ストーカーかな?
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とりあえず、言いたいことは伝え終わったので会議から離脱することに。
というか『これから先は一般人には内密な話もあるから』と言われ、むしろ強制排除に近いかたちで退出させられた。早く帰ることができて嬉しい反面なんか解せぬ。
「帰ったら、レイナの具合を看てあげないと」
「まあ、一日ゆっくり休めばすぐに治るレベルらしいから問題なさそうだけど、念のため二日酔いに効きそうなものでも買って帰るか」
「ん、それがいい」
「ところで、気付いているか?」
「……うん、二人いる」
「一旦ここで別れよう。どちらをつけているのかまだ分からないけど、助けがいるなら空に向かって魔法を飛ばして合図をするようにしよう」
「分かった」
そう言って、二手に分かれそれぞれ反対方向に歩を進めていく。
さて、どっちの方へ行くのかな?
…うん、まあ予想してたけど俺の方だわ。
領主様の館を出てからしばらく俺とアルマを一定の距離を保ちつつ追跡している気配があった。
隠密スキルを持っているのか、視界には入らなかったけど魔力感知まではさすがに誤魔化せないようだ。
多分、隠密スキルっていうのは自分以外の対象の五感を誤魔化す効果があるんだろうけど、第六感ともいえる魔力感知に対しては無力なようだ。
で、飛行士(俺)とアルマのどちらが目的か確認するために一旦別れて、しばらく歩いてみると俺の方に二人ともついてきている。
路地裏の角を曲がり、尾行している二人の視線が遮られた直後に魔力飛行で急上昇し、ひとまず建物の上まで飛ぶ。
尾行している二人の視線に入らないように位置取りを意識しながら高速で飛行してまわり込み、その二人の真後ろまで移動。
追跡をまくだけなら楽勝だが、この二人が何者で、なんのために尾行していたのか確認しておきたい。
……職業は、二人ともアサシンか。いや、片方はハイ・アサシンっていう上位の職みたいだが。
外見は隠密スキルの影響かいまいちハッキリ分からないけど、ステータスを見た限りじゃ片方はLv20の男、もう片方はLv28の女だ。
一人前の先輩に、駆け出しの後輩がツ―マンセルで動いてる感じかな。
「……くそ、見失ったか!」
「さっきの角を曲がるまでは余裕をもって追うことができていたのに、急にペースを速めたようだな」
「まさか、勘付かれていたのでは?」
「おそらく、そうだろう。我らの気配に気付くとは、やはりギルマスの言うようにただものじゃなさそうだな。……尾行は、失敗のようだ」
職業アサシン、そしてギルマスってキーワードからすると、さっきのジュリアって女性の指示で尾行していたのかな。
多分、領主様の館から出た後に尾行するように言われていたんだろう。敵対はしないけど、放っておくつもりもないと。
「まあ、今回は『多分無理かもしれないけど』って言ってましたし、特に罰を受けることは無さそうですけどね。そこはまあ、不幸中の幸いというか」
「馬鹿者、達成困難な任務をこなしてこそ評価が上がるのだ。……まあ、確かに今回の対象はかなり異質な存在のようで勝手が違ったのは認めるが」
異質な存在て。どんな認識されてんだ俺は。
…空飛べる時点で充分変に見えるか。
「あの黒髪の女の子の方は、放っておいていいんですか?」
「もう一人の方は、冒険者ギルドのメンバーとして正式に登録されているのが確認されている。随分と珍しい職業のようだが、特に監視の必要は無いと言っていた。…というか、身元を確認したら、下手に監視なんかするとヤブから蛇を出しかねん」
「え? なにか問題でも?」
「本人よりも、その両親がヤバい。調べてみたら、剣王デュークリスと大魔導師ルナティアラの娘だそうだ」
「え、えええ!? あの伝説の英雄コンビの娘ですか!?」
「ああ、万が一あの娘を監視していることがバレて、その二人の逆鱗に触れでもしたら、うちのギルドは潰されるかもしれない」
