んだ。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 大型弩砲(バリスタ)の残骸が散らばる場所から100km近く西南西に進んだ山中。

 長老達の言い伝えによれば、竜の狩場は東西200km南北100kmくらいらしい。シノブ達は、その中心近くまで来ていた。


 標高も随分高くなってきたのか、肌寒さも増してきている。シノブは、峠の(ふもと)にあるエトラガテ砦と同じかそれ以上に寒いように感じていた。

 竜の狩場に入って三日間。途中、散発的な魔獣の襲撃はあったが、一回あたりせいぜい数頭であり、シノブ達にとっては何の障害にもならなかった。

 リソルピレン山脈に多い、高山に適応した雪魔狼(ゆきまろう)雪大山羊(ゆきおおやぎ)なども現れたが、なんといっても一番多いのは岩猿である。

 ただし街道に溢れているものほど大柄ではなく、シャルロットの投槍やミレーユの弓に接近することもできずに倒されていた。


 夜は、軍馬達は狩猟に使っている洞窟などに入れ、シノブ達はそこから少し離れたところに魔法の家を設置し休んだ。

 竜の魔力を感じたことはなかったが、戦闘になったとき馬達やそれを世話するドワーフの戦士達が巻き込まれるのを恐れたのだ。


 現在、魔法の家では七人が宿泊できる。

 最初、魔法の家の寝室は一人部屋が三つだった。だが8月の終わりに領都で取り出した時に、二人部屋が二つ増えていた。

 そこで、一人部屋をシノブ、アミィ、シャルロットが使い、アリエルとミレーユ、シメオンとイヴァールに、それぞれ二人部屋を割り当てた。

 険しい山中の旅も快適な魔法の家で休息できるので、疲労が蓄積しないのは有難かった。


「どうやらこの辺りみたいですね。濃密な魔力を感じます。竜だけではなくて、このあたり一帯の魔力が濃いみたいですね」


 アミィは魔力感知の結果を、シャルロット達に伝えた。

 竜は、魔力の濃い場所を好むという。シノブ達が見た岩竜は、活動期以外は、ほとんど山の岩や鉱石だけを食べ、そこに含まれる魔力を吸収して生きているらしい。

 当然、竜の棲家(すみか)も魔力の濃いところにあるのだろう、と思ってそれを頼りにやってきたが、どうやら正解だったようだ。

 シノブやアミィは、棲家(すみか)と思われる場所から巨大な魔力が日に何度か現れ、空に上がっていくのを感じていた。


「おそらく、竜の棲家(すみか)は10kmくらい先みたいだね。そのあたりは魔力が強すぎてここからでは良くわからないけど、そこに出入りしているのは間違いないみたいだ」