主に物理的に。
実際、どっかのバカ貴族がアルマママを攫おうとして屋敷を潰されたことがあるって話を聞いたことがあるし、ギルドが潰されるかもしれないっていうのも決して大袈裟な話じゃないだろう。
「だから、あの子には監視をつけなかったんですね」
「そういうことだ。同じ理由で『ニンジャ』とかいう職業の娘も無理に誘うことができなかったようだ」
「あの子と同じパーティに入るって言ってましたからね。珍しいうえにすごく有用そうなスキルを持っているのに、残念です」
「だな。さて、長話はこれくらいにしてギルドに戻るぞ。……やれやれ、久々に任務失敗とは、他のメンバーにからかわれそうだな」
そう言いながら、トボトボと二人で歩いてどこかへ行ってしまった。お疲れさん。
んー、監視を無事にまいたのはいいけど、なんかザラっとした気分だ。
俺の方は空を飛べるから、本気で逃げれば捕捉するのは不可能に近い。だから尾行が失敗に終わる可能性が高いけど一応期待せずに形だけ尾行させてたって感じだと思う。
まあこの程度で目くじら立てたりはしないけどさ。印象はあまりよくないけど、放置するにはちと目にあまる存在なんだろうな飛行士は。
問題はアルマが監視をされない理由が、そのご両親の怒りの引き金になりかねないから、ということだ。
ご両親のお陰で無用なトラブルを避けられるのはいいけど、なんだか親の七光りを利用しているように見られている気がしてモヤモヤする。
アルマにそんなつもりは微塵もないだろうけど、やっぱりあの二人の娘ってだけでその影響は見えないところでも大きいようだ。
……いずれ、そんなことを言われないくらい強くなれば、こんな気のひけるような気持ちにならずに済むんだろうな。
レイナのレベルアップも大事だが、俺とアルマの修業も怠らず進めていこう。
仮面を外して、着替えた後にアルマと合流。
『暗殺ギルドのメンバーに尾行されていたようだが、特に問題なくまくことができた。目的は飛行士の監視のようだったからアルマと俺とレイナにとっては特に問題なさそうだ』と告げると、安心した様子で『そう』と言うだけだった。
その後は、レイナへのお土産に二日酔いに効きそうな野菜や果物を買って宿へ戻った。
レイナの部屋に入ると、少しは回復したのか気だるそうにしながらもベッドから起き上がることくらいはできるようになっていた。
「ただいま、…大丈夫か?」
「まだちょっと頭が痛いっすけど、スープを飲んで寝ていたら大分楽になってきたっす…」
「今日は無理せず休んで。ギルドへの登録は無理に急ぐことない」
「そうっすね。あんまり歩き回るとまたぶり返してきそうっす…」
「あとで、野菜と果物のジュースを作ってやるから飲んでおくといい」
「ありがとうっす」
レイナの体調が回復したら、ギルドへの登録とパーティへの加入の手続きを済ませて、弱い魔獣相手にレベリングさせることから始めようか。
そのまえにギルドの講習でも受けさせた方が、冒険者としての基礎基本はしっかりと身につくだろうけど魔族の問題があるし、早めに地力をつけさせておきたいから省略。
まあ俺みたいにアルマに教わるようにすれば特に問題ないだろ。多分。
つってもなー、魔獣洞窟は魔獣のレベルが最低でも10はあるし、かといって魔獣森林はまだスタンピードの影響が残っていそうだから無理。そもそもまだダイジェルに帰るには早すぎる。下手したらあのデブ貴族に見つかるかもしれないし。
この街の近くには魔獣洞窟以外には魔獣のテリトリーは無いらしいし、そうなるとまた遠出することも考えておかなきゃならんな。
大きな街だからもうちょっと色々見て回りたかったけど、レイナのレベルアップは早めにやっておかないとまずいし仕方ない。
ロリマスから報酬を受け取って必要な物を買い終わったら、どこかレベリングに適したテリトリーが近くにある街に行ってみるとしますか。
…あー移動するのめんどくさいなー。
お読み頂きありがとうございます。