 シノブも、アミィに続けて一行に説明する。


「タネリ、パヴァーリ。お主達はここで待機しろ。俺達の戻りを待つんだ」


 イヴァールは、洞窟の前で同行してきた弟パヴァーリや三人の戦士達に別れを告げる。

 狩場に入って三日目の昼。最後の休憩地点で、馬を彼らに預け、ここからは徒歩で棲家(すみか)に向かうのだ。


「兄貴、気をつけろよ!」


「イヴァール、無事の帰りを祈っている」


 パヴァーリやタネリがイヴァールに声をかけ、激励する。


「大丈夫だ。早ければ今日の夜、遅くとも明日の朝までには戻ってくるだろうよ!」


 イヴァールが見送る戦士達に元気よく笑いかける。


「剛腕アッシの英雄詩(サガ)じゃ、三日三晩戦ったって言うじゃないか……」


 パヴァーリが不安そうな声で兄に言う。


「あれは歌の都合だろう。半日とか一日半では盛り上がらないからな。

だいたい、三日三晩も戦えるものか!」


 イヴァールは、弟の言葉を笑い飛ばす。


「それじゃタネリ、パヴァーリ。行ってくるよ」


 シノブも彼らに別れを告げる。

 三日の旅で気心もしれたし、シノブはいつの間にか彼らも友達のように感じていた。

 パヴァーリ達三人の若者は、エルッキやイヴァールの言いつけどおりシノブ達の指示を忠実に守り、馬達の世話を真摯にしてくれた。

 そのおかげでシノブ達は魔獣との戦闘や竜の警戒に集中でき、旅の負担は随分軽減された。


 タネリは最初の印象とは異なり有能な戦士であった。

 アミィに剣を突きつけられたときには蒼白な顔で(おび)えていたが、相手が悪すぎただけらしい。

 イヴァールも、タネリは彼やレンニに続く戦士長候補だったと言っていた。そして彼の言葉通り、魔獣との戦闘のときはイヴァールと肩を並べて豪快に戦斧を振るって相手を(ほふ)っていた。

 タネリは、シノブ達と別れて馬を守って過ごす間は、良きリーダーとして若い戦士達の指導もしていたらしい。

 旅する間にタネリとも仲良く馬を並べて進むようになったシノブは、彼と別れることに名残惜しさすら感じていた。


「シノブ殿! 俺達はいつまでもお主達の帰りを待っている。だから、無事帰ってきてくれ!」


 タネリの言葉を背に受けて、シノブ達は竜の棲家(すみか)を目指して濃密な魔力が渦巻く山奥へと進んで行った。


 パヴァーリ達と別れて3時間近く。

 シノブ達は、ついに竜の棲家(すみか)らしき巨大な洞窟を発見していた。

 100m近い断崖絶壁の(ふもと)にぽっかりと空いた高さ20m近い洞窟には、周囲の岩や大地も含め途轍もなく濃い魔力が立ち上っていた。仮に魔力が目に見えるなら、濃霧のように視界を閉ざすくらいの濃密さである。


「ここで間違いないだろう。昼ごろにも、竜がここに戻ってきたように感じたよ」


 シノブは、一行にそう告げた。


「これが竜の棲家(すみか)か……こんなところにあったとはな」


 イヴァールが驚きの声を上げた。

 周囲から隔絶するような切り立った岩場を登っていくと、小さな村落ほどもある平らで(ひら)けた場所があった。そして、その奥の垂直に(そび)える崖の下に洞窟の入り口がある。


「やっぱりドワーフはここまできたことはないんだ?」


 シノブは、イヴァールに問いかける。


「わざわざこんな絶壁を登ってこなくても狩りも鉱石掘りも充分できるからな。

それに……お主の言う結界のせいだ」


 シノブは、この一帯に何かの結界があると感じていた。

 過去にもこのあたりに近づいたドワーフはいるが、奥まで入れたものはいないという。

 シノブやアミィには効果がないが、イヴァール達だけでは、いつの間にか魔力の中心と逆方向に進んでしまうらしい。そのため、ドワーフ達の間では魔の領域と呼ばれているそうだ。


「しかし、この三日間、一度も竜の姿を見ませんでしたね」


 シメオンが不思議そうに呟く。

 結局、戦闘力のないシメオンも、竜の棲家(すみか)まで同行していた。

 シメオン自身が、何かの役に立つかもしれないと主張したせいもある。

 しかし、シノブも細かいことに気がつき色々機転がきく彼の助言を頼もしく感じていた。それで、彼の申し出をありがたく受け同行を許可したのだ。


「おそらく、竜はシノブ様を徹底的に避けているのだと思います。

最初の遭遇では何とか躱したものの、命中したら致命的だと思っているのでしょう」


 アミィはシメオンに、竜はシノブを恐れているのではないかと答えた。


「そうあってほしいものですね。このまま中に入るのですか?」


 シメオンは、あらためてシノブに問いかけた。


「ああ。この期に及んで躊躇(ためら)っても仕方ない。洞窟に入ろう。覚悟はいいな?」


 シノブは、最後の確認をした。

 ここまでの道々で、竜との対決方法については検討済みである。後は、実際に戦うだけだ。


「問題ない。もとよりこの命はシノブ殿に預けている」


 シャルロットが代表してシノブに答える。他の者も、迷いのない表情でシノブに頷き返した。


「行くぞ!」


 もはや長々語ることもない。そう思ったシノブは、鋭く一言発した後、黒々と口を開ける洞窟へ入っていった。



 ◆ ◆ ◆ ◆



「……これは!」


 洞窟に入って300mほど進んだシノブ達が見たのは、巨体を持ち上げて威嚇する二頭の巨竜であった。

 僅かに右に曲がっている洞窟だが、巨体の竜が通るだけあって、高さ20mほどもあるため、見通しはよい。

 竜が通りやすくするために岩をどけたのか、障害物もない若干上り道となった通路の奥には、大きな空間があった。

 全長20mほどの巨竜が棲むだけあって、地底の大広間は幅50mほどもある。その中ほどで、成竜と思われる二頭の岩竜が金色に光る瞳でシノブ達を(にら)みつけ、低い唸り声を上げていた。


(つがい)だったのか!?」


 先頭を進んでいたシノブが漏らした呟きに続いて、イヴァールが驚いたような声を漏らす。

 眼前に立ちはだかる二頭の巨竜は、濃い灰色の体を持ち上げ、遥か頭上からシノブ達を見下ろしている。

 洞窟の中であるため背中の羽は畳んでいるが、角を振りかざす巨竜の姿は、実際の大きさ以上の迫力を伴っていた。


「魔力が濃すぎてわからなかった! 障壁を張る!」


 岩竜達は、人が立って入れそうな大きな口を開けて長く鋭い牙を見せる。その姿を見てシノブは急いで魔力障壁を張った。

 元々、竜を発見したら魔力障壁で防ぎつつ攻撃する作戦だ。作戦通りの行動ではあるが、二頭分のブレスに備えるべく、一際強力な障壁を張っていくシノブ。


「交互に狩場を飛んでいたんですか!」


 ミレーユはいつもののんびりした様子ではなく、アミィから矢の束を受け取りながら、鋭い声で問いかけた。


「たぶん、そうだと思います。竜の魔力の違いはわかりませんでしたが……」


 アミィは魔法のカバンから矢や槍の束を出しながら、ミレーユに答える。


「我々も二度しか見ていません! たまたま同じ竜だったのかもしれません!」


 アリエルは、槍の束をシャルロットに渡しながら言う。


「二頭だろうが三頭だろうが、ここまで来たら倒すしかない! ……ブレスだ!」


 シャルロットが叫んだ瞬間、二頭の巨竜が同時にブレスを放った。

 この前とは違い、槍のように細くまとめた黒いブレス。とはいっても岩竜の巨体から比べての話であり、直径50cmはありそうな黒い束が竜の口から迸る。


「大丈夫だ!」


 シノブが叫んだとおり、黒いブレスは魔力障壁に阻まれ、散っていく。激突の衝撃で洞窟の中が僅かに震えるが、障壁は揺るぎもせずに維持されている。


「この前よりずっと弱い! これなら何発でも防げる!」


 シノブは、シャルロット達に安心するように呼びかけた。


「竜も洞窟を崩されては困る、ということでしょうね。攻撃魔術も使えますか?」


 シメオンがシノブに防御と攻撃の両方を同時に使えるか問いかける。


「いける! レーザー!」


 シノブは、瞬間的に自分の前方だけ魔力障壁を解除すると、そこからレーザーを放った。そして、発射後は再度のブレスを警戒して、すぐに障壁を閉じる。


「竜が防いだ!?」


 魔力障壁の背後で突撃の瞬間を待つイヴァールが、驚愕の声を上げた。

 岩竜の手前数mほどの空間が黒くなると、光がそこで乱反射する。そして、巨竜は何事もなかったように再度のブレスを放った。


「竜の魔力障壁です。おそらく膨大な魔力で光に干渉しています!」


 アミィの声が洞窟に響く。

 レーザーが波長や位相を揃えた光なら、逆にそれらを乱せば良い、ということだろうか。シノブ達にとって幸いなのは、そのまま反射されなかったことだろう。

 もし、竜が反射する方向まで自在に制御できたら、シノブにそのまま跳ね返っていたかもしれない。


「……命中すれば倒せるんじゃなかったの!?」


 驚きを隠せない様子のミレーユがぽつりと呟いた。


「竜が二頭いるので、シノブ様は威力より素早さを優先しています。短時間だけしか魔力障壁を解除できないので、その分レーザーの威力も減っているんです……」


 魔力の流れからシノブの攻撃の意図を察したらしいアミィが、悔しそうにミレーユに説明する。


「岩弾! 半包囲攻撃!」


 シノブの掛け声と共に、巨竜を取り囲むように地面が盛り上がる。そして、20発近い岩塊が地面から現れ竜へと発射された。岩弾は魔力障壁の外側で形成されているので、障壁を解除しなくても発射できる。

 しかし、竜の魔力障壁は直径1mはある岩弾を全て防ぎとめた。

 どうやら竜は洞窟を崩されるのを恐れているようで、シノブ達の攻撃を極力受け止めるつもりなのだろう。弾き返された岩はなく、そのまま地面に落ちていく。


 岩竜は周囲に被害が出ないように、シノブ達に向けて細く絞ったブレスを吐くだけだ。

 対するシノブ達は洞窟ごと竜を生き埋めにしてもかまわないのだが、下手に崩すと自分達も巻き込まれる。それに、岩を食べて生きる竜が、岩石で生き埋めになったくらいで死ぬとも思えない。

 シノブは時々魔力障壁を解除し、そこからレーザーで攻撃を仕掛けたり、障壁の向こう側の地面から岩弾を作り出したりして攻撃する。

 アミィは幻影魔術で偽の岩弾を作ったり、シノブ達の幻影を竜の近くに出したりするが、魔力感知に長けた竜には偽物だとわかるらしく、全く効果はない。

 アミィは、幻影の中に本物の岩弾を混ぜたりしているが、巨竜は本物だけを防いでいた。


「シノブ殿、このままでは千日手だ! 何か策はないか!」


 互いの攻撃が通用しない状況に、シャルロットは()れてきたようだ。

 シノブの魔力障壁の向こう側まで魔力で操作できるのは、彼自身とアミィだけだ。

 アリエル達では魔力が足りないので、そんな遠くの地面から岩弾を作ることはできないし、他の魔術についても同様である。

 シノブが魔力障壁を解除した瞬間に合わせて攻撃するのは、彼以外の誰にもできない。その結果、シノブとアミィ以外の五人は黙って彼らの戦いを見ているしかなかった。


「……竜の魔力を抑える!

成功すれば竜は魔法を使えなくなるはずだ。ただし、俺もほとんど魔術を使えないし動けなくなる。

あの巨体だ。魔力がなければ動くのにも不自由するはず……皆は動きが鈍った竜を攻撃してくれ!」


 シノブは、しばし黙り込んだ後、シャルロット達に自身の考えを伝えた。


「やるしかないでしょう。念のために、アミィ殿に魔力障壁を張ってもらいましょう。

皆さん、なるべくシノブ殿のところに集まってください」


 シメオンの言葉に、シャルロット達はシノブの下へと集まった。


「……魔力障壁を張りました。シノブ様ほど効果がないですが、なんとか全員をカバーできてます。

あの絞ったブレスくらいなら大丈夫です」


 アミィがシノブを見上げて伝える。


「わかった! やるぞ!」


 シノブは、そう宣言すると、目を閉じて集中していった。

 彼は、岩竜が持つ魔力の波動に対して逆位相の魔力をぶつけるつもりだった。

 治療院で、魔力を同調させて老人だけを回復させることができた。竜の力を奪うように魔力を働きかければ、その魔法を抑えることができるのでは、と思ったのだ。

 ただし治療院とは違い、彼我の距離は数十m離れている。シノブはありったけの魔力を注ぎ込んでいった。


「逆位相干渉!」


 シノブの叫びと共に、岩竜の巨体が揺らいだ。

 倒れこそしないものの、まるで何倍もの重力を掛けられたかのように、その脚を震わせ、屈服するかのように体を低くする。


「効いているぞ! アミィ、障壁を解除しろ! 攻撃する!」


 巨竜が苦しむ様子に、イヴァールが躍り上がって喜び、アミィに障壁の解除を要望した。


「……アミィ……解除して……前衛と一緒に戦って……」


 再び目を開いたシノブが、苦しそうに告げる。


「はい! シノブ様!」


 アミィの声と共に魔力障壁が解除されたのを、魔力量の多いアリエルやシャルロットは感じ取り、それぞれ攻撃を開始する。それを見たイヴァールやミレーユも攻撃を仕掛けていった。


 イヴァールが戦斧を持ち、シャルロットは槍を構えて突進する。二人は申し合わせたかのように、それぞれ一体ずつ竜に突撃していった。

 アリエルは岩弾を放ってシャルロットを援護し、ミレーユはその弓でイヴァールを助ける。

 アミィはシャルロットに加勢することにしたようだ。彼女が受け持つ右側の竜にとびかかり、小剣を突き刺した。


「いけるぞ!」


 イヴァールが高揚した叫び声を上げる。彼が振るう戦斧は、地面すれすれまで伏した巨竜の顔面にめりこんでいた。

 たまらずといった(てい)()える岩竜に、イヴァールは巨大な戦斧を何度も振り下ろす。すると名前の通り岩のようにごつごつした肌が一撃ごとに裂け、盛大に血しぶきを上げる。

 圧倒的な質量を持つ戦斧は巨竜の硬い(うろこ)を突き破り、骨まで届いているようだ。イヴァールが超人的な筋力で叩きつけるたびに、鈍い音が響いていた。


「このまま一気に!」


 苦しみながらもイヴァールを狙う巨竜に、ミレーユは牽制すべく矢を連射する。彼女の狙いは、目や鼻先のような弱い場所だ。

 対する巨竜は急所を守るので手一杯となったらしい。イヴァールの振るう戦斧を躱すこともできず、かといって矢も無視できず、二人の攻撃を受け続けている。


「はっ!」


 シャルロットが放つ突きも、竜の岩のような皮膚を貫いているようだ。彼女の鋭い槍が(ひらめ)くたびに、巨竜の血が舞っている。

 アリエルも岩弾より槍のほうが効果があると思ったのだろう。彼女はアミィが置いていった槍を手に取ると、シャルロットの横に並んで攻撃を始めた。

 前面の二人の槍と側面から飛びかかるアミィの小剣に、たじろいだのか。岩竜は一際大きな叫びを上げると、巨体を勢いよく(よじ)った。


「きゃあ!」


 微かに響いた叫びはシャルロットとアリエル、どちらのものであったろうか。

 巨竜が洞窟を揺るがさんばかりの咆哮(ほうこう)を続ける中、二人の女騎士は竜に弾き飛ばされて倒れ伏していた。


──アミィ、シャルロット達を助けてくれ!──


 鼓膜が破れんばかりの巨竜の叫びの中、シノブはアミィにシャルロット達を助けるよう、心の声で伝えていた。あまりの騒音に、直接叫んでも聞こえないかと思ったのだ。


──わかりました、シノブ様!──


 アミィも心の声で返事を返して、シャルロット達へと駆け寄っていく。

 シャルロット達を弾き飛ばした岩竜を、シノブは(にら)みつける。しかし魔力干渉を続けているから、身動きすることもできない。

 アミィがシャルロット達のところに無事辿(たど)り着くように、シノブは祈るだけである。だが、シノブの祈りをかき消さんばかりの大音声(だいおんじょう)が、彼の頭に伝わってきた。


──人の子よ。我らの言葉がわかるか──


 シノブの脳裏に響く声。それは、咆哮(ほうこう)をやめた巨竜が発していた。


お読みいただき、ありがとうございます。


本作の設定集に国名・地名の紹介文を追加しました。

上記はシリーズ化しているので、目次のリンクからでも辿れます。


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